2025/07/10 (木) 18:00 30
netkeirinをご覧の皆さんこんにちは、伏見俊昭です。
今回はユーザーさんから「あっせん」「欠場」「ペナルティ」などの質問があったので、少しですがお答えしていこうと思います。
Q.レースの途中で身内に不幸があったら帰れるの?
まず、あっせんが出るのはだいたい1ヶ月前くらい。月末に、翌々月のあっせんが発表されます。たとえば7月末なら9月分。そのあっせんを見て、出る・出ないを決めて申し込み、受理されて初めて参加が確定します。
開催中にもし親族に不幸があった場合は、選手管理に親族から直接連絡が入ります。僕らはレース期間中、携帯の電源を切って管理に預けてますからね。たとえば「父親が倒れた」とか。そういう連絡を管理担当の方から選手に伝えてもらう形になります。ただ、親御さんが「息子(娘)にはレースに集中してほしい」と思って、開催中はあえて知らせないというケースもあるかもしれません。逆に、すぐにでも伝えなきゃと思う人もいるでしょう。もちろん、連絡が入れば、途中で欠場して帰郷する選手も多いです。知ってしまったら、もう気持ちが切れて走れないのが普通ですから。ただ、GIの決勝とかグランプリの当日だったら…歯を食いしばって走るっていう選択も、もしかしたらあるかもしれません。幸い、自分はこれまでそういう連絡を受けたことはありません。でも、もしあったら…たぶん、自分は欠場すると思います。精神的に持たないだろうし、レースに集中もできなくなるはずですから。
野球選手だと、親御さんが亡くなって、その思いを背負ってホームランを打つ、なんてシーンありますよね。アスリートって、そういう気持ちが自然と湧き上がってくるものなんでしょうね。「頑張る姿を見せて、ちゃんと送り出したい」っていう。
思い出すのは、一宮オールスターでの出来事。内田慶君が、不慮の事故で亡くなってしまいました。あのときは開催は続行されましたが、みんな「慶のために、いいレースをしよう」という空気でしたね。自分も苦しかったし、選手仲間もみんなそうだったと思います。でも、開催を中止にするより、「いいレースをして、笑顔で慶を送り出そう」と。結果的に僕が優勝しましたが、ヒーローインタビューでは胸が苦しくて、うまく言葉が出なかった。慶への思い…ちゃんと伝えられなかったなって、今でも思います。
ちなみに、「開催中に当日欠場したら、ペナルティってあるんですか?」という質問もよくあるんですが、これについても少し。
基本的に、コロナやインフルエンザ、それに指定練習中の落車なんかで欠場する場合はペナルティはありません。レース中に落車して、翌日も出走予定だったけどやっぱり走れない、というときも大丈夫です。ただし、不注意によるぎっくり腰とか、そういうのはダメですね。だから仮病なんかも通用しません。当日欠場すると、「欠車」になってしまいます。そうなると関係者の方々や、楽しみにしてくれているファンの皆さんに迷惑がかかりますから。やっぱり、安易にはできないものなんです。
Q.追加選手って、どうやって決めてるんですか?
追加とか補充とかって結構、いつも同じ選手が多いなあというイメージです。もちろん、あっせん課が公平に振り分けてくれてるとは思いますが。でも実際には、一人欠場したら急いで代わりを探さなきゃいけないわけです。たとえばSSが欠場したら、やっぱりまずはSSから探したい。でもSSは全国に9人しかいない。じゃあ次はS1から…ってなるけど、それでも220人。しかも「もうレースまで24時間しかない!」なんて状況だったら、とにかくすぐ電話に出てくれて、しかも断らなさそうな選手に連絡しちゃうと思うんです。あっせん課にね、「追加を断らない選手リスト」みたいなの、実はあるんじゃないかって思ってるくらい(笑)。
僕は最初のあっせんで予定を組んじゃうタイプなんで、急な追加は断ることが多いです。でも、不思議と「ちょうど間隔空いてるし、走りたいな〜」って思ったときに限って、全然追加が入らないんですよね(笑)。追加の連絡は基本、電話。でも早めの段階ならメールでくることもあります。メールだったら多少余裕もあるし、受けやすい。でも直前の電話での追加は、やっぱり受けづらいと思うけど。とはいえ、「1日あればどこでも行きますよ〜!」っていうフットワークの軽い選手もいて、そういう人って普通の選手の倍くらい、競走を走ってたりするんですよね。中には、調整しないほうが成績も調子もいいっていうタイプもいて、追加からの優勝する選手もいますね。
それにしても、あっせんって謎が多いですよね。何千人もいる選手を、月に2本とか3本ずつどうやってうまく割り振ってるんだろうって。地区ごとのバランスもあるし、それをうまくやってくれてるのは本当にありがたいことです。施行者が「この選手に走ってほしい」っていう希望リストを出すことがあるって話も聞いたことあります。僕も今月、松阪FIの「大正カラーカップ」に出たんですが、自分のメインスポンサーの冠レースだったんで、もしかしたら希望リストに入れてもらってたのかもしれませんね。
昔はね、競輪場によって賞金にランクがあったんですよ。「1号」から「5号」っていう基準があって、前年度の売上によってランク分けされてました。ビッグレースがあってたくさん売れた場は「5号」、普通は「3号」、地方で売上が伸びなかった場は「1号」。で、同じ1着でも「1号」と「5号」じゃ、もらえる賞金が全然違うんです。だから「5号」にあっせんされると、みんな大喜び。たとえば立川なんかはグランプリの開催が多くて、ずっと「4号」か「5号」だったから、スケジュールに入ってると「よっしゃ!」って感じでしたね。人気選手ほど、4号・5号の場に呼ばれてるイメージもありました。今はもう、どこの競輪場でも賞金は一律になりましたけどね。
最近、競輪の売上がいい理由のひとつが「ミッドナイト競輪」。ただ、選手にとっては過酷ですよね。僕はまだ走ったことがないんですが、夜の23時にレースって…リズム崩れそうですよね。走り終わって軽食とって風呂入って、寝るのが深夜2時とか。完全に時差ボケです(笑)。しかも、その後すぐモーニング開催だったら…もう体おかしくなっちゃいますよ。
実は以前、一度ミッドナイトのあっせんが入ったことあるんです。違反訓練の黄檗山の直後だったので走れる状態ではないと思って断りました。それ以降、ミッドナイトのあっせんは来てないです。でも、S級のミッドナイトはまだ少ないですし、次にあっせんがきたら走ろうとは思っています。
Q.月に3本あっせんがあって、そのうち1本を断ったら、“代わりにこっち走りませんか?” みたいな調整ってあるんですか?
…ないです。あっせんを1本断ったら、その期間に別のレースが追加されるってことは基本的にありません。いったん欠場したら、その次の開催に出走するまでは絶対に追加のあっせんはきません。1本欠場して次の場所走って、後半空いているところに追加が入ることはあります。だから、追加が欲しい選手って、基本的に欠場はあまりしないんです。欠場すれば、関係者やファンにも迷惑かけますしね。とはいえ、期末が近づいてくると、今度は「点数」の問題も出てきます。特に代謝対象の下位30人のボーダーにいる選手たちは、ほんっとうに細かい点数計算をして走ってるんですよ。1点の重みが違うから、神経すり減るし、夜も眠れないって話もよく聞きます。
僕もここ数年はS級1班のボーダーラインでピリピリしながら戦ってますから、その気持ちは痛いほどわかります。もう、アスリートというより、数学の先生の次くらいに数字のことを考えてるんじゃないかってくらい(笑)。でも、点数ですべてが決まるっていうのは、ある意味すごく平等。ほかのプロスポーツじゃ、なかなかないシステムかもしれませんね。
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伏見俊昭
フシミトシアキ
福島県出身。1995年4月にデビュー。 デビューした翌年にA級9連勝し、1年でトップクラスのS級1班へ昇格を果たした。 2001年にふるさとダービー(GII)優勝を皮切りに、オールスター競輪・KEIRINグランプリ01‘を優勝し年間賞金王に輝く。2007年にもKEIRINグランプリ07‘を優勝し、2度目の賞金王に輝くなど、競輪業界を代表する選手として活躍し続けている。 自転車競技ではナショナルチームのメンバーとして、アジア選手権・世界選手権で数々のタイトルを獲得し、2004年アテネオリンピック「チームスプリント」で銀メダルを獲得。2008年北京オリンピックも自転車競技「ケイリン」代表として出場。今でもアテネオリンピックの奇跡は競輪の歴史に燦然と名を刻んでいる。