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【石井貴子】心から思う「1人でやっていたわけじゃない」デビュー10年“できることをまた一歩一歩”/ガールズケイリンフェスティバル特別インタビュー

アプリ限定 2024/07/13 (土) 12:00 11

6月13日、第2回パールカップ(GI)決勝を制して、石井貴子がタイトルを獲得した。2021年、トップ戦線をひた走っている最中、落車によって大ケガを負う。復帰後も低迷が続き、さらなるケガも重なった。そんな逆境にも屈せず、“復活”のGI優勝。この偉業に多くのファンが心を揺さぶられたことだろう。今回のガールズケイリンフェスティバルはタイトルホルダーとしての地元凱旋レース。夏の大一番を前に石井貴子にインタビューを実施した。(取材・文 八角あすか)

石井貴子(撮影:北山宏一)

「勝ってグランプリへ」とか全く思ってなかった

ーーパールカップ優勝、改めておめでとうございます!

貴子 ありがとうございます!

ーーそのパールカップがGI初出場でした。それまで客観的にGIをどう見ていましたか?

貴子 これまでガールズコレクションをはじめ、単発レースでは「サマーナイト」だけが勝ち上がり3日制でした。競輪祭も3日制だけど、2番組あって2人優勝、2つのグランプリの出場権があるという制度の時に私は走っていたので、 勝ち上がり3日制のGIという格付けのレースが導入され、優勝すればグランプリ出場という制度に移行して非常に良かったなとは思っていました。

 それぞれの単発レースは選考も厳しいし、特にサマーナイトだけが勝ち上がり3日制で、勝つことが一番難しい大変なシリーズでした。それで優勝してもグランプリの権利は与えられない。競輪祭にはグランプリの権利が付くという形態に若干「ん?」っていう部分はあったので、分かりやすくなったことについては良かったなと見ていました。

ーー初出場となったGIはどんな気持ちで迎えましたか?

貴子 感覚的には普段の開催と同じような取り組み方と気持ちで入りました。特別な意識はありませんでした。怪我をする前までは、毎年、毎年、コレクションを勝ってグランプリに乗るということをやっていて。選考期間の過ごし方についても、年に3、4回ある全てのタイトルレースには優勝するチャンスを増やすために出なきゃいけないし、その中でチャンスが回ってきたときに一本獲って、という取り組み方をしていました。

 私はバンバン追加をもらえたり、本数を走らせてもらえる選手ではなかったので「一本獲んなきゃ厳しいよ」っていう感じで、ずっとやってきていました。当時と同じ取り組み方をしていたら「今回も何とか獲れるように」と思ってレースに入っていたかもしれません。

ーーパールカップには自然体で、ということでしょうか?

貴子 私はトップ戦線から離脱していたし、自分の立ち位置的に「そういったことを考えながら入っていくような立場ではない」とも自覚していたので、本当に特別な感覚はなかった。ただ、レースに向けて「しっかりと準備やできることを」と思ってやっていましたけど「今回、獲ってやる」とか「勝ってグランプリへ」とかは全く思っていなかったです。

特別な感覚は持たずにシリーズに入った(写真:チャリ・ロト提供)

ーーいざ、レースに入ってシリーズ中の流れ、手応えはどうでしたか?

貴子 そこに関しても、余計なことを考えないようにすることを大切にしていて、周りがどうとか全体のレベルとか、そんなに大きいことは考えていなくて。番組が出て、自分の車番と対戦相手が分かって、そこから「じゃあ自分はどうするの? 今、何ができるの?」と考えて、もちろん1着が取れるようにという前提で考えはするんですけど、考えたことをちゃんと自分でやりきれるかどうかっていうだけでしたね。

 初日に関しては1着だったので「できたね」って感じだったし、2日目に関しては車番や初手の位置、組み立てを含めて想定外になったときに「臨機応変に対応できず、4着になってしまったね」っていう評価でした。

初日1着、3番車が石井貴子(写真:チャリ・ロト提供)

ーー決勝戦はどういったことを考えて挑みましたか?

貴子 初日は3番車、2日目は1番車と内枠で走っていたので、比較的、想定がしやすかった。でも、2日目の1番車は、それが裏目に出てしまって。何とかギリギリ勝ち上がれて、決勝は7番車ということだったので、7番手から始めなくちゃいけないと想定して入りました。

ーー初手から奥井選手の後ろになりました。

貴子 初手の位置7番手で、そこから2、3パターンの展開を考えてはいたんですけど…。奥井選手が6番手からレースを組み立てるのは想定外でしたし、道中も柳原選手がずっと併走していて。1車併走になった分、隊列が短くなるわけじゃないですか。奥井選手の位置が5番手になっているわけなので、そのあたりも想定外。位置は取りに行って取れるものでもないし、あの並びになるのは隊列が整ってからしか分かりませんでした。

2番車(黒)奥井迪の位置、3番車(赤)柳原真緒の併走といった想定外があった(撮影:北山宏一)

4コーナーを回って状況理解…感情があふれ大号泣

ーーこれまでの準備が流れや展開を引き寄せたんだと思います。優勝した瞬間の気持ちや思い浮かんだことなど覚えていますか?

貴子 本当にゴール線では「何とか頑張ったけど、どうなんだろう。差せたのかな。分からないよ」って感じで。その後も減速しながら1コーナー、2コーナーを回っても、まだ分からなくて。ずーっと場内のオーロラビジョンを見ていて4コーナーを回ったときに、ゴール前のスローVTRが流れたんです。それを見て初めて「はっ!勝てたんだ」って優勝が分かって。

 本当にビックリもしましたし、私は怪我をしてから「2度と大きなレースで勝ったり、グランプリに乗ったりすることはできないだろう」と思っていた部分もあったので…。非常に驚いたのと、本当にキツかった時期もあったので、ちょっと普段は絶対にないんですけど、感情が結構あふれたかなって。

ーー何度も何度も、声援が飛び交うお客さんの方へお辞儀をしているようにも見えました。

貴子 あ、それ全然違います(笑)

ーーえ!違いましたか(笑)

貴子 感情があふれて、号泣どころか大号泣していて。うずくまって泣いていたんです、ハンドルに。もう「わーんわーん」言っていたと思いますよ、バックまで。

 怪我をする前のコレクションで年1回勝っていた頃は、2、3か月前から自分で計画的に練習に取り組んでレースに入っていたので、それでタイトルを獲れたときは、レース後は自分に対する評価をしていました。「ちゃんとやりきったんだな、自分の力で勝ったんだな」と。ゴールしてお客さまにも盛り上がってもらいたいから、それこそパフォーマンスといいますか、ガッツポーズをしたりとかはしていたんですけど。

 今回に関しては、そんな風に全く思わなくて、自分の力でどうこうっていうことでもなかったので。優勝が分かってからは多分、今どこを走っているとか、お客さんの存在とかも、全てぶっ飛んでいて(笑)。とにかく「うわーん」って、ただただ泣いていただけでした(笑)

ゴール後に優勝を知った瞬間、感情があふれ大号泣(撮影:北山宏一)

ーーそうだったんですね(笑)

貴子 そうです、そうです。奥井選手がすぐに声をかけてくれたんですよ。普通はゴールしてから、どこを誰が走っているかなんて気にしないんですけど、あまりにも私が泣いていたせいで「どうした、石井」ってなって、私に気が付いたと思うんです(笑)。そんな状態でしたね。

心から思う「1人でやっていたわけじゃない」

ーー敢闘門へ戻ると、南関勢の男子選手たちが笑顔で迎えてくれました。

貴子 そうなんです、待っていてくれて。検車場内での胴上げが岸和田競輪場では禁止されているそうで「貴ちゃん、胴上げはできないけど、良かったね」ってみんなで迎えてくださって。本当にありがたいなと思いました。

ーー同県の和田健太郎さんも満面の笑みが印象的でした。

貴子 本当に嬉しかったです。和田さんが優勝した平塚グランプリにも、ご一緒させていただいていましたし、私が怪我をしてから本当にキツいときも、色んなことを教えていただいて。考え方だったり、取り組み方ですね。「どうしよう…」と私が本当に悩んでいるときに、ヒントや助けを出してくれて。きっちり、ちゃんと手帳に今でも書いてあるんです。なんて言われたか。和田さんからの言葉は「本当にそうだな」って助けになりました、感謝しています。

2020年のグランプリ覇者・和田健太郎が笑顔で出迎えた(撮影:北山宏一)

ーー怪我から復帰しGIを優勝、選手を続けて良かったなと思いますか?

貴子 そうですね。去年のオールスターでアルテミス賞に選出されたときにも思いました。怪我をして走れない期間も、たくさんの方が投票してくださって「走って良いよ。走りなさい」とそんな風に言っていただいているんだなと感じました。スタートに立たなければ何も始まらない。スタートに立てば、いつもそういう訳ではないけど、色んな力に押してもらって勝てるときもあるのだから「その機会、チャンスを放り出さなくて良かったね」とは思いました。

2023年、オールスター競輪アルテミス賞に選出された時も「選手になってよかった」と感じた(撮影:北山宏一)

ーー今年は節目の300勝達成(1月)もありました。デビューから10年、これまでをふり返って感じるものはありますか?

貴子 今年でデビューして10年が経ち、体も変わりますし、考え方も変わりました。今になって感じるのは『本当に沢山の人に支えてもらって、助けてもらって私はスタートに立つことができていて。それがあるから何とかゴールできているな』ということ。当たり前のことなのかもしれないけど、本当にそうなんだなと今では思うようになりました。多分、もっと若い頃も怪我をする前までも、そんな風には思ってはいたと思うけど、心から思っていたわけじゃなかったと思うので。今はそんな気持ちですね。

ーー仲間をはじめ、たくさんの人たちに支えられてきたんですね。

貴子 はい。1人でやっていたわけじゃないと本当に思います。色んな人がいるから、誰しもそういう風にしてもらえるわけではないと思うし、自分がいかに恵まれているか。その恩を忘れないで、そういう周りの気持ちを大事に受け取って感謝しながら走って行けるようにとは思っています。

自分にできることをまた一歩一歩やっていこう

ーーさまざまな心境の変化もあったと思いますが、ガールズケイリンのレベルやレース形態について変化を感じることはありますか?

貴子 私がどうこう言えるような立場じゃないですよ! ヒーヒー言って走っているのに(笑)。でも、選手数も200人オーバーになっていますからね。私がデビューしたときは80人しかいなかったと思うので、倍以上になっていると思えばレースの幅も出てきますよね。私自身は「自分ができることをちゃんとやりきる」ってことを考えているので、人がどうこうとか全体のレベルとかはあまり考えないんですよね。だから、ちょっとピンとは来ないです。

進化し続けるガールズケイリン(撮影:北山宏一)

ーーできることをしっかりやるということは、当たり前にみえて一番難しいように思います。

貴子 毎回タスクが変化します。でも「ちゃんと考えてやっていこうね」と自分に言い聞かせてやっています。

ーー今のご自身の課題はどんなところだと思いますか?

貴子 課題ですか…。毎回、毎レースごとにタスクが変わっていくので、それを抽象的に言うのは難しいですね。

ーーパールカップを終えてからの2場所もハイレベルなメンバーでした。

貴子 でしたね。なかなか見ないですよね。(競走得点が)58点1人、57点2人、56点1人の選手が揃う開催って。どうしたんだ!?って感じのメンバーの濃さでした(笑)。

ーーまるでGIの延長のようなレベルでした。その小松島、小倉の2場所を改めて振り返っていかがですか?

貴子 結果を出したことで周りが変わるなと感じています。私自身はそれほど変わらないし、やっていることも体の状態も脚力も変わらないけど、記者さんたちを含めて周りの見る目が変わったなって。私としては「どうやらすごい大会だったらしい…」という感じなんですけどね。今までもコレクションをたくさん勝っているけど、ここまでの周囲の変化はなかったので、GIという格付けの違いを感じています。

ーーそれはきっと、石井選手が怪我を乗り越えて大舞台に戻って来たという「不屈の精神」と言いますか、そういった見方もあると思います。

貴子 そう言っていただけると、ありがたいです。けど、うーん。そう変われるものでもないので、自分にできることをまた一歩一歩やっていこうと思っています。

GI制覇の格を感じている(撮影:北山宏一)

最後のガールズケイリンフェスティバルへ!

ーーとなると、グランプリまでの過ごし方も特別なことはしませんか?

貴子 なんせ、GIに出たことがなかった人間なので。過ごし方と言われても、特にピンと来ないですね。普通にこの先の斡旋も走って行くだけですし、その日のレースを精一杯やるということだけですね。それになんだかんだ、斡旋がガンガン詰まっていて考える余地もないぐらいの連戦なんです。余裕がなくって。

ーーちなみにパールカップを優勝して、自分へのごほうびは…?

貴子 今のところ何もないですね。中9日あって少し休みはしましたけど、やっぱりすごく疲れましたしね。特に大きな買い物もしていないですし、中9日の後は中5、中5、中4、サマーナイト、その後も中5、中5でレースなので、余裕がないのが実情です。

ーーごほうびは先になりそうですね。

貴子 はい、時間的な余裕がございません(苦笑)

ーーさて、いよいよ地元ビッグ、そして最後(※)のガールズフェスティバルが開催されます。(※来年度から新たにGI女子オールスター競輪の新設に伴い)

貴子 女子のサマーナイトは今回が最後。別府開催(19年)で優勝して、3日制の勝ち上がりで優勝できた経験が非常にパールカップに活きたなという風に感じていますし、良い大会だったなという思いもあります。松戸は小回りで、ぎゅっと詰まった33バンクなので、間近で見てくださるお客さまには楽しんでもらえたらと思います!

地元の声援を全身に受け、最後のフェスティバルでタイトルホルダーの実力を示す(撮影:北山宏一)

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