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ほろ酔い放談 -競輪の因数分解-

【競輪偏差値70の男】もうすぐ熊本再始動! 久々の優勝挙げ謎バブルで大暴れ「“打倒、北井”の秘策あります」♯38

2024/07/09 (火) 18:00 50

アルバイトと競輪の二刀流をこなし一見、器用そうだが実はそこまで器用ではない競輪選手・中川誠一郎。今月からいよいよ熊本バンクが再始動とあって、心・技・体が整ってきた模様。ただし、燃えるような熱い感情は一切なく、いつも通りに競輪の魅力をそれとなく紐解きます。【構成=塩次洋太(九州スポーツ)】

ーー6月は函館GIIIナイターと伊東FIナイターの2本を走りました。

 函館は久しぶりだったですけど、ジンギスカンがうまかったですね。温泉でもゆっくりできました。

ーーいやいや、そういうのではなくレースはどうだったのですか。

 二次予選のあった2日目は誕生日だったんですよ。そこで1着を取ったんです。勝利者インタビューに行ったら、ファンの人たちがハッピーバースデーを歌ってくれました。

ーーそれはまた唐突ですね。

 初日に1着を取ってインタビューに行ったら「明日、祝うからまたここに来いよ」って言われていて。そうしたら、二次予選で本当に1着が取れたんです。2着は海老根(恵太)さんでした。

ーー準決以降はさておき、連勝はよかったです。

 まさか北の大地でハッピーバースデーを浴びるとは、感激しました。なかなかそんな体験はできないし、これは忘れないなって。だって誕生日に走るのも稀で、しかもそこで1着を取るなんて至難の業でしょう。過去の誕生日を紐解いても心に残るできごとでした。

ーー伊東は久しぶりに優勝しました。

 もう松ちゃん(松川高大)のおかげです。決勝はもちろんだけど、前検日からヤル気が違ったんですよ。

ーー松川選手とは初日特選でも一緒でした。前後はすぐに決まりましたか。

 松ちゃんがオレの後ろを回ることは無いんです。でも、かつて自力自在に動いていた後輩たちって追込寄りにシフトチェンジしていくと、だいたい「誠一郎さん、後ろ付いていいですか?」って来る。95%ぐらいの確率で。

ーー95%もですか。

 歴代の自在屋たちが後ろを回ろうとするタイミングって全部わかったし、別にそれは嫌でもないんです。熊本なら(松岡)貴久、(中本)匠栄、あとは山田兄弟(英明、庸平)、小岩(大介)、(園田)匠、(小川)勇介、(坂本)亮馬とか、みんな前で頑張ってもらったことがあるから。でも松ちゃんだけは「いやいや、オレが前でしょ」って、頑なに自力でやろうとするんです。

ーー松川選手はこれまで九州の屋台骨を支えてきた功労者ですし、中川選手に甘えてもいいような気もします。

 松ちゃんもそろそろかな? って見ていたけど違った。その気持ちがうれしいですよ。そもそも、松ちゃんは自在というよりは自力側ですから、気高いプライドを感じました。

松川高大(写真右)とは公私ともに深い付き合いだ。左は山崎賢人

ーー一度でも前で頑張ってくれた実績が大事、この考え方は中川選手がコラムでずっと話しています。

 やなづ… いや、前でやってもらったことのない後輩もいますけど、それはそれで。(塚本)大樹なんかは出会ったときにはもう追込でしたから、お互い持ち場を頑張ろう、って(笑)。

ーー初日特選は松川選手が赤板から丸2周をブン回していました。

 ハラケン(原田研太朗)に叩かれても内からすごい勢いで盛り返してくれた。それを(渡邉)一成がまくるっていう、高松宮記念杯の裏開催とはいえ何年前の競輪でしょう(笑)。

ーー絶好の展開でしたが、4着でした。

 お客さんに怒られましたね。あんなの久しぶり。タイミングがつかめず1着を取れませんでした。そこは反省です。

ーー準決は津村(洸次郎)選手の番手でした。

 ツムも、ものすごく行ってくれるんです。レース前に「普通に勝つように走ってよ」と声を掛けたら「わかりました。ならば1回切って、出して待ちます」って言っていたのに、残り2周で急にフカしだした。

ーースイッチが入ったのでしょうか。

 ちょっと待てって思いながら付いていきましたがこっちは今、競輪に辛うじて参加してS級に踏みとどまっている程度の脚なので、頑張ってくれても出る、出ないの感覚じゃなかったんですよ。

ーー準決も絶好の展開ながら菅原大也選手にまくられて2着でした。

 初日の反省を踏まえて飛び付きましたが、番手に切り替えるって難しいと勉強になりました。

ーーえっ、今さらですか。

 帰って合志(正臣)さんに「切り替えるのって、ずいぶん脚を使うんですね」って相談したほどです。

ーー追込の技術的な部分ですね。

 はい。自力ではタイトルを3本取ったけど、追込は素人ですから。それに、これまで切り替えられたことはあっても、切り替えてこなかったので。

ーーどこかしらに自慢を入れたがりますよね。

 やってきていないから、こっちからすると簡単に見えるんです。でも意外と踏んでいるんだと気づいた。

ーー合志選手も25年選手をしている身近な後輩からそんな相談を受けて困ったでしょうね。

 むっちゃ踏んでるんだぞ、って言われました。2車いて3番手に切り替えるのと、1車の後ろに切り替えるのは労力がまったく違う、とか。合志さんですら「1車でいてくれ〜」って思いながら踏むそうです。

ーー決勝は松川選手の番手から飛び出しました。

 ああ。決勝は「BM」で勝たせていただきました。

K藤氏の放ったスラングに筆者もたじたじ!?

ーー「BM」とはどういう意味しょうか。

 K藤S平氏がネットの番組でよく使うフレーズですよ。「荒井ちゃんのBM」とか。

ーー荒井ちゃん、とは荒井(崇博)選手のことですか。

 はい、K藤氏は荒井さんと同学年ですので、親しみを込めて「荒井ちゃん」と。そう、つまり「番手まくり」を「BM」と呼んでいるようです。

ーーそんな言葉があるのですね。

「番手まくり」って今も昔も痛みを伴うものだけど、「荒井ちゃんのBM」とかだと何か必殺技みたいでカッコいいじゃないですか。あと「魂のBM」とか。

ーー魂ですか…。さて、久しぶりの優勝でしたが、その晩は盛り上がったのではないですか。

 それが、まさか優勝するとは思わなかったし、元々、熊本勢は宿泊地がバラバラだったので現地解散でした。オレも翌日、沼津で予定があったし。

ーー沼津ですか。

 ただ、沼津に行ったのはいいけど、知らない土地なので何をすればいいのかわからなくて。その辺でメシを食い、それでもヒマだから1人でカラオケボックスに行きました。

ーーまさかの1人打ち上げとは。

 スナックもわからないし、それならと。深夜に好きなだけ歌いまくり、久々の優勝に酔いしれました。

ーーそもそも、沼津には何をしに行ったのですか。

 4月にオープンした「キン肉マンミュージアム」に決まっているじゃないですか。

ーーそんな、食い気味に言われてもわかりませんよ。

 キン肉マンは人生で初のマンガとの出会いでしたし思い出が詰まっているんです。沼津にあると知り、伊東のあっせんも入ったこのタイミングを逃せなかった。

ーー実際、訪れていかがでしたか。

 実際にキン肉バスターをかけて、それを写真に撮れるコーナーがお目当てでした。しっかりかけてきましたよ、ウォーズマンに。

ーーノリノリですが1人ですよね。写真は誰が撮ったのですか。

 係の人ですよ。恥ずかしいのかオレ以外、誰も撮っていなかったです。でもオレはこれを撮るのがメインだったし、展示室に入るために1000円課金してきました。

大好きな先輩、河添信也(写真中)氏と高田隼人氏(写真左)と筆者

ーーいい思い出ができて何よりです。本業以外の話もうかがいます。6月も何やら忙しかったそうで。

 河添(信也)さんが6月に引退してしまったんですよ。それで、急きょ(高田)隼人さんと一緒に送別会をしてきました。

ーー河添元選手の名前はコラムで初めて出ました。意外な組み合わせですね。

 オレのA級初優勝のとき決勝でワンツーを決めたんです。先行一車で後ろが4車併走になったけど、河添さんがしのいだんですよ。当時A級の4号地だったし3日で120トン稼ぎました。ウハウハな時代を思い出しました。あとはバイトのシフトがけっこう入っていました。

ーーアルバイトですか。

 5、6本あって。先日は(佐々木)昭彦さんとかのYouTubeに倉岡(慎太郎)さん、時松(正)さん、(嘉永)泰斗らと出てきました。

嘉永泰斗と熊本のテレビ番組に参加

ーーアルバイト5、6件とは景気がいいですね。

 熊本のローカルテレビに泰斗と一緒に出たり、NHKのラジオとか。あとは、このコラムが出るころには終わっているけど坂上忍さんの「勝たせてあげたいTV」とサテライト天草のトークショーですね。

ーー謎のバブルに乗って大暴れではないですか。

 あとは今月の14日に熊本の街中で行われる「熊本競輪 Re:スタートフェスティバル」ってイベントに出ます。

ーーどのようなイベントなのですか。

 熊本競輪のリニューアル記念でやるみたいで。熊本市内に新市街っていう大きな商店街があるのですが、そこのアーケードでスプリントをやるんですよ。熊本の選手もたくさん出ますので、よければ皆さん見に来てください。

高1のエースと頼れる転校生!?

ーー7月20日にはいよいよ熊本競輪第一弾「熊本再建記念(FI)」が行われます。気持ちも高まってきたのではないですか。

 位置づけとしては泰斗と匠栄の3番手だから気は楽ですよね。何年か前なら、これだけは外せないみたいな、はやる気持ちもあったけど、今回は泰斗に7割背負ってもらい、オレと匠栄で3割ぐらいですから。

ーーそれでも本番になれば。

 高校野球に例えると、甲子園を目指す高3の最後の夏ぐらいのつもりですね。泰斗が高1、匠栄が高2だと、何となく座りがいいでしょう。

ーー何となく理解できます。

 高校1年生ながらエースで4番の嘉永クンが入部してくれたおかげで、我々にも最後の甲子園への道が開けました。今回戦う予定の北井(佑季)君は、決勝で対戦するライバル校の主砲みたいなもんです。

ーー今回は荒井選手もいます。そうなると、どのような位置づけになりますか。

 そりゃ、他校の先輩でしょう。佐賀・長崎高校から熊本高校に転校してきたけど留年している、みたいな(笑)。

ーー実際に年長者ですからね。

 転校生だけど年齢は上だから“えっ君、何番打ちたいの?”みたいな気まずい空気が部室内に流れて。しかも高校生なのに5番DH。守りたがらない。

ーー高校野球に例えるとわかりやすいです。

 DHがBMですよ。どんだけ、わがままな転校生だよって(笑)。

最大の難敵となる北井佑季選手

ーーそれにしても、北井選手が手ごわいですね。

 本来なら“打倒、北井”をスローガンとして熊本高校が一枚岩なはずなんですよ。

ーーそうではないのですか。

 映画やドラマだと、弱小チームに不良キャラで野球のうまい転校生が加入して、最初はみんなとぶつかるけど段々と打ち解けてチームがまとまり、最後は強豪校を倒すみたいな筋書きがあるけど、実際は留年したDHが“おい、泰斗。オレにもピッチャーやらせろよ”みたいな(笑)。

ーー想像できて怖いです。

 でも、そこは「3番、サード・中川」の最後の夏なので、皆さん我慢してもらっていいですかって感じです。

ーー九州の美しい連係に期待しています。地元ファンは熊本勢の優勝を待ちわびているはずです。

 ここは絶対に北井君が本命になるじゃないですか。相当強いですよ。抵抗するには泰斗が前で大駆けして、やっとオレなり匠栄なりに展開が向くか、向かないかってところだと思います。だけど、こっそりと秘策があります。

ーー何でしょうか。

 決勝で荒井-嘉永-中川って並びはどうでしょう。これだと、熊本勢にワンチャンスあると思いませんか?

ーー絶対に浮かばない並びです。荒井選手には話したのですか。

 いやいや、そんなこと言えるわけないでしょう。だから、荒井さんには直接言わず、周りの選手たちに布教しているんです。もし、回り回って荒井さんの耳に入ったら、3日間考えた末に一肌脱いでくれるかもしれないじゃないですか。まさに「荒井ちゃん“を”BM」ですよ。

ーーそろそろ、荒井選手に怒られるでしょうね。

 そんな淡い期待を込めながらシリーズに挑みたいと思います。いくら青写真を描いても、オレが決勝乗らないと話になりませんし、全力で頑張ってきます。

「やき肉園田」代表で元選手の園田宏氏と

ーー今月も質問が来ています。お答えください。

Q、かなり前ですが、ワールドカップですごいタイムを出していた時にプラスチックソールのシューズだったように見えたのですが、ほとんどの競輪選手がカーボンソールの硬いシューズを履いていると聞きました。今も硬いソールのシューズではないんでしょうか? シューズの流行り、違い、感覚等も教えて頂けたら嬉しいです。(熊本競輪復活バンザイ!)(福井県/40代/男性)

 プラスチックソールを履いている選手って世界でもうほとんどいないんです。ワールドカップでも周りは99%カーボンで、オレだけプラスチックのソールで走って日本記録を出したんですよ。だから、いまだに深谷(知広)に「プラ底世界一」って冷やかされます。

Q、中川さんが思い浮かぶ達人を聞いてみたいです。捌き、ハンドル投げ、立ち漕ぎ、一発屋…(熊本県/20代/男性)

 これ、最後の「一発屋」にオレの名前を言いたいだけでしょ(笑)。一発屋だけど、これでもタイトル3本を取っているし「三発屋」ですね。まあ、いいじゃないですか。

Q、先日、熊本競輪場へ行く機会があり新しいバンクを拝見しました! まもなく始まるシン熊本競輪の初開催、意気込みをお願いします!(お酒もご飯も美味しくて熊本の街が好きになりました♡) (愛媛県/20代/男性)

 意気込みはさっき話した通りですね。熊本を好きになってくれたなら良かったです。もし街でオレを見かけましたら、変な事をしていなかったら気軽に声を掛けてください。逆に、何やら怪しい感じだったら、声を掛けずに見逃してやってくださいね。

Q、今度、熊本に旅打ちに行きます。ここは行っとけ、みたいなお店がありましたら教えてください。飲食店やスナックがいいです。(茨城県/30代/男性)

 やき肉園田とか、らっきょの小部屋とか、美味しいお店や楽しいお店はたくさんありますよ。きっと熊本が好きになっていただけると思います。

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中川誠一郎

Seiichiro Nakagawa

中川誠一郎(ナカガワセイイチロウ)。熊本県熊本市出身。日本競輪学校第85期卒業。日本競輪選手会熊本支部所属。師匠は従兄の瀬口慶一郎。 実妹の中川諒子は女子競輪選手、義弟の吉成晃一も競輪選手。2000年8月15日、ホームバンクの熊本競輪場でデビューし1着。後2日間も勝利し、デビュー場所で完全優勝。2016年日本選手権競輪(静岡)、2019年読売新聞社杯全日本選抜競輪(別府)、高松宮記念杯競輪(岸和田)を優勝している。好きな食べ物は寿司。

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