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リオデジャネイロ五輪(2016)、東京五輪(2021)はBMXレーサーとして出場し、東京五輪終了後にトラック競技へ転向した長迫吉拓。パリ五輪日本代表・男子チームスプリント第1走として迎える3度目の五輪の舞台。長迫がパリの地で目指すものとはー。静岡・伊豆ベロドロームでインタビューを実施した。(構成:netkeirin編集部、取材日:2024年6月26日)
ーーBMXでリオ五輪、東京五輪に出場し、今回が3度目の五輪の舞台です。心境に違いはありますか?
前回までの大会はBMXで個人種目だったんですけど、今回はチームスプリントでチーム競技です。自分の失敗も許されないし、逆に助けてもらう部分もあります。チームという面で責任感というものが大きく違うと感じています。
ーー東京五輪が終わった時に自転車競技に転向しようと思ったのはどうしてですか?
東京オリンピックが終わるまでは、「終わったら地元に戻ろう」と思ってたんですけど、リオでも東京でもメダルを獲っている人を見ると、“オリンピックって行くだけではハッピーではないところがあるな”と感じました。
もう一度挑戦しようと思っても、BMXは実力的にもピークに来た感覚もありましたし、オリンピックが終わった瞬間のモチベーションが3年間続くのかって言われるとちょっと自信がなかったです。でもメダルの可能性を考えてみて、トラック競技チームスプリントの第1走なら賭けてもいいんじゃないか?という気持ちがありました。だからメダル獲得のために転向し、挑戦してみた感じです。
ーーパリ五輪はご自身の中でどういった位置づけでしょうか?
集大成という感じでしょうか。多分、年齢的にも実力的にも今回が最後のオリンピックになると思うので、しっかり全力を出したいです。
ーーパリへの思い、目標を教えてください。
僕自身、3度目のオリンピックになります。「3度目の正直」ではないですけど、このメダルを獲れるチャンスをしっかり掴みたいと思います。目標はメダルの獲得です。
ーー自信はありますか?
自信は今までにないぐらいあります。でもそれに比例して不安もあって、たまに夢で獲れなかった夢を見ることもあります。その瞬間は膝から力が抜けて、「これで本当に終わってしまったのか」って感じで。現実ではあの感覚になりたくなくて。ある意味、夢の中で失敗を経験して、そうならないように考えて、毎日の練習の中に活かされているように思っています。
ーーチームスプリントの第1走をつとめますが、BMXの経験が活かされていますか?
スタートはフィジカルも大事ですが、テクニックの方がもっと重要になります。体重移動で自転車を進ませる必要があるんですが、そこはBMXレースをしてきたところが活きているのかなと感じますね。
ーー逆にBMXからトラック競技に転向するにあたって変化したことなどはありますか?
自転車の上での重心移動は大きくは変わっていませんが、自転車とギヤ比は変わります。BMXは軽いんですが、トラック競技の方が重たいです。なので、踏み方には変化がありましたね。具体的にいうと重たいギヤ比になってからは“点”で踏まないようにすること、奥まで踏み込むような感覚を意識的に変えました。でもそれ以外での変化は特に感じていないので、あんまり変わっていないですね。
ーー第1走を担う上で、鍛えた部分はありますか?
そうですね。スタートダッシュの約半周は得意なんですが、座って漕ぐ半周が苦手で。BMXではずっと立ち漕ぎだったので、座って加速すること、座ってケイデンスを上げるところは難しかったところがあります。はじめてから約3年経って、最近やっとできてきた感じですね。使う筋肉も感覚も違ったりするので、そこには苦戦したなと思ってます。
ーーレースでの強み、意識していることなどを教えてください。
現在の世界チャンピオンはオランダなんですが、オランダの3人も全員BMXの選手でありましたし、特に3走のジェフリーは同級生で小さい頃からヨーロッパでも一緒にレースを走ったこともあり、第1走のロイとも一緒に戦っていたことがあります。彼らは戦い方もうまいです。今、最初の60mならロイと変わらないところにきています。半周から1周で差が出てしまっているので、そこを埋めるために、もう少しスタートを早く切りたいと考えています。
ーーチームのメンバーについて教えてください。太田海也選手はどのような存在でしょうか?
彼は“スポーツ選手といえば”っていうぐらい真面目です。みんながロールモデルにしたくなるような選手だなと思っていて。年下年上関係なく、僕は彼をスポーツ選手として尊敬しています。彼の練習だったり大会だったりに励む姿勢を見て、チームスプリントをする上で僕にも刺激が入っています。小原(佑太)にも刺激が入っていると思います。そういう意味でチームにとってすごく大事な存在です。
ーー小原佑太選手は長迫選手を「お兄ちゃんのような存在」と話していました。小原選手はどのような存在ですか?
それはただ年齢が上ってだけな気がしますけど(笑)。チームを引っ張りたいとは思っています。小原は海也とは反対とまでは言わないですけど、海也はやりたいことを口に出して行動していく人間で、小原は無口で自分と向き合うタイプの人間です。何を考えているのかわからないし、本気なのか、緊張しているのかとかもわからない。
僕はオリンピックを経験していますが、「経験したことがない圧に押されるような場面」がたくさんあるんです。なので、普段から「オリンピックで感じるであろう以上のプレッシャーをわからないながらもイメージしてやっていこう」と伝えています。普段から練習はピリピリやっているので、小原も小原のリズムでやって欲しいと思います。
ーー太田海也選手は「このチームは3人の考え方もバラバラだから一つにまとまることができる」と話していました。
僕が年上ということもあるかもしれませんけど、思ったことは気を遣わずに伝えています。何でも言い合える仲だなと思っているチームですね。
ーーそんな2人を背負っての第1走ですが、パリではどのような思いで走りますか?
あくまでもチーム種目なので2走、3走の選手を連れて行くのが僕の役目であり、目標なんですが。でも個人的には海也をぶっちぎって走ることがモチベーションだし、僕の中の目標でもあります。僕がそういう意識で走ることで、海也が付いてくるなら結果としてタイムが上がる、みたいなイメージで走ろうと思っています。
ーー長迫選手の性格をひとことで表すとしたら、どんな性格ですか?
ひとことで言うと、わからないですね(笑)。でもギリギリにならないとできないタイプだとは思います。毎年“決まってくるもの”に特別感を感じなくて、オリンピックみたいに4年に1度みたいなものに特別感を感じます。でも、それでも近づいてこないと本気になれないところもあったりしますね。“オリンピックまでの3か月”みたいなタイミングで、仕上がってくる感じです。
ーー第1走のプレッシャーは計り知れないのですが、いつも“ゾーン”に入っている状況なのでしょうか?
レースになったときはそうですね。でもレースの前の晩くらいはレースを走りたくない自分がいて、結構逃げちゃいたい自分がいます。朝起きてレースに向かう過程で徐々に構えていってアップに入ります。やっと発走機に乗る瞬間に「やりたいな」と思える。その瞬間に逃げたい気持ちも“楽しさに変わる”というか。手前の段階ではなかなかそういう感じは出ません。発走機に乗って楽しさに変わる瞬間があります。オリンピックのその瞬間を今から楽しみにしています。
netkeirin特派員
netkeirin Tokuhain
netkeirin特派員による本格的読み物コーナー。競輪に関わる人や出来事を取材し、競輪の世界にまつわるドラマをお届けします