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【古性優作の価値基準】その先の景色、さらにもっと向こうへ辿り着くためにストイックになれるか?/高松宮記念杯開催記念特別インタビュー

アプリ限定 2024/06/10 (月) 15:00 36

2023年は3度のGI制覇を果たし最優秀選手賞を獲得。また、22年23年と地元GI高松宮記念杯を連覇中の古性優作。今年も存在感たっぷりのレースで競輪ファンを魅了し勝利を重ね、賞金ランキングは現在2位に位置している。今回3連覇のかかる高松宮記念杯を前に、古性優作の現在地を探るべくインタビューを実施した。(取材・構成:netkeirin編集部 篠塚久)

古性優作(撮影:北山宏一)

勝率10割じゃない時点で

ーー今年は和歌山、松山、函館で記念(GIII)は3場所で優勝、ウィナーズカップ(GII)は準優勝、GIは全日本選抜決勝4着、日本選手権競輪は決勝3着の成績ですが、振り返ってみていかがでしょうか?

古性 ここまでは自分が思っているような成績を出せていないなという感じです。

ーー充実している成績に思うのですが、そうではないと。

古性 はい、自分の中では足りていない感覚です。

ーー以前、松山記念で優勝した時にも「自分は弱い、もっと強くなる必要がある」とコメントを残していました。

古性 ありましたね。

ーーシリーズを制してなお、課題と向き合う姿に“ストイック”という言葉を連想しつつ、『優勝という結果を残し、十分に強さを証明したのでは?』とも思ったんです。古性選手の評価基準は違うところにあるのでしょうか?

古性 違うところにありますね。今の話で言うなら、周りの方はその時の“優勝した僕”という一点を見て評価していただけたと思うんですけど、僕は点ではなくて「もっと強くなりたいと思って進んでいる道の上」で自分を評価しているので。到達したかった・しておきたかった強さのレベルに至ってなければ、自分に対して力不足を感じているでしょうね。

ーーなるほど。

古性 でも僕自身と周りの方やと当たり前に目線が違うし、感じ方に差が生じるのは自然なことやと思いますね。常にもっと強くなりたいと思っているので、ずっと満足できない感覚を持ち続けているんです。この感覚は当面続くんかなぁ、とは考えていますね。

ーーどのレベルに到達したら満足できると思いますか?

古性 わからないです。でも、それこそ1月〜12月の1年間トータル1着で勝率10割やったら「ええな」と満足に思います(笑)。勝率10割じゃない時点で、お客さんに車券を買ってもらっている以上は満足できない。僕が満足してしまったらお客さんにも納得してもらえないんじゃないかなとも思います。

ーー勝率10割ですか。

古性 出るレース全部勝ったらどんな気持ちになるんかなぁ。そうなってみないとわからんすね。興味がある。

圧倒的“超”ハイレベルな視点で自分を見つめている(撮影:北山宏一)

目的のためじゃなく「天然温泉」みたいなもの

ーー日本選手権競輪の前にナショナルチームの練習に参加したと聞きました。

古性 日本から「世界で一番」を目指しているチームの中に入れてもらって、ホンモノを見させてもらいました。僕は日本一を本気で目指しているんですけど、ナショナルチームは世界一を本気で目指していました。設定の時点でスケールが違うんやな、と学びました。一方で、世界で戦ってきたナショナルチームの選手が日本の競輪に戻ってきた時に僕が苦労する、とも感じましたね。なので、自分も世界一を目指すくらいのつもりでやらな、と気持ちが入りましたし、良い経験をさせてもらいました。

ーー今もうすでに徹底的にスケジュール管理をして追い込んでいると思いますが、さらに上の気持ちでやっていくということでしょうか。

古性 ほんまにそうです。ナショナルチームの中に入れてもらってホンモノに触れることで実感しました。もっとやらなって思ってます。

ーー古性選手のそのストイックさの原動力はどこにあるのでしょうか?

古性 ただ強くなりたいだけです。原動力みたいなモンが何なのかは思い浮かびません。タイトルだったり欲しいものだったりのために頑張るとかでもないし、そういう次元、そういう問題じゃない感じがありまして。強くなりたい気持ちが天然温泉みたいに湧き続けてくるんですよ(笑)。

ーー天然温泉ですか(笑)

古性 そうです。だからそもそも頑張るって感じでもないですし、強くなりたい気持ちが自然に湧き続けているから、やるべきことをやっているだけって感覚です。原動力とかモチベーションを聞かれると、「天然温泉は何を理由に何を目的に湧く?」と聞かれているみたいな難しさがあります。「それは自然に…」としか言いようがないわけで(笑)。

ーーたしかにそうなりますね。古性選手は競輪選手になる前にBMXに乗っていましたが、その時から天然温泉の感覚なのでしょうか?

古性 その時から変わらずの感覚ではあるんですけど、年々強くなりたい気持ちは大きくなっていますね。デビューしてから今まで成績の部分ではずっと伸ばして来れたと思ってるんですけど、上がれば上がるほど、その先が見てみたくなっています。次はどんなんかな?って。もっと、もっとって。その結果、自転車に対する意識も年々上がっているし、もっと先を見たいからこそ、満足できない感覚も絶えないですね。

ーー年々“その先”を見たくなるということですが、それを一番強く感じたターニングポイントはありますか? 湧き上がる気持ちが一層激しくなったポイントという意味で。

古性 はじめてGIタイトルを獲得した時です。もっと先を知りたくなりました。このタイミングが一番強くなりたい気持ちが大きくなった時やと思います。タイトルを獲得しての達成感とか満足感はまるでなくて、先に行きたい気持ちが強くなったというか。

2021年「オールスター競輪」が初タイトル、強くなりたい欲求がスケールアップした(photo by Shimajoe)

神よりも僕の方が“自分自身”を見ている

ーー天然温泉のように湧き出てくるとはいえ、達成感のようなものを感じる間もなく、次を見据えるのは精神的に苦しい側面もありそうです。古性選手が競輪を楽しいと思うポイントはどこにあるのでしょう?

古性 練習してどういう風に強くなるのか?っていう過程がとても面白いですね。結果がどうのというよりも、練習していた動きがレースでもできるようになったりすると楽しい。「競輪が楽しい」とは少し違うかもしれないけど、練習して成長しての過程を味わうのは好きですね。

ーー現在S級S班に君臨していますが、地位に関してはどのように捉えていますか?

古性 昔から地位みたいなものにまったく興味がないんですよ。それはずっとそうです。もともと挑戦者やと思っていたけど、ナショナルチームでホンモノを見たって話をさっきしたと思うんすけど、今は余計に挑戦者って思ってます。昔から級班がどうだからどうって考えは持ってないですね。

ーーあくまでも自分の中に物差しがあって、自分に意識が向いているんですね。

古性 それはそう思います。特別視している選手も1人もいない。自分が強くなれているのかそうではないのか、だけですね。それ以外は何も測る物差しはない状態やと思います。

ーー他人は関係なく“自分が自分を測るのみ”と聞いて、ふと思ったんですが、ゲン担ぎとか神頼みはどうでしょう?まったく興味がなさそうですが、教えてください。

古性 まったく興味がないです(笑)。初詣も行かないくらいですし。どんだけ練習をしているのか、どんだけストイックにやれているのか、どんだけ考えているのか。これらは絶対に神よりも僕の方が自分自身を見ていますからね。神に頼んでいる場合でもないっていう。神に頼むくらいなら自分に頼みたいですね。

ーー信じるのは自分だけ、のような?

古性 はい。負けたらそれは自分の信念が足りんって結果やと捉えます。結局最後は自分をどんだけ信じられるかだと思っています。

「誰よりも自分が一番自分のことを見ている」と語った古性優作、神頼みはしない(撮影:北山宏一)

ーーステータスも他選手にも興味がないとのことですが、デビューからすぐの時代はどうだったのでしょうか?「同期の選手と自分を比べる」とかそういうものもなかったのでしょうか?

古性 いや、デビュー直後はゼロではなかったですね。同期に遅れをとって急ぐような気持ちを味わったことならあります。でも急ぐ気持ちになるとレースが小さくなったり、全然ダメで。逆効果だったんですよ。そんな経験もあって、別に一段一段ゆっくりでいいやって。急ぐ必要もないし、自分のペースで日本一を目指そうと。自分が日本一だと実感できている時に日本一になろうと思いました。今もその計画の途中です。

ーーすでに日本一と表現できる実績も残していると思いますが、古性選手の中ではまだ道の途中なのですね。

古性 全然、今が真っ只中やと思ってます。

ーーでも去年はどうでしょうか?GIを3勝しています。

古性 満足できないです。それに満足感が出るとGIは獲れないとも思います。去年、ひとつ良かったのは1年通して満足感が出なかったことです。メンタルの成長を感じました。年間のうち、最初の方にタイトルを獲ると、余裕とか満足感が出てしまうんですけど、去年は年間を通じて一切の満足感は出なかった。それが3回の優勝に繋がったと思いますし、満足せずに追求してこそ結果が出ると証明できたかな、と振り返ってます。今年も同じように満足感はなく戦えていますが、結果が思うように出ていないです。去年よりも先に行かなくてはいけないんですけどね。

ーー思い当たることはありますか?

古性 思い当たるというか原因を特定できましたね。今は結果が出ない原因が理解できている状態。それこそナショナルチームと一緒に練習していて気づきがあった感じです。

到達したいレベルに辿り着いていない原因は特定済み(撮影:北山宏一)

3連覇の記録ではなく、力を出し切ることのみに集中

ーー高松宮記念杯がとても楽しみになってきました。今、前走からは期間が空いていますが、フィジカルやメンタルの状態はいかがでしょうか?

古性 メンタル的には年間ブレずに走れているので、いつも通りでまったく問題はないです。あとフィジカル面は日本選手権よりもいいです。シリーズを楽しみにしています。

ーー地元岸和田での高松宮記念杯は連覇中です。3連覇を懸けて戦いますが、そこにプレッシャーはありますか?

古性 3連覇へのプレッシャーはまったくないです。2021年の宮記念杯がプレッシャーで潰れた記憶がありますが、それを最後にプレッシャーみたいなことを感じたこともありません。もちろん優勝したいです。でも「3連覇を懸けて」みたいなポイントに意識を置いていないというか。目指す道の途中にあるもの、と捉えていますね。

ーー「もっと強くなりたい」の道中にある通過点のひとつみたいな感じでしょうか?

古性 とても近い感覚です。もっと強くなりたいと思っているのなら、優勝だってクリアすべき通過点じゃないといけない。「3連覇の目的を果たすために」みたいに考えて、そこをゴールに設定するような考えでは走らないです。だから持っている力を出し切ることに集中します。

ーー地元岸和田競輪についても教えてください。地元のお客さんにどのようなイメージを持っていますか?

古性 他場に比べると、厳しい声も飛ぶ競輪場やと思います。そして、その分だけ期待も乗っけてくれるお客さんが多くいますね。厳しい分、優勝すれば大きな声を届けてくれる。岸和田はそんなイメージです。

ーー今まで印象に残っている声援はどのようなものでしょうか?

古性 去年の宮記念杯で落車をした時の「明日も頑張れ」です。これは記憶に残ってます。

初日落車のアクシデントを乗り越え連覇を達成した2023年高松宮記念杯(撮影:北山宏一)

ーー宮記念杯は勝ち上がりが東西に分かれているように、レースプログラムが通常のGIと違うと思います。この辺りはいかがでしょうか?

古性 そうですね、いつもの味方が敵になったりはしますよね。でも僕の性格上、まったく影響なしです。コメントで「別」となった瞬間に完全に割り切れるので、誰がどうだろうと関係ないすね。コメントで「別」、つまり敵になった時からどう仕留めるかってことだけに集中し切りますので。

ーーそれでは高松宮記念杯に向けて意気込みをお願いします。

古性 3連覇への意識は持たず、いつも通り力を出し切ることに集中します。最後まであきらめないレースをします。お客さんにはそこを見てもらいたいです。

おまけ

ーー今日はハードな練習後にもかかわらずインタビューありがとうございました。

古性 とんでもないです。ありがとうございました。

ーー記事の最後におまけコーナーみたいな感じで締めたくて。競輪以外の質問をしてもいいですか?

古性 構いませんよ。答えられることであれば答えます。

ーークールでポーカーフェイスの古性選手ですが、寝ている時に夢は見ますか?見なさそうです。

古性 夢? 全然見ますよ(笑)。

ーーそれでは最近見た夢を教えてください。

古性 わかりました。最近夢でグランプリに出ていたんですが、脚見せに行く時に、なんでか僕だけ自転車の前輪がなくなってて(笑)。間に合わへんし、これじゃ脚見せも出ていけんから、「もう、ええか」ってなっちゃった夢を見ましたね。

ーー大アクシデントですね(笑)。でも慌てることなく、そこは「もうええか」なんですね。

古性 夢でも現実でも慌てないんですよ。間に合わないならもうしゃあないってなります。時間に間に合わなくて靴を急いで履くみたいなこともないですし。その夢でも慌ててなくて、みんなが脚見せして戻ってくるのを一人で待ってたっすね(笑)。

ーーおまけコーナーにピッタリのトークをいただきました。岸和田GI・高松宮記念杯、熱いレースを楽しみにしています。ありがとうございました!

古性 しっかり走ってきます。ありがとうございました。

古性優作は自己実現の挑戦の真っ只中、慌てずに“ゴールのありか”へ向かっている(撮影:北山宏一)

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