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松浦悠士の“真っ向勝負!”

【松浦悠士の試行錯誤】怪我をすれば必要に迫られる「良くないなりにどうやって走るのか」

2024/05/31 (金) 18:00 28

 netkeirinをご覧のみなさん、こんにちは松浦悠士です。今回のコラムはダービーの振り返りを中心にお届けします。未知数の実践復帰となりましたが、シリーズは思った以上に苦しい戦いになってしまいました。

怪我の影響は未知数のまま日本選手権競輪の舞台へ(撮影:北山宏一)

実戦で不安が増し余裕が保てなかった

 左手の小指、薬指の骨折とそれに付随して肩と首の痛みもかなりあり、自転車に乗れるようになったのが開催1週間前くらいでした。できる限りのトレーニングはやっていましたが、バンクにも行けてなかったので、自分の状態は感覚で確かめるしかない状態。ハッキリとしたことはわかりませんでした。ただ、自転車に乗るようになってから、「そこまで悪くないんかな」と思える状態を感じながらダービーを迎えました。

 前検日に深谷さんにお願いして一緒にダッシュをしてもらいました。そこで一旦状態への不安は解消できたんですが、初日を走ってみて「付いていく分にはなんとかなるけど、自力はかなりキツいな」ということはわかりました。そして2走目。太我が頑張ってくれて1着を獲ることはできましたが、追走から余裕がなかったですね。

 ちょっとでも隙を見せれば別線が狙ってくるだろうと考えていたので、しっかり隙を見せないようにして、なんとか凌げたかなというのはあります。ですが、太我のダッシュがいつもよりも良くない状態にあると感じたのですが、それでも自分の余力も全然なくて「あれ?」という感じで…。状態が良ければもっと車間を空けたり、もっと踏み出しを我慢できたりしたと思うので、精神的な余裕のなさも感じました。何とか凌げた点はホッとしましたが、レース後はどちらかと言えば不安が増しました。

記者会見では細かく状況をコメントした(撮影:北山宏一)

レースを走るための脚が戻っていなかった

 シリーズを走っている間は「ギブスを付けた状態で走るのか、それとも外して走るのか」も探り探りでした。結局、1走目から3走目までは付けて走り、4走目だけ外しました。ギブスだけではなく「どういう調整をするか」、「どういうアップ方法で行くか」も過ごしながらの試行錯誤でしたが、準決勝はそういった準備段階の面でもうまくいかなかった感があります。

 レースは展開的に「踏んだりやめたり」という流れもあり、力が削られてしまいました。バックを踏むということを長らくしてなかったので、その辺りがとても響いてしまいました。二次予選みたいにドーンという感じの“一発の脚”とか、練習で“ドーン”と自分が駆けたりするような“練習の脚”はそれなりに戻っていたと思いますが、それこそレースで使う“競輪脚”は戻せていなかったことを痛感しました。

 準決勝は踏んだりやめたりも含めて、前のペースにしっかり付いて行くことができませんでした。残り1周どころか、その前の4コーナーくらいの時点で、余力はもう半分もなかったような状態でした。GIの準決勝はどんなに好調時でも厳しい戦いです。レースで使う脚が戻せていないことや焦るような感情もありましたし、なんとかしたい気持ちはありましたが、勝ち上がることはできませんでした。

決勝を懸けた準決勝は負傷明けの影響がモロに出てしまった(撮影:北山宏一)

どうやってケガと向き合っていくか

 最終日は「とりあえず新山君に自分のレースをさせない」という意味でインを斬りに行きました。突っ張らせないことを第一に考え、まずはそこを確実にクリアして、もう一度来た時に展開に応じて走ろう、という意図です。形は作れましたが、追い上げてきた山崎さんの押し込みを交わせず、受け続けてしまいました。山崎さんの追い上げのタイミングとあそこまで下りてくることは想定してなくて、ドーンと受ける形に…。いつもなら前へ先に踏んだり、車間を空け過ぎないように対処したりもするんですが、そういった余裕がなく勝負権をなくしてしまった感じです。

3番手を確保したレースだったが、後方から追い上げた山崎芳仁に押し込まれた(撮影:北山宏一)

 ダービーの4走を振り返ると、未知数で乗り込んでいるとはいえ、思った以上に戦えなかった印象です。レースを走ってみないとわからない部分もありましたし、練習メニューも改めて考えなくてはいけないと感じました。でもここがとても難しいポイントです。練習では実戦同様の環境を作ることはできないですし、当然ですがダービーのように一線級の選手たちと一緒に走ることはできないので、どうしても感覚は不透明になってしまいますね。

 今後もグランプリに向けて賞金を積み重ねないといけないので、ケガをしていても走らざるを得ない状況も生まれてきます。「どうやってケガと向き合っていくか?」は去年の後半戦も考えなくてはならないテーマでしたが、今年も引き続き向き合わなくてはならないテーマになりそうです。今は「じゃあ今年いっぱいで絶好調に戻せるのか?」を考えてみても、正直なところ疑問があります。良くないなりにどうやって走るべきなのかという視点も必要に迫られていますね。

 また、ダービーは6日間の開催の中で指と肩の痛みが出て、最終日は特に痛みました。その状態を自覚して、次走の武雄記念は欠場の判断をしました。ダービーの初日、3走目、4走目とお客さんに迷惑をかけてしまったし、これについては非常に申し訳ない気持ちでした。まずはしっかりと戦えるようになるためにケガをしっかりと治すことが先決。もっとできると思っていただけにショックでしたが、実戦を通じてはじめて今の状況を確認できました。

「良くないなりにどう走るのか」は実戦でしか模索できない(撮影:北山宏一)

後半戦で巻き返すため宮記念杯で戦える姿を見せたい

 ダービーから帰ってきてからは「体をうまく使えるようになること」を目下の優先課題にしています。最近はそこを重点的にやっている感じです。感触は急激に良くなった感じがあるので、武雄記念を欠場した判断が功を奏した気がします。たぶん武雄記念を走っていたら、ここまで良くはならなかったと思います。指や肩、首の痛みもダービー前に比べるとかなり和らぎました。

 指もだいぶ曲がるようになり、力を入れてハンドルをしっかり握れるようになりました。それに、肩や首の痛みが要因でフォームを作れなかったのですが、そこも大きく改善することができています。自分自身の自力が戻らないことにはライン連係そのものも難しくなるので、まずは自分の自力をしっかりと出せる状態まで戻して行きたいです。

 ケガを押しての出場でダービーではお客さんに迷惑をかけてしまったので、取り返したい気持ちがあります。今年もまだ半分も経っていませんから、高松宮記念杯でしっかりと戦える姿を見せられるように精一杯頑張っていきます。一走一走を大事にして後半戦で巻き返せるようにやっていきます!

昨年同様にケガには屈しない(撮影:北山宏一)

読者の方から寄せられた質問に答えます

 それでは今月も質問に答えていきたいと思います!

今回は3つの読者質問に真っ向勝負!(撮影:北山宏一)

ーーもしも、「モーニングGI」や「ミッドナイトGI」があったとして、松浦選手はどちらが良い成績をあげられると思いますか?

 早起きはどちらかといえば苦手で、朝は基本的にゆっくり起きたい人間です。あまり目覚ましもセットしたくありません。でも、モーニングは勝ち上がれば、結局走るのは昼になりそうだし、あまり変わらないかなと思いますね。ミッドナイトの方は自分も弱くなる事も考えられますけど、相手が弱化するパターンもありそうですよね。もしかしたらミッドナイトの方が成績は良くなるかもしれませんね。逆もしかりですけど(笑)。

 開催時間帯の話をすれば、僕は夜に苦手意識はありません。でもご飯を食べる時間や食べる量、寝る時間はナイターの方が気をつけています。ナイターだから2時3時に寝るとかしちゃうと普段のリズムが崩れますし、レースが終わってご飯を食べるとなると21時から22時の間になってくるので、食べ過ぎると次の日に残っちゃうんですよね。何かと気を使っています。

ーー吉岡稔真選手や神山雄一郎選手がトップ戦線を走っていた時代のレースを見たりしますか? 今と昔のレースの変化を見て参考にしている点があれば教えて欲しいです。

 今の時代のレースをたくさん見ているので、昔のレースを自分から検索して見ることはありません。スピードチャンネルの特別アーカイブとかで流れていて、それを見るくらいでしょうか。その時代その時代でレースが変化しているので参考にすることはないのですが、体の使い方とか乗り方には目が行きます。村上義弘さんは自分が自力をつける上で、すごく参考になりましたし、勉強になりました。村上さんが現役を辞められる前にはよくフレームや乗り方とか話をしました。

 僕が一番見るのは同地区の選手のレース内容ですね。自分が走っていたら?とか連係するとしたら?というイメージで見ていて、「最後直線でどういうタレ方をしたのか」、「道中のペースはどうかな」とか、「仕掛けるタイミングはどうかな」とか、自分が番手に付くイメージで見ることが多いですね。

ーー清水裕友選手が滝行をやっているようですが、松浦選手はそういう「精神修行的なこと」をしたりするんでしょうか。(座禅を組む、火渡りをするなど)

 本当にやりたくない練習を「気持ちを入れてしっかりとやること」は大切にしているので、メンタル的にキツいことは結構やりますけど、具体的な精神修行みたいなことはやらないですね。変わったことは山登りをするくらいでしょうか。練習の一環でたまにやっています。

 キツい練習を思い出すと「パワーマックス」というトレーニング機器があるんですけど、A級の時に1日の練習の締めに「かなりのハイピッチで30分こぎ続ける練習」をやっていた時期があります。景色が変わらなくてキツかったです。あと、乗り込みをやっていた時期があって、150km前後を1日で乗っていたんですが、一人で乗り込むのは本当にキツかったですね。

 その結果初優勝をできたのもあって、一時期は競走の5日前くらいに120kmから180kmくらい乗り込んで、あとの4日間は調整に充てるという練習方法で1年間くらいやっていました。誰かと一緒に乗り込むのはいいんですけど、一人で180km行くのはかなりキツかった記憶があります。でも結果が出るなら、基本的に「キツいか、キツくないか?」は重要じゃありません。自分が強くなれるかどうか、結果が出るかどうか、それが第一ですね!

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松浦悠士

Matuura Yuji

広島県広島市出身。日本競輪学校第98期卒。2010年7月熊本競輪場でレースデビュー。2016年の日本選手権競輪でGⅠ初出場、2019年の全日本選抜競輪では初のGⅠ決勝進出を果たす。2019年の競輪祭でGⅠ初優勝を飾り、同年KEIRINグランプリにも出場。2020年のオールスター競輪では脇本雄太との死闘を制し、優勝。自身2つ目のGⅠタイトルを獲得した。ファンの間ではスイーツ好き男子と知られており、SNSでは美味しいスイーツの数々を紹介している。

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