2024/01/03 (水) 12:00 88
今回は2024年新春特別編。山口幸二さんに2023年の記憶に残る名レース、ベスト連係、そして2024年に注目すべき選手についてお話を伺いました。
宮杯の決勝戦ですね。怪我をしたのに優勝したからすごいという話じゃなくて、 この決勝戦に至るまでに壮大な前振りがあったんです。
去年のグランプリ、今年の和歌山記念、そして豊橋記念。全部脇本の逃げきりなんですよね。
でも、GI・全日本選抜競輪は脇本の後ろの古性が獲りました。記念は逃げ切ったけども、 GIじゃ逃げきれなかった。そこで、「古性の後ろならもっと獲れる、GIも獲れるんじゃないか」という脇本の心境の変化を感じたんです。
それで、ちょっと後ろを回らしてくれって言ったのが、別府のウィナーズカップ。結果、古性は失格で脇本は2着。優勝はできなかった。その後の全プロ競輪では、そういった脇本の変化を古性が受け入れて別線になり、古性が優勝したんですよね。
これをきっかけに『古性は脇本の番手だから勝ったんじゃなくて、古性自身の力で勝った』と、周りの選手や脇本に思わせることができました。
そういう経緯があって高松宮記念杯を迎えた。脇本は連日、後ろに地元の選手をつけて、捲り勝負で勝った。『あれ、あんなに強い脇本がなんでこんな勝ち方しかできないの?』っていうファンの不満みたいなものが徐々に出てきたんですよね。
準決勝も脇本は1着。ここも捲りで決まった。そうしたら、1着インタビューにも関わらず脇本ににヤジが飛んだんですよ。で、脇本からすると「1着で人気に応えてるのになんでヤジられるんだ」というような戸惑いを感じたんですよね。
一方で古性は落車しながらも決勝に乗った。この状況で脇本の打つ手は、別線で走っても古性が優勝するんだし、『捲りばかりでなんやねん』というお客さんの目もあって、もう新山を突っ張ることしかできなくなったように見えたんです、僕には。
結果、古性が優勝。脇本は2周突っ張ったでしょって話してますけど、僕から見るともう、打つ手がなくなったうえでの古性の完勝に見えたんです。戦わずして勝つというか。落車後に4連勝で頑張ったという声もありましたけど、僕はもうその前に勝負がついていたと思います。それまでのストーリーを含めて、高松宮記念杯競輪決勝が今年のベストレースです。
誰と誰の連係が良いというのではなく、松浦悠士が番手についた、先行選手との連係が一番だと思います。
たしかに古性も番手の仕事はできるし、郡司浩平もそういうことをしようという風に見えます。でも、古性は捲りの後ろについて自分が差せるか差せないかの勝負がどうしても多くなってしまうんですね。中部と違って、近畿には若い先行選手がいないので。
郡司は、一生懸命やろうという気持ちは伝わってくるんです。番手のブロックとか、連係して決めようというのは伝わってくるんですけど、まだまだ松浦や古性に比べるとヨコの実績が足りないかなと。だから、松浦の連係が一番いいと思います。
たとえば、ちょっと前だと、清水裕友の防府記念6連覇の時の松浦の役割。次に、高知記念の犬伏湧也と町田太我が別で戦った決勝戦とか。犬伏の後ろが宗崎世連で、町田の後ろが松浦ですね。その時は新田祐大がうまく立ち回って優勝したのですが、松浦が2着で町田は3着に入った。あのレースは町田の魅力が活きてましたよね。犬伏は番手の宗崎が千切れてしまって結局単騎で逃げる羽目になったけれど、松浦の連係があったからこそ町田が生きて。これがもし逆…松浦が犬伏の番手だったら、僕は犬伏の方が着が良かったと思う。
競輪祭の準決勝もよかった。太田海也との連係です。太田が先行して、4コーナーで松浦が抜きに行く時に、内から佐藤慎太郎が来たんですよ。あれを止めて、太田と決勝乗ったんです。これは松浦じゃなかったらできないと思う。体を預けて相手のコースを、勢いを止める…ああいった技術は、松浦は天下一品ですね。古性みたいな“派手さ”はないですけど、松浦は本当にうまいですね。
僕は2024年、森田優弥が化けるんじゃないかと思ってます。レースは荒っぽいところがありますが、常に勝負しにいってます。
競輪祭の2次予選B。太田海也が1着で森田は2着でした。森田は3番手が取れたのにも関わらず、2番手にいた清水のところに追い上げたんです。権利だけ考えたら3番手とれてたんで、そのまま2着を狙おうと思えばできたんですけど、番手を追い上げて取り切って…というレースをしたんですよね。
こういった常に勝負をする選手って、周りの選手から見るとすごく嫌な相手なんですよ。権利取りに走らないんで。森田は、犬伏とか脇本みたいな先行で逃げ切る脚力はそこまでないから、ラインに活かされないとなかなかタイトルを獲れない。でも、こういった“撒き餌”はできてると思うんです。そのうえ勝負度胸も抜群だから、これから森田はブレイクするのかなと思います。
以前、嘉永泰斗が躍進するんじゃないかという内容を書かせてもらったんですけれど。嘉永が北津留翼の番手で優勝してから、北津留の前で発進して発進して…を繰り返していくうちに、「このままじゃ自分の着がない」と、自分なりの戦法にたどり着いた。先輩をつけて、自分も残る戦法にたどり着けたんで、嘉永はブレイクしたんです。森田も嘉永と同じようなレースをしているんで。これから森田が番手を回ったりして、中心的な役割を背負っていくんじゃないかな。
彼は荒々しさがすぎるんですけど(笑)。だけど、誰もが通る道なんですよ。古性もそうだったし、イナショー(稲川翔)もそうだった。みんなそういう道を歩んできて、これぐらいやったら相手は転ぶんだなとか、これぐらいやったら自分は失格なんだなとかを覚える過程がありました。その辺の加減ができるようになったら、もっと活躍できるようになると思います。
山口幸二
Yamaguchi Kouji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校62期卒業の元競輪選手。1988年9月に大垣競輪場でデビュー、初勝利。1998年のオールスター競輪で完全優勝、同年のKEIRINグランプリ'98覇者となる。2008年には選手会岐阜支部の支部長に就任し、公務をこなしながらレースに励む。2011年、KEIRINグランプリ2011に出場。大会最年長の43歳で、13年ぶり2度目のグランプリ制覇を果たし、賞金王も獲得した。2012年12月に選手を引退、現在は競輪解説者としてレース解説、コラム執筆など幅広く活動する。父・山口啓は元競輪選手であり、弟の山口富生(68期)、息子の山口聖矢(115期)・山口拳矢(117期)は現役で活躍中。