アプリ限定 2023/12/11 (月) 12:00 44
本番までカウントダウンが始まった「KEIRINグランプリ2023」。今年は2019年以来の立川競輪場を舞台に12月30日に開かれる。「世代交代」が叫ばれる中、S級S班への返り咲きなど何かと話題の多いグランプリを目前に控え、日ごろ選手を間近で取材する敏腕競輪記者が椿賞争奪戦(伊東競輪GIII)の前検日である12月1日に熱海に集結。前編では2023年の競輪トップ戦線を総括してもらった(文中敬称略)。(取材日:12月1日)
デイリースポーツ 松本直記者(以下松本) まずは2023年総決算ということで、競輪グランプリ2023の話から始めましょう。立川競輪場ですね。
東京スポーツ 前田睦生記者(以下前田) 立川は2019年以来ですね。
松本 あの時は佐藤慎太郎が優勝していましたね。あの頃はまだコロナ禍前。
前田 佐藤慎太郎の、あの喜びのシーンは忘れられない。
松本 では、2023年のトップ戦線を振り返りましょう。今年のS級S班、1年間守ってくれたメンバーについてどう思いますか?
日刊スポーツ 松井律記者(以下松井) S班のメンバーは一番入れ替わったのかな、人数で言うと。
前田 多くの選手が大ケガで…。今年のグランプリメンバーは大きく変わります。
松井 今年の前半は平原、郡司、守澤がケガをして。あとは、山口拳矢の優勝で「これは何かすごく大きな変化が起きるぞ」という感じになったよね。
松本 世代交代ですね。
松井 ヤマケンが獲んなくても、あそこは犬伏-清水っていうラインだったし、今年のSS班じゃない人がもう獲る流れだったね。
松本 ここ数年のなかで、ほんとに激動の1年だった。地獄を見た選手という意味ではやっぱり平原康多でしょうか。
松井 苦しんでたね、ほんとに今年は。
前田 もう、1回だけじゃないからですね。
松井 しかも、そのケガする前の武雄記念が抜群の出来だったんだよね。これまた今年もGIひとつくらい取れんじゃないかぐらいの動きに見えていた矢先に…。本人のショックは大きかっただろうな。
前田 ダービーを走れないっていうだけでもね。
松井 過去で一番のダメージだと言ってましたよ、本人が。
松本 良くなってきたかなというところで、オールスター(シャイニングスター賞)の落車の審議になってしまったっていう部分もあり…。
松井 いろんなことがあって、アヤがついちゃった。ワッキーたちの大量落車の審議がセーフになったことで波紋を呼んだ。あれも可哀想だったな。
松本 ほんとに落車が多かった1年でした。平原は武雄記念と高松宮記念杯で…。
前田 「グロインペイン症候群」と診断されて。今年覚えた言葉ですよ。競輪の取材していると「キーンベック症」とか、世の中にはいろんな症状や怪我があるんだと勉強になります。よほどひどかったみたいですね。
松井 座骨神経痛とか、ヘルニアとか…。
前田 もともと首も悪かったり、痛いところ数えたらキリがないような選手ですけど。
松井 「休まず走る、走りながら治す」という選手だからね。ただ、さすがに競輪祭が終わった後は休んだ方がよいのではと言いましたけどね。
前田 このまま3時間ぐらい平原の話をしていたいですけど…。
松本 北日本の話題に移りましょう。S級S班から新田祐大、守澤太志の2人が陥落です。
松井 北日本は4人から2人になっちゃった。
前田 新田は今年前半、新境地切り拓いたけど…。
松井 良かったよね。自分の記事で「今の新田はエモい」って書いたんだけど、やっぱエモかったよね。本当に泥臭い魅力がある競輪選手。
前田 立川記念での郡司のところで粘るみたいな、意思表示的なシーンもあったし。
松本 新田祐大にはどうしてもナショナルチームのイメージや、タテのイメージが強かった。ナショナルチームを引退して、これから競輪選手として違う面が見れるのかな、というふうに思っていましたが…。
松井 去年、グランドスラムを達成した。そして、厳しい状況でもラインの仲間の力がある。その全てが新田祐大の実力だよね。
前田 オリンピックの時に1年間、いわゆる規定の関係でS級1班になるっていうのがあったけど。次も変わらず新田の存在はS班でいい。誰もが認めてると思います。
松本 来年はいわき平でダービーがありますから。そのあたりで復活を期待したいですね。
前田 守澤は…。S班としての格を高められたはずなのに、及ばなかった。
松本 ダービーの準決勝の落車なんて頸椎でしょ。あの状態で再乗してゴールしたのは、 改めてすごいなと思った。あと、競輪祭で一番びっくりしたのは髪の色を変えてたこと。
松井 真っ黒になってた、ということは...。
松本 勝負を懸けたのかもしれないですね。結果、S班から落ちることになっちゃったけど…。まずは、怪我を治してほしいなと思います。
前田 そうですね。体を作るのと、あと精神性。 佐藤慎太郎は明らかに「S班維持するぞ」という戦いぶりがあったけれど、守澤はところどころで足りなかったのかもしれない。慎太郎さんと話して感じるところがあったのは、本当にただ「守澤、前を任せるよ」を言いたいのだけど、そうではないことが続きましたから。守澤にはもう髪の毛を我々のように、とは言わないけれども(笑)。
松本 「我」でしょ? 丸坊主は(笑)。
前田 (笑)。我々のようにとは言わないけれど。心はもう一段上、勝負するところに持って行って。
松井 グランプリは乗り続けるより、落ちてもう1回戻ってくる方が大変。だから、今年で言うと清水はすごかった。やっぱり平原だって若い時にダメだった時期があって、慎太郎君だって何年ぶりで乗った。 深谷は今年6年ぶりでしょう。
松本 守澤には復活してもう一度S班になってほしい。佐藤慎太郎という目標がいるから、そこを超えてほしい。
松井 守澤は来年、本当に勝負の年になる。
前田 ずっと言ってる。守澤じゃない。「攻澤(せめざわ)」にしないと。
松本 守るんじゃなくて?(笑)
前田 ジカ勝負とか行かないじゃないですか。本当は必要だと思う。
松本 北日本の佐藤慎太郎、成田和也。この2人の前を回るにはね。
前田 自分は追いつけないじゃなくて、追い越さないといけないという自覚を促したい。
松井 ジカ勝負といえば、慎太郎君も今年話題になったことがあったよね。某評論家が苦言を言った…。
前田 福井記念での某評論家ですね。
松井 何がなんでも河野通孝が行ったことによって、本当だったら慎太郎が行くべきだみたいな話になった。だけど、俺はそうは思わなかったんだよね。全然佐藤慎太郎の戦い方でよかったと思うし、もう見せる時期ではない。逆に背負った人気に応える時期。S班に何年も乗っていて。あのへんは、意見分かれるところなんだろうね。
前田 そうですね。
松井 見たいけどね、たまにはね、佐藤慎太郎のジカ競りは。
前田 見ている世代でも違うんでしょうけど。我々ぐらい歳をとってくると、一国一城の主と、河野通孝みたいにその国を取りに行くというね、段階違うとなると戦い方は変わってくる。 でも今後、慎太郎さんが構成上ジカで、は普通に考えればね、マーク屋として起こりうるんでしょうから。
松井 今年は佐藤慎太郎もそんなに前半はね、賞金はずっと上にいたけど。サマーナイトの犬伏の後ろになったあの一件とか、なかなか難しいレースもありました。本人は言葉選んじゃうけど、恥をかかされちゃったみたいな。
松本 今年の佐藤慎太郎、成績見るとすごいですね。安定感が。
前田 デイリーさん的には、あと15年ぐらいは選手をやってもらうの?
松本 GIをもう1個取って。
松井 最年長記録を。
前田 それがデイリーさんからの指令なんだ。
松本 自分でも言ってましたよ。やっぱりタイトルもう1個。グランプリってみんな言うけど、その前にGIを勝ちたい。
前田 あの全日本選抜から「もう1回」っていうのがあるんだ。
松井 みんなそう言うよね、グランプリ勝ちたくてやってるんじゃないんだよね。GI勝ちたくてやってるんだよね。
松本 今年だって、GIの決勝戦の表彰台に3回乗っているんですよ。ダービーの3着、 宮記念杯の2着。親王牌も2着…。頂点の一番近くで、一番悔しい思いしているのが佐藤慎太郎だと思うんです。
前田 特にダービーと親王牌の2つかな。ダービーは勝てるコースがあって、拳矢が伸びきった。親王牌は古性が強かったけど、 小松崎が逃げてる以上、えげつないブロックで止めないとぐらいの悔いがあったのかなとも思いますしね。
松井 ワッキー-古性で古性を止めちゃったブロックとか、やっぱりすごいよね。あれはなかなかできないじゃない。
前田 マーク屋という稼業が目立たなくなるなか、素晴らしいものを見せてもらえるから嬉しいですよ。
松井 佐藤慎太郎ともう一人。俺は成田和也がグランプリ乗るんじゃないかなって、前半から思って期待していた。
前田 前半まで。去年前半なら動きは最高だったけど、ヘルニアがね…。
松井 難しいね。
前田 だけど競輪祭で、片鱗がまた...。
松井 戻ってきた感じだね。やっと踏めるようになってきたって言ってたけどね。
松本 あともう一人、忘れちゃいけないのが郡司浩平。
前田 ついぞ掴みきれないですね。郡司が落ちたっていうことは。
松井 ただ、最後の散り際の鮮やかさと言ったら、俺は多分歴代こんな人見たことないよっていうぐらい、なんか綺麗な散り方をしたんだよね。
前田 競輪祭の準決は。うんうん、永遠に...。
松井 伝説だね。
前田 半年おきに、この話題で酒飲んだ方がいいぐらいの。
松本 あのシチュエーションって、目の前に宝物が落ちてるのにそれを取りに行かないで自分の役割を全うする。そんな心持ってますかといったら、僕は持ってないと思います。
松井 あの先には、もう1億、2億のお金が待ってるわけだし、タイトルもそうだけど。
前田 決勝に乗ることは簡単だったはず、というレース。
松井 4コーナーから踏めばいいだけなのに、そこをもう1回止めに行った郡司。 あのレース、俺は郡司から買ってたから「なんだよっ」て思いつつ、「嘘だろ、こんな人間いんのかよ」みたいな。そういう複雑な気持ちになったね。
前田 王道というか、競輪をずっとやってきて非が打てないような男だし、そこに物足りなさを感じるところがあったけど、グンちゃんはグンちゃんだった。可愛い。
松本 S班になる前は南関東の「引っ張りの郡司」だったじゃない。
前田 いろんな人の優勝に貢献して。
松本 “優勝請負人”。郡司浩平はそこからスタートしてると、僕は思うんですよね。そのラインをすごく大事にする選手だから、競輪祭に出てたと思うし。今年1年振り返ると、ダービーの準決勝の落車までは順調だったよね。小田原で優勝したり、流れは「郡司、さあ地元の平塚ダービーで!」という。
前田 どんなことがあってもグランプリには出ると思ってたけど…。あの平塚ダービーの準決勝だけは、本当に悪魔が手を引っかけたとしか思えない。ありえない…。
松井 あんな前輪引っかける郡司。あんな余裕のない落ち方をするか、という。ありえなかった。よっぽど何かがのしかかってる。
松本 選手にとって節目節目の開催ってあると思うんですけど、来年は平塚でオールスターがあるんですよね。これが郡司浩平にとっては、復活のキーポイントになると思います。来年はFI回りになるわけじゃないですか。記念だけのあっせんじゃないし、そういうところでお客さんは郡司浩平をより応援したくなる。 オールスターのファン投票で何位になるかわかんないけど、その前にはもうタイトル獲っちゃってるかもしれないけど。
前田 そうね、川崎記念が1月と4月に2回あると思うとね。あれっ、でも平塚オールスターは、松坂洋平ですよね、松井さん。
松井 優勝が!?
松本 そうか、また神奈川の選手の前で頑張っちゃうのか。
松井 松井(宏佑)がいる、北井(佑季)もいる、深谷も復活してる。競輪祭は南関が準決勝にいっぱい乗っていた。長い間南関を見ていても、せいぜい2人とかだったのに、GIの準決勝でこれだけ乗ってくれるっていうのは...。
前田 海老根、(渡邉)晴智とかね。
松井 本当、そんな感じだったよね。ギリギリ渡邉雄太、和田健太郎とか。これだけ乗れるようになったっていうのは、本当に南関の未来は明るいと思う。郡司もその波に乗っていけば、 自ずとみんな郡司の前に行くよ。
松本 グンちゃんも、まずは体を治してほしい。もう12月はグランプリに乗る乗らない関係なく、先に欠場を出してたじゃないですか。だから、まずは体を整えて、1月から万全で走れるように。川崎競輪場でも練習できるようになったしね。練習のリズムは戻るはずだから。あと、やっぱりグンちゃんの大きな功績って、お客さんを呼べること。女性のファン増えましたよね、競輪場に。
松井 松本と同じくらいいるんじゃない?
前田 松本さんと双璧...。エロスの面も必要だからね、男性には。
松井 発走機のあのポジションを変えるやつね。郡司君、わざと見せてるって言ってたけど。
松本 こっちが結構いろんなポーズを要求すると、お茶目なこともやってくれるじゃないですか。
松井 根が明るい。
前田 変顔は多いしね。
松本 来年はS級1班で、FIだったら行ける競輪場も増えるし。
松井 ファンが身近になって、いろんな競輪場に郡司ファンがいっぱい詰めかけてくれればいいんじゃない。
松本 ということで、グンちゃんには仲間のバックアップもあると思うし。
松井 俺も本当、あの競輪祭の準決勝は忘れませんよ。うん、郡司のあの行為は。
松本 地獄を見た選手たちには来年頑張る要素があるから。
前田 郡司はどっちかというと、心配いらないかもしれないですね。
松井 そうね。もう周りもしっかりいるしね。
松本 じゃあ天国の方にいきましょう。まず、来年S級S班を務める選手たちの顔ぶれは、 関東の眞杉匠、中部の山口拳矢が初のS級S班。南関の深谷知広、中国の清水裕友が返り咲き。4人が入れ替わりになりました。関東の眞杉から行きましょうか。
松井 やっぱりオールスターは、あのヨシタク(吉田拓矢)の波紋を呼んだ、暴走失格というのはあったから、本人ももちろん嬉しいけど100%手放しで喜んで帰れなかったということがどこかにあったはず。だけど競輪祭で単騎で自力で、何もサポートのない状態で獲ったことで、 もう全てが完結したなと思った。眞杉匠というポジションは「関東のニューエース」だね。
前田 オールスターが味付けの濃すぎるもので、消化しきれない状況でね。それを競輪祭で、すっきり最後までデザート付きで、その後にグランプリっていうおまけがあるから。眞杉ファンはお腹いっぱいになってる場合じゃないですよ。
松井 うん、まだあるね。眞杉は「ヘブン顔」っていうのかな。あの笑顔が「天国顔」じゃないですか(笑)。良かったな、と思う。
松本 オールスターは優勝は優勝なんだけど、ちょっとミソがついたというか。
松井 そうね、人の犠牲の上に獲っちゃったものになったから、なんかね。
松本 それだけに鮮やかでしたよね、競輪祭の優勝は。
松井 今度またグランプリも単騎だろうから、単騎で勝ついいイメージもまた持っていけるしね。
松本 眞杉は単騎の勝率いいでしょ。小松島記念とかも単騎じゃなかった?
前田 そうね、記念も勝ってるし。
松井 (競輪祭決勝は)太田海也が捲るところの先捲りで、狭いとこ入っていきながらって、すごい芸当じゃない。で、バンマク打ってるのが、松井宏佑の(上がりタイム)11秒フラットなんだよね。外を弾いて、簗田を内に極めて、最後に松井を抜いて、眞杉は凄かったよね。
松本 競輪センスがすごい。
前田 突っ張り先行もできる中で「いや、眞杉はヨコも全然やれるかな」というのが証明されてね、古性級のポテンシャルをね、見せてくれているよ。
松井 守澤をバチーンはじいたのもあったじゃない。あれはサマナイか。
前田 準決勝ですよね。
松本 かと思えば、京王閣記念の初日みたいに、北井佑季と先行勝負して、失格になったけど「負けないよ」というのを見せたり。
前田 あれはね、やりすぎた。眞杉のやりすぎは時々ある。昔の平原みたいな。
松本 魅力のある選手だなって思うことは、とてもありますよね。この先、プレッシャーに押しつぶされる場面はあるのかな? 来年の眞杉は。
松井 本人は多分、オールスターの後、結構悩んでた時期あったと思う。このままだとS班にいられる選手にはなれないんじゃないか、みたいな。眞杉本人が言ってたのは、脚力だけだったら犬伏とか北井の方が自分よりもあると。「ここだったらこの人のが強い、ここだったらこの人の方が強い」、自分が突出したものがないというところを、コンプレックスは持ってたと思う。だけど、もうそういうことではないというのが、競輪祭で全部もうすっと流れていったと思うんだよね。自信を持って来年S班を張ってくれるんじゃないかな。
前田 京王閣記念の時に平原もね、そういう話を眞杉にするんですよ、と話してました。平原エキスが入ってる。
松井 そうね、「平原イズム」がね。
松本 ほんと若い頃の平原康多に似てる部分ってあると思う。負けん気の強さと言うか。
松井 平原は眞杉と森田優弥の気持ちはわかると思うよ。
前田 ただし前検に遅く来て、平原を待たせるのだけは気をつけた方がいい(笑)。
松本 京王閣記念でね(笑)。
松井 並びが決まらないから(笑)。
前田 あれは平原待ってるから。平原と同じ開催の時は早めがいいと思う(笑)。
松本 眞杉は関東の同期、113期のメンバーや期の近い連中を集めて練習しているよね。
前田 113期はね、関東は合宿みたいなのやってたし。
松井 仲いいもんねえ。
松本 森田優弥と、これから関東のゴールデンコンビだね。
松井 競輪祭でありそうだったね、眞杉と森田で決勝へっていう可能性が。
松本 みんな、あの最終12レースの単騎の森田はしこたま買ったでしょうね。
松井 買った(笑)。
松本 来年のお楽しみですね。
前田 来年は113期の「ゴールデンボール河合佑弥」が頑張ると思う。
松井 ゴールデンボール?(笑)
前田 ここ使ってくださいね(笑)。
松本 次は深谷知広。これはもう前田くんに語ってほしいけど。静岡に移籍して2年?
松井 2年。1月だったもんね。
松本 どうですかね、S班として迎える来年。24年の静岡グランプリも控えていて。
松井 わかりやすく変わったのは昨年末からやっと人の後ろを回り出したってことだよね。 深谷は頑なに誰の後ろも回らなかったのに、その封印を解いて。去年の暮れから、番手という。松井宏佑なんか、それこそさ、何回一緒になってもついてくれなかったのに。いきなり原田亮太の後ろ回った時は衝撃だったろうと思うんだけど。
松本 伊東でしたっけ?
松井 そうそう、去年の伊東記念。
前田 深谷に任されるとね、もう残り1周で出ていかないといけないぐらいで、その気持ちを汲んで出ないといけないところと、あとヨコの仕事が求められるところ、伊東ミッドで。
松井 すごいやったね。北井の後ろ。
前田 ヨコをやるっていう意識と、ものすごくそういうのが消化されたかというところと、 格段にやっぱ成長が早いですよね。その人の後ろでやるべきことを覚える。そして、うまい。もともと自転車マニアみたいなところがあって、乗り方とかの吸収がすごいんでしょうね。
松本 お見事だったよね。青森の決勝もそうだけど、外からブン捲ってきたのは嘉永だよ。あそこを一発で仕留めて。
前田 一番いい時の渡邊健のブロックぐらいすごかったね。
松本 もう僕は、あの青森の共同は獲るんだったら番手捲りしかないかなと思っていた。渡邉雄太が行って、その後ろからタテに踏むことしかできないのかなと思ってたら新山1車、渡邉雄太に追わせて、捲ってくる嘉永をさばいて。
松井 ごぼう抜きと。
松本 追わせて渡邉雄太にも勝負権のあるレースをさせた。あれで、深谷知広に今年の流れがきたと思った。
前田 結局、(静岡に移籍して)最初に来た川崎の全日本選抜で、深谷の力で郡司が優勝できて。深谷が来たのにいつまでも深谷が頑張って、恵まれない報われないがね。渡邉雄太とかと一緒に練習して育てるというか、仲間を育てることで戻ってこれた。このグランプリは価値が高いと思う。
松本 南関勢で競輪祭の決勝に乗ったのは深谷と松井宏佑と簗田と3人だったけど、深谷の理想としては3人の中の誰か1人が優勝して(グランプリで)ラインを組めれば…。
松井 一番いいシナリオだったと思うよね。
前田 松井が頑張ってきたこともわかってると思うと、深谷はね。
松井 簗田も荷が重かったよね。深谷-松井の3番手はさすがに。
松本 でも、グランプリを開催する立川は深谷にとって相性のいいバンクですよ。
松井 そうだね、大好きだよね。
前田 とにかく深谷はね、歴代でガッツポーズの華やかさはずば抜けてトップだと思う。最近の古性のね、両手をゆっくり、1周終わった後に噛み締めたりするのもいいけど。深谷のあの高く突き上げるガッツポーズをね。
松井 古性はね、手放しは別に何にも心配ないけどね。
前田 深谷のガッツポーズは別格。
松井 眞杉のガッツポーズは「ワンピース」っぽいよね。
前田 アニメ感がある(笑)。
松本 来年、南関はSS1人ですけど深谷が引っ張って、グンちゃんと、あと他の同県の仲間たちと。
松井 これで深谷は真の南関のリーダーになったんじゃないかな。移籍して。今度はみんなまた深谷の背中を追って。
前田 だから来年こそね。また楽しみにできるから。深谷はいつも1個1個ストーリーが進んでいくから。
松井 噛み合わせで3人、4人乗ってもいいぐらいの駒はいるもんね。今の南関は。
松本 続いて新S級S班、山口拳矢。
松井 いやあ、星が強い。
前田 本当に答えの出し方がね。説明が難しいし、こんな星の元に生まれるっていう。
松井 サマーナイトもそうだけど、「あ、獲っちゃうんだ、こんな簡単に」っていうのを。サマナイでもダービーでも思った。ダービーはもう俺は多分97%ぐらい清水が獲るものだと思っていた。これをこの犬伏-清水の、現役で今中四国じゃ最強に近い並びを、「あ、単騎で勝っちゃうんだ」というショックもあった。あ然としたというか。
松本 もちろんベースの脚力っていうのもあると思う。持ってる星の強さ、引きの強さというのが一発で、ズドンと打ち落とす。スター性っていうのを山口拳矢には感じますよね。
松井 常にレースについては色々言われちゃうじゃない。ヤマケンのスタイルには賛否両論あってさ。浅井との連係がうまくいかないとか、先輩がついても先行しないで構えちゃうとか。
前田 吉田敏洋の前なら先行じゃないのか、とかね。やってはいないというのがね。
松井 だけれども、そういう雑音も一切シャットアウトして、才能とセンスとで勝っちゃう。
前田 松井さんは数えきれないほど競輪選手を取材されてきてると思いますけど、接すると「お、これが山口拳矢か」みたいなオーラは感じますか?
松井 うん、ある。
前田 私も、別なものをやっぱり感じます。
松井 なんかその歴代、例えば吉岡(稔真)さんの時代から、いろんなスターというのを取材させてもらったけど、 拳矢君には肩の力が入ってるのを見たことがないんだよね。「もうここは絶対勝たなきゃいけない」とか「ここは負けられない」という力みや鼻息が荒いみたいなことがないんだよ。「早く宿舎に帰って漫画読んでいいすか?」みたいな。本当にそんな感じなんだよな。
前田 山口拳矢は底知れないものがあるし、これから先もう分からない。すごすぎる。
松本 嬉しかったのがグランプリシリーズのFI(寺内大吉記念杯)に山口聖矢がいるんですよね。これは拳矢君にとっては、追い風じゃないかなと。
前田 今回の寺内大吉記念杯はメチャクチャすごいメンバーだよね。
松本 前座戦にテーマというか、グランプリに出場する選手との結びつきがあったらいいなと思っていたんですよ。そうしたら今年はそういうあっせんがちらほら見えたから、嬉しいなと。
前田 昔は師匠とか必ず呼ぶみたいなのがあったよね。
松井 立川だから、山口健治さんもいるだろうしね。ヤマケンが新旧で揃うという(笑)。
松本 拳矢君にとってはいい状態でレースに臨めるんじゃないかなと。中部1人だけど、1人じゃないっていうような感じがした。
松井 でも、単騎の方が狙えるかもね。
松本 いや、車券は買いたいでしょ。
前田 並びに関してっていうのはね、わからないところですけど。
松本 そして返り咲きの清水裕友です。
松井 みんなが離れる犬伏とか太田海也とかに、裕友は離れないね。抜くし、ちゃんとついていくし、決めるし。やっぱ行くべきところで行くし。
前田 強さのバランスの把握がしっかりしてるんでしょうね。
松井 ダメだなっていう展開になっても、タダじゃ死なないじゃん。絶対かき回してもう1回、どっか1人ぐらいは道連れにするみたいな。やっぱり、いい選手だね。
前田 多分、両面じゃないけど「ええんすよ。戻りゃええんでしょS班に」っていうのと「戻れんのかな!?」みたいな、五分五分の気持ちだったような気がする。けど、「戻りゃええんでしょ」の方が強かったんでしょうね。やっぱりS班にふさわしい選手だ。戦いぶりが。
松井 だって、今年の頭に「やっぱり自分、赤いパンツの方が似合ってた」ってこっそり言ってたよ(笑)。黒いパンツよりね。また赤いパンツ履けるから良かったよ。
松本 この1年が清水にとって「やっぱり(赤パンを)履きたい」って思える1年だったってことは、これからの競輪人生にとって良かったんだろうと思う。やっぱり「持ってるな」と思うのが、地元記念を6連覇したこと。
松井 しかも今年は相性があんまり良くない玉野のバンクでやったのに、そこでも獲っちゃったっていうね。
前田 玉野で落車もあったということも考えると...。
松本 よくこの1年で戻ってきたなと。
前田 玉野の時はメンバーすごかったから、そう簡単に行くわけないのに。
松井 やっぱそれでも獲っちゃう。6連覇ってね。
松本 清水裕友が定位置に戻ってきたことで、また松浦とのS級S班コンビが見られる。
松井 取鳥とかもだいぶ強くなってきてるし、太田海也みたいなとんでもないのが出てきたしね、中四国も面白いよね。
前田 取鳥雄吾はこのままだと記念頑張って勝てない菊地圭尚路線になってしまう。早めに獲ってほしい。でもつい最近、圭尚に聞いたよ。「函館記念の優勝は絶対に諦めてない」って。
松井 それにはやっぱり一つ、明田(春喜)を同じあっせんにしないこと。明田が持っていっちゃうから(笑)。
netkeirin取材スタッフ
Interview staff
netkeirin取材スタッフがお届けするエンタメコーナー。競輪の面白さをお伝えするため、既成概念を打ち破るコンテンツをお届けします。