2023/12/02 (土) 12:00 8
父親の背中を追い、24歳から始まった予想屋の人生も、早半世紀。競輪の移り変わりを見続けた「マーチャン」こと遠藤誠氏。2,900円から始まった予想屋人生の中で、彼を熱く動かしたものはなんだったのか。そしてなぜ彼はそこまで競輪予想にこだわるのか。
今回は伊東競輪公認のレガシー予想屋、マーチャンの競輪への情熱と素顔を紹介する。
(取材・構成:netkeirin編集部)
ーー伊東競輪場の傾斜を足早にスタスタと歩くのは、74歳のマーチャンこと遠藤誠氏。その軽快な姿に驚かされた編集部だったが、まずはマーチャンの原点である、幼少期について伺った。
遠藤 子供の頃は元気で冒険好きでした。当時は今とは違って、スマートフォンや電子機器がまだなかったので、3つ上の兄とよく一緒に川へ遊びに行きましたね。自然がまさに遊びの宝庫でした。親にはよく『怪我をするなよ』と忠告されるほど。当時はかなりのやんちゃでしたね。昔からのせっかちな性格は今でも健在。頭では理解しているつもりでも、ついつい体が先走ってしまう。
さらに昔から歩くことが好きで、雨が降ろうとも気にならない。実際、以前、電車が止まってしまったことがありましたが、25〜30分かけて伊東駅まで歩きました。これらの経験が今の私の人生や競輪予想屋としての一歩に、繋がっているのかもしれませんね。
ーーやんちゃな幼少期を過ごしたマーチャンだが、競輪や予想屋への出会いは、なんだったのだろうか。
遠藤 親父が競輪予想屋であり、幼い頃から休みの日にはレースを一緒に楽しんでいました。競輪は私にとって、特別な存在というよりも日常的なものでした。
雪印牛乳で運送業をやっていた24歳の頃、私の人生に大きな変化が訪れました。親父が病気になり、その姿を目の当たりにして「どうしようかな」と悩みましたね。思い切って『自分もやってみようかな』と、競輪予想屋の道を歩むことを決意。親の血が流れていたこともあり、予想屋になることには、大きなためらいはありませんでした。決断するのにもそんなに時間はかからなかったですね。
ーー運送業から大転身して競輪予想家になったマーチャン。今日までの半世紀の間、辞めようや諦めようと思ったことはないのだろうか。
遠藤 予想屋としてのキャリアを始めるきっかけは、『自分にもできるかな』というチャレンジ精神。だけど最初はしゃべることに対して大きな抵抗を感じていました。勉強もしましたが、予想の仕方もまだ確立できていないのでわからない。たとえ100円だけでも、その100円を買ってもらうためのコミュニケーションは、非常に難しいものでした。それでも、お客さんに買ってもらえた瞬間は、非常に嬉しかったです。
初めて場立ちの台に立った日は、まさかの2,900円の売上。自分ではそこまで売れるとは思っていなかったので、本当に感動的でした。29人のお客さんが予想を買ってくれたことが、『自分にもできるんだ』という自信に繋がり、それが今の私の原動力です。予想屋マーチャンの道は、その29人のお客さんに背中を押してもらえたと思っています。
ーーベテラン予想屋のマーチャンは、予想にどんなこだわりを持っているのだろうか。マーチャンの予想のポイントを教えてもらった。
遠藤 私の予想のこだわりは、先行選手を軸にして買うことです。
なぜなら、先行選手がはっきりしないと、どの選手を軸にすればいいのか分からないから。また、動きが良いと感じる選手は、通常2日目や3日目にも好成績を収めることが多いです。このポイントを重視して予想します。戦力がない先行選手でも、動きが良い場合は3日目に要注意!穴狙いの際はここに絞って狙います。逆に動きが悪い選手は3日目も危険なので、過去の戦歴を参考にして慎重に予想しています。特に記念レースでは、これらの要素が顕著に表れると考えています。
予想屋としての経験が長いと、予想スタイルも時代に合わせて変化していきます。昔の競輪は今とは異なり、強い先行選手に強い追い込み選手(マーク屋)がつくという傾向があり、それが予想をしやすくしていました。しかし、平成に入りラインが導入され、地区の選手同士での走行が増え、前を回る場合もあれば番手につくことも増えました。予想スタイルは時代の変化に柔軟に対応しながら進化し続けています。
ーーマーチャンにとっての競輪の魅力はなんなのだろうか。また実際に伊東競輪へ足を運んだ際に、伊東競輪を知り尽くした場立ちだからこそ知る、おすすめも伺った。
遠藤 競輪の魅力は、4コーナーを回り、直線ゴールを駆け抜ける瞬間まで結果が分からないこと。この緊迫感が競輪の最大の魅力であり、競輪予想のスリリングな要素でもあります。ボートとは異なり、競輪では終盤まで展開が読めないのが魅力ですね。
伊東競輪のおすすめは、何と言ってもラーメン。特にチャーシューメンは絶品なので、ぜひ味わってみてください。そして競輪を楽しむなら、やはりゴールの前での観戦がおすすめです。野球場と同じく上から全体が見渡せ、ゴール前のスピード感は圧巻。33バンクのスピードを直接目で見て、その迫力を実感してみてください。
ーー最後に、もし競輪選手になるとしたら、誰になりたいか投げかけてみた。少し考えたあと、マーチャンはこう答えた。
遠藤 そうだなぁ… 誰かな… 。
強いて言えば、古性優作。オールラウンダーで隙がないというか。さらにお客さんへの貢献度が高いですよね。選手になる以上、いかにお客さんへの貢献度を高くするかというのは大事だし、安心して買ってもらえるというのは魅力ですね。
約半世紀に渡り、予想屋として競輪に触れ来たマーチャン。競輪の時代とともに予想も変化しつづけるが、競輪への想いは幼き頃に見た感動と変わらない。マーチャンはこれからも競輪とともに、歩き続ける。
netkeirin取材スタッフ
Interview staff
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