2023/09/25 (月) 12:00 45
青森競輪の「第39回共同通信社杯(GII)」は深谷知広(33歳・静岡=96期)の約9年ぶりのビッグレース優勝で幕を閉じた。渡邉雄太(28歳・静岡=105期)の後ろで嘉永泰斗(25歳・熊本=113期)をさばきながら、最後は豪脚を繰り出した。
2021年から南関に移籍した深谷は、『自力で』『また先頭で』、にこだわりながら南関の中での自分の居場所を作り上げようとしていた。ラインという考え方を重んじる性格なので、雑に並びとか走りをとらえない。自分がやるべきことに徹し、“南関で”の核になろうとしてきた。
深谷ほどの格の選手なら好きにしても誰も文句は言わないかと思うが、そういう人間ではなかった。人の後ろを回ること、南関ラインを固めること、も真剣に考え、その位置でやらないといけないことを埋めていった。番手回りの時に攻められることも承知の上。そこから逃げずに積み重ねたからこそ、決勝での動きがあった。
ちょっと遅くなったけど、おめでとう、と伝えたい。
昨今の新規ファンの増加については時折書いているが、喜び99%と、責任の1%を感じる日々だ。競輪を伝える仕事をしているので、今の競輪界がどんな状況かということは常に考えている。深谷が目の前の戦い、また未来を慮り(おもんぱかり)、そこから逃げなかった姿を見ていると、小さな存在だが私も逃げずにいろんなことに真剣に向き合わないと、と思うものだ。
競輪の究極の戦いは、もしかしたら“すべて自動番組、車番も抽選”なのかもしれない。それぞれが日々のレースで1着を目指し、頂点に位置づけされるGI優勝やKEIRINグランプリ制覇へと向かっている。真っすぐ見れば、そこに作為はいらない。
が、読者のみなさんすべてにおいて言えるだろうと思うのが、「人生って、そんなもんじゃないよね」という人間の複雑さだ。複雑で、いいことを喜んだり、ともすれば、苦しいことに共感したりする。サイコロを振っているだけでは味がしないから競輪を好きになるのだと思う。
誰もがコンプレックス(COMPLEX)を抱えている…。
青森の大会は売り上げ目標の82億円に届かず約69億円だった。やはり番組が組む時の方が車券を買いやすいのは事実だ。推理が難しいレースが続くと、どうしても売り上げは伸びない。
しかし、だからといって『自動番組はダメ』とは思わない。
基礎に番組の作る日々の競輪があって、年に1回珍しいこうした企画的なものがあることは大事だと思う。『ラインって何?』を考える時間ができるし、新規のファンは戸惑うかもしれないが、ここを通ると頭がスッキリすると思う。
東日本大震災のチャリティーコンサートに伝説のバンド「COMPLEX」が出演した時のこと。代表曲の「BE MY BABY」のイントロ部分で布袋寅泰と吉川晃司が向かい合い、「ビーマイベイベー、ビーマイベイベー、ビーマイベイベー、ビーマイベイベー……」と長く引っ張って、「お、おい、い、いつ始まるんかい!」とツッコまれる事態があったが(それがまたカッコいいんだけど)、このファン心理は競輪ファンも一緒。
自分が推理したレース、このラインはこんな戦いをする、そしてこうなれば…をずっと抱えている。常に思い通りに曲が始まったり、望んだようにレースが行われたりするものではない。そこで何を考えるか、何を感じるのか…がある。
売り上げは伸びないかもしれないが、一度“立ち止まらせてくれる”自動番組のレースの存在意義はある、と主張したい。
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前田睦生
Maeda Mutuo
鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。