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初タイトルは新たなスタート「周りのためにも僕は長い距離を踏めるように」眞杉匠インタビュー/後編

アプリ限定 2023/09/07 (木) 18:00 50

これまで関東ラインを献身的に引っ張ってきた眞杉匠選手は、GIオールスターの優勝で名実共に超一流選手の仲間入りを果たしました。しかし、デビュー当初から順風満帆の競輪人生ではありませんでした。ここまでの葛藤や、今後の目標など、後編は心の内に迫ってみたいと思います。(聞き手=松井律・日刊スポーツ)

記事の最後には直筆サインのプレゼントもありますので、ぜひ最後までお楽しみください。

インタビュー後編はここまでの葛藤、ライバル、グランプリへの思いを語ります(photo by Kenji Onose)

デビュー当時は引いて捲ってやらかしていた

ーーGIタイトルを手に入れました。デビュー当時は6年後の自分をどんな風に想像していましたか?

眞杉 タイトルが取れるなんて考えてもいませんでした。同期がどんどん特進していく中、僕はしばらくチャレンジで足踏みしていましたから。

ーーその当時の自分の走りを思い出して、どう思いますか?

眞杉 森田(優弥)がすぐにS級で優勝していた頃、自分はSを取って、引いて捲るのが楽だから、チャレンジでそればかりやっていた。それなのに勝ちにいくとやらかすし、焦っていました。だいぶ減ったけど、勝ちにいってやらかすのは、今でも悪い癖として残っています(笑)。

ーーこのままじゃいけないと思ったきっかけは?

眞杉 半年で3回落車したんです。このペースで落ちていたら、体が持たないなと思った。先行し始めたのは、ケガをしたくなかったからです(笑)。

ーーそのおかげで強くなりましたが、同期たちは今もライバルとして意識していますか?

眞杉 関東の森田とか、(小林)泰正さんとかは、ライバルというより仲間意識の方が大きいですね。今でもよく合宿をしたり、一緒に練習することも多いです。

ーーそういう場合、誰がリーダーになってまとめるんですか?

眞杉 僕が計画を立てて、メニューも決めることが多いです。 時間には一番ルーズなんですけど(笑)。

ーー最近の同期エピソードがあれば教えてください。

眞杉 前橋GIIIの前に一緒に合宿をした泰正さんが、本番ですごくいい走りをした。同期の間では、泰正さんが真っ先に新聞の脚質が「両」になったんですけど、前橋の後に「逃」に戻ったんですよ。それをすぐにイジりました(笑)。

photo by Kenji Onose

ーー眞杉選手がまとめ役というのは意外な感じがします。金遣いが豪快でやんちゃなイメージがあったので。

眞杉 今は車が好きなので、ちょこちょこ変えてしまいますね。

ーーありがちな質問ですが、オールスターの賞金の使い道は?

眞杉 前に乗っていた車が目立ち過ぎたので、新しい車を買った資金に回します。あとはつまらない答えですけど、将来のために(笑)。

ーー他にも同期では松井宏佑選手や嘉永泰斗選手もブレークしています。

眞杉 松井さんは最初から強かったし、早い段階で記念(小田原GIII)も取っていた。同期で最初にGIの決勝に乗ったのも松井さんでした。嘉永も地元の熊本記念を勝ったし、活躍を見ていて自分の中では焦りしかなかったです。

ーーオールスターでは吉田拓矢・有希兄弟と連係しましたが、同期ともそういう機会がくるでしょうか。

眞杉 森田とは一度同じレースになったけど、メンバー的に別線になってしまった。今度一緒になったら絶対に連係したいです。

ーー前後はどうなりますか?

眞杉 もちろん僕が前ですよ。森田には思う存分、後ろで暴れてもらいます(笑)。

今は2周もがく時代だから長い距離を踏めるように

ーー今、眞杉選手が一番のライバルと思うのは誰ですか?

眞杉 やっぱり新山(響平)さんですね。

ーーということは、欲しいのは「先行日本一」の称号ですね。

眞杉 はい。脇本さん、新山さんに近付き、追い越さなくては手に入らないものです。

ーー新山選手と対戦する時に意識することは?

眞杉 突っ張られるのが嫌なので、逆に自分が突っ張りたいですね。でも、僕はまだ新山さんの域には達していません。今は2周をもがく時代。新山さんのように全部突っ張って勝負しようとするのはすごいですよ。もちろん、僕がそのスタイルで勝てれば最高ですけど、そこを基本にしつつ、色々やって補っていくのが自分には合っていると思います。

ーー色々出来るといえば、サマーナイト(函館)の準決で守澤太志選手へのブロックは度肝を抜かれました。やればヨコも強いという評価に変わりましたね?

眞杉 あれは狙っていたわけではなかったです。僕もきつかったけど、新田さんのスピード域と合いそうだったし、もし自分がダメでも、後ろの2人が(決勝に)乗れればと思って体が動きました。

ーーヨコに動くことはどこかで頭にあるんですか?

眞杉 普段は考えていないし、それが最後の手段とも思っていません。

7月のサマーナイト2日目準決勝(黄・5番が眞杉選手)(撮影:北山宏一)

ーーやっぱり先行にこだわりたいんですね。昨年は「東の脇本」と言われたこともありました。

眞杉 脇本さんとは足が違い過ぎますし、戦うのは本当に難しいです。早く立ち上げると、捲りごろだし、引っ張り過ぎたら、カマされてしまいますから。

ーー今、自分が心がけているポイントは?

眞杉 相手やメンバーによっては、レースの勝ち負けだけじゃなく、内容にこだわらないといけない場面もあります。そんな時、僕の周りの選手たちは、それじゃ1着は取れないかもしれないという作戦でも、「それで頑張ろう」と言ってくれる人ばかり。だから、僕は初心に返って、しっかり長い距離を踏めるように戻らないといけないと思っています。

ーーやっぱりタイトルも自力で取らないと本物ではないと?

眞杉 そうですね。神山雄一郎さんも初タイトルは自力だったし、自力で取って、初めてスタートラインだと思います。

ーー先行日本一への道のりは厳しいですね。

眞杉 脇本さんや新山さんだけじゃない。犬伏さんだったり、北井さんだったり、ナショナルの中野慎詞、太田海也なんかも足が違う。僕は同じタイムは刻めないし、緩急をつけて踏める距離を伸ばしている感じですから。

ーーでも、眞杉選手がバランスは安定していると感じます。

眞杉 よく言えばバランスが良いのかもしれませんけど、悪く言えば突出した武器がない。だから、全体の底上げが必要です。トップスピード、ダッシュ、踏める距離、全てです。

ーーバランスならば、先行でも追い込みでも天下を取った神山雄一郎選手というレジェンドが身近にいます。学べることも多いのでは?

眞杉 最近、函館FIや、富山GIIIで神山さんとすごく話せる機会がありました。自分なりに練習はしていると思っていたけど、神山さんの話を聞いたら、自分なんて全然でした。森田とも話して、それ以降に練習開始の時間を早めて、オールスターまで続けたんです。でも、神山さんの若い頃に比べたら…ですね。

ーー成果は感じますか?

眞杉 疲労が残りますよね(笑)。でも、最初は辛かったけど、だんだんと耐性はついてきました。

グランプリは楽しみしかない

ーーその神山雄一郎さんが勝てていないグランプリに今年は挑戦します。自分が出場することに特別な思いは感じていますか?

眞杉 これまでグランプリはテレビで見るモノでした。毎年そうだったのに、そこに自分が出られるなんて楽しみしかないですよ。

ーーグランプリのライバルになる古性優作選手が、オールスターのレース後に「ラインのためにやってきた眞杉君の優勝は素直に讃えたい」とコメントしていました。それを聞いてどう感じましたか?

眞杉 すごくうれしかったです。でも、俺はやってきたなんて自分では思っていないですし、1回で終わらせたくない。まだこれがゴールじゃありません。

ーー今後の目標は?

眞杉 今回は関東ラインのおかげでGIを勝たせてもらった。神山さんも「今回の優勝はオマケと思え」と言っていたけど、本当にそうだと思う。まずはラインに恩返しをすること。そして、次は自力でタイトルを取れるようにこれからもっと頑張っていきます。

レース中のフォームを再現した1枚。姿勢の低さに驚かされる(photo by Kenji Onose)


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