2021/04/23 (金) 18:00 13
競輪ビギナーの第一関門、「ライン」。ラインとは、同地区や師弟関係などの選手同士が協力関係となり、レースをより優位に戦うためのチームのことです。競輪の面白さのひとつであるとわかっていても、競技の特徴や選手同士の関係性がわからない初心者にとって理解するのは難しい…。そこで今回は、KEIRINグランプリ05覇者、現在は競輪解説者・コメンテーターとして活躍する加藤慎平さんに、ラインについての疑問を答えていただきました!
Q.どうしてラインを組むのでしょうか?
9車立ての場合、単騎戦なら1対8という状況になるので、当然勝ち目は薄くなります。勝利の可能性を高めるために、味方を作りたいからラインを組んでいます。1対8よりは、3対6の方が有利ですからね。
Q.1人で走った方が自由に動けるので有利なのでは?
たしかに、単騎だとそういう利点はありますね。でもラインがいなければ、前後にいる選手は全員敵。たとえ自由に動けても、うまく位置取りができるとは限りません。
もしラインがあれば、先頭でレースを組立てる時に、後ろに味方がついていてアシスト(ブロックや位置取り)をしてもらえます。複数人いることで、本来ひとりで行うべきことを役割分担できるんです。
馬力があり、スピードを生かせる選手は一番前に。ブロックが上手く、バランサーとしての能力がある選手は番手に。3番手は他のラインに入られないよう“しめる”など、自分の得意分野を生かしてラインを組み、最終4コーナーを過ぎたら1着を目指して争います。
Q.ラインを組む際、好きな選手や気の合う選手と組んだらいけないのでしょうか? なぜ、同じ競輪場の仲間>同県>同地区>隣接地域といった組み方のルールが存在するのですか?
ホームが同じ選手同士は普段一緒に練習をしているので、当然結びつきが強くなります。例えば地元の競輪場が開催中で練習ができないときは、隣県で練習したりします。そうすると、自然と隣県の選手同士の絆や仲間意識が生まれます。
僕が現役の頃は「地域性」が強い時代というのもありましたが、こういった理由があると思います。
中野浩一さんが走られていたころは、“強い選手同士”が並んだりしていたそうですよ。
Q.ラインを組む際、どのようなコミュニケーションが発生するのでしょうか。揉めたりしないのでしょうか?
ライン候補となった数人で、誰がどの役割を担当するか話したりします。
必ずラインを組まなければならない、という決まりがあったら揉めてしまうかもしれません。でも、ラインを組むかどうかは選手の自由。もしうまく連携できそうにないときは、単騎や別線という道もあるので、揉めずに済むのだと思います。
Q.ラインの中での役割は何を基準に決めるのでしょうか? 年齢?競走成績?調子?得意戦法?
以前は若い人が前、というような風潮がありましたが、今はラインとしての総合力が最も高くなる方法を選んでいると思います。年齢ではなく、選手それぞれの得意分野を生かせるように、ということですね。
Q.ラインの中でも先行選手(自力)は、風除けを担わされ一見不利に見えますが、メリットはあるのでしょうか?
自力は自分の意志で動くことができ、番手選手の力を大いに受けられるポジションです。もちろん単騎も自分の意志で位置取りできますが、9番手になるリスクがあります。最後方から8人抜くのは物理的に不利ですよね。でも、ライン3名の先頭であれば、最低でも7番手につくことができます。競輪は位置取りが命。最後方になるリスクを回避できるというのは、かなり大きなメリットです。
そして何より、先行すると間違いなくゴールから1番近い位置にいけます。風圧との戦いは想像を絶する苦しさがありますが、『先行は競輪の華』。ファンの方から注目され、スポットライトも浴びます。
Q.ラインを組んでうまく走れなかった場合、選手間で関係が悪くなったりしませんか?
ラインの役割を果たせないことが続くと、その選手の信頼は落ちてしまうでしょう。もし結果が悪かったとしても、レースを見ればその選手の働きはわかります。競輪ファンの方々は車券に直結する着順(1〜3着)にフォーカスするかもしれません。しかし選手同士の信頼関係においては、レースの結果よりも、自分の役割をこなせているかが大切になるかもしれませんね。
Q.出走表に記載されているラインと並びを見て予想する際、ライン(固まり)とライン内の並びを見て、どう予想に活かせばよいですか?
まず、それぞれのライン先行選手の競走得点を見比べて、直近の成績や調子などチェックするといいかもしれません。
競走得点は、直近4か月の選手の強さを表した数字で、漫画でいう「戦闘力」のようなものです。ライン3名のうち一番競走得点が高い選手が先行の時は、先行選手→番手選手の買い目を視野に入れてみてください。3番手の選手の競走得点が低かったとしても、ラインの力で引き連れていくということもありますよ。
競走得点の高い選手が番手のときは、番手選手からの買い目が人気になります。番手に強い選手が控えているときは注意して見てみてくださいね。
Q.レースの結果は、ラインが占めるものですか?
どのぐらいとは言い切れませんが、ラインが占める確率は高いと思います。ラインの先頭選手が1着・2着の場合は、番手選手が2着・3着に入ることがよくあります。
Q.競輪学校(養成所)ではラインについて学びますか?
もちろん、ラインの概念は学びますが、実戦の練習はしません。
ラインは、自分の得意分野を生かして協力しあうものです。競輪を学びはじめて間もなく戦法を絞ったら得意分野も見えてきませんし、番手についてばかりだと脚力がつきません。まずは単騎で脚力をつけ、様々な戦法を理解する場が競輪学校なんだと思います。実力が伴わないうちにライン競走でブロックなどしていたら、落車の嵐になりますよ!!
プロデビューしてからそれぞれの才能が開花していくと思います。それも競輪の面白さですね。
(ライン特集第3回「記者たちが見たラインの絆」は4/27公開予定です)
●加藤慎平(かとう・しんぺい)
岐阜県出身。競輪学校81期生。1998年8月に名古屋競輪場でデビュー。2000年競輪祭新人王(現ヤンググランプリ)を獲得した後、2005年に全日本選抜競輪(GI)を優勝。そして同年のKEIRINグランプリ05を制覇し競輪界の頂点に立つ。そしてその年の最高殊勲選手賞(MVP)、年間賞金王、さらには月間獲得賞金最高記録(1億3000万円)を樹立。この記録は未だ抜かれておらず塗り替える事が困難な記録として燦々と輝いている。2018年、現役20年の節目で競輪選手を引退し、現在は様々な媒体で解説者・コメンテーター・コラムニストとして活躍中。自他ともに認める筋トレマニアであり、所有するトレーニング施設では競輪選手をはじめとするアスリートのパーソナルトレーニングを務める。
netkeirin取材スタッフ
Interview staff
競輪の楽しさや面白さを知っていただくため、netkeirin取材スタッフが気になるテーマをピックアップ。選手は1着を目指しながらレース終盤までラインと呼ばれるチームを作って戦う競輪。そこで生まれる人間模様を追いながら、ラインの本質に迫ります。