展開不問、駆け引き無用のスタイルで相手選手の心をへし折る

　これまで2年弱、各選手の肉体にフォーカスを当てて連載してきた「筋肉診断」を「加藤慎平のオニ推し！この選手がたまらん」と銘打ってリニューアルしました。正直これまでも、筋肉だけをトピックに絞ると、どうしてもネタ切れ感が否めなかった(笑)。それならいっそ、選手の戦法や強み、調子などを総合的に分析しながら、予想に活かせるコラムにしようと刷新したわけだ。

　コラムで紹介するのはビッグレースやグレードレースで僕が注目する選手。記念すべき初回は、競輪界トップの脇本雄太選手だ。2022年は「KEIRINグランプリ」を筆頭に数々のビッグタイトルを奪取し、年間の獲得賞金額は3億円を突破。ダントツの歴代最高額を叩き出した。

　なぜ脇本選手はそんなに強いのか？ それはなんといっても“爆発的な脚力”。デビュー時から光るものはあったけど、20代前半は競輪に対して本気じゃなかった。それが変わったのは間違い無くナショナルチームに入ってから。意識もそうだけど何より身体が変わった。ウェイトに取り組むことで元々バランスの良かった身体に筋肉がつき、ハイスピードで長い距離を走れるようになった。

　対戦選手からすると、レース序盤から先頭に出られるとそのまま逃げ切られるし、それをさせまいと先行勝負にこだわれば結局得意の捲りを決められて最後の直線ではぶっちぎられる。レーススタイルは、まさに展開不問。自らのベストレースをしてもその上を行かれてしまう。恐ろしい破壊力だろう(笑)。筆者は選手として解説者としてこれまで四半世紀ほどいろんなレーサーを見てきたが、スバ抜けてNo.1の選手。

　パーフェクトに近い脇本選手だが、近年は怪我に苦しんでいる。凄まじい脚力ゆえに、競輪選手の生命線とも言える腰と股関節にかなりの負担がかかっているのだろう。事実、前走の「よさこい賞争覇戦(GIII)」は準決勝7着敗退と、得意の捲りが不発に終わった。

　22日から始まる「大楠賞争奪戦(GIII)」も調子が気になるところ。この後は春の大一番「日本選手権競輪(GI)」が控えていることから、おそらく7割〜7割5分のデキで出てくると思うが、出場予定選手を見ると脇本選手が優勝する可能性は高いと見ている。

　まず、脇本選手を差せる古性優作選手がいないこと、強力な先行選手が新山響平選手あたりしか見当たらないこと。当初は新山選手と同地区の中野慎詞選手も斡旋されていて、中野ー新山の並びになると、捲りが決まりにくい二段掛けの展開になることも考えられたけど、中野選手の欠場でそれも無くなった。平原康多選手の前で吉田拓矢選手で走る時は気になるが、吉田選手も徹底先行というタイプじゃない。

　基本は1着か(滅多にないが)着外のタイプなので、彼を買い目に入れると決めたら1着だけにしておきたい。

　脇本選手にとって今開催は、「日本選手権競輪(GI)」を見据える前哨戦。一番得意とする捲りで正攻法のレースをしてくるはずだ。完全復調とはいかなくても、ここは王者の貫禄を見せて欲しい。