2023/01/14 (土) 12:00 17
男子の競輪の7車立てが通常になってから、しばらく経つ。コロナとともに浸透したものだが、『当てやすい』という面からもその浸透は後押しされた。特にミッドナイト競輪では有利な内枠から1番車〜7番車に配置されるので、推理もしやすい。
新たな楽しみ方を生んだ形に見えるが、やはり弊害もある。
デビューしてすぐの選手たちの育ちづらさがある。上位に行けば、現在ではS級でGIII以上で9車立てになる。ここでの活躍を目指して、新人選手たちは日々を過ごしていく。
取材をしていても、S級に上がり「9車立てに慣れる」「9車立ては久しぶり」といった形で戸惑っているコメントを聞くことがある。苦労を抱えているように感じるものだ。
これは外から取材目線でによるわけで、実際の選手たちは高い意識を持っているケースもある。近谷涼(30歳・富山=121期)が11〜13日の京王閣ミッドナイトを走っていた。ミッドナイトは取材時間が少ないので、多くは聞けなかったが、その意識は明らかだった。
「1、2班戦やS級に上がって、そこで戦えるように。連勝もあるけど、一番悔いが残るのは力を出し切れずに終わった時。それだけはダメだと思っています」
先を見て今の走りを考えつつ、また「121期は中部と近畿の選手が結構多いんです。みんなで上に上がって、いい連係もできるかもしれない。富山記念で村田祐樹(24歳・富山=121期)と一緒に盛り上がられたら最高ですね。今まで小嶋敬二さんや北野武史さんといった先輩方が引っ張ってくれていたので」と語調を強くしていた。
中距離のナショナルチームで活躍した長身の逸材。7車立てと9車立ての共存は今後どうなのかな…と思うところだが、頼もしい選手の話を聞くと安心するものがある。
(ただし、私は9車立てが好きで、すべてのレースが9車立てであってほしいと思っている立場です)
若い息吹との戦いがベテラン選手にはある。彼らは総じて9車立ての競輪が染みついている。7車立てに戸惑うこともあり、メンバー構成上、車番により「レースが始まる前から何もできずに終わるとわかってしまう」レースもある。
先頭誘導員を下ろしてタイミングを計る“ブーメラン”と呼ばれる戦術や、強いラインに立ち向かう基本形のジカ競り、もうイン切りはほとんど見ないものの、様々な方法を駆使してしのごうとしている。
初手も大事で、地区的に位置のないケースでは「単騎」「先手ライン」といったコメントでは終始最後方に置かれてどうしようもないことがある。それで「4番手」「5番手」でもあらかじめ決めて出しておくことも定着してきた。
“苦悩”としかいいようがない。
どうにも大きな着は取れないぞ…というシチュエーションもあり、不本意かもしれないが「4番手」でもコメントしないといけない。ちょっと、勝負権はない…。不利な構成でも、9車立てなら、で隙を伺ってきたベテランの味は消えてしまう…。
私が今言えることは、こうした人間模様や悲哀が全国いろんなところにあって、ちょっとしたコメントや走りで感じることができる。
それを見て競輪をより深く体に、心に落とし込んで、楽しみ、また選手を応援して車券を買ってほしいということだ。
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前田睦生
Maeda Mutuo
鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。