2021/03/24 (水) 12:00 5
競輪漫画の金字塔は「ギャンブルレーサー」(田中誠)。ほかにも「打鐘」(山本康人)、「Odds オッズ」(石渡治)などあり、最近では「閃光ライド」(スズキイッセイ)が人気だ。小説でいえば「永遠の1/2」(佐藤正午)、「新人王」(清水一行)がある。映画はあまりなく、知られているのは北野武の「菊次郎の夏」に競輪のシーンが出てくる場面だろう。
中部地区の脇役として随所に存在感を示してきた林巨人(37歳・愛知=91期)が、引退を表明した名古屋のシリーズで完全優勝と、まさかのストーリーを完結させた。
一本の映画化というよりは、オムニバスの作品制作を待とう。病気発見のシーンは、村西とおるが撮ってくれるだろう。
1963年公開の映画で「競輪上人行状記」(監督・西村昭五郎)というのがある。ここで説明するよりも、DVDになっているのでぜひ見てほしい。競輪上人(けいりんしょうにん)を小沢昭一が演ずる、名作だ。
今、競輪仙人と呼ぶべき男が、今シリーズの主役、浅井康太(35歳・三重=90期)だ。
歩くだけ、でも競輪のトレーニングとなる。ドアノブを握る、ことも競輪につながる。まさに仙人…。
24時間365日、何かの競輪のことを考えている。こういう表現は、ほぼ例えだ。だが、例えではなく、本当に実践しているのが浅井。
人間が体を動かすこと、考えること、寝ることもすべては競輪につながっている。左重心、という基礎理論をもとにして、さまざまな角度から競輪を、人間をとらえている。
「これで進むんですよ、自転車」
ウソだろ。ウソだと思っても、現実に目の前でそれが起こっている。
独自の姿勢で競輪を追求する浅井に助言を求める選手は多い。だが、浅井が軽く10年以上積み上げてきたものはすぐには身につかない…。
かつて「話が通じるのは山内卓也さんくらいかな」と話していた。本当に突き詰めた人物ではないと、意思疎通できない世界にいる。
もはや仙人としか思えない。競輪や身体を知り尽くし、そしてまだ探求する。聞けば教えてくれるがその領域には容易にたどり着けない。ここで書けることは“コーラ(ゼロカロリーとかではないノーマルコーラ)を飲もう! ”ということだ。
そんな仙人のホームバンクは四日市。松阪はやや離れているが、やはり地元選手としての期待がかかる。だが、好結果を残していることもあるが、失格や落車、不慮のアクシデントで急な欠場など、波乱も多い。いや…波乱の方が多い。
直前の大垣記念決勝で1着入線も失格となり、道のりは穏やかではない。しかし、それが浅井の道。劣勢といわれる中部勢。林が見せたドラマを受け継いで、何を見せるのか。問われている。その答えを、仙人が25〜28日の4日間で見せてくれるだろう。
いよいよ…仙人の逆襲が始まる。
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前田睦生
Maeda Mutuo
鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。