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前田睦生の感情移入

【競輪ラインの深奥】「どう並ぶ?」が推理の原点、この並びはご法度? 禁じ手?「お客が許さねえよ」

アプリ限定 2022/10/17 (月) 12:00 29

「どう並ぶ?」が推理の原点だった

並びを推理することが原点だった

 現代の競輪取材の基礎として、明日のレースに向けてのコメント取りがある。かつての競輪はコメントなどなく、並びはどうなる…、というよりもトップ引きというものも含めて、全体のレース展開をイチから推理するものだった。

 例えばGIの決勝で、誰が先頭でまとまって、誰にチャンスがある並びになるかが大注目だった(という。さすがにその時代は見ていない)。何度も先頭で引っ張り役を務めてきた選手が、今度こそ地元戦だし、番手だろう。いや、やっぱり今回も先頭だろう…。周回の段階で、ほぼハズレ、ということも起こり得た。

 ラインを組むに当たって自力の選手がいないぞ…となれば、競りに行く。誰が競る? 競りの後ろに誰がいる? 突然、誰かがインを切って、思いもかけない追い込み選手がカマして出ていく…。

 そのうちに“これではどうにも推理できない”となり、並びに関してコメントするのが前提となった。所属地区を中心に『先頭ー番手ー3番手』などを表明するわけだ。まあ、それが分かっても当てるのは難しい。

 これが良いか悪いかは、さておく。

序列は格? 競走得点?

選手の複雑な思惑が競輪の醍醐味

 記者として取材するようになって印象的だった出来事がある。初日はAという選手が番手で、Bという選手が3番手を固めて走った。Aは番手主戦のドがつくマーク屋。Bはタテ傾向の追い込み屋。競走得点など関係なく、Aが番手を回った。Bの方が競走得点が上でも納得だった。

 2人は初日に結果を残せず、翌日も同じレースになった。Aはケガ明けで状態が明らかに良くない、という。他の自力型がいて、AはBに「今度は前を回ってくれ」と話す。Bは固辞する。今の状態とかでなく、やってきたこともある。Aの格を尊重し、「前は回れない」と…。

 当時でもう60歳を過ぎていたベテランの先輩が横にいて、Aが「今度は3番手で」とコメントを出そうとした時、「それは、オレが許しても、お客が許さねえよ」と柔らかく、かつ厳しく言った。Aの状態面が厳しくとも、番手の仕事はこなす選手。その選手が番手を回らないというのは、ファンが見て“違う”と感じるというのだ。

 また、シリーズの途中で前後が入れ替わるということは、何かあったのかとファンに思わせることにもなりかねない。責任の所在も変わるので、初日に前を回った以上、その責任から逃れてはいけないということだった。

 それくらい、前を回る、ということの重みがあった。

伝説の競り

ファンの目は選手に突き刺さっている

 輪史において最もファンの胸をざわつかせたのは、1991年7月ふるさとダービー福井での井上茂徳氏(引退=41期)と中野浩一氏(引退=35期)の競りだろう。井上が中野に競りかけた形。先頭は吉岡稔真氏(引退=65期)。

 井上は中野の後ろでビッグレースを優勝している、そんな恩義がある格好だが、主張した。ご法度? 禁じ手? 勝負の世界なので成立はするのだが、「えっ」と思わせるもの。それほど、井上がかけた執念のすごみがあった。

 何はともあれ今も昔も、ライン形成のルールはない。選手とファンの心理的要因でつくられてきた。現在はほぼ、選手の意志、思惑によるし、前後がその都度入れ替わっても不自然は感じられない時代になっている。

 先日引退した村上義弘氏(引退=73期)は、「ファンが求めているレース」を常に意識して走っていた。ファンが“違う”と感じないような走りを、そしてファンが求めている“その上”の走りを見せてきた。


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前田睦生

Maeda Mutuo

鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。

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