閉じる
伝説ヤマコウ 炎のレース展望

【ヤマコウ特別コラム】存在感を失った原田研太朗、「平原さん」にこだわる宿口陽一に必要なもの

2022/08/23 (火) 12:00 74

 今回は拳矢が決勝に乗ったので「炎のレース展望」はお休みして、コラムを綴りたいと思います。

 年始に16連勝を記録した原田研太朗(徳島・98期)の存在感がありません。これは混戦一発狙いのレースが多かったので、一度歯車が狂うと立て直しが効かないからです。混戦一発は他者に依存してレースを組み立てるので受け身になる。最低でも中団を取るレースをしなかったツケが出ているのだと思います。レースを考える力ですね。

 例えば、弥彦記念準決勝の平原康多(埼玉・87期)。目標にしていた菊池岳仁(長野・117期)が打鐘前に落車しました。その後、気持ちを切り替え打鐘4角でかまして2着。ここに平原の強さを感じました。

 一流選手は想定外のことが起こっても瞬時に判断して実行できる。レースは自分の思ったようにはまず動きません。そこで「考えても無駄」と思考停止するのか、それでも考えて組み立てるのか。これを何年も続けると自然と差が出ます。そして、想定外の出来事にも最善の策で対処できるようになり安定感が増します。

 今の原田は脚力だけに依存してきたので、レースに対する造詣が足りません。そこを小倉(竜二)が突いたのです。悩む原田に「研太朗、明日からは全部先行するか、全部番手に行くか決めろ。そうじゃないと暗黒の10年を過ごすことになるで」と言うのです。「深く考えるのが嫌なら、白黒はっきり決める力勝負をしろ」ということです。私は「言い得て妙だな」と思いました。世の中は白と黒だけではなくグレーもあります。競輪は2、3着でも勝ち上がれるので、勝てなくても負けではない。そこを活かさないと上位で長く戦えないということです。

 富山記念初日、S級S班の宿口陽一(埼玉・91期)が、関東勢の前で散るレースがありました。「平原さんも納得するレースを」が本音でしょう。その走りが、富山記念初日特選で先行して散ることなら違うと思います。発進に反対する意見も少ないだろうし、自分も批判されずに済みます。車券を買うファンも分かりやすくていい。ただ、犠牲になった選手の今後まで興味はないと思います。そして、一番大切なのが、自分の肥やしになっているかどうか。

 私はOB解説なので、皆さんが車券を買うヒントになるような話と共に、選手が今後に繋がる走りとは何かも考えます。今後も先行一本で戦う気ならあの走りでいいと思います。しかし、宿口は昨年の静岡グランプリで「平原さんに優勝を!」と思って走りました。それは尊いことです。しかし、その後平原が求めているのは、発進ではなく共にゴール前勝負することだと思います。リスクを背負って、ギリギリの判断で力を出し惜しみすることなく、自分自身とも平原とも勝負する事です。今は番手も増え若手を育てる立場です。宿口に必要なのは、後ろも納得する走りを考え、自分も着に絡む走りをすることでしょう。そうするには考える力が必要で、混戦一発狙いと散るレースは、対極にありながら実は似通った構図なのです。考える力を伝承することが先輩の役割であり、それが自分に返ってくることだと思います。

 ヤマコウは自分がたくさん若手を発進させていい思いをしているのに、言ってることとやってることが違うではないかと思う方もいるでしょう。そんなレースをしたことも否定はしませんが、ほとんどのレースは番手の仕事を目一杯やったつもりです。2011年の平塚グランプリ優勝も、深谷知広と浅井康太には「獲れる展開なら狙っていい」とレースに挑みました。

 今のレースは「縦脚がないと勝負にならない」という隠れ蓑で、横の仕事を放棄したレースが目立ちます。それなら、小倉竜二や佐藤慎太郎が今も第一線で活躍していることが説明出来ません。造詣深いレースをすることが、ファンを獲得する一番の早道だと思います。

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

バックナンバーを見る

質問募集

このコラムでは、ユーザーからの質問を募集しております。
あなたからコラムニストへの「ぜひ聞きたい!」という質問をお待ちしております。

伝説ヤマコウ 炎のレース展望

山口幸二

Yamaguchi Kouji

岐阜県大垣市出身。日本競輪学校62期卒業の元競輪選手。1988年9月に大垣競輪場でデビュー、初勝利。1998年のオールスター競輪で完全優勝、同年のKEIRINグランプリ'98覇者となる。2008年には選手会岐阜支部の支部長に就任し、公務をこなしながらレースに励む。2011年、KEIRINグランプリ2011に出場。大会最年長の43歳で、13年ぶり2度目のグランプリ制覇を果たし、賞金王も獲得した。2012年12月に選手を引退、現在は競輪解説者としてレース解説、コラム執筆など幅広く活動する。父・山口啓は元競輪選手であり、弟の山口富生(68期)、息子の山口聖矢(115期)・山口拳矢(117期)は現役で活躍中。

閉じる

山口幸二コラム一覧

新着コラム

ニュース&コラムを探す

検索する
投票