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【オールスター競輪】守澤太志インタビュー後編「年末のグランプリ出走に向けてここから一戦一戦が勝負です」

アプリ限定 2022/08/06 (土) 18:00 25

インタビュー後編では守澤選手の競輪観やこだわりポイントを紹介。「追い込み選手として大切にしていること」「これまで付いた中で印象に残っている選手」「S級S班の重圧」「身だしなみ」「食生活」など、オン・オフを紹介します。インタビュー前編はこちら

(取材・文=八角あすか/アオケイ)

S班は人に見られる存在、恥ずかしくない立ち振る舞いを強く意識

個性的な髪色に競輪選手としては細身のシルエットが印象的(提供:公財 JKA)

ーー守澤選手と言えば、ハイトーンな髪色がすっかりトレードマークに。ある意味「競輪選手らしくない」雰囲気を感じますが、髪型や服装にこだわりはありますか?

 元々は黒髪でパーマをかけていた。茶髪くらいにしていた時期もあったけど、S班になったし、一回はこのくらい明るくしてみようかな、と思って。S班になって一気に明るくなりましたね(笑)。毎回、実は絶妙に色合いを変えてみたりしています。

 服装に関しては、ファッション雑誌を読んだり、あとは妻が勧めてくれたものを着てみたり。やっぱり身だしなみには気を遣いますね。S班になって街中で声をかけていただいたりする機会も増えて、あまりだらしのない格好はしないように気をつけています。今まではだいぶ油断していましたけど(笑)。

ーー輪界にはスイーツ男子が多いですが、守澤選手もSNSにはスイーツの写真も投稿されていますよね。

 スイーツは昔から好きですね。好成績を収めたときに競走の間隔が空いていたりすると、帰りの駅で買ったりします。よく買うのはケーキ類。太ってしまうし、頻繁には食べられないので、たまに食べると余計に美味しく感じるんですよね。

ーー食事面で気をつけていることや、好物はありますか?

 糖質は考えています。不足しているところをサプリメントで補う感じですね。好物は…シャインマスカットが好きですね。たった今、糖質を気にしているって言いましたけど(笑)。糖質は運動前や必要なときに応じて、しっかり摂取する感じです。

ーー栄養学なども勉強されたりしますか?

 ネットで調べたりはします。それこそ、めちゃくちゃ分厚い栄養学の本を買ったんですよ。でも、全く読んでいません(笑)。5センチくらい、あまりにも分厚すぎて…。一応、競走には毎回持っていくんですよ。最初は頑張って読んでみたけど、途中で挫折してしまって。完全に不要な荷物になっていますね、結構重たいし。本当は読んで勉強しないといけないんですけどね。アスリートぶって、ちょっと調子に乗りました(笑)。

ーー以前、SNSでS班になってから変わったこととして「コーヒーが粉から豆へ変わった」と報告していましたが、心境などの変化はあったのでしょうか?

 人に見られるという意識は常に持っています。S班の赤いレーサーパンツを履いているだけで、競輪場に行けば誰かしらに見られている。コーヒーもそうですけど(笑)。S班の人があまりにもボロボロなものを身につけていたらガッカリするじゃないですか。僕自身も以前はそういう目で見ていましたし。

ーーS班は注目度も高く、若手選手の目標となる立場ですしね。

 やっぱりS班は夢を与え、お手本になる存在。そういう点では「やっぱり凄いんだろうなぁ」と、思ってもらえるように、あまりガッカリさせないようにとは思っています。

ーーS班の証である赤いレーサーパンツを履いて2年目、履き心地はどうですか?

 昨年はS班になったばかりで、正直、どうすればいいかも分からない状態。とにかく頑張るといった感じでしたね。重圧は今年の方が感じます。自分がS級1班、2班に在籍していた頃に見ていたS級S班の選手は、凄く遠い存在。ただ、ただ憧れの存在でしかなかった。だからこそ周囲から、そんな風にも見られているというのは分かっているので、恥ずかしくないレース、立ち振る舞いをしようと思っています。

S班の重圧とも戦いながらコツコツと賞金を積み上げてきた(撮影:島尻譲)

ーー当時、S班で影響を受けた選手は?

 佐藤友和さん。同じ北日本地区で、いちばん身近でしたし、記念に行くと友和さんがいて。精神力が凄いんです。いつも強気な姿勢で、弱気な一面は見たことがない。「凄い選手だなぁ」と、お会いするたびに思っていましたね。

ーー安定したパフォーマンスを維持できる原動力は何でしょうか?

 うーん…。S班としての"責任感"ですかね。常に車券に貢献する意識を高く持っています。厳しい展開になりそうな番組でも、S班というだけで売れる。レース前にオッズを見て「恥ずかしい走りはできない、最低限の見せ場を作ろう」と、いい意味でプレッシャーを感じながら責任感を持って挑めているとは思います。

付いて凄いと思ったのは北日本では新田君、他地区では眞杉君

新田祐大選手(左)と眞杉匠選手。競輪界でも指折りの先行選手(撮影:島尻譲)

ーー今年7月で選手生活もデビュー14年目を迎えましたが、ターニングポイントとなったレースはありますか?

 初めてGIIIを優勝した久留米記念(16年) です。新田(祐大)君が外から捲っていって不発になったところを、ただ僕は千切れていただけですけど(苦笑)。内のコースが全部空いて、たまたま突き抜けて、本当にまぐれで優勝した感じでした。でも、新田君に「優勝した後が大事」ってことを凄く言われて。その言葉を聞いてから立ち振る舞いとかを少しずつ意識するようになりました。他の選手からも見られるし、自分の中で少し考え方を変えるというか「しっかりしなきゃな」という自覚も芽生えましたね。

ーーこれまで付いた中で印象に残っている選手はいらっしゃいますか?

 北日本では新田君ですね。それこそ久留米記念の準決勝が初連係でした。とにかくダッシュが強烈で、別次元のレベル。待って!と思う余裕もないぐらいの速さで行っちゃう(笑)。北日本の選手間でも「新田君と連係するレースの前夜は寝れないよね」って話をよくしています。番手を回る選手は不安と緊張で皆、寝不足ですよ(笑)。あの(佐藤)慎太郎さんでさえも…。

ーーそんな新田選手はナショナルチームを引退されて、今後は連係する機会が増えそうですね(笑)。

 また皆、ドキドキハラハラするのか(笑)。今は怪我の影響で万全でないみたいですが、どこか少し悪いくらいが丁度いいのかもしれません。そうでないと本当に付いていけません(苦笑)。本当に必死です。

ーー他地区の選手はどうでしょう?

 栃木の眞杉(匠)君ですかね。昨年のオールスター(いわき平)で連係したんですけど…、引きずり回されましたね(笑)。感覚としては、同地区の新山(響平)君と似ている感じ。眞杉君は気持ちも強くて、作戦の段階から「全部突っ張ります!」と言うので、「ちょっと落ち着こうか」って(笑)。一緒に走っていても、普段の競走を見ていても、タイトルを獲れる実力がある選手だと思います。

ーー同期(96期)には深谷知広選手がいらっしゃいますが、やっぱり刺激に?

 深谷君はスーパースター。活躍が刺激になるようなレベルでなかった(笑)。競輪学校の時から“怪物”でした。こういう選手が強くなるんだろうな、と思っていましたね。デビューしてからも怪物級の強さで、スター街道まっしぐら。僕なんかが目指せるようなレベルではなく、本当にただテレビで見ながら「わぁ深谷だ、頑張れ。やっぱり凄いな〜」みたいな存在(笑)。

深谷知広は日本競輪学校(現・日本競輪選手養成所)の同期。尊敬すべき存在だという(撮影:島尻譲)

ーー深谷選手の凄さを感じるのはどういった点でしょうか?

 自転車が大好きで、自転車に取り組む姿勢からして違うというか。昨年の小田原記念の前に、実は、小田原競輪場で深谷君と一緒に練習させてもらいました。ちょうど1年前くらい前。集中力も凄いですし、練習もパッと準備してパッと帰る。集中して質の高い練習ができる選手なんだと思います。

 同じ静岡にいても練習場所が違うので、普段一緒に練習することはないですね。でも、会えば練習のことや色々な話を聞いています。ナショナルチームでの経験や知識を若手選手たちに教えてあげていて、一緒に練習している若手にとっては凄く良い練習環境ですよね。

グランプリ出場を諦めたくない、だから一戦一戦が勝負です

ーーマーク選手として、レース前に考えることはありますか?

 別線の自力選手、番手の選手の動きを考えて、ある程度の展開はイメージしています。「このレースの追い込み選手は4コーナーで内へ行く選手ばかりだし、多分、内は大渋滞になる。だから外に踏んだ方がいいかな」なんて予測をしたり。車券を買うお客さんからしても、内へ行く選手が揃うと買いづらいですよね(笑)。コースの選択、判断力が求められるので、他の選手がどういう動きをするかはある程度、頭にデータが入っていますね。普段からレース映像を見て研究しています。

普段は笑顔が絶えない守澤選手だが、レースでは鬼神のような追い込みを見せる(白・1番)(撮影:島尻譲)

ーー理想とする選手はいらっしゃいますか?

 慎太郎さんや成田(和也)さんは凄いですよね、本当に。しっかりと一発で別線を止める技術に加えて、あの追い込み力。難しいはずなのに、あの2人がやると簡単そうに見える…。もしかして難しくないのかな?(笑)。自分はヨコに自信がないので、慎太郎さんの後ろを固めるときは、後ろから勉強させていただいています。

ーー他地区の選手に付く場合、単騎で戦う場合に考えることはありますか?

 同地区、他地区かかわらず、まずは自力選手の意見を聞いて、走りたいように走ってもらえれば、といった感じです。単騎のときは…ノープランです(笑)。レースの流れを見て、展開に応じて判断しています。

ーー競輪に"考える力"は必要不可欠ですね。

 そうですね。普通の選手は考えることができなければ、毎回同じことをして負けるだけだと思うので。脇本(雄太)君みたいに圧倒的な脚力があって、もう前に出れば勝てる!みたいな選手であれば、そんなに色々と考える必要はないですけど。僕みたいな選手はとにかく考えて走らないと。

ーー肝に銘じていることはありますか?

 昔、高校(大曲農業高・秋田)の大先輩・有坂直樹さんと連係した際に「超一流になる選手は同じ失敗を2回しない」と言われたことがあって。「1回は経験不足だから仕方ない。で、同じ失敗を2回するようなヤツは超一流にはなれないぞ」と。その言葉を常に心に刻んでいますね。

ーー“考える力”に長けていると感じる選手はいらっしゃいますか?

 松浦(悠士)君。自転車の乗り方も凄く考えているし、レースを見ていても凄く考えた走りをしているな、といつも思います。僕がA級に降級したとき、一緒にレインボーカップ(※)を走ったのが懐かしい(笑)。

※レインボーカップA級ファイナル:1着〜3着の選手がS級へ特別昇級となる単発レース。12年12月・広島競輪場:守澤2着、松浦9着(落再入)。優勝は市川健太。

ーー驚きです。未来のS班が2名も出走していたなんて!

 2人とも大したことなかったんですよ(笑)。でも、松浦君はそこから凄く考えて、強くなってきたんだと思います。僕は自分がS班になれるなんて1ミリも思っていなかった(笑)。競輪学校時代に掲げた目標が”S級に上がる”ことだったので。こんなに活躍できるような選手になれるとは、これっぽっちも思っていなかった。S班になるまでS班になれるとは思っていなかったですね。

ーー今後、目指していきたい理想の選手像はありますか?

 追い込み選手として、先行選手に"信頼して番手を任せてもらえる選手"になりたいです。同じ追い込み選手にも"この人だったら番手を回ってもらいたい"と思ってもらえるように。お客さまには「守澤が番手だから、このラインは強い」という目線で見ていただけるような信頼の厚い選手を目指していきたいと思っています。

ーー後半戦に突入しましたが、今年ここまでを振り返ってどうでしょうか?

 手術の影響もあって、前半戦は凄く調子が悪かった。記念の2次予選で敗退することも何度かあって厳しい戦いが続いて、気持ち的に沈んだ時期もありましたね…。怪我をしてから調子が落ちていたんですけど、やっぱりS班なので成績を残したかったな、と。でも、その悔しさがあるから気持ちを入れて練習ができた。負けた後も腐らずにコツコツやれたという点は良かったかな、と思います。

ーー1月は負傷欠場、6月はあっせん停止と、実質5カ月間の競走成績。そんな中でも賞金ランキングは8位(8月1日時点)です。

 前半戦がボロボロだった中で8位、本当にラッキーくらいの感じです。正直、今年はちょっとこれは厳しいな、と思っていたところもあって。それでも8位、まだグランプリを狙える位置にいるのは嬉しく思います。タイトルを獲れたら確実ですが、自分は冷静にコツコツと賞金を積み重ねていくだけなので。S班の選手は皆、とりこぼしがないですし、ここから競輪祭までの一戦一戦、全てが勝負だと思って走りたい。残っているレースで賞金が一番高いのがオールスター。しっかり成績を残して今年もグランプリに出場したいので、今後、走るレースは全て1着を取るくらいの気持ちで頑張りたいと思います。

前場所の佐世保記念は決勝に進出し2着。レース後も「状態は上がってきている」とのことで、オールスター競輪でも良いレースを見せてくれそうだ

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