2022/06/09 (木) 18:00 11
6月16〜19日に「高松宮記念杯競輪(GI)」(通称・宮記念杯)が開催されます。そこで今回、今年の宮記念杯の舞台である岸和田競輪場の実況・大津尚之アナウンサーに、競輪にまつわるエピソードや思い出の宮記念杯、東西の注目選手を伺いました!(取材・構成=netkeirin編集部)
ーー競輪実況を始めたきっかけを教えてください。
高校時代にスポーツ実況に憧れて、放送部が強い大学に進学しました。OBには「M-1グランプリ」でおなじみのナレーター・畑中ふうさんがいました。
ぼんやりと「アナウンサーになりたいな」と思っていたのですが、テレビ局には就職できず… そのときに畑中さんが声をかけてくださり、卒業後はナレーションの修業をしていました。
あるとき縁あって「実況に興味はないか?」と橋本悠督さんを紹介していただきました。それが競輪の仕事に携わることになったきっかけです。憧れていた実況の仕事が舞い込んできて、すごく嬉しかったです!
ーー以前から競輪がお好きだったのですか?
橋本さんと知り合うまで競輪のことはまったく知りませんでした。
競輪を覚えるのは本当に難しくて、解説者の方々とのやりとりの中でかなり勉強させてもらいました。
車券も最初はよくわからずに買っては負けて。それがだんだん負けても展開が見えるようになってきて、深みにハマっていきました(笑)。
初めての競輪の仕事は、2009年に岸和田競輪場で行われたダービー決勝戦の選手の呼び込みでした。
バンク内で呼び込みをし、レースもバンクの中から観たのですが、お客さんの熱気が異様に高く「競輪ってこんなに興奮するんだ!」と感じたことを覚えています。
当時は特に緊張することなく喋れましたが、今考えればダービー決勝の呼び込みが一発目の仕事ってとても貴重なことですよね…!
ーー実況をするにあたってどんな準備をしますか?
競輪場に着いたら、まず実況できる喉の状態を作ります。
ただ仕込んだ情報は大切なのですが、スタートしてからはその情報を伝えることだけに集中しないように気を付けています。
「これは言いたい!」という欲が勝ってしまうと、意外な初手位置になってお客さんが感じた違和感や、選手の動き出しを見逃してしまうかもしれないので。
ーー実況と予想番組で準備は違いますか?
予想番組のMCのときは自力で予想しているので、必要な情報を仕込みますね。
出場する選手の調子を把握するために、2〜3開催分くらい成績を見ます。人の後ろを走る選手だったら近況で1着を取っていても、どういう状況からなのかを重視します。
準決が壁になっている選手だったら、負けパターンを見るために4〜5場所さかのぼって分析することもありますよ。
ーー実況していてハプニングに見舞われたことはありますか?
一番失敗したのは2012年の岸和田競輪GIIIの決勝戦での実況です。僕にとって初めての大きなレースの決勝戦でした。
「実況としての名言を残したい」と意気込んで、誰が優勝してもカッコいいことを言えるようにノートに仕込んでいたんです。
最後の直線コースでそのノートに目がいってしまい、優勝選手を間違えてしまいました…。
それ以来、言葉を用意するのではなく、あくまでその時に自分の中で生まれた言葉を声に乗せる、ということを心掛けています。
ーー特に心に残っているレースはありますか?
2年前の宮記念杯です。岸和田ではなかったので実況の仕事はなく、関係者として和歌山競輪場で見ていました。
無観客での開催で、歓声がないので選手の声がよく聞こえたんですよ。
決勝は脇本雄太選手がすごく強くて、逃げ切り優勝。2着は和田健太郎選手で、松浦悠士選手もギリギリまで迫ったんですが3着で届きませんでした。
レース直後に「あークソッ!」っていう声が聞こえて。誰の声かわからなかったけど、後日広島競輪で松浦選手と話したら「僕です」と言っていました(笑)。
悔しがる松浦選手のエピソードも含めて、脇本選手、強い!! というのが印象的だったレースですね。
岸和田での宮記念杯は…、決勝戦は毎回信じられないくらい緊張して、自分が何を喋ったのか、どういう描写だったのかまったく覚えてないんです…。
僕は号砲が鳴るまでの時間が実況アナウンサーに与えられた唯一のフリータイムだと思っていて、2021年の宮記念杯はピストルが鳴るまで完璧な時間調整で話せました。が、それはそれで『これはこの後も絶対に失敗できないぞ』と逆に緊張してしまいました(苦笑)。
ーー大津アナが思う『競輪の魅力』は何でしょう?
メンバーが出た時点からレースの直前まで展開予想しながら楽しめるところですね。
例えば松浦悠士選手と清水裕友選手が走るとなったときに、「今回は松浦が前やで」「いや、清水が前じゃろう」と前後を予想したり、「ここまでは逃げとるんじゃけぇ、脇本は決勝は捲りじゃろう」「脇本の性格を知らんのんか、ありゃそんなこと関係なく逃げるよ!」と展開を予想してみたり。
岸和田競輪場のスタッフも競輪が大好きな人ばかりで、テレビ室に着いた途端、挨拶もそこそこに「決勝戦さ、3番手からの突き抜けないかな?」とか言われるんです(笑)。
そういえば昨年、広島競輪場で実況を担当した時に海岸通駅で電車を待っていると、隣に並んでいたおじいさん達が「こいつとこいつ(2人とも50代のベテラン選手)が明日同じレースに走るなんて、なんか嬉しいのぅ」「ほうじゃのぅ、わしらはデビューした当時から知っとるけぇのぅ!」と笑いながら話をしているのを見て、改めて競輪って良いなぁって思いました。
ーー今年の「高松宮記念杯競輪」、東西で期待する選手を教えてください!
西は僕と同い年の大阪の稲川翔選手です。
よく“地元3割増し”と言われますが、稲川選手の場合3割どころか5割以上増しなんじゃないか!? と思わせる走りを毎年見せてくれています。
2016年岸和田競輪GIIIで大阪の古性優作選手が優勝した時に表彰式を見ていると、隣に準優勝だった稲川選手が来られました。
「…まぁ、仕方ないですね」とその時放った一言が未だに僕の頭から離れません。地元バンクでの『SHOWタイム』に期待しています!
東は福島の新田祐大選手です。
地元ダービーは前検日の指定練習中に落車をしてしまい欠場… 我々が察することの出来ない心情であると思います。その悔しさを岸和田で、とはあまりにも安易すぎますが、高松宮記念杯競輪でその思いを晴らしてもらいたいです。
岸和田競輪場では2017年の決勝戦でバック8番手に置かれるも、これぞ新田祐大という快速捲りで飲み込み優勝。
あと2013年の全プロ競輪SPR賞でみせた新田祐大選手と武田豊樹選手の壮絶な力比べは実況してても熱を帯びたのを覚えています!
ーー「高松宮記念杯競輪」が開催される岸和田競輪場の予想ポイントはありますか?
岸和田はオーソドックスな400バンクなので、逃げはそんなにないですが逃げの後ろの選手の差しがよく決まります。捲りであれば、最終2コーナーの出口で4番手から踏むとラインで決まりやすいと思います。
GIメンバーの戦いですので、相当な先行力がなければ逃げ切りは難しいと思います。
それから、ぜひ解説者の話をじっくり聞いてください!
岸和田競輪場では42期で元大阪支部の井上薫さんと、その井上さんと同期同部屋で親友の元和歌山支部の岡本新吾さんが解説をしてくれています。このお二人の解説が非常に深いんです。
その日の予想が当たらなければ悔しくて、深夜遅くまで復習と予習をして次の日の放送に臨んでいます。どちらかの家に泊まった時には延々と競輪の話をしているそうです…。
高松宮記念杯競輪の当たり車券は、この2人の話の中に隠されていることは間違いありません。また、お二人でやる予想会では「これぞ関西!!」な競輪漫才もご覧いただけますよ!
ーー最後にnetkeirin読者の方に一言お願いします!
「高松宮記念杯競輪」の際は是非岸和田競輪場へお越しください!
命を懸けて走っている選手たちはもちろん、僕ら実況もお客様に助けられています。
お客様の熱量、声援、歓喜、落胆… その空気感があるからこそ僕らは声を乗せられる、ファンの代弁者になることが出来る。狙った言葉ではなく、生きた言葉を生むことが出来るんです。ぜひ本場で、力を貸してもらえると嬉しいです!
【大津尚之アナウンサー プロフィール】
1984年12月30日 広島県出身。
佐世保競輪場などで「白眼鏡」の愛称でMCを担当。解説の平尾昌也さんを日本一ぞんざいに扱う司会者と言われている。
netkeirin取材スタッフ
Interview staff
netkeirin取材スタッフがお届けするエンタメコーナー。競輪の面白さをお伝えするため、既成概念を打ち破るコンテンツをお届けします。