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【脱サラから伝説の予想屋へ】1レースで1000万円を儲けさせた男・木村安記の競輪予想とは【後編】

2022/05/06 (金) 12:00 14

大宮競輪場で約20年間、予想屋として場立ち台に立ち続ける木村安記。インタビュー後編では予想スタイルを中心に、予想の際に見るべきポイント、穴レースの見極めなど、競輪予想にまつわる話を伺った。▶前編はこちら

場外モニターでレースを見つめる。予想の買い目がすぐに商売につながるシビアな世界

ーー今までで思い出の車券、記憶に残っているレースはありますか

木村 予想屋を始める前だと2000年8月16日京王閣競輪で2車単3,050円に8万円をいれて244万円にしたのが最高払戻です。一番の思い出は場立ち台に立ってから、2006年1月29日の競輪祭決勝、小倉竜二が優勝して、2着が海老根恵太、3着に有坂直樹が入って3連単52,260円で決まったレースです。

 有坂と佐藤慎太郎が写真判定になって最後に有坂が勝つんですよ。推奨した買い目の一番上で決まったんですが、僕、慎太郎を予想に入れていなくてね、危なかった(笑)。僕の予想を買ってくれたお客さんに1000万円が1人、300万、400万儲けた方も数人いて、約20年予想屋をやってきて、一番のご祝儀額でした。もう本当に川口オートの「名門社」に負けないくらい、場立ち台がご祝儀で埋め尽くされました。

 今でもたまに寝る前とかそれを思い出すと寝れない時があるんですよ。その時の話題で今も仲間と酒が飲めるし。その後もここ一番の的中実績はありますが、やっぱり2006年の競輪祭が最大のヒットレースですね。既にネットの時代でしたけど、GI場外の大宮競輪場にも6,000人ぐらいお客さんが入っていて良い時代でした。

人間同士が走ることにギャンブル、スポーツとして競輪の魅力を感じているという

ーー木村さんの予想方法を伺います。そもそも競輪予想にあたってどんな情報が必要なのでしょうか?

木村 小さい頃から風を切って先頭を走る先行選手への憧れはありました。車券を大量に買い始めると先行選手中心。予想屋になってからは好調ではなくても逃げ屋が逃げると思えば、その番手を買い目に書く時はあります。ただ、基本は自力型がレースを作ると思っているので、自力型が見せ場を作った時は、逃げや捲りを期待して見てしまいますね。その後、冷静になってメンバー眺めて、展開を考えて予想します。

 当たり前ですが、出走選手の近走や全国競輪場の特徴は頭に入っています。記憶力だけは自信があるんですよね。お客さんと話をしていて、その場でパッと出てこないと恥ずかしいので調べて覚えることを大事にしています。

ーー出走選手の近走はどの程度まで遡って何をチェックされるんですか?

木村 2開催前までさかのぼってダイジェスト映像で見ます。目的はレース内容と調子の確認です。成績欄の1や2にとらわれず、大きな着でも内容を重視します。

 例えば、逃げ屋で凄い位置から逃げて5着に粘っていたり、捲り届かず4着でも凄い位置から捲ってきて、先行の番手に弾かれて止まったのであれば、あと1〜2車、前に入れば捲れたよねと言えることが出来る。そういう選手は評価を上げて一次予選から予想の目に書いてしまう、格下でも頭にすることもあります。

 追い込み屋であれば先行の番手なら勝ちやすいけど、先行が行けない時、自分だけ直線突っ込んできて4着5着より、8〜9番手からの4〜5着であれば評価を上げて番組次第で予想に反映する。出走全選手の近況レースを細かくチェックすることは調子の把握にもつながりますし、予想の上で欠かせません。特にS級選手は、S級まで来る優れた選手たちなので何かのきっかけで上昇することもあります。みんなより早く気づいてお客さんに伝えたいという思いはありますね。

 2日〜3日前ぐらいまでに近走をチェックして、注目選手を帳面に記入。前検日に専門紙を仕入れて帳面と照らし合わせ、メンバーを見て予想を出すのがスタイルです。

お客さんは100円を払い、買い目が印刷された予想を購入する

ーー出走表にラインが載っていますが、中心視するラインを選ぶ基準は何でしょうか?

木村 出走表に「B」と書かれたバック数が載っていますよね。ラインの先頭選手がバック数をどれだけ持っているかはもちろん大事、そして後ろにしっかりとしたマーク屋が付いていることもラインを選ぶ上で大事です。ただ、付いていても逃げないから最近の競輪は難しいけど…。

 例えば四国の選手で小倉竜二が付いたらしっかり前が行くと思いますし、(佐藤)慎太郎もそうですよね。後はどれだけ先行意欲があるかですよ。数字は立派でも、同じタイプの選手が乗ってくると急に行きっぷりが悪くなる選手もいる。

 (取材当日)防府で走った取鳥雄吾はバック数が多く、決まり手は先行が圧倒的に多い。ただ、数字は多いんだけど、行かない時はあまりにも酷い。行こうと思って行けないんじゃなくて、行かないときは頑なに…というタイプもいるので、数字だけでなくて先行選手の特徴は掴んでおく必要があります。

「バック数」「先行選手の特徴」「後ろは誰か」を考えて中心視するラインを選びます。

ーー穴レースの見極めはどのようにされているのでしょうか?

木村 本命選手の調子の良し悪しが一つ、他には短いラインが多い細切れ戦。GIII以上は増えましたね。例えば9車立てで単騎3人に2人・2人・2人とか。そういう時は自力型の大本命が苦戦する可能性が高い。自力型が分散して強い選手が8番手になって自分より脚がないけども他に単騎が3人が前にいて、他に自力型が前にいたら苦しい。細切れ戦は本命が苦しむ展開を組み立てやすいので、僕は結構穴目を書くようにはしています。

ーー展開は頭の中で何パターンも作られるのでしょうか?

木村 あまり展開をこねくりまわすと予想って本命に戻るんですよね。どうやったら穴が出るかな? から始まって、ああこうすれば穴だな、でもこうなるとこの穴はいなくなって…堂々巡りになるので、自分の中で腑に落ちた所で予想の買い目を書きます。

 だからあまり1レースの予想に時間はかけていません。その辺りは予想屋それぞれで、専門紙を見ると赤や青を入れて、もう塗り絵みたくなっている予想屋さんもいます(苦笑)。僕の場合は、2開催前まで遡った選手のチェックリストと選手の特徴、最後に専門紙で照らし合わせる感じですね。

「お前、予想屋なんだから朝まで考えろよ」と言われるかもしれないけど、自分の準備と経験、直感を信じています。お客さんも僕の努力を評価してくれるというより、的中実績や僕の競輪予想に対する感性を信じて買ってくれていると思っていますので。

ーー他の予想家との違いは何でしょうか?

木村 メディアに出演されている予想家の方は本命党が多い。たまに穴予想する方も自分の欲ばかりで無茶な予想が目立つ(苦笑)。その方たちと比べるわけではないですけど、僕はとにかくレース数を見て研究している自信はあります。だから堅いと思えば本命予想、荒れると思えば穴予想で買い目を出すことが出来ます。レースに合わせて臨機応変な予想が出来るのが違いではないでしょうか。

 僕は自分の事をマイナーパワーと表現しますがそのパワーの中に、自分の感性と研究が予想に詰まっているとお伝えしたいですね。予想屋稼業はマイナーだけど僕自身パワーはあるよと。それに付き合ってもらえればと。感性だけだと「お前努力していないじゃん、予想売るな」と言われますし、努力だけだったら「博打の素質ないじゃん」で終わってしまうので、基本中の基本だけどその2つを備えていると思っています。

約20年の経験を活かした予想をnetkeirinでも公開

5月8日から「netkeirin」で場立ち予想屋・木村安記さんの連載予想動画「ギャンブラー 木村安記の競輪爆勝予想」がスタート。また、ウマい車券で予想を公開します。ぜひ車券購入の参考にして下さい。


取材・構成:netkeirin編集部
撮影:Kenji Onose
協力:大宮競輪場

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