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佐藤慎太郎“101%のチカラ”

【滝沢和典×佐藤慎太郎】運や流れは自分自身で作っていくもの/勝負の世界の“ガチバナシ”【第1回】

2022/04/28 (木) 19:00 15

競輪界最高峰のGIレース「日本選手権競輪」が5月3日〜8日の6日間、いわき平競輪場で開催する。空中バンク・いわき平は本コラム著者である佐藤慎太郎選手のホームバンク。今回の『佐藤慎太郎“101%のチカラ”』は、慎太郎選手の地元GI開催を記念し、滝沢和典プロ(日本プロ麻雀連盟・KONAMI麻雀格闘倶楽部)との特別“リアル”対談をお届けする。麻雀を愛してやまない慎太郎選手と麻雀界きっての競輪好きとして知られる滝沢プロ、限界知らずのファンタジスタたちが、それぞれの「勝負の世界」をテーマに“ガチバナシ”を繰り出していく。※本日28日より3日連続コラム更新

佐藤慎太郎選手×滝沢和典プロ

佐藤慎太郎(以下、慎太郎) 滝沢プロ、今日はよろしくお願いします。

滝沢和典(以下、滝沢) よろしくお願いします。慎太郎さんと対談なんて本当に光栄です。

慎太郎 それはオレのセリフ。いつも麻雀ファンとしてMリーグでの活躍を楽しませてもらってます。ファイナルも頑張ってください。(※対談実施日はMリーグファイナルシリーズより前)

滝沢 ありがとうございます。慎太郎さん、先日の平塚記念優勝おめでとうございます。今年2回目の記念制覇でしたね。レースを見ていて調子の良さが伝わってきます。

慎太郎 そうですね。決して油断はできないけど調子はいいね。でもそれはお互い様じゃない? 最近の対局を見ていると滝沢プロの調子も良さそうだよ。

滝沢 良いコンディションで打てていますが、何が起こるかわからないので、気を引き締めて戦っていきたいです。

慎太郎 いいね。めちゃくちゃ楽しみ。それじゃ早速、テーマに沿ってトークしていきますか!

滝沢 そうしましょう。今日って“勝負の世界を語る”がテーマでしたね。

慎太郎 脱線はアリアリだけどね。

■佐藤慎太郎と滝沢和典の出会い

もともと交流のあるお二人、久々の再会に終始笑顔

ーーお二人の出会いは?

慎太郎 はじめて滝沢プロに会わせてもらったのって、15年以上は前になるのかな。

滝沢 はい。白川道さんと中瀬ゆかりさんと平塚グランプリを観に行きました。加藤慎平さんが優勝した時のグランプリだから2005年ですね。慎太郎さんは落車してしまったんですが、白川さんが『おい!大丈夫か!』って声をかけたら『うす!大丈夫す!』って。その受け答えがすごくかっこよかったの覚えてます。

慎太郎 ひっくりかえってるわけだしかっこいいのかそれ(笑)

滝沢 僕にとってかっこよく映ったのは事実です(笑)。もともと競輪選手の走っている姿がかっこよくて競輪を観るようになったんですが、(選手が)走っていない場面を見て、かっこいい!と思ったのは、慎太郎さんがはじめてでした。

慎太郎 今の発言は絶対にカットなしで記事にしてもらいます。

滝沢 その直後だったと思うんですが、慎太郎さんに写真をお願いしたんですよね。伏見俊昭さんと慎太郎さんが一緒に大会に来てくれた時です。

慎太郎 あれは衝撃だった。オレは「近代麻雀」が愛読書。当時は“タッキー旋風”を日常的に目にしてたから。会場で「うわー! タッキーがいる!ありゃあ、絶対モテるだろうなあ」って遠目に見てたら、タッキー当人が近づいてきて「慎太郎さん一緒に写真お願いします」だもんね。すごく驚いたんだよ(笑)

滝沢 そのときの写真あります(笑)。あとで編集部に送っておきます。

慎太郎 2005年の平塚グランプリ、競輪が繋げてくれた出会いでしたね。

交流のはじまり(写真提供:滝沢和典プロ)

■麻雀はただの娯楽ではない、競輪はただのギャンブルではない

ーー慎太郎選手は麻雀好き、滝沢プロは競輪好きですが、どんなところに魅力を感じていますか? 共通点などがあるのでしょうか?

慎太郎 オレは麻雀って“トレーニング”の一環だと思ってるんですよ。自分をいかに殺せるか、自分の感情といかに向き合うかっていうのがテーマにある気がしていて。思い通りにいかないときこそ忍耐が必要になる。それがなかなかできないんだけどね。つい感情的になっちゃうから。

滝沢 チャンスを待たなくちゃいけないという意味では忍耐力は必要不可欠です。そこが難しさでもあり、たしかに麻雀の面白さでもありますね。

慎太郎 それが競輪にも繋がるものがあるんですよ。繋がるというか、もはや縮図ですね。競輪はレースでうまくいかなくても、感情的にならずにシリーズを走らなくてはいけない。目指していたGIで結果が出せなくても我慢、決して腐ってはいけない。次のレースのために忍耐して準備してチャンスを探る。麻雀をやると自分の性格がよくわかる。攻めちゃダメな時に攻めちゃったりするからオレは。

滝沢 話を聞いていると僕が競輪に感じている魅力とかなり近いものがあります。たしかに麻雀はチャンスを待たなくてはいけないんですが、それと同時にチャンスが来たらそれを絶対に逃してはいけないんです。機を見極めていくことが大切。待っているだけでは“負けない人”にはなれるけど“勝てる人”になるのは難しいです。競輪のレースで重要だと思うのが仕掛けのタイミングなんですけど、あれは“勝負所を見極める”という意味で麻雀の勉強になります。僕にとっても競輪を観ることはトレーニングの一環です。

慎太郎 滝沢プロは麻雀を打ってて“行ったらダメなタイミング”はわかるものなの?

滝沢 わかってると思います。雰囲気というか感覚というか。そういうのを麻雀以外から鍛えることもあるんですけど、競輪がいい例ですね。

慎太郎 ひえー。たしかに競輪はそのタイミングを見極められることが勝敗を分けるポイントになるからね。

滝沢 慎太郎さんに聞きたかったんですけど、無理に1着を狙ってもそうならないことってありませんか? 僕は無理に1着を狙うと最下位になるということがあって。それが勝負所の話だったりします。

慎太郎 うん、あるね。番手を回ってて1着を狙うあまり無理に出て行って、中割られて3着とかある。やっぱり話してみると共通点があるね。

レースと対局を重ねて語る慎太郎選手

ーーお二人とも本業の“トレーニング”になるという点に魅力を感じているのですね。

慎太郎 そうですね。でも麻雀は共通のルールで知らない人とも遊べるところなんかも、シンプルに魅力的だと思ってる。

滝沢 僕は競輪の“ドラマ”に魅力を感じてます。選手の“人”の部分を知るとストーリーが見えてきますから。それが面白いです。

慎太郎 競輪選手として嬉しく思うよ、滝沢プロ。オレも選手でありながら競輪ファン。競輪の持つストーリー性が大好物なんでね。

滝沢 そのストーリーが好きで、さらには本業に良い影響をもたらす気づきまであるという。紛れもなくトレーニングになります。この前、下手を打った時にファンの方から『競輪ばかりやってんじゃねーぞ』って言われましたけど(笑)。“ただのギャンブル”って目線で競輪を観てません、とは言いたくなりました。

慎太郎 滝沢プロでも言われちゃうことがあるんだね(笑)。でもこういう場でトレーニングの一環ということを伝えない限り、オレの麻雀と一緒で、遊んでるように見えてしまうのかもしれないね。滝沢プロは競輪をたくさん応援してくれているし、本当に詳しい。この前も競輪場のイベントに出演していたでしょう?

滝沢 最近だと岸和田と大垣に行かせてもらいました。

慎太郎 人気雀士に競輪を盛り上げてもらって嬉しい。共通点が多いから、ファンのみなさんにも両方を楽しんでもらいたいね。

滝沢 似てるところがあるから入りやすいし、入り口はどっちから入っても。どっちにもハマる要素があると思います。競輪も麻雀もギャンブルイメージ、娯楽イメージだけだともったいないですよね。

競輪歴15年以上の滝沢プロの競輪知識は深い

■勝負の世界にいるライバル達について

ーーお二人が思う強さとは?

慎太郎 勝負所を見極められるというのはすでにひとつ出たけど、他にも心当たりある?

滝沢 麻雀の場合は“算数だけじゃない人”に強さを感じることがあります。確率とか理論とかの領域度外視の部分を持っているというか。例えば自分の麻雀を説明するのが上手な人とそうじゃない人がいて、理論立てて説明できない人で「強いな〜」と思う人がいます。

慎太郎 “第六感的なもの”がある人? 寿人師匠の話をしてるのかな?

滝沢 そうですね。佐々木寿人プロはまさにその代表格ですからね。そういう部分に強さを感じます。競輪でもそういった選手っていませんか?

慎太郎 少し違うのかもしれないけど、“何も考えずにできてる選手”はいる。そういう人が自分の走りを説明するとひどい。ここでバーっと行ってガーンと踏んで、ブワーっと回すんですよ、みたいな(笑)。でもたしかに強い選手にそういう人はいるんだよな。

滝沢 感性でやれてて、理論的でも科学的でもない人は強さがありますよね。

慎太郎 そういう人って端から見ててわからない?

滝沢 わかります。

慎太郎 競輪もわかるんだよね、走りを見ていると。天才肌っていうのかな?

滝沢 頭で考えていない人という意味ではまさに天才肌ということですよね。

慎太郎 でも噛み合うかどうかってのも大切だよね。たとえ天才肌でもあらゆる要素が噛み合っていないと結果は出ないから。そのあたりも強さには必要じゃないかな。

滝沢 はい。どんなにすごい脚力があってもレースで勝てない選手もいますよね。あらゆる要素が噛み合う必要があるというのは大事ですね。

慎太郎 まったく同感ですね。裏を返すと脚力だけでは決まらないということ。なんかやる気出てきたよ!

「天才はそりゃ強いよな!」と笑い合う二人

■勝負の世界における「運」や「流れ」についての見解

ーーここまで「忍耐」や「タイミング」、「チャンス」や「第六感」など、さまざまなワードが出てきましたが、『運』や『流れ』というのはどうでしょう? お二人が生きている勝負の世界ではとても重要なピースだと思いますが…

慎太郎 競輪に関しては、運はコントロールできるものだと思っている。積み重ねていくことで引き寄せられるようになっていく、と言えばいいのかな。自分のやるべきことをやり、成すべきことを成していれば、周囲の人や環境が自分にとって都合の良い方向に動いてくれるようになるというか。

滝沢 慎太郎さんの今の話、よくわかります。

慎太郎 よかった。もっと具体的に言うと、オレの場合は番手としての仕事をしっかりやり切るということが第一。そこに集中すると良い仕事ができる。良い仕事ができれば他の選手がオレに意識を向ける。他の選手の意識がオレに向いていれば、レースでは“ラッキー”が起こりやすいという見解がある。

滝沢 僕が仕掛けると(点数が)高いだろうとか、愚形で待っていないだろうとか。そういうイメージを持たれることがあります。そういう麻雀を積み重ねてきたからです。対戦相手がそのイメージに意識を向け、縛られ、ミスをすることがあるんです。お客さんからはその一局、その一打だけで見るとラッキーにしか見えないかもしれないけど。慎太郎さんのヨコの動きを怖がって自分の競走ができなかった、という選手はきっといると思うんです。その現象と同じです。

「運は存在しない」とは言えないが、“ラッキー勝ち”の背景には大体説明できることがある、と言い切る

慎太郎 脇本雄太はすごい脚力の持ち主だし、本人の血の滲むような努力が積み重なって速く、強くなったわけ。その脚力に対戦相手が意識を向け過ぎちゃうことがある。レースになって一番警戒すべきなのに、みんなでワッキーのための好展開を作ってたりすることがあるんだよね(笑)。意識するあまり、最善策で抵抗しようしてるのに無駄脚を使ってしまうような…。けどその好展開だけを見て、脇本雄太がラッキーだったとは思わないよね。思えない。実力でしかない。

滝沢 さきほど名前を挙げさせてもらった佐々木寿人プロも同じものがあり、攻めのスタイルで相手を乱します。佐々木プロがオリないから、周囲が余計なことをしてしまって、逆に(佐々木プロが)オリる必要がない麻雀を打っていることがあります。データだけで見る人は『バカヅキ野郎!』って思われるのかもしれないけど、それは違うと思っていて。それは佐々木プロが自分で“作っているラッキー”だと思います。

慎太郎 その局面、その一瞬、というものだけで判断されてツイてるツイていないと評価されることは勝負の世界のあるあるなのかな。

滝沢 そうかもしれないですね。僕にとって意味のある一打でも、負けてしまったら『いつもと違うことをしたから負けたんだ』って言われることがあります。でも 勝負は続くものですから、その一打は将来的に運を引き寄せるために必要な一打だったりするんですよね。頭の中で「今日だけじゃないでしょ」って反論することもあります(笑)

慎太郎 滝沢プロの中で運良く勝てた、運悪く負けたというのはあんまりないのかな?

滝沢 いえ、それはそれで、実はしょっちゅうあります(笑)。でも“運悪く負けた経験”を積むと見えてくるものがあるんです。どう対処しても負ける日があることを知っています。この日は何やってもダメな日と気が付いたら、その負けを小さくする努力をします。突然チャンスは来ますから、あきらめることはしませんけど。試合が終わり振り返ってみて、運や流れの悪さを確認して、「早めに察知して立ち回れてたんだな」と自分の中で思えたら、負けた日でも反省点なし! と完結できます。

慎太郎 負けることを理解して負けを小さくする、か。競輪の予選、勝ち上がりのレースにも必要な考え方かもしれないね。

滝沢 運の話と言えば、僕が若手の頃にお世話になった大先輩がいたんですけど、『ツイてないツイてない』っていう若手に『運がないと自覚するなら即やめるべき、プロとして仕事にならん』と言ってました。その言葉は残ってますね。

慎太郎 厳しい話だけど、真理をつくような話だね。

「運の良し悪し、流れの良し悪しを察知することが重要」と話す滝沢プロ

 競輪と麻雀の共通点を探りながら、お互いの勝負の世界を語り始めた慎太郎選手と滝沢プロ。レースや対局における“勝負所の見極め”や“運や流れに思うこと”は真剣なまなざしで意見を交換し合っていた。

 一方で、ライバル選手やライバル雀士の話になると表情を緩ませ、「すげえやつばっかりだよね! クレイジーすぎる!」と楽しそうに笑い合っていた。このあと話はさらに深くなっていき、「プレッシャー」や「成長」、「ルーティン」や「変化する理想」といったトークが繰り広げられていく。

 その様子は次回、あす29日19時公開の【第2回】でお届けしたい。


取材・構成:篠塚久(netkeirin編集部)
撮影:Kenji Onose

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佐藤慎太郎“101%のチカラ”

佐藤慎太郎

Shintaro Sato

福島県東白川郡塙町出身。日本競輪学校第78期卒。1996年8月いわき平競輪場でレースデビュー、初勝利を飾る。2003年の全日本選抜競輪で優勝し、2004年開催のすべてのGIレースで決勝に進出している。選手生命に関わる怪我を経験するも、克服し、現在に至るまで長期に渡り、競輪界最高峰の場で活躍し続けている。2019年には立川競輪場で開催されたKEIRINグランプリ2019で優勝。新田祐大の番手から直線強襲し、右手を空に掲げた。2020年7月には弥彦競輪場で400勝を達成。絶対強者でありながら、親しみやすいコメントが多く、ユーモラスな表現でファンを楽しませている。SNSでの発信では語尾に「ガハハ!」の決まり文句を使用することが多く、ファンの間で愛されている。

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