2022/04/04 (月) 12:00 41
ガールズケイリン・高木真備(27歳・東京=106期)が4月3日、引退を発表した。
かしこまったことを書こうと思ったが、率直なことを書かないとダメだろう。「高木真備の功績」とかいうタイトルで、落ち着いたものにしようと…いや、違う。
引退発表の4月3日。急きょ設置された共同会見場に出ていくと、ある女性の先輩から「なんで止めなかったの! 」のひと言があって、この言葉の大切さだけは、純粋さには噓がつけないと、今思っている。
私は東スポのコラムの連絡担当だったので、高木とは長く連絡を取ってきた。
ちょうどプレゼント企画を東スポで請け負っており、その荷物が1日前の4月2日に会社に送られていた。会社に行くとデスクの脇にどデカい段ボールが置いてあって「届いてますよ」というメールを高木に送ったら、電話がかかってきた。荷物の対応についてだと思った。
まさに後頭部を鈍器で殴られるような、という表現が身に染みた。私はその時、何を考えていたのだろう。いや、何も考えられなかった。ただ「引退します」と聞こえる。とりあえず、誰もいない会議室に電気を付けずに、こもった。
昨年末の静岡ガールズグランプリ2021を勝ってから、いや、勝ってしまってから…と書こう。最後の時が来るのは、覚悟した、つもりだった。
直線。最後のゴールまでの長い、長い直線。高木が、マキビが先頭で走っている。バックストレッチの記者席から見ていた。「勝て」「勝て」「勝たんか」「よし! 」。つかみ取れと思う自分の中で、何かが終わりそうだという恐怖心が湧いていた。勝つと…終わる…と思った。
取材する中で聞こえる競輪選手としての声ではなかった。明確に違う道を見出し、自分の生きる新しい世界を話している。次の開催があったり、練習があったりで、それに縛られている声ではなかった。澄んだ声で逆らえない響きだった。
ずっと走り続けてほしいし、ずっと取材し続けるつもりだった。この先、もうメンバー表に名前がないことで、本当に実感するのだと思う。まだ実感はない。
「なんで止めなかったの! 」。こう言われて、言葉も何もなかった。
止めたかったです。走り続ける意味…とか、いくらでも言葉にも文字にもできます。未練がましく引き留めることもできたかもしれません。いつまでも検車場にいてほしかったです。バンクを走っていない姿なんて想像もできません。
でも、はっきりと声が聞こえました。それは“もう選手じゃないんだ”という声の色でした。
その色は鮮やかで、まっすぐ従うほかなかった。美しさを秘めた決断に、差しはさむものはなかった。よりこれからを応援する以外にない。あっという間に、バンクを去ってしまった高木真備。そんな選手がいた意味は、まだ伝え切れない。
場内でその報告を聞いて、愕然とするファンが多かった。衝撃が大きすぎて、みんな受け止め切れていなかった。真っ青な顔をしていたが、必死に一緒に前を向こうとしていた。でもまた、高木真備が進む道を応援してくれるのには違いない。ファンの声が頼りだった選手だけに、これからも変わらない声を届けてほしい。
Twitterでも競輪のこぼれ話をツイート中
▼前田睦生記者のTwitterはこちら
前田睦生
Maeda Mutuo
鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。