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前田睦生の感情移入

【金亀杯争覇戦】郡司浩平 親父を超えるとは〜GUNZEのブリーフとともに〜

2021/01/20 (水) 12:00 8

平原康多 立川、大宮連続優勝

 1月17日に最終日を行った東日本発祥倉茂記念杯は平原康多(38歳・埼玉=87期)が制した。今年始めの鳳凰賞典レースを勝つと、大事な地元記念も期待に応えた。東日本発祥倉茂記念杯だけで8回目の優勝、さらにGIIIは実に26回目のV。2002年4月から4日制になったこのGIIIシリーズの勝利数を積み重ねることは、あまりにもすごい。

 平原の良さが際立ったのは準決の走りだ。
森田優弥(22歳・埼玉=113期)をじわりと残した。平原1着、森田が3着。ラインを組んだ東龍之介(31歳・神奈川=96期)が2着の上位独占だった。新型コロナウイルスの猛威は増すばかりとなっているが、今はただ次の記念開催に目を向けよう。

 1月4つ目の記念は松山で開催される。21〜24日、坊っちゃんスタジアムの隣にある、近代的な設備の競輪場で行われる。S級S班は松浦悠士(30歳・広島=98期)と郡司浩平(30歳・神奈川=99期)の2人だ。斡旋があった守沢太志(35歳・秋田=96期)は岸和田記念決勝で落車(再乗=7着)した影響もあり、欠場となっている。

愛される親子レーサー

少し前の郡司浩平と現役時代の盛夫さん

 2年連続でグランプリに出場している郡司という男を紹介していこう。

 郡司の父は渋すぎるマーク屋として知られた郡司盛夫さん(以下、盛夫)だ。50期で長く特別競輪(現在のGI)を走っていた。
「いや、もうサラリーマンレーサーみたいで…」。
盛夫さんは2018年7月に引退した後、そう選手時代を振り返って笑ったことがある。

 一戦必勝の思いは選手誰もが常に持っているが、そうそう思うようにいかないのが競輪。大敗のリスクも伴う。盛夫さんは4、5、6着と中間着が多く「シゴロの郡司」と呼ばれることもあった。安定した稼ぎ、それと競輪選手にとって賞金同様に重要な競走得点を、平均的に獲得する。“サラリーマンレーサー”とはそうした選手を評する言葉になるが、それもまた難しいもの。練習のたまものには違いない。

花月園バンク最後の日、小島寿昭さん(左下)はずっとバンクを眺めていた

 花月園競輪場(2010年3月廃止)があったころ、盛夫さんと小島寿昭さん(引退=52期)の2人が競輪場の主と言われていた。朝から晩まで、練習、練習…。2人の名前を取って「盛寿会」という練習グループもできた。盛夫さんも若いころは、怪物と呼ばれた滝沢正光(現競輪選手養成所所長)の番手で競ったこともある筋金入りのファイターだったのだ。

「お父さん、やったよ!」

 郡司は、昨年11月に競輪祭でGI初制覇を飾ると「お父さん、やったよ」と率直な思いを口にした。すでにGIIは勝っていたが、やはりGIを勝つことが選手としては大きな意味を持つ。父に届ける優勝だった。

 サラリーマンレーサー、とはもちろん謙遜で、心からGI制覇を求めて頑張っていた父の姿はよく分かっているのだ。成績を見れば父を超えているわけだが、そうした評価にとらわれない姿勢で、ただ父を敬っている。

GUNZE(グンゼ)のブリーフ

 少し、時を戻そう。
2017年3月に高松で開催されたウィナーズカップでGIIの初優勝を飾り、その祝勝会のこと。GUNZEのブリーフ一丁にサングラスをかけ、タンバリンを手にした2人の男が現れた。

郡司は亀谷隆一(左)と“グンゼのダンス”を披露した

 若干、目を疑うほどの場面だったが、会場は大盛り上がり。盛夫さんは、恥ずかしそうにしながらも「こういうことをできるっていうのがすごい」と胸を張っていた。郡司は応援してくれる人たちや支えてくれる仲間に、最高の時間を過ごしてもらおうと、レベッカの「フレンズ」を踊り倒した。

親父の背中

 郡司は3年半ほどで100勝を達成したが、盛夫さんはなんと24年近くかかっている。2006年10月の大宮競輪場。記者になって3か月ばかりの私も現場にいて、隣にはもう30年近く記者をしている大先輩がいた。盛夫さんが1着でゴールすると、その先輩は「おいおい、オレはこいつに本命打ったことねえんだよ!」を叫んだことを覚えている。

 先輩は相好を崩して“まさか”の1着を喜んでいた。ずっと昔から盛夫さんを知っていて、マーク屋としての2着選手、そしてその後の「シゴロの郡司」を見てきただけに、100勝達成を見た感慨は深いものがあったようだ。1着はほとんどないから、これまで本命印は全くつけなかったという。私などはバタバタと取材に駆け下りようと慌てたものだが、その先輩は静かに笑ってソファに腰を下ろした。

 まだ記者席で煙草を吸えた時代。一服、付けていた。しばらく時間をおいて検車場に降りると「おうおう、良かったな」と盛夫さんに声をかけていた…。


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前田睦生

Maeda Mutuo

鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。

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