2025/11/08 (土) 18:00 25
netkeirinをご覧の皆さんこんにちは。伏見俊昭です。
今回は、今の競輪界で感じている“ある問題”について話したいと思います。
今の競輪界で強く思うのは、GIや特別競輪での落車・失格などの事故が極端に多すぎるということですね。昔ももちろん落車や失格はありましたが、イエローラインの導入や、誘導先導員が赤板までスローペースにならないよう誘導のペースを上げるなど、落車事故を減らすための改善は重ねられてきました。にもかかわらず、GIとなると落車が多い。
先月の前橋で行われた寬仁親王牌もしかり…。JRAの調教師で競輪にも造詣が深い矢作芳人先生も、ご自身のコラムで「落車事故が目立つ」と書かれていました。選手はもちろん、落車すれば痛いし、失格すればさまざまな面でマイナスになります。でも、それ以上に大事なのはお金をかけて応援してくださっているファンの方々の気持ちです。落車した時点で、その車券はゴールまでハラハラドキドキを味わえず、紙くずになってしまう。やりきれない思いがありますね。だからこそ、競技規則やレース形態はまずお客さんの立場を考えて成り立たなければならないと思います。いただけない失格があったりして、お客さんが納得できなければ、それはファン離れにつながってしまいます。
GIになると、誰もが勝負をかけてきます。もちろんビッグレース以外でも「勝ちたい」という気持ちは同じですが、GIとなるとその衝動が一段と強くなる。GIは9車立てだし、選手目線で見れば「勝負した結果だから仕方ない」と思える場面もあります。でも、お客さんからすれば「あんなところで落車するなよ!」いう気持ちでしょうね。失格判定は審判の役目ですが、審判も人間。機械ではないので安定感を保つのは難しい。どこで線を引くのか、ミリ単位の動きまで公平に見極める精度が求められます。最近では「AI審判もありでは?」という話も出ていますが、それもまた難しいでしょうね…。
落車事故に関しては、しっかりとその原因を突き止めて、そのやっぱり原因を作った人がいるんで、そこを厳しくしてもらわないと根本的に落車事故が減らないんじゃないかと思います。誰だって落車はしたくはないはず。時々、「転ぶ覚悟で走ってます」なんて人もいるけど、内心は「無事にゴールしたい」と思っているでしょう。今回の親王牌は前橋の335バンクだったので、みんな外側は踏みたくないんですよ。遠回りになりますからね。よりゴールに近い内側を狙うあまり、みんなが内をついてくると、今回みたいな落車事故が多くなるんですよね。
僕が8月の「オールスター競輪(GI)」を補充で出走したときも、初日と2日目は落車が多かったんですが、後半戦になると減りました。今回の親王牌も同じで、初日はバタバタ落車が続きましたが、3日目、4日目になると少なくなる。やっぱり初日は鼻息が荒くなってるんですかね。
ボートレースはフライングがあると舟券が返還されます。競輪にはそのシステムがありません。落車や失格での返還は難しいかもしれませんが、先頭誘導員早期追い抜きに関しては、400バンクなら赤板の時点で車券は効力を発揮しなくなるので、返還してもいいのでは?と、選手仲間でも話題に上がったりします。もちろん簡単な話ではありませんが、早期追い抜きはボートレースのフライングと同じ扱いでもおかしくないかなとも思います。
もちろん、僕は競輪の車券を買ったことはありませんが、競馬・ボート・オートなどの馬券を買っていたとき、ゴール前に棄権されると「なんだよ〜」って思ってしまいます。そう考えると、失格のない競走がいちばん望ましいということがよくわかりますね。
僕も最近、失格してしまいました。10月の豊橋GIII・二次予選。事由は「内側追い抜き」です。厳しいなとは思いましたが、競技規則的にはアウトなので仕方ありません。
目標にしていた選手が内に進んだので、それを追わないとラインが崩れてしまう。目標の選手が内を潜っていって、他の選手が内外線を閉めていたら、外を迂回しないといけないんです。迂回をして目標の選手に追い上げる形ですね。でも、迂回をするとその時点で連結が外れてしまう。だから「前の選手についていかなくちゃ」という意識が強く働いて、つい追従してしまうんですよね。
内側追い抜きで失格になったのは2回目。1回目は2021年4月、弥彦FIの初日特選でした。北日本勢4車が並び、僕は4番手。あのときも前を閉められていたけれど、やっぱり追従してしまった。今回と同じことをやっているので、「学んでない」と言われたらそれまでですが…。
でも、迂回すれば連結が外れてしまう。つまり「ラインについて行った結果」であって、そこは(ごにょごにょ)……という感じなんです。
判定も微妙なときがあります。セーフの判定でも「閉まっていたように見える」ことがある。そのときは“閉まるのと入るのが同時”という判定だったんですが、「いや、同時って言っても、閉まってるのか閉まってないかの判断だったらどうなの?」って思っちゃうんですよね。結局、そこも審判のさじ加減なんですが、選手の間でも「納得できる判定」と「納得できない判定」があって、本当に難しいところです。
そのルールがあるからこそ、最近では「カンナ削り」という走り方が横行しています。“削る”というのは、内外線の内側を走って、後ろの選手がついてこられないようにする走りのこと。内側を潜れば失格になりますから、後ろの選手はついていけないんですよね。
余談ですが、昔だったらこんな走りをしたらこっぴどく怒られたものです。僕も一度それをやって、渡邉晴智(静岡)さんに「削るな!」って怒られたことがありました。もちろん僕も、削るつもりなんてまったくなかったんですよ。昔の競輪って…いや、“昔”といっても、いつからどう変わったのかははっきりしませんが、前をバーンってと取りにいって取れなかったら、そのまま引いてくるじゃないですか。そのとき、内外線の間を閉めながらグーって引いてきたら、その後ろにつけていたんですが、ハルトモさんに「削るな!」と一喝されて、すぐに外線を外した記憶があります。
レースが終わってからも、すぐに謝りに行きましたね。「すいません、削るつもりはなかったんですけど」って。そうしたら、「あれはダメだぞ」って。きっぱり言われました。今では、削るのがすっかり“普通”になっちゃいましたけど。スタート直後の削り合いで失格になる選手も、けっこう増えていますね。
常々ここでも言っていますが、落車をしていいことなんて一つもありません。元の状態に戻すのに、若いころでも1年。今の年齢なら2年はかかります。今、自分が年齢の割に踏めているのは、この3年以上、落車がないことが大きいですね。落車がなければ、トレーニングも体のケアもきっちりできますから。「半年前まであんなに強かったのに、もう100点切ってるじゃん」という選手、落車で調子を落とす例は珍しくありません。でも中には、落車してもまったくダメージがないっていう選手もいるんですよ。僕はそんな人を“神”だと思っています。
現役時代の後閑信一(東京)さんなんかは、「肋骨骨折は骨折じゃない」という名言を残しています。
後閑さんは大怪我もしているのに、まるで何事もなかったかのように復活してくる。落車事故の影響があるなんて、聞いたことがないですね。僕も肋骨を何度も折ったことがありますが、肋骨骨折って痛いですよ。力は入らないし、ダッシュなんて無理。日常生活でもくしゃみや咳が地獄だし、横向きに寝るにも気を遣う。だから後閑さんのあの言葉を聞いたときは、「この人、何言ってるの?」って思いました(笑)。
今年引退した平原康多君も、怪我に強かった印象がありますね。ただ、その反動で引退が少し早まったのかな、とも思います。落車しても何事もなかったように次の開催で決勝に乗ってくる姿を、何度も見ました。落車して弱くなったり、スランプに陥ったりという姿を一度も見たことがありません。並みの選手なら、前の先行選手のダッシュから離れるとか、自力なら車が全然出ないとか、あるはずなんですけどね。
そしてもう一人、(佐藤)慎太郎。彼にも聞きましたよ。今年1月に骨盤骨折をしてるじゃないですか。慎太郎も怪我には強いほうですが、さすがに骨盤骨折は大怪我。それなのに4月には復帰してるんです。「何やってるの?」って聞いたら、「何もしてない」って(笑)。もう笑うしかないですよね。本人も自身のコラムに「もう人間じゃねえよなって褒められました」って書いてました。だから僕も「親父の遺伝子だな。親父に感謝だぞ」って言っておきました。そのとき慎太郎が、親父さんの(佐藤眞さん)の自虐ネタを教えてくれたんですが……それはプライバシーの侵害になっちゃうのでここでは書けません(笑)。でも一つだけ言えるの…眞さんも慎太郎に負けず劣らず、愉快な方です。
現在の競輪界を語るうえで、避けて通れないのが「ミッドナイト競輪」です。コロナ禍で“ステイホーム”が叫ばれ、家で楽しめる娯楽としてネット投票が急激に伸びて、そのおかげで競輪が低迷から脱出できたのは、まぎれもない事実です。僕も9月に初めてミッドナイトを走りましたが、想像以上に大変でした。あの時間帯に走って体も精神も酷使している選手たちには、特別手当を出してほしいと思うくらいです。ネット投票の普及で本場に足を運ぶお客さんは減っているようですが、先日の寬仁親王牌ではたくさんのお客さんが入っていて、大いに盛り上がっていました。前橋はドームで天候に左右されないし、きれいで快適に観戦できる。家族連れやカップルでも行きやすい環境なのも大きいでしょうね。
一方で、老朽化が進んでいる競輪場もまだまだ多いのが現実です。今月末には広島競輪場がリニューアルオープンしますが、そこでどれだけ来場者を獲得できるのか…今からとても楽しみにしています。
審判や競技規則に物申すなんてして関係各所から目をつけられたらどうしよう…でもお客さん目線も大事。そんなジレンマの中、毎回コラムを書いています。敵は作りたくないんですけど、多少刺激的な内容のほうが、ウケるんですよね(笑)。
(※文中敬称略)
伏見俊昭選手へのメッセージや「こんなことを聞きたい」「こんな話をしてほしい」などコラムのテーマを募集します。ご応募いただいた中から、伏見選手がコラムテーマを選定します。下記の質問BOXからぜひご応募ください! お待ちしております!
伏見俊昭
フシミトシアキ
福島県出身。1995年4月にデビュー。 デビューした翌年にA級9連勝し、1年でトップクラスのS級1班へ昇格を果たした。 2001年にふるさとダービー(GII)優勝を皮切りに、オールスター競輪・KEIRINグランプリ01‘を優勝し年間賞金王に輝く。2007年にもKEIRINグランプリ07‘を優勝し、2度目の賞金王に輝くなど、競輪業界を代表する選手として活躍し続けている。 自転車競技ではナショナルチームのメンバーとして、アジア選手権・世界選手権で数々のタイトルを獲得し、2004年アテネオリンピック「チームスプリント」で銀メダルを獲得。2008年北京オリンピックも自転車競技「ケイリン」代表として出場。今でもアテネオリンピックの奇跡は競輪の歴史に燦然と名を刻んでいる。