2025/09/29 (月) 18:00 11
現役時代はKEIRINグランプリを3度制覇、トップ選手として名を馳せ、現在は評論家として活躍する競輪界のレジェンド・山田裕仁さんが奈良競輪場で開催された「平安賞in奈良」を振り返ります。
2025年9月28日(日)奈良12R 開設75周年記念 平安賞in奈良(GIII・最終日)S級決勝
左から車番、選手名、期別、府県、年齢
①三谷竜生(101期=奈良・38歳)
②山田庸平(94期=佐賀・37歳)
③佐々木豪(109期=愛媛・29歳)
④稲川翔(90期=大阪・40歳)
⑤雨谷一樹(96期=栃木・35歳)
⑥金子幸央(101期=栃木・32歳)
⑦山田久徳(93期=京都・38歳)
⑧塚本大樹(96期=熊本・36歳)
⑨犬伏湧也(119期=徳島・30歳)
【初手・並び】
←⑥⑤(関東)①⑦④(近畿)②⑧(九州)⑨③(四国)
【結果】
1着 ⑨犬伏湧也
2着 ③佐々木豪
3着 ⑦山田久徳
9月28日には奈良競輪場で、平安賞in奈良(GIII)の決勝戦が行われています。京都府の向日町競輪場は現在、2029年度の全面リニューアルを目指して大規模改修に入っていますよね。そのため、向日町記念もしばらくは、他場を借りての開催となります。注目選手は、S級S班の犬伏湧也選手(119期=徳島・30歳)と、近況も好調な深谷知広選手(96期=静岡・35歳)の2名でしょう。
初日特選は、ラインが4つに単騎が1名のコマ切れ戦に。赤板(残り2周)の手前で仕掛けた深谷選手が、ここは主導権を奪います。犬伏選手は中団を取りにいくも、うまく流れに乗れずに最後方まで後退。先に仕掛けた単騎の山田庸平選手(94期=佐賀・37歳)に連動して上がっていくも、大きく外を回らされたのもあって、伸びを欠きました。深谷選手が先頭のままで、最後の直線に向きます。
しかし深谷選手は最後まで粘りきれず、その番手を回っていた和田圭選手(92期=宮城・39歳)が差して1着。最後にいい伸びをみせた三谷竜生選手(101期=奈良・38歳)と山田久徳選手(93期=京都・38歳)が2着と3着に突っ込み、深谷選手は4着、犬伏選手は6着という結果に終わっています。犬伏選手がレースの組み立てに失敗し、深谷選手も末を欠いた結果、3連単101,560円という大波乱となりました。
最後の粘りを欠いた深谷選手と、レースの組み立てに失敗し、ダッシュにいつもの鋭さが見られなかった犬伏選手。どちらも、不安が残るレース内容でしたね。深谷選手は直前の合宿での疲労が残っているのか、二次予選でも粘りきれず3着という結果。そして迎えた準決勝で、深谷選手は佐々木豪選手(109期=愛媛・29歳)と踏み合う展開となるも、最終4コーナーで脚が上がって7着敗退。勝ち上がりを逃しています。
それとは対照的に、犬伏選手はシリーズのなかで調子を上げていきましたね。二次予選で1着をとって臨んだ準決勝は、赤板のホームから仕掛けて藤井侑吾選手(115期=愛知・30歳)を叩き、強引に主導権を奪取。最後は脚が鈍って金子幸央選手(101期=栃木・32歳)や三谷選手に捉えられるも、ギリギリ3着に残して決勝戦に駒を進めました。最後はかなりヒヤッとしましたが、よく粘りましたよ。
決勝戦まで勝ち上がった選手はいずれも好調ですが、なかでも山田庸平選手と佐々木選手は、デキのよさが目立ちましたね。奈良がホームバンクである三谷選手も、しっかり身体をつくってここに臨んできた印象を受けました。決勝戦は単騎のいない四分戦となり、しかも最後の直線が非常に短い奈良の333mバンクが舞台ですから、かなり動きのある展開となりそうです。
唯一の3車ラインが近畿勢で、その先頭を任されたのは三谷選手。番手を山田久徳選手(93期=京都・38歳)が回って、3番手を稲川翔選手(90期=大阪・40歳)が固めます。前の2車が奈良&京都と、どちらも地元といった並びですから、ここに賭ける気持ちの強さは誰にも負けないでしょう。車番にも恵まれたここは、初手でいい位置を取って、そこから積極的なレースを仕掛けてくると思いますよ。
九州勢は、山田庸平選手が先頭で、番手が塚本大樹選手(96期=熊本・36歳)という組み合わせ。山田庸平選手はデキのよさを活かすべく、勝負ができる位置から仕掛けたいところですね。そして四国勢は、犬伏選手が先頭で佐々木選手が番手という並び。主導権を奪いやすいメンバー構成となったのは、犬伏選手にとって強い追い風でしょう。唯一のS級S班として、ぶざまな戦いはできません。
そして関東勢は、金子幸央選手(101期=栃木・32歳)が前で、雨谷一樹選手(96期=栃木・35歳)が後ろという組み合わせ。車番には恵まれませんでしたが、どちらもスタートダッシュが速いので、初手から動いてくる可能性が高いですね。相手は強力ですが、積極的なレースで存在感を発揮してほしいところ。それではそろそろ、決勝戦のレース回顧に入りましょう。どんな展開になるのか、楽しみな一戦です。
レース開始を告げる号砲が鳴ると、まずは1番車の三谷選手と5番車の雨谷選手が飛び出していきます。外からいいダッシュをみせた雨谷選手がスタートを取って、関東勢の前受けが決まりました。近畿勢の先頭である三谷選手は3番手からで、その後ろの6番手に山田庸平選手。犬伏選手は後方8番手からの後ろ攻めというのが初手の並びで、おおむね想定どおりといえるでしょう。
レースが動いたのは、青板(残り3周)掲示を通過した直後。6番手の山田庸平選手が最初に動いて、外から先頭の金子選手を抑えにいきます。バック通過で誘導員が離れると、先頭の金子選手は軽く突っ張り先頭をキープ。山田庸平選手はその直後の3番手に入って、後続の出方をうかがいます。2センターを回って赤板のホームに帰ってきたところで、今度は5番手の三谷選手が動きました。
まだペースが上がっていないところをカマシて、一気に上がっていった三谷選手。後方にいた犬伏選手もこれに連動して、ポジションを上げていきます。三谷選手は赤板後の1センターで、金子選手を叩いて先頭に。バックストレッチに入ったところで、山田久徳選手までが前に出ますが、そこに外から犬伏選手が素晴らしいダッシュで強襲。ケタ違いのスピードで、先頭の三谷選手に迫ります。
犬伏選手の強烈な踏み出しで離されかけた佐々木選手ですが、なんとか食らいついて三谷選手のブロックも乗り越え、犬伏選手を追走。ここでレースは打鐘を迎えて、犬伏選手と佐々木選手は、打鐘後の2センターで前に出切りました。ここで再び一列棒状となって、最終ホームに帰ってきたところで、中国勢は後続に少し差をつけて先頭を疾走。3番手の三谷選手は、必死にその差を詰めにかかります。
しかし、三谷選手は前との差を詰められず、四国勢との差は開いていくばかり。最終1センターを回ってバックストレッチに入ったところで、後続はかなり突き放されます。こうなってしまうと、最後方に置かれた山田庸平選手はかなり厳しい。最終バックで、脚が鈍った三谷選手の番手から山田久徳選手がタテに踏んで前に出ますが、果たしてここからどこまで差を詰められるか。
セイフティリードを築いた四国勢の完勝か…と思われましたが、タテに踏んだ山田久徳選手は前との距離をグングンと詰めて、最終2センターでは前を射程圏に。稲川選手もそれに続き、後方からは山田庸平選手も前を追いすがりますが、奈良バンクの短い直線では間に合いません。犬伏選手の番手から佐々木選手が外に出して差しにいきますが、犬伏選手は踏み直して再加速し、押し切りを図ります。
外から伸びた山田久徳選手は届かず、最後は犬伏選手と佐々木選手の争いに。佐々木選手が最後までジリジリと差を詰めますが、ゴールラインでは犬伏選手のほうがハッキリと前に出ていましたね。犬伏選手は、これがS級S班に格付けされてから初となるGIII優勝で、GIIIでの優勝は通算4回目。持ち前のダッシュをフルに活かした素晴らしい走りで、格の違いをみせつけました。
2着は佐々木選手で、3着が山田久徳選手。離れた4着に稲川選手、5着が金子選手という結果で、後方に置かれた山田庸平選手は6着に敗れています。仕掛けた位置や展開を考えると、犬伏選手にとって楽な展開ではなかったはずで、タテ脚があってデキもいい佐々木選手に差されてもおかしくない。それを押し切ったのですから文句なしに強い内容で、それをいちばん感じたのは、差せなかった佐々木選手でしょう。
そんな犬伏選手に、勇気と覚悟をもって挑んだのが三谷選手。あのタイミングでカマシて前に出たのですから、犬伏選手が仕掛けてくるタイミング次第では、自分が主導権を奪う展開も覚悟していたと思います。ホームバンクである奈良での記念であることや、自分の後ろが「向日町記念での山田久徳選手」であるのも、背中を押したでしょうね。最後は脚が上がって9着に敗れたとはいえ、いいファイトでした。
逆に、やや積極性を欠いた走りに終始してしまったのが山田庸平選手。奈良バンクで後方に置かれるだけでも厳しいのに、主導権を奪っているのは犬伏選手ですからね。8番手からの挽回など不可能といっても過言ではなく、デキのよさをまったく生かせなかったのは残念です。金子選手は、初手から悪くない立ち回りをしていたとは思いますが、ここでは力及ばずという結果でしたね。
それにしても、ツボにはまったときの犬伏選手は本当に強い。得意のカマシ先行で主導権を奪えたとはいえ、先に動いた三谷選手を一瞬で叩いて先頭に立ったダッシュには、惚れ惚れしましたよ。今後の課題は、自分の得意とするカタチに持ち込めなかったケースにどう対応していくか。ビッグを獲るには、「相手が嫌がること」が上手な超一流を相手にどう立ち回るかを、もっと考えていく必要があるでしょう。
初日特選にしても、本調子を欠いている深谷選手に主導権を奪われて、見せ場なく終わってしまっている。驚異的なダッシュは犬伏選手の大きな武器ですが、相手が強くなればなるほど、それに頼るだけでは勝てなくなってきます。経験を糧としてさらに研鑽を積み、来月の前橋・寛仁親王牌(GI)でのタイトル奪取に向けて、まずは次の松阪記念でいい走りをみせてほしいものです。
山田裕仁
Yamada Yuji
岐阜県大垣市出身。日本競輪学校第61期卒。KEIRINグランプリ97年、2002年、2003年を制覇するなど、競輪界を代表する選手として圧倒的な存在感を示す。2002年には年間獲得賞金額2憶4434万8500円を記録し、最高記録を達成。2018年に三谷竜生選手に破られるまで、長らく最高記録を保持した。年間賞金王2回、通算成績2110戦612勝。馬主としても有名で、元騎手の安藤勝己氏とは中学校の先輩・後輩の間柄。