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松井律の競輪・耳をすませば

PIST6休止に思うことーー古参ファンとの距離感、千葉競輪の復活を願って/松井律『競輪・耳をすませば』vol.5

2025/09/13 (土) 12:00 15

日刊スポーツ・松井律記者による競輪コラム『競輪・耳をすませば』。10代の頃から競輪の魅力に惹かれ、今も現場の最前線で活躍中のベテラン記者が、自由気ままに綴る連載コラムです。
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PIST6が休止にーー

 8月某日、PIST6の休止が発表された。開幕当初から売り上げ面で苦戦を強いられているのは耳に入っていたが、新たなものへのチャレンジはやってみないと分からないので、安易に賛否を述べるべきではない。私は開幕戦の中継しかまともに見ていないし、現地にも行かずじまいだった。傍観者の私とは違って、関わった人たちは人生をかけてそこに取り組んだのだから。

PIST6の休止が発表された

 これまで私が見てきた"漢字の競輪"というのは、80年近くもかけて今の形が出来上がった。古参のファンたちは、ライバル関係やラインから生まれる人間ドラマに心を震わせ、常人では考えられない時速60キロで体をぶつけ合うプロの技に熱狂してきた。

 自己犠牲をいとわない深谷知広の走りに胸を打たれ、縦横無尽に暴れまわる古性優作や、眞杉匠の走りに興奮し、8番手からブンまくる脇本雄太に驚愕するのは、スピードやテクニックだけでなく、そこに加味される選手の特性や性格、人間臭さが極上のエッセンスとなっている。選手心理や展開を読み切って的中した時の快感は、競輪ファンを沼へと引きずり込むのだ。

PIST6やアドバンス…“ケイリン”に思うこと

 250バンクで行われる競技タイプのケイリンは、ギャンブルと相性が良くないように思う。なぜなら、カタカナのケイリンは、私が好きな競輪のエッセンスが薄まってしまうからだ。

 ケイリンがオリンピックの正式種目になったのが2000年のシドニー大会だった。「日本が生んだ世界のスポーツ」と大々的にうたってはきたものの、柔道のような〝お家芸〟と呼ばれる結果は出せていない。これまで多くの競輪選手がメダルを目標にトライしてきたが、実績は2008年北京大会で永井清史が獲得した銅メダルのみ。前回も決勝に進んだのは中野慎詞だけだった。

 それでも近年は競輪選手の国際大会での結果が報じられる場が増えた。競輪ファンの中にも競技に詳しい人が増えている。オリンピックや世界選手権で日本の競輪選手が明らかな骨格差のある外国人選手に挑んでいく姿は感動する。前回大会でも中野や太田海也、佐藤水菜のレースは、正座をして祈りながらタブレットで見ていた。ここには日本対世界という構図があるから、素直な気持ちで日本人を応援出来る。

 かつて「エボリューション」というたいして盛り上がらないまま立ち消えになった企画レースがあった。今度は「アドバンス」とその名を変えて帰ってきた。私個人的には車券の購買意欲が沸かない。ただ、ミッドナイトで実施されたこともあり、期待を上回る売り上げがあって、また来年以降も行われるという。しかし、「アドバンス」が面白いから売り上げが良かったのか?という点については懐疑的である。まあ私の頭が固くて古いだけなのかもしれないが…。

廃止撤廃のため、最前線で尽力した中村浩士支部長たち

 PIST6が期待される結果を得られなかったのは、通常の競輪開催とは切り離されて運営されていたことが大きい。独自性にこだわるあまり、既存の競輪ファンとは隔たりがあった。ぶっちゃけて言えば、開幕当初は胡散臭さもあった。

 そもそも千葉競輪場の廃止が囁かれてから、最前線で廃止撤廃に尽力していたのは中村浩士(日本競輪選手会・千葉支部長)が率いる選手会だった。市長や行政に直談判をして、署名運動も行っていた。競輪の灯を消してはいけない。そう思う競輪メディアもこぞって取り上げたし、中村らの活動を応援した。しかし、フタを開けてみると、選手会は蚊帳の外におかれてしまった印象が強かった。それを見て、私は「これは別物なんだ」と距離を置いた。会社の業務で絡むこともなかったし、休みを使って見に行くこともしなかった。

 PIST6休止の一報は一斉に流れたが、その後については謎のままだ。私は平塚に参加した中村支部長とこの件についてディスカッションした。

 中村支部長に休止の一報が入ったのは8月の初旬だった。以下は中村氏の発言のまとめである。

「当初は選手会本部、JKAと一緒にやっていけると思っていたが、PIST6側の運営に納得がいかない全輪協(全国競輪施行者協議会)にそっぽを向かれてしまった。競輪の売り上げ低下もあって、自分たちにとって〝最後の切り札〟的な思いがあったが、業界の内部に手が付けられなかった。競輪はギャンブルなので、ゲーム性と一致しなかったのかな。それでも、あんなに素晴らしいドーム競輪場を作ってくれたJPFには感謝をしているし、『あのバンクがなくなっていいとは思っていない』と安田(光義)選手会会長も言ってくれている。今後は本部と連携しながら新たな可能性に向かって前へ進みたい」。

「新たな可能性に向かって前へ進みたい」と中村支部長(著者提供)

 そんな議論をしたあとで、中村氏はこう締めくくった。

「僕は何よりも競輪ファン、選手、関係者にとって不利益のない方向に進んでくれることを期待しています」

可能性に満ちる250バンク、復活を心待ちに…

 来年にはコロナ以降、実施されていなかった国際競輪が復活するという。批判的なことも言ったが、アドバンスだって競輪への入り口という役割が担えるだろうし、ファンの裾野が広がる可能性もある。それは10年以上をかけてファン、関係者、選手たちが育てて大きくなったガールズケイリンという優良コンテンツが証明している。将来的にはガールズのG1が千葉で開催されるかもしれない。

 今流行りの車体の下がった男子の鉄フレームは引っかかるから250バンクに適さない。競輪をやるとなれば、いろいろな整備やルールの調整は必要になってくる。それでも、250バンクでやれることは多いし、大きな可能性に満ちている。首を長くして真の「千葉競輪」の復活を待っています。

真の千葉競輪の復活を心待ちに…


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松井律の競輪・耳をすませば

松井律

Ritsu Matsui

松井 律(マツイ リツ) 記者歴30年超、日刊スポーツのベテラン競輪記者。ギャンプル歴は麻雀、パチンコ、競馬と一通りを網羅。競輪には10代の頃に興味を持ち始め、知れば知るほどその魅力に惹かれていった…。そのまま競輪の“沼”に引き摺り込まれ、今日も現場の最前線で活躍している。

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