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松井律の競輪・耳をすませば

変わりゆく競輪界ーー“懐古主義の自分”と“受け入れたい自分”/ベテラン記者・松井律の『競輪・耳をすませば』vol.1

2025/05/16 (金) 12:00 16

日刊スポーツ・松井律記者による競輪コラム『競輪・耳をすませば』。10代の頃から競輪の魅力に惹かれ、今も現場の最前線で活躍中のベテラン記者が、"競輪"について考えていることーー。さまざまな角度から競輪を読み解き、自由気ままに綴る連載コラムが今回よりスタートです。

 私の33年の記者生活の間に7つの競輪場が廃止になった。しかし、ここ10年で畳んだ場はない。ここ数年の競輪界は売り上げが回復し、廃止になると囁かれていた競輪場が、今では次々に施設やバンクを改修している。「競輪はあと10年と持たないよ」。こんな風に皮肉を残して去っていった先輩たちは、今ごろどんな思いでいるのだろう。

 この業界が元気を取り戻したのは、間違いなくネット投票の普及と、民間ポータルサイトの参入のおかげである。かつてGI決勝戦以外、UHFでしか見られなかった競輪(私はテレビ神奈川で見ていた)が、今はネットでどの場のどのレースもリアルタイムで見られる。ガールズケイリンや、ミッドナイト競輪から興味を持ってくれた新規ファンの方も多い。おかげで私たち記者の仕事も増えた。今はもう競輪がなくなる心配はしていない。いつか自分が働けなくなっても、きっと私は死ぬまで競輪を楽しめるはずだ。それに対する感謝の意味合いもあって、このコラムの執筆を引き受けることにした。

 変わりゆく競輪界。自分が付いていけない、理解しがたい部分も多々ある。まだボートレースと売り上げを競っていた古き良き30年前がいつだって懐かしい。だから、現代競輪の思考に抗ってしまう自分もいる。このコラムでは、なるべく正直に思いを語りたい。なるべくなら“老害”にはなりたくない。思いを吐き出すことで、懐古主義の自分と、新しいものを受け入れたい自分がバランスを取っていけるのではないかと思っている。

変わりゆく競輪界が向かう先は…(撮影:北山宏一)

 小学校の低学年のころ、英語塾に通う途中に小田原競輪場があった。塾の帰りに水色のキャップが付いたチビっこい赤鉛筆を拾うのが恒例で、自室のクッキーの空き缶には大量の赤鉛筆がパンチ穴の空いた外れ車券とともにストックされていた。もちろん当時は競輪が何かも分かっていなかったが、身近なものであったのは間違いない。

 ギャンブル歴は、麻雀が最初だった。自分には育ての親のような存在の大伯父がいて、週末になると私はその家に預けられた。私は遊び人の大叔父にすごく懐いていて、どこに行くにもくっついていた。友人の床屋で開かれる麻雀大会にも頻繁に付いていった。居間のテレビでナイター中継を見たり、床屋にある大量の漫画本を読んだり、ヒマを潰すには最高の環境だった。それでも飽きると、たばこの煙がモクモクした麻雀部屋に出向く。大叔父の膝の上で対局を見させてもらった。そのうち私は打ち方を覚えてしまった。

 中学になると、一部の悪ガキたちも麻雀をやり始めた。大叔父の英才教育? のおかげで、私はかなりの勝率をあげていたと思う。高校になると教育実習の大学生と雀荘で打ったり、下北沢や西荻窪のフリーの店に行ったが、そこでもまずまず勝てていた。その後もパチンコ、競馬などに興じたがトータルで負けない。若いころの自分は博才があると思い込んでいた。

 10代後半になると、競輪にも興味を持ち始めた。当時はヒラ開催でもお客さんの入りが数千人はいた。ゆっくり見ようと思ったら、スタンドの2階席や3階席に行かなければいけなかった。無料の出走表を見ながら、初めて生で見たB級戦が衝撃だった。自分と同世代の19歳の先行を51歳のおっさんがまくってしまったのだ。いくら自分で考えても競輪は理解が追い付かないし、当たらない。ところが、予想屋さんから500円で買った予想通りに買うと、2,000円が60,000円に化けた。これが沼の入り口だった。

沼の入り口に足を踏み入れてしまった…

 競輪は知れば知るほど面白くなっていった。なかなか的中率は上がらなくても、1年も真剣に見れば、後から競輪を始めた友人たちにうんちくを言えるぐらいにはなれる。

 そのままあっという間に30年以上が過ぎた。20代、30代は車券でしこたまやられたが、それでも競輪がイヤになったり、飽きたことは一度もない。記者歴は33年目となり、記者の中では機動型と言われた私も、競輪界の進化に戸惑うベテランになってしまった。毎月1回、このコラムでは競輪について思ったことを自由に発言していいらしい。自由に考えをつづれば、若いファンや選手とは意見が合わないことも多いだろう。ただ、競輪への一途な愛情だけは伝わってくれたらと思う。

 これからよろしくお願いいたします。


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松井律の競輪・耳をすませば

松井律

Ritsu Matsui

松井 律(マツイ リツ) 記者歴30年超、日刊スポーツのベテラン競輪記者。ギャンプル歴は麻雀、パチンコ、競馬と一通りを網羅。競輪には10代の頃に興味を持ち始め、知れば知るほどその魅力に惹かれていった…。そのまま競輪の“沼”に引き摺り込まれ、今日も現場の最前線で活躍している。

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