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【今年デビュー125期】卒記チャンプ・森田一郎「関東を代表する選手になれるように」/卒業記念インタビュー

アプリ限定 2024/03/14 (木) 18:00 14

今年デビューする第125回生(男子)と第126回生(女子)の卒業式が8日、伊豆市の日本競輪選手養成所で行われた。その卒業式前日、忙しいスケジュールの合間を縫って4名の候補生たちが取材に応じてくれた。3月12日〜15日の4日連続で公開する。今回は125回生の卒業記念レースを制し、チャンピオンとして名を刻んだ森田一郎のインタビューをお届けする。(取材・構成 netkeirin編集部)

卒業記念レースを制した森田一郎(写真提供:公財JKA)

卒業記念レースは予選1回戦に手応え

ーー卒業記念レースは優勝おめでとうございます。シリーズを振り返ってみていかがでしょうか?

森田 ありがとうございます。優勝できたことは嬉しいですし、何より無事に終われたことにホッとしています。

ーー予選1回戦と2回戦、準決勝、決勝の4走で一番手応えのあったレースはどのレースでしたか?

森田 最初のレース、予選1回戦です。みんな前々に動いていて、僕も前々にいましたが、叩かれて叩かれて中団から後ろになってしまいました。そんな中でも、慌てずレースを見極めることができ、ホームから捲りに行けた部分は良かったと思います。第1コーナーで押し上げられたりもしたのですが、そこでも踏み直すことができました。デビュー後にも同じような場面はあると思うので、そういう意味で納得できるレースができたと思っています。

ーー状況判断といえば、優勝を決めた決勝レースのイン捲りも見事でした。

森田 たしかに開いたところを見逃さずに行けたところは自分の判断なので良い部分でもありますが、前が開く開かないというのはその場の運によるところも大きかったと思います。そこは納得感としてはあんまり、ですね。

ーー優勝を決めたレースの中にも課題があったのですね。

森田 はい。デビューした後を考えれば通用しない走りだったと振り返っています。

ーーなるほど。それでも優勝という結果を手繰り寄せ、125回生の卒記チャンプになりました。

森田 はい。レースを走ってみての課題はありましたが、優勝という結果はうれしく思っています。とても名誉なことだと感じています。

ーー改めておめでとうございます。それでは「卒業を前に思うこと」という趣旨の質問に移らせていただきます。入所時と現時点を比べて、成長できたポイントを教えてください。

森田 ひとつは鉄(フレーム)の進ませ方ですかね。高校・大学の7年間はカーボンに乗っていたので、感覚を学ぶことができました。言葉が合っているのかわからないのですが、カーボンは筋肉的な面が大きいというか、筋力がある人ほど進むって感じがあります。でも鉄はそうではなくて、ただ踏むだけでは進みませんでした。どう踏めば良いのかと考えながら乗る点はすごく成長できたと思います。

ーー養成所生活の中で印象に残った考え方に出会うことはありましたか。

森田 今の話と重なるんですが、「どうやって鉄の自転車を進ませるか」に向き合うにあたって、久米康徳先生に一番助言をいただきました。僕の走りを細かく知っていただいて、的確なアドバイスを受けることができ、とても参考になりました。

第2回と第3回の記録会でゴールデンキャップを獲得(写真提供:公財JKA)

太田海也と中野慎詞を追走して「迫力に衝撃受けた」

ーー養成所生活で「一番の思い出」を挙げるとしたら、どんなエピソードが思い浮かびますか?

森田 すごく達成感があったのはジャパントラックカップへの出場です。僕はHPD(ハイパフォーマンスディビジョン)に所属しているんですが、HPDのみんなでジャパントラックカップに参加しました。本当にハードスケジュールでとても苦しい3日間だったんですが、みんなで助け合い、サポートし合って乗り越えられました。先生やナショナルチームのコーチ陣にもすごく助けていただいて。あの3日間は本当に達成感と充実感と感謝の気持ちで溢れていました。

ーージャパントラックカップではケイリン決勝に進出して太田海也選手や中野慎詞選手に続き3着で表彰台に上っています。すでに競輪とナショナルチームで活躍している選手たちとの対決はどうでしたか?

森田 間近で後ろを走って、その迫力に衝撃を受けました。外から中野さんが来ても太田さんは一切引かず、二人はスレスレの走行で前に踏み続けていました。内にいた太田さんはブルーバンド(※)に落ちるのではないかというところを走っていましたし、そもそも中野さんと太田さんの間にスレスレどころかまったく距離がない状態。そんな中で迎えたラスト、太田さんはインで踏み直して勝利しました。僕だったら一回引くことを選択すると思うし、ちょっとこれは真似できないと思いました。(※バンク内側のブルーになっている走行不可の部分)

ーー実戦で戦うことで学びがあったのですね。

森田 はい。あとでレース映像を見返しましたが、僕が選択したであろう「一回引く」をやると外に持ち出したところで捲れないし、勝つためには太田さんのあの走りしかなかったことも確認できました。ナショナルチームのコーチに感想を話していた時に太田さんは何があってもあきらめない選手だと聞きました。「どんな展開だろうが末着だろうが、ゴール線を通過するまで絶対に踏みやめない選手」と聞きました。このアドバイスは響きましたし、太田さんを尊敬しました。

太田海也(撮影:北山宏一)

ーー森田候補生は競輪とナショナルチームの二刀流でキャリアをスタートさせることになりますが、決断に迷いはありませんでしたか?

森田 迷いがなかったといえばそれは違うのですが、僕は器用ではないので、考えて決めようとすると思考の沼にハマってしまいます。だから何も深く考えずに、感覚だけを頼りに決断した形です。

“レースの組み立て”は誰にも負けたくない

ーー特定の「ライバル」のような存在には出会いましたか?

森田 山崎歩夢候補生や中石湊候補生の2人は意識していました。特に山崎候補生には第2回トーナメント競走で負けてしまって、それがとても悔しくて。それ以前も意識はしていましたが、それからさらに意識しました。第2回トーナメント競走が終わって卒業記念レースまで3週間ほどでしたが、練習を見つめ直して最終調整をきっちりしました。これは山崎候補生の影響を受けてのもので、自分の置かれている立場を再認識するきっかけになりました。

ーー森田候補生はゴールデンキャップを獲得していますし、200m、400m、1km、3kmと記録会で好タイムを打ち出しています。中でも今後強化していきたい部分はありますか?

森田 競輪のレースを想定して考えてみて1kmはもっと強化していきたいです。今後は長い距離をしっかりと踏んでいくことが課題になってくると思うので、そこを強化していきたいです。

ーーなかでも得意としている距離は?

森田 得意と言えるものはありません。本当にまだまだだと思っています。タイムの面ではさきほど名前を挙げた山崎候補生や中石候補生がベストな状態であれば負けてしまうと思いますし、僕はダッシュ力がありません。1kmを強化したいと言いましたが、200も400も必要ですし、全部の力を上げていく必要を感じます。

ーー誰にも負けたくないポイントはありますか?

森田 レースの組み立て、でしょうか。他の候補生に比べて脚がないとしても負けるわけにはいきませんから、足りないところがあっても組み立てでカバーしたいと思いますし、その部分は誰にも負けないように強化していきたいです。

ーーいよいよ卒業という今、デビューを見据えて期待と不安の割合はどんな感じでしょうか?

森田 期待が3割ぐらい、残り7割ぐらいが不安です。

ーープロ生活で楽しみにしていることはありますか?

森田 これまでは頑張る先に結果しかありませんでしたが、プロとして走ることで賞金をいただくことができます。お世話になった方々、家族や地元の友達と今までとは違う恩返しの材料が増えるのは楽しみに思います。

座右の銘「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」を胸に戦っていく

ーー目標にしている選手や参考にしたい選手はいますか?

森田 同門の森田優弥選手です。僕は競輪のレースで一番大切なのはラインではないかと思っていますが、森田選手はタテもヨコもできて、本当にラインに貢献するような“競輪の走り”ができる選手だと思います。タテに、タテに踏むレーススタイルが主になってきていると思いますが、森田さんの走りには目指すべきものがあると感じています。とても尊敬しています。

森田優弥(撮影:北山宏一)

ーー競技方面ではどうでしょうか?

森田 (朝日)大学のOBでもあるナショナルチームの小原佑太選手も尊敬しています。タテ脚があってかっこいいです。僕が大学生のときに全日本選手権に出場した時に小原さんはナショナルチームで出場していました。その頃から交流していただいています。

ーー小原選手とは大学の先輩・後輩なんですね。

森田 はい。僕は第1回トーナメント競走で優勝することができたのですが、その時に乗っていたフレームは小原さんからいただいたものです。感謝と恩を感じています。

小原佑太(写真提供:公財JKA)

ーーデビュー後のキャリアプランを思い描いたりしますか? 具体的に狙っている目標などをお聞きしたいです。

森田 GIタイトル獲得やグランプリの優勝が目標です。特に僕は競輪祭の舞台がかっこいいと思っているので、競輪祭を優勝したいです。

ーー好きな言葉とか座右の銘はありますか。

森田「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」という言葉を学生時代の頃から大切にしています。とても競輪にぴったりな言葉で、1走1走が命懸けですし、身を捨てて走ることで後から結果がついてくるのではないかと思います。今後も大切にしていきたい考え方です。

ーー森田候補生は競輪のどんなところが好きですか?

森田「競輪にしかできないレースがあるところ」ですね。レースでラインの先頭で先行するとして、後ろの選手が守ってくれるからって想定して、自分が持つ距離よりも早いタイミングで駆けてったりするじゃないですか。それって競輪だけの面白さだと思います。後ろの選手の「4角までは誰も出さん!」って気迫も見れますよね。そういうラインの役割がバッチリハマってゴール線を通過すれば達成感あるだろうな、と見ていて思います。「後ろを信じて前を信じて」みたいな要素が好きです。選手の情が感じられる競技は他にないと思います。

ーーそれでは最後に125回生に注目しているファンのみなさまへひとことメッセージをお願いします。

森田 僕自身、強い選手という自信はないんですが、命をかけて誠心誠意、一生懸命車券に貢献できるように頑張ります。ゆくゆくは埼玉の偉大な選手の前で先行したり、関東を代表する選手にもなりたいと思っているので、応援よろしくお願いします。

冷静と情熱を備えた卒記チャンプ森田一郎「関東を代表する選手になれるように」

「今の言葉で質問の答えになっていますか?」などインタビュアーにも配慮があり、落ち着いた態度と的確な言葉選びで取材に応じてくれた“クールガイ”森田一郎。質問と応答のキャッチボールがスムーズに進む中、「自転車」や「レースの解説」、「競輪の面白いところ」、などの話題になると声がワントーン上がる。自分が打ち立てた功績にはひたすら謙虚という感じで「まだまだです」と課題ばかりを口にしていたが、先輩選手のすごいところや競輪の面白味を語る森田一郎は身振り手振りも多くなり心底楽しそうに話をする。卒記チャンプの称号をひっさげて現場へ乗り込み、最前線へと飛躍していく姿を早く観たい!

■卒業記念インタビュー公開スケジュール
・3月12日(火)18時00分 中石湊
・3月13日(水)18時00分 山崎歩夢
・3月14日(木)18時00分 森田一郎
・3月15日(金)18時00分 高木萌那

■125回生「ルーキーシリーズ」スケジュール
・5月3日〜5日 富山競輪
・5月10日〜12日 平塚競輪(ナイター開催)
・5月24日〜26日 函館競輪(ナイター開催)
・5月31日〜6月2日 松山競輪(ナイター開催)

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