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【今年デビュー125期】若きホープ・中石湊「“完璧”を求めて10か月、誰にも負けない気持ちで練習した」/卒業記念インタビュー

アプリ限定 2024/03/12 (火) 18:00 21

今年デビューする第125回生(男子)と第126回生(女子)の卒業式が8日、伊豆市の日本競輪選手養成所で行われた。その卒業式前日、忙しいスケジュールの合間を縫って4名の候補生たちが取材に応じてくれた。3月12日〜15日の4日連続で公開する。初回となる今回は125回生ナンバーワンの呼び声も高い“ザ・規格外候補生”中石湊のインタビューをお届けする。(取材・構成 netkeirin編集部)

中石湊(写真提供:日本自転車競技連盟)

「自分はナンバーワンじゃない」在所期間は“完璧”を求め続けた

ーー入所時と現時点を比べて、成長することができたポイントを教えてください。

中石 入所前は鉄フレームに乗る機会が少なかったですが、入所してからは鉄フレームに向き合う時間が多くなりました。その中で乗り方だったりレース展開の流れだったりを学べたので、競輪の基本というか「漢字の競輪」について経験を深められたと思っています。

ーー中石候補生はナショナルチームの強化指定選手ですが、ケイリンと競輪の競技性、機材に対する感覚をどのように捉えていますか?

中石 自転車への力の伝え方が違うので、ちょっと乗らなかっただけで感覚が狂ってしまうことがあります。

ーー卒業記念レースの前にはインド・ニューデリーでアジア選手権トラック2024に遠征しています。この行き来も難しかったのではないでしょうか?

中石 そうですね。感覚の違いに苦労しましたし、卒業記念レースもああなってしまって…。でも、そういうところに自分の弱さや未熟さがあるのだと勉強になりました。それでも入所前と比べれば、感覚の面ではかなり良くなっています。

鉄フレームと徹底的に向き合った(写真提供:公財JKA)

ーー中石候補生はゴールデンキャップを獲得し、3回行われた記録会のタイムを分析してみても他の候補生に比べて突出した好タイムを持っています。「自分が1番」という感覚で過ごしていましたか?

中石 いいえ。たしかに距離別のタイムで自分が1番というものもありました。でも、すべて1番ではありませんでした。自分は完璧になりたいんですけど、完璧じゃないとわかっているので、『完璧』を求めて10か月間、誰にも負けない気持ちで練習しました。それに、自分よりも優れているポイントを持っている候補生にも出会いました。

ーー誰か名前を挙げられる候補生はいますか?

中石 例えば卒業記念レースを制した森田さんはタイムもいいですし、レースの組み立て、レース勘とかだってすごい。森田さんだけではなくて、ほかにも自分よりも優れたものを持っている候補生がたくさんいたので、完璧に近づくために、見たり聞いたりを繰り返しました。

ーー完璧を求めて候補生同士で切磋琢磨したのですね。

中石 はい。でもやっぱりお互いにライバル同士でもあります。知りたいことがあっても、自分のことをライバルに感じてくれて、聞きたいことを話してくれない候補生もいました。その時は目で見て盗むようにして、自分の弱いところを強化しました。

ーー特定の「ライバル」のような存在には出会いましたか?

中石 自分の場合はレースで先行してくる相手が全員ライバルと考えていました。「誰が来たってどんな展開だって叩いたる!」と思って走っています。レースでの主導権を絶対に譲りたくないので、競走で一緒になって先行する選手、主導権を獲り合う選手は全員ライバルでした。だから特定のライバルはいません。

自分に対して「もっといいレースしろよ」って感情をプロになるまで忘れない

養成所では第2回と第3回の記録会でゴールデンキャップを獲得(写真提供:公財JKA)

ーー養成所生活の中で印象に残った言葉や考え方に出会うことはありましたか。

中石 教官に「悔いなく走れ」みたいな意味の言葉をたくさんもらいました。訓練でいただいた「自分の走りをしろ」という言葉は印象が強いです。

ーー「養成所時代の思い出」を挙げるとしたら、どんなエピソードが思い浮かびますか?

中石 昨年末は冬帰省がなかったんですが、30日に全候補生で教室に集まり「KEIRINグランプリ2023」をテレビ観戦したんです。教官の協力のもと、各自やっていることを一旦切り上げて、みんなで同じ場所で観ることができました。これが新鮮な雰囲気で思い出に残っています。

ーーレースを観て盛り上がりましたか?

中石 はい、とても盛り上がりました。レース前には「こういう展開ならこの選手にチャンスがある」とか「こういう展開ならこの選手は苦しいかもしれない」とか意見を言い合いながら観ました。それが面白かったです。

ーー明日の卒業式を終えると、いよいよプロデビューに向けて動き出します。いま抱えている期待と不安の割合はどれくらいでしょうか?

中石 たしかに期待もプレッシャーも感じますが、デビューを楽しみにしています。不安という表現ではないのですが、卒業記念レースを終え、自分に対して課題を見つけています。卒業記念レースは応援してくれる人が多く、本番同様の環境でした。そんな中で自分はいつも通りのちょうどいい緊張感で走れず、筋肉まで緊張してしまったんですよね。この課題は克服したいです。

ーーなるほど。

中石 もっと力をつけないと、と思います。自分に対して「もっといいレースしろよ」って思います。この感情はプロになるまで忘れないと思いますし、気持ちを力に変えて挑みたいです。

ーーこれからデビューするまでに特別強化したいポイントは?

中石 今回、卒業記念レースで本番同様の環境で走って気づいたことがたくさんありました。プロになれば何度も開催があってそれがずっと続いていくので、どんな状況でも、安定した先行力だったりダッシュ力だったり、パフォーマンスの安定性が求められると思いました。そこをより意識したいです。

ーー「パフォーマンスの安定性」ですか。

中石 はい。今回の卒業記念レースの前、練習していても自分の感触が良い感じでは終われていなかったんです。やっぱり自信をつけるのは練習です。「絶対に強くなれる練習」を自分で考えてメニューを組んで、それを積み重ねて、自信をつけてレース本番に臨みたいです。練習の段階から自信をつけることが本番での安定性に繋がると思っています。

いずれ先行力で“イチバン”になりたい

中石湊はナショナルチームの強化指定選手(写真提供:日本自転車競技連盟)

ーー話は卒業記念レースの前にさかのぼりますが、2月下旬に行われたアジア選手権トラック2024ではチームスプリントで金メダル、1KmTTでは銀メダルを獲得しました。はじめてエリートカテゴリで出場した国際試合を振り返っていかがですか?

中石 自分は1KmTTが好きなのでメダル獲得できたことは嬉しかったですが、1位と差があったので、その差を埋める脚力を付けたいと思いました。でも先輩たちと走ったチームスプリントで金メダルを獲れたのは良かったです。自分は3走だったんですが、ゴールを切る重要な役割があるので、先輩たちの足を引っ張れないプレッシャーがありました。そのプレッシャーの中で実力を発揮することができた点はレースを通じて進化できた手応えもありました。

ーー中石候補生の一番の強み、誰にも負けたくない部分はどういったところでしょうか。

中石 自転車競技だと1KmTTは誰にも負けたくないです。競輪ではダッシュ力と持続力を活かした先行力が武器です。まだ自分よりも強い人はたくさんいますけど、いずれ先行力でイチバンになりたいと考えています。

ーー今後は競輪選手としてデビューしつつナショナルチームの活動も並行すると思いますが、この“二刀流”を決断する時に迷いはなかったですか?

中石 ありませんでした。鉄とカーボンでは踏み方も違いますし、感覚の違いに難しさはあります。でも自分が持っているポテンシャルで自転車を進ませるという根本は一緒で、共通する部分も数多くあります。若いうちにどんどん情報を取得したいので、良い環境だと思っています。二刀流は厳しい部分もありますが、それは乗り越えたいと思っています。

ーー目標にしている選手、スタイルを参考にしている選手はいますか?

中石 師匠の大森慶一さんは追い込みですが、判断力やレース勘といった部分を参考にしています。憧れがあるので、よくレースを見ていますし、勉強しています。あとは自分のスタイルは先行なので、ナショナルチームでGIにも出ているような中野慎詞さんや太田海也さん、小原佑太さんの走りは参考にしています。特に中野さんと太田さんは121回生で自分と期も近く、走っている姿を意識して見ています。

ーープロデビュー後に達成したい目標を具体的に教えてください。

中石 自転車競技と競輪で2つ持っています。競技ではオリンピックの個人種目で優勝できる選手になりたいです。競輪ではKEIRINグランプリでの優勝です。僕は高校生のときに静岡のグランプリを観に行ったんですけど、選手入場前からバンクからオーラが出ていて緊張感も半端じゃなくて、とにかく迫力を感じました。動画では伝わらない生の迫力です。そしてレースが始まるとその迫力は倍以上になって。そんな中で僕が観たレースでは古性選手が優勝したんですけど、その姿を見て、こんな雰囲気の中で優勝したいと強く思いました。それからずっと目標にしています。

ーー中石候補生は競輪のレースで、どんなところに一番の魅力を感じますか?どんな部分をファンに見てもらいたいか教えてください。

中石 やっぱり競輪選手一人ひとりの思いがレースに出るところです。レースを見ていて、選手の気持ちがわかる面白さに魅力があると思います。いつも先行している選手が勝ちにこだわって捲りに構えたり、いつも捲りに構える選手が先行に打って出たり。その時その時の選手の考えていることが表れるのが好きです。僕は先行にこだわりを持って走っていきたいので、ファンのみなさんには先行する姿を見てもらいたいです。

ーー今日のインタビューで先行に対するこだわりがとてもよくわかりました。

中石 はい。卒業記念レースを走っていた自分もそうですが、先行する選手にはひと踏みひと踏みにその気持ちが込められているんだな、と改めて感じました。本番環境で先行にこだわって勝負して色々と想像することができました。グランプリみたいな大舞台で、偉大な選手を後ろに背負って先行していくことはかなり気合が必要なんだと思います。そういうことを知った上で、自分のスタイルを追求していきたいです。

ーーそれでは最後に125回生に注目しているファンのみなさまへひとことメッセージをお願いします。

中石 デビューしたらA級戦をしっかりと先行して勝ち上がって、北海道の先行選手として北日本を背負える選手になりたいと思っています。選手側から見てもお客さん側から見ても納得してもらえるように自分らしい走りを貫いていきたいです。自分はファンの方との一体感を求めているので、応援してもらって、僕はそれに応えて、一緒に這い上がっている感覚になってもらえるように頑張りたいです。応援よろしくお願いします!

「自分らしい走りを貫いていきたい」と力強く語った中石湊

 中石湊は“規格外の候補生”として入所段階から注目を集めていたが、他の候補生を見て自分よりも優れているポイントがあると思えば、質問を投げ、取り込み、10か月間とにもかくにも「完璧だけ」を求めたそうだ。在所時代から国際大会でメダルを獲るほどの19歳だが、まるで驕りは見られず、「向上心の塊」といった雰囲気を漂わせていた。競輪と自転車競技の両軸で奮闘していく中石湊の姿をこれからも楽しみに追いかけていきたい。

■卒業記念インタビュー公開スケジュール
・3月12日(火)18時00分 中石湊
・3月13日(水)18時00分 山崎歩夢
・3月14日(木)18時00分 森田一郎
・3月15日(金)18時00分 高木萌那

■125回生「ルーキーシリーズ」スケジュール
・5月3日〜5日 富山競輪
・5月10日〜12日 平塚競輪(ナイター開催)
・5月24日〜26日 函館競輪(ナイター開催)
・5月31日〜6月2日 松山競輪(ナイター開催)

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