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「競輪を科学する」定量的に競輪を捉え続けて24年『遠山競輪研究所』って?

2023/12/07 (木) 12:00 21

「競輪を科学する」のキャッチフレーズを掲げて2000年に産声をあげた『遠山競輪研究所』をご存知だろうか? 研究所所長の名前は遠山浩氏(63)。出身は熊本県八代市という。『KEIRIN.JP』誕生以前の2000年から『電子競輪新聞(URL:http://toh.to/)』を立ち上げ、熱狂的な競輪ファンのハートをガッチリつかんできた。現在はWEBサイト『Gamboo(URL:https://gamboo.jp)』で独自のデータを展開している遠山氏だが、いったい彼は何者なのだろうか。netkeirin編集部が直撃取材を敢行した。(取材・構成:netkeirin編集部)

遠山浩氏

人生を変えた3つの出会いと別れ

 元々はギャンブルが大好きで、数字にも明るかった遠山は20歳のときに出会った“競輪”に惹かれていった理由をこう語った。

「熊本の水前寺にある野球場に行くことがあったのですが、隣の競輪場から鐘の音が鳴り、声援が上がって。“なんだなんだ”と吸い込まれるように向かってみたのがはじまりです。で、競輪の新聞を買ったら数字だらけなんですよね。はじめてだから何が書いてあるのかさっぱりわからなくて(苦笑)、その意味を知りたかった。理系のギャンブルなんだなと思いました。仕事は半導体メーカーでした。元々九州での採用だったのですが、2年間だけ川崎に転勤していて。川崎にいたころは競馬、競輪をよくやっていましたね。現地で飲むビール、現地で食べるチキンの味は今も忘れないです」

再建工事中の熊本競輪場

 大手半導体メーカー勤務、そのなかでも出世が早く、絵に描いたようなエリートコースを歩んでいた遠山だったが、その人生を変える転機が訪れたという。

「これご存知ですか? 『競輪マクリ読本(宝島社・1996年)』。執筆者の一人須田鷹雄さんがこう書いていたんです。“競輪新聞の予想文はパターンが決まっている”って。だとすると、競輪新聞は自動で作れるんじゃないかと。競馬予想ソフトは当時いくつかあったのですが、競輪は出ていなかった。競輪データ予想だけじゃなくて、競輪予想新聞を自分で作ってみようかなって」

 続けて、「ノストラダムスの大予言ってあったじゃないですか。1999年の7の月に空から恐怖の大王が降ってきて人類が滅びるかもしれないって。でも99年8月になっても人類は滅亡しなかった。ちょうど親父が亡くなったのも1999年で、いろいろなものが重なったこともあって、“これは第二の人生が始まるな”と、直感的にそう感じたんです」。

2000年にインターネット競輪予想新聞『電子競輪新聞』がスタート

 大手半導体メーカーを辞め、競輪で食べて行くことに対して家族の反対はなかったのだろうか。

「それがなかったです。共働きだったのですが、会社勤めのときは育児に参加できていなかったのですが、辞めてからは子どもと過ごす時間がたくさん取れましたから、むしろ会社で働いていた時より楽しかったですね。競輪予想新聞を作れば売れるという自信もありましたし、嫁さんの稼ぎで生計を立てつつ、自分はバイトでもしながら、車券の予想プログラムでも作ろうかな、ぐらいの感じでいました(笑)」

 家族の協力・理解を得た遠山は2000年に『電子競輪新聞』をスタートさせた。

「当時の競輪はナイターも少なかったなかったですから、前日18時にはほとんど全国の競輪場の出走表が出ていました。なので、前日19時には販売を開始していましたね。あの頃は電子競輪新聞以外に、詳細データが掲載されている出走表が他になかったので、需要はかなりありました」

 遠山の競輪予想研究はとどまる所を知らない。

「『電子競輪新聞』では、付加情報が重要でした。過去戦績に色をつけ選手のタイプがわかるようにしてあります。赤は逃げ、青はマクりの決まり手となっています。所属府県と選手の並びで、選手の能力とラインの固さがわかるようにしてあります。ただ、競輪は、選手のレースにおける強さを認識するのが難しかった。選手成績、ライン、展開、バンク特徴、九星などのデータを有効に使って、どういう重み付けをした予想が良いかを統計的に作りたかったですね。九星と選手の強さの相関関係はどのくらいなのか。究極の車券予想ソフトを作りたい一心でした」

競輪、それはなかなか解けない奥深いパズル

 そんな『電子競輪新聞』は2018年にその役目を終えるが、次なる構想があるようだ。

「売上が下がってきたから閉じました。2017年に『Gamboo』さんから声をかけていただいたこともありますし。詳細はお伝えできませんが、新しい構想もあります。“神はサイコロを振らない”、そうアインシュタインが量子力学を批判して言いました。ですが量子力学は常識となりましたし、『シュレーディンガーの猫』じゃないですけど、競輪もフタをあけてみるまでわからないわけですよ。分析データとお客さんの好みで”最適なサイコロ”を用意し、その“サイコロ”をお客さんに振って予想してもらう。そんなサービスができたらいいな、と考えているところです」

 夢や未来についてはどのように考えているのだろうか。

「究極の夢は車券で食べていくこと。それをかなえるための方法を模索しているところですね。統計分析はpythonが簡単にしてくれました。生成AIは私の優秀なアルバイト」

 最後に遠山にとって競輪とはなんだろうか。

「なかなか解けない奥深いパズルが競輪。で、それをずっと解き続けているのが自分。そういう関係としてとらえています。競輪の好きなところは、データとして面白いところですね。人情味のあるところも好きですが、人間っぽいところはデータには使っていないです。

 在校時成績データから活躍を予測する競輪データ分析を行っているのですが、85期の活躍推測ランキングでは在校順位4位の中川誠一郎がダントツでした。ちょうど『電子競輪新聞』と同じ2000年デビューでしたし、同郷ですし大好きな選手ですが、車券はまた別の話ですから(笑)」

『電子競輪新聞』と同期の中川誠一郎(撮影:北山宏一)

難しい統計分析をパズル、サイコロというわかりやすい表現で説明してくれた穏やかで優しい初老の紳士、遠山氏。「競輪を科学」し続けるそのプロセスはとてもチャレンジングで、前向きな知恵が創出されているものだった。

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