アプリ限定 2023/05/09 (火) 12:00 109
平塚競輪場で開催された「第77回日本選手権(GI)」は山口拳矢(27歳・岐阜=117期)という英雄の誕生があり、1番人気を集めた脇本雄太(34歳・福井=94期)は決勝で7着という結果に終わった。
脇本からすれば、自身が危惧していた事態に敗れた形だ。自身のコラムに書いてあった、清水裕友(28歳・山口=105期)、松浦悠士(32歳・広島=98期)の前に犬伏湧也(27歳・徳島=119期)や町田太我(22歳・広島・117期)が前にいることへの警戒。それを目の当たりにした。雨、という事象も影響したかもしれないが、やはり強力な2段駆けの力に屈した。
「犬伏を決勝に乗せてはいけなかった」
脇本の決勝後のこの振り返りが、物語をさらに前進させよう。アルティメットクラッシュスタイルの男は、より違う段階に進む。
競輪、GIでは基本的に9人の選手が、まずトーナメント式に決勝への勝ち上がりを競う(ポイント制もある)。準決でいえばほぼ3つのレースに分かれるスタイルで、違うレースに入った選手はある意味、その時点では戦う相手ではない。出走する一つのレースで結果を残すことが、すべてに見える。
しかし、ワッキーはその次元を超えていくのだろう。「誰が勝ち上がっていくか」、「決勝の9人に残るのか」すら支配しようというのだ。この発想はコンプリート主義者のゲーマーのワッキーだから、ではなく、実は以前から存在はする。ただし、行うことは簡単ではない。
あるGIの一次予選。北日本の若手が先行していた時に、3番手にいた他地区の追い込み選手が早めに踏み込み「あの若手を勝ち上がらせると後々厳しくなる」と、着外に沈めるようにしたこともある。
また南関の強力自力選手ががカマして、九州の自在選手が番手にハマった時のこと。記念の準決勝だった。落ち着いてかわして1着を狙いそうなところを、3角辺りからかわしにいって、後続をズラリと連れ込んだ。「決勝に乗せるとろくなことはないから」。ごくたまにそこまでやる、やれる選手を見てきた。
同地区の選手、ラインを組む選手は基本的に味方だが、最終的には最後の一つの椅子を競いある敵になる。1対161といえば大げさになるが、最後はそこだ。勝てなかった理由を模索し、それをつぶしていく。
決勝を終えた後のワッキーは、悔しさを現わしつつ、裏面に突入した顔をしていた。
ファミコンの名作ゲーム・「ドラゴンクエスト3」ではバラモスというボスを倒した後、その先に格段に強い敵が揃う面に進行する。スーパーファミコン版ではその先すらある。競輪は容量が指定されていなければ、堀井雄二もいないので、終わりがない。
クリアできるかどうかも分からない戦い。それをクリアすること、しかもどうクリアするか。いくつかの不安要素を残しながら、でなはく、絶対に勝てる状況で進めていけるのか。
恐ろしいまでの戦いぶりを、また見ていきたい。
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前田睦生
Maeda Mutuo
鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。