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松浦悠士の“真っ向勝負!”

【松浦悠士のレース回顧】近況は「情けない限り」この鬱憤を晴らせるのは自分自身だけ

2023/03/08 (水) 10:00 29

 みなさんこんにちは、松浦悠士です。今回は静岡記念「たちあおい賞争奪戦(GIII)」と高知競輪「読売新聞社杯全日本選抜競輪(GI)」のレースを振り返りたいと思います。納得のできないレースばかりでしたが、しっかりと事実と気持ちをコラムに記していきたいです。

今年最初のGIへ参戦した松浦悠士選手(撮影:島尻譲)

「感触は悪くないのに」勝てなかった静岡記念

 まずは静岡記念を振り返ります。豊橋記念終了後の練習でも感触は悪くなく、スピードも元に戻して開催に入ることができていたので、「状態が悪くて成績が残せなかった」というと、それは嘘になるというのが正直なところです。

 ただ唯一、踏める距離に難があったのは事実で、2日目の二次予選はそれが顕著に出てしまいました。野口さんとの踏み合いになり消耗も激しいレースになりましたが、もがき切れる距離だと見込んでの仕掛けだったので、航続距離や持久力といった部分に本来の力が出せていないのだと痛感しました。

 また、翌日の準決勝も展開を考えれば2着にはなるべきレースでしたし、体の状態は戻していけていると考えている中でも「これが悪い状態ってことだよな…」と思わざるを得ない結果だったと受け止めています。レース中は町田君の後ろで彼の成長を感じ、「戦法の引き出しが増えているな」と感じて走っていただけに、とても悔しい一戦となりました。

準決勝で同県広島の後輩・町田太我選手と連係(撮影:島尻譲)

気合十分の裕友を見たシリーズ

 最終日の決勝はレースがとても難しかったです。連係した裕友と僕は細かい作戦こそ話し合うことはないのですが、裕友は飛びつくことも視野に入れた踏み方をしていましたし、僕も状況に応じて南関3番手の郡司君や4番手の佐々木君の位置に当たっていく気持ちで走っていました。でもその策を許さないほどのスピードで渡邊雄太君も駆けていましたし、とにかく南関4車が強力でした。

 最終的には勝負どころで入りたいコースに入れず、踏む場所がなかったことが敗因であり、自分の踏む場所を確保するべきだったと振り返っています。今開催は初日と最終日に裕友と連係しましたが、すごく気合が入っている走りを感じました。良い意味で「ここで行くのか!」と思う場面もあり、連係する中で新鮮な気持ちにさえなりました。個人的には納得できるレースもできず、お客さんの期待にも応えられず、悔しかったです。早く「手ごたえを感じながら走れるように」と課題を持って広島に帰りました。

連係した清水裕友選手の走りに気合を感じた(撮影:島尻譲)

原因不明の「眠れない夜」を味わった全日本選抜

 続いて本当に苦しいシリーズになってしまった全日本選抜を振り返ります。前検日に会場入りした際はかなり気持ちが入っていて、「結果がダメでも自力を出して仕掛けていくこと」を初日のテーマに据えました。しっかりと自分の力を出して戦うことで、たとえ負けたとしても、自分の状態面も対戦相手の状態面もわかることがあります。

 それにも関らず気持ちが空回りして判断ミス…。仕掛けるタイミングを逃してしまいました。そればかりか脚がたまっていたのに力を出し切ることもできずゴール。とても不甲斐ないレースをしてしまいました。「自分は一体何をしているんだろう」と愕然としました。

初日、設定したテーマを達成できなかった(撮影:島尻譲)

 レース後は心を整理して切り替えていたつもりでしたが、なぜか眠れませんでした。「悔しい! 眠れない!」というハッキリした感情ではない不思議な感覚がありました。もちろん「明日から頑張ろう」と気合を入れ直していましたし、カフェインを摂っていたわけでもありません。緊張もしていないし、むしろ2日目の番組は犬伏君と岩津さんと一緒だったので安心感すらありました。睡眠に悩まされるタイプでもないのに、一向に眠れなかったです。

 そんなわけで2日目は起き抜けに疲労が抜け切っていない寝不足状態。ただ、体へのダメージという意味では、それほど感じなかったので、リズムこそ狂ってしまいましたが、その点はよかったです。

 レースは犬伏君が1周半の抑え先行をしてくれたので、僕は絶対に小松崎さんを止めなくてはいけない役割がありました。ここはきっちり自分の仕事ができ、ライン上位独占に貢献できたと思います。もっとも、僕から買ってくれたお客さんの多さも理解しているので、1着を獲るべきレースであり、「体はもっと動いたはず」「直線の余力も残せたはず」と反省しています。でもGIの勝ち上がりでライン上位独占できたこと自体は悲観していません。「明日からはもっと状態を上げなくては」と気持ちを入れ直すことができました。

犬伏湧也選手と岩津裕介選手と連係した二次予選はラインで上位独占(撮影:島尻譲)

1着を意識し過ぎた結果

 そして3日目。アップ中にフォームに関する異変に気が付きました。僕のフォームは内側に力を絞っていく感じの意識で作っているのですが、右腕を内側に入れ過ぎていて、ロックしてしまっていたんです。リラックスしていなければならない部位ですし、右腕が固まっていては体をうまく使うことなどできません。この気づきを得たことで、準決勝は「修正して戦えるぞ」といった良い感覚の中で走ることができました。

 連係した町田君の仕掛け方も良い感じでしたし、ホームで踏み上げていた時には「もう一段上がっていきそうだ」と考えていました。でも、さらに踏み上げて行けるのか? どこまで行けるのか?と一瞬だけ状況判断に迷っていたタイミングで新田さんに行かれてしまいました。しかも僕は内に締め込まれてしまい、かなり展開は苦しくなりました。高知のバンクはカントがないので内に締め込まれると難しくなります。これが勝敗を分けた1つ目のポイントです。

 しかし、フォームの異変にも気が付けたことでこの準決勝では体もよく動きましたし、最終バック付近からの攻防もあきらめずに走っていました。でも、この「あきらめずに」の部分に勝敗を分けた2つ目のポイントが潜んでいました。「まだ1着は獲れる!」と慎太郎さんの横の位置まで上がったんですが、「勝ち上がりさえすればいい」と考えるなら新田さんと慎太郎さんの後ろの3番手に引いて勝負しても良かった気がします。『貪欲に1着だけを目指すことで確定板を逃してしまう』ことはレースではたまにあることです。このレースはまさにそんな感じで「勝ちに行ったから勝ち上れなかった」とも振り返っています。

 いつもこういったレースで競輪の難しさを痛感します。たとえレース分析ができても「前回の件もあるし無理せず1着は狙わない。とりあえず2着3着をめがけて走ろう」なんて心境は持てないですし、このレースに限っていえば「新田さんも強いから姿が見えたらすぐに番手から出ちゃおう」ってことも当然できないです。2つの敗因を見つけて、思うことは「迷いのないレースをするべきだった」ということ。勝ち上れなかったのは新田さんが強かったことに他なりませんが、自分のやるべき走りをできなかったことは忘れてはいけない反省点です。

1着だけを目指した結果、良くない展開に身を置くことにもなる(撮影:島尻譲)

フラストレーションが半端ではない

 最終日は体の感触もだいぶ良くなっており、絶対に勝利で終わりたかったのですが、あのレースは「松井君が強かった」の一言に尽きるレースでした。3日目までの風と違い、かなり強い風が吹いていましたし、打鐘過ぎからペースも早く、「そんなに踏む? どこで緩めるかだな」とレースを読んでいました。松井君の踏み込みは、その上をたたくことを躊躇してしまうような勢いでした。

 僕も踏み込んだ感触が良く、勝負どころでは松井君と連係した松谷さんの横までは行くことができ、十分に勝ち負けできる走りができていたと思います。2センターくらいから追い風でしたが、それを差し引いても松井君の最後の一伸びは凄まじかったです。

 全日本選抜を終えて、長い距離をうまいペース配分で踏める自力型選手が台頭している印象を持っています。ここ最近では「逃げ」の選手の成長や強さが目立つレースも増えたように感じています。一時期は「駆けたら捲られてしまう」といったレースをしていた選手にも変化が見られますし、この競輪の変化には順応していかなくてはなりません。

 それにしても本当にフラストレーションがたまる開催になってしまいました。最終日まで高知バンクの攻略もできなかったばかりか、勝ち負けは置いておいても「自分自身が納得できるレース」ができていません。これはとても悔しいことであり、今すぐにでもレースを走って取り戻したい気持ちがあります。今すぐにでも戦いたいです。(と考えていたら松山記念の追加が入りました!)

フラストレーションも闘志に変えて戦う(撮影:島尻譲)

読者の方から寄せられた質問に答えます

 それでは今月も質問に答えていきたいと思います! 今月は3問の質問に答えていきます!

今回は3つの読者質問に真っ向勝負!(撮影:島尻譲)

ーー街道練習の成果を口にする選手を多く見かけます。具体的にどのような効果があるのでしょうか?

 街道はバンクよりも重たいので「踏み込む力」が養われると思います。また「V」と言って下り坂から上り坂になるような道で練習をすると、自然の中で走ることを体に染みこませることもできるので、こういった点も良い効果を得られます。デメリットはバンクを走る技術が身につかないところですね。最近は街道練習をすることもなくなりましたが、僕も昔はよくやっていました。

ーー松浦選手は体調や調子に合わせてセッティングを変えているイメージがありますが、今までに「これだ!」と思ったセッティングはありますか?

 体調や調子に合わせてセッティングを変えることはあまりないですね。どちらかというと季節や時期によるバンクコンディションに対応できるように微調整したり、あるいは体の使い方を変える時にセッティングも変えたりするイメージでやっています。

「これだ!」と記憶に残っているようなセッティングは2年前の豊橋記念の初日特選レースです。これは深谷さんを捲ることができたレースで、特に印象に残っています。またセッティングだけではないのですが、すべてが噛み合っていた感覚になったのは2019年の全日本選抜です。裕友が優勝したこともあり、この時の感覚はここ数年で一番良かった気がします。

 ただ自転車は奥が深く、同じ材質・同じ寸法でフレームを作っても個体差を感じるので、その時その時で「踏んだ感触」は変わります。そこを調整して、さらにはセッティングだけでなく体調などすべてが噛み合って、はじめてレースで活きるものなので、「これだ!」と思う感覚に至るまでに苦労があります。

ーーSSになった年と今を比べて変わってきたことはありますか?

 はじめてS級S班になったころに「赤パンいいな〜」みたいな感じでテンションが上がって新鮮な気持ちになったのですが、今は「赤パンいいな〜」と思っても、当然ですが新鮮には感じていません。そのくらいでしょうか。レースに対する意識は特別変わっていないと思います。

 強いて言うなら自分がやりたい走りだけをやれない感覚は増えたかもしれません。「SSだから勝つ可能性を最優先しなくては」の“SSだから”を味わって、多少の意識変化はありますかね。でも多少の変化というだけで、競輪に向き合う気持ちみたいなところでは変わってないと思います。

さいごに

 今年は「この1年戦っていける!」という実感をまだレースで味わっていません。胸を張って「今年もグランプリに乗るぞ」と言えるように、次開催までにしっかりと準備をして、迷いのない走りをしたいです。とにかくフラストレーションがたまっているので「こんなもんじゃねえぞ!」という強い気持ちを走りで表現できるように頑張っていきます! それでは追加の松山記念を精一杯戦いますので、応援よろしくお願いします!

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松浦悠士

Matuura Yuji

広島県広島市出身。日本競輪学校第98期卒。2010年7月熊本競輪場でレースデビュー。2016年の日本選手権競輪でGⅠ初出場、2019年の全日本選抜競輪では初のGⅠ決勝進出を果たす。2019年の競輪祭でGⅠ初優勝を飾り、同年KEIRINグランプリにも出場。2020年のオールスター競輪では脇本雄太との死闘を制し、優勝。自身2つ目のGⅠタイトルを獲得した。ファンの間ではスイーツ好き男子と知られており、SNSでは美味しいスイーツの数々を紹介している。

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