2021/04/10 (土) 12:00 19
2021年度の選手賞金について、増額が決定している。
① GP GI GII GⅢ ガールズグランプリ ガールズケイリンフェスティバル ガールズケイリンコレクションの普通賞金について各着位を5%増額
② FI FIIのS級、A級、L級(ガールズケイリン)の普通賞金について各着位を10%増額
※FIのS級は7車概定の賞金表を作成する際に調整額が含まれていたことから、使用されていた賞金表からの増額は7%程度
また、出場手当てが3000円増額の29000円、日当は1000円増額の5000円などと決まった。他の手当ては同額。
賞金は競輪選手の価値を決める重要な項目。ケガや病気と戦いながらの職業でもあり、それに見合うものが求められている。
基準としては、年間の売り上げに対する比率があるため、6000億円近くまで下がった時、大きく賞金も下がった、
2000年のグランプリ制覇、そしてGI4回の優勝を誇り、2015年に46歳で亡くなった児玉広志(香川=66期)を晩年に取材した時の言葉を覚えている。
「今の賞金じゃ、命、懸けられんでしょ」。
競輪の隆盛期を過ごし、落車をいとわぬ攻め、誰の批判を受けても己を貫く走りで、文字通り“身を削って”走っていた。
心も削られていたと思う。だが、それだけの価値がある仕事と思い没入し、戦い抜いた。166cmと小柄な体格でも、研究と練習で補った。独特のフォームを編み出し、一線級で活躍した。もちろん、賞金だけのために戦っていたわけではない。
しかし、それが競輪選手の価値を生むことを知り抜いていた。
年齢による力の衰えもあっただろうが、戦い切れない自分を語ってくれた。競輪は、こんなものじゃなかった…。
今、子どもたちに「競輪選手になる」という将来を勧めることができるだろうか。魅力ある収入や世間からの評価が伴えば、ケガという試練はつきまとうが、やりがいのある仕事には違いない。だが一時期の、厳しい収入になるかも…ということは否定できない事実だった。
村上義弘(46歳・京都=73期)が以前、弟子に取ってもらえないかと、一人の若者を紹介された時…。「絶対になった方がいい、と言い切れないつらさがあった」と話してくれたことがある。村上は競輪選手という職業に誇りを持ち、他のどんな職業にも負けないと確信している。
その村上ですら、現状をみると、なった方がいいと言い切れなかったことがつらかったのだと言った。その苦しみは、如何ばかりか…。
“競輪選手であること”が誇るべきことであることは古今を問わず変わらない。しばらくはそれに揺らぎが生まれるような、苦しい職業かもという時期があった。“年間の売り上げが上がること”、“選手賞金が確保されること”は見逃せない項目。
今回の増額を機に、もう一度、競輪選手の価値に目を向けてほしい。
同時期の売り上げが2兆円を超えたボートレース、1兆円に迫る地方競馬の伸び率には到底及ばない。もっともっと売り上げも賞金も上がっていいはずの競輪。選手の価値を高めるという観点からも、今後の施策を打ち出してほしい。
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前田睦生
Maeda Mutuo
鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。