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前田睦生の感情移入

【四日市競輪G3ナイター】“Mr.漢字ドリル”守澤太志、思い出せ! 悪魔の走り

2021/04/02 (金) 12:00 6

守沢太志が自分らしさを思い出す

ウィナーズカップ決勝の失敗を胸に…

 守澤太志(35歳・秋田=96期)の目の色が変わる。
今年初めてS級S班の選手となり、堅実な戦いぶりを見せてきた。2月川崎の全日本選抜ではGI初の表彰台となる3着。賞金ランキングも6位だ(4月1日現在)。

 だが、3月松阪のウィナーズカップ決勝はまさかの失態だった。決勝後の表情は写真でしか見ることができなかったが、鬼のようだった…。自分自身への怒りは、ふるさと秋田の男鹿半島のような形をしていた。

 高橋晋也(26歳・福島=115期)の踏み出しに遅れ、松浦悠士(30歳・広=98期)に割り込まれた。北ラインは瓦解し、松浦が最終BSからまくり、清水裕友(26歳・山口=105期)の優勝という結果となった。

優しさはいらない

 丁寧に走ることを意識し過ぎているのだろう…。かつては落車失格のオンパレード。近況の成績欄を見ると「落、失、欠」といった漢字が並んだ。「1」「3」といった数字が見られず“Mr.漢字ドリル”や“漢字博士”と呼ばれることもあった。

 だが、その漢字はキーボードで打たれたものではない。守澤が戦った結果であり、血と涙がにじむ文字だった。
決して褒められることではないが、「守澤はやる男」という印象をファンや選手に与えたものだった。韓流スターのような優しい顔立ちに似合わない走りぶりが、多くの人の心をとらえていた。

将棋の豊島将之竜王のような時代もあった

S班だからこそ、攻める、戦う

 S班の選手は人気に応えることが必定。そのプレッシャーとの戦いは尋常ではないだろう。加えて、競輪のすごさを表現し、ファンの胸を打つことも求められる。今年の守澤は人気に応えることに意識が行き過ぎていたのか、おとなしかった。

 自分とは…。
守澤は松阪からの帰路、考えたことと思う。やるべきことは「高橋にしっかりついていくこと」ではなく「シンヤを守る!」ことだったはず。今回は自分を取り戻すいいチャンスになった。

 人生、誰もがヒーローでありたいと思うが、守澤が背負う宿命は悪魔的なもの。そのための笑顔を逆説的に持って生まれてきた。今シリーズは、ラインのためにできる以上の仕事をすることを期待したい。技術はすでに漢字博士のころとは違う。落車や失格などを引き起こさず、走りを全うできる。

清水裕友が抱えていたものは大きかった

驚きの清水裕友の言葉

 一つ、ウィナーズカップを制した清水の言葉が気になった。
「このままズルズル終わってしまうのかっていう思いもあった」。
まだ26歳。花盛りのはずだが、昨年後半から感じていたのは、これほど切実な思いだったのだ。思いこそ力になる。

 守澤は漢字の時代を終え、数字の時代へ向かう。複雑な方程式を必要としない、美しい数字だけの世界だ

ーーもしあなたが数学は単純なものだと思えないというなら、それはあなたが単に人生がどれほど複雑なものかを理解していないからにすぎない」(ノイマン)。

 競輪は数学のように複雑で、美しい。

 これから守澤が並べる数字が、果てのない競輪の奥地へとファンをいざなうことになる。


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前田睦生

Maeda Mutuo

鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。

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