2022/12/07 (水) 12:00 34
松戸競輪ナイター「燦燦ダイヤモンド滝澤正光杯(GIII)」が12月8日に開幕する。清水裕友(28歳・山口=105期)は1年間のグランプリへの戦いを終え、競輪祭の後、2018年から出場していたグランプリを走らない年末を迎える。
競輪祭の決勝の結果次第によっては、出場でき、また出場できなくなる。最終日に1着を取った後、競輪場を離れ、静かにその結果を受け止めたことだろう。
「寂しさに打ちのめされて、悪い事ばかり気になり、崩れてしまいそうな時、ムリヤリ僕は笑うんだ」
ガムを噛んでいる姿は見たことがないが、ブルーハーツの「チューインガムをかみながら」が聞こえてきて、ヒロトが革ジャンを着て「生意気なガキでいてやる」と、ニヤっとしている顔が目に浮かぶ。
「ペシャンコにされてたまるか」
静岡競輪で初めてグランプリを走ったのが、ヒロト24歳の時。6番車、単騎でーー。みんな、たまんなかったよね。1人で先頭に立って、位置を取って、まくりに行って…。こんなヤツ、いんの!?
“競輪”を改めてファンの胸にぶち込んできた男が、ヒロト。たぶん、44口径。無造作にぶっ放すスタイルが、ヒロトの走りだった。
今、見えない何かにぶつかった…。
11月の防府記念(周防国府杯争奪戦)では、前人未到の5大会連覇を成し遂げた。その直前の話。現在、防府に練習拠点を置いている取鳥雄吾(28歳・岡山=107期)が、隣にいた。取鳥は「ピリついちょったっスよ、ソートー」。清水に怖いものが見えたそうだ。
「でも、そうでしょう。ヒロトは同い年なんですけど、24歳からグランプリに出て、S班になって。めちゃくちゃプレッシャー、感じていたと思います」。
同学年の人間として、同じ競輪選手として、どんな場所で走っているのか。考えるだけで頭が痛くなるようなものがあった。背負っていた。
このコラムを依頼された最初のころ、ヒロトについて書いたことを思い出す。競輪のことを書くにあたり、競輪選手がどんな姿なのか、どんな思いを持っているのか、ファンはそれをどんな形で想像しているのか、乱暴ながら、思ったままの筆で書こうと思った。
とにかく『選手とファンの距離が少しでも縮まれば』がこのコラムの原点にある。ヒロトがS班ではなくなり、今はみんなも苦しいかもしれない。「今年もグランプリで見たかった」はこの4年間を見れば明らかだ。
「ヒロト!」。がむしゃらに築いてきたものはファンの心のなかにある。
今回の松戸記念(燦燦ダイヤモンド滝澤正光杯)。
ヒロトはもう一度、ファンを背負って走る。もう一度、ここから列車は走り出す。「メリーゴーランドの一番前は誰?」という歌もあったけど、メリーゴーランドを回しているのが、ヒロトだよね。
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前田睦生
Maeda Mutuo
鹿児島県生まれ。2006年東京スポーツ新聞社入社、競輪担当として幅広く取材。現場取材から得たニュース(テキスト/Youtube動画)を発信する傍ら、予想系番組やイベントに出演。頭髪は短くしているだけで、毛根は生きている。