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村上義弘 引退特集

【村上義弘 引退特集】数々のアクシデントを乗り越え掴んだ日本一/2011年日本選手権競輪決勝

2022/12/09 (金) 18:00 18

今年28年間の現役生活にピリオドを打った村上義弘選手。ここでは「後世に語り継ぎたい村上義弘 伝説のレース」と題して競輪メディアに携わる4名の方に、村上選手が出走した2,236レースの中から1レースを挙げていただきました。最後となる4人目は報知新聞・村山茂生記者です。レース映像と一緒にお楽しみください。

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2011年3月7日 日本選手権競輪(名古屋競輪場)

(提供:公益財団法人JKA)

「日本選手権」は、日本一の競輪選手を決める大会。すでに2つのタイトルを獲得していた村上は、「先行日本一」の称号こそ与えられていたが、「日本一」にはたどり着いていなかった。前年の松戸大会は、逃げて弟・博幸のGI初制覇に貢献し、兄弟ワンツー。それから1年、村上は36歳。若い力も台頭し、自力で戦う厳しさを時折漏らすようになった。

 前検日、選手控え室前で目が合うと「実は…」と村上が切り出した。「昨日、左膝を痛めた。思い切り踏んだら、ブチッといきそうな感じ」。直前の高松記念で完全Vと勢いも十分、今年こそは悲願達成のはずが…。言葉を失った。

 だが、窮地でも頼れる仲間がいる。4日目の「ゴールデンレーサー賞」。2日目の特選で村上の番手を回った市田佳寿浩が、今度は前回りを志願。さらに決勝でも市田ー村上ー山口幸二の並びで戦うことに。村上が「日本選手権」決勝で他人の後ろを回るのは初。それも、かつて同地区ながらバチバチに「先行日本一」を争った市田の番手だ。村上が初タイトルに輝いた2002年岸和田「全日本選抜」決勝では、近畿から2人だけの勝ち上がりながら、別線勝負を選択したほど。その2人が連係する。心が躍った。

 号砲が鳴り、残り2周でまたも言葉を失うアクシデントが起きる。鈴木謙太郎ラインを出して中団に構えた市田は、後方から上昇した長塚智広に押し込まれて落車してしまう。目標が消えた村上は、素早く自力にスイッチ。打鐘で内から追い上げて3番手を確保、最終バックからまくってVをもぎ取った。

「ぼくの人生は、一番ほしいものが手に入らないことが多かった。今それが手に入った」。「日本一」の悲願達成は、史上初の兄弟による「日本選手権」連覇でもあった。村上は泣かなかった。だが、盟友のゴールを見届けた後に再乗して残り2周を走り切った市田は、村上と抱擁して熱い涙を流した。

【レース結果】
1着 ③村上義弘
2着 ①山口幸二
3着 ②兵藤一也


村山茂生(むらやま・しげお)
1970年新潟県生まれ。93年、報知新聞大阪本社入社。内勤部署、中央競馬担当を経て2007年から競輪担当に。競輪歴はファン時代も含めて28年。無口で人見知りという、記者向きでない性格を自認しつつ「失敗したら酒を飲んで忘れる」という特技で業界にしがみつく。

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