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不屈の男・金子貴志の奮闘記 〜40代の挑戦〜

【金子貴志の思い出】村上義弘さんの「優勝おめでとう」に涙が止まらなかった

2022/11/10 (木) 18:00 29

 netkeirinをご覧の皆さんこんにちは、金子貴志です。今回は9月29日に引退を発表した村上義弘さんとの思い出を書きたいと思います。

村上義弘さん

気持ちを全面に押し出す“先行”

 村上さんの引退は知人から聞いたのですが、突然のことでとにかく驚きました。同世代としてずっと目標にしてきた選手なので本当に寂しい気持ちになりました。村上さんはデビュー当時から先行のイメージが強く、気持ちを前面に押し出す競走スタイルは“村上さん特有の力強さ”が確立されていました。

 またラインの大切さを常に考える選手で「ラインの先頭を走るという意味」その責任感を強く持っていた選手でした。私自身その姿を見て憧れ、影響を受け、まくり中心のレースから先行主体に切り替えたこともあります。私が自力型としてレースを走っていた頃、何度も力と力の勝負を挑み、その都度跳ね返されました。でもその経験が力になり脚力も上がりました。同時に勝負の厳しさや精神面の強さを村上さんと対戦する過程で学びました。

気持ちを全面に出す“魂の走り”で魅了し続けた(撮影:島尻譲)

尊敬すべき人間性、忘れられない『おめでとう』

 2013年、私は寛仁親王牌で優勝しました。初めてのGI制覇でした。レース終了直後は勝利した実感も湧かず、喜びよりも「本当にGIを勝てたのか?」という気持ちが占めていました。そんな不思議な心境のまま表彰式の時間になり、私は実感のないまま敢闘門に向かいました。その時に村上さんが私に『優勝おめでとう』と声をかけてくれました。

 地区も違う選手であり、対戦相手でもあるので、先行争いをしていた若い頃は“バチバチな関係”だったんです。そんな関係性を飛び越えて『おめでとう』と声をかけてくれたことは今でも忘れられません。これがスポーツマンシップというものかと身を持って理解しました。そして村上さんからの「おめでとう」を受けて、そこで初めて「GIを制することができたんだ」と実感し、こみ上げる涙が止まらなくなりました。そんなスポーツマンシップを備えている村上さんを競輪選手としてだけでなく、人間として尊敬しています。

2013年、寛仁親王牌表彰式の涙の裏に村上さんの「おめでとう」があった(撮影:村越希世子)

 また村上さんと言えば“向上心の高さ”も広く知られているところではないでしょうか? 私が「しらびそ高原」で高地トレーニングしているとき、その情報を聞きつけた村上さんから『一緒にトレーニングをしよう』と声をかけられました。村上さんが現れると何とも言えない張り詰めた緊張感が漂い、合宿の士気が瞬時に高まったことを覚えています。競輪に取り組む姿勢、妥協せず限界に挑戦する姿などが圧倒的な存在感になっていて、それはすごく勉強になりました。

玉野開催でラインを組んだこと

 私は一開催だけですが、2017年の玉野記念の準決勝と決勝で村上さんの番手を回らせてもらったことがあります。準決勝のメンバーが出てすぐ私が迷わず「後ろに付かせてください」と言ったのですが、村上さんは「本当か?」と驚いた様子でした。村上さんにしてみれば、自力でともに戦ってきた私に対して「自分のスタイルを貫いた方がいい」と思ったのでしょう。「本当か?」にはそんな意味合いがあったように記憶しています。

 それでも私はどうしても村上さんに付きたかったのでお願いしました。今まで別ラインで戦う時は強い村上さんに対して不安感ばかりでしたが、ラインを組むとすごく安心感を持って走れました。“対戦相手”のときとはまったく違う景色を見ることができました。踏むポイント、勝負どころを逃さない走りはとても勉強になりました。そして村上さんとラインを組めたことは、過去の数多くのレースの中でも特に鮮明に記憶に残っています。

受け継がれていく“先行”

 村上さんが引退した後に行われた寛仁親王牌は新田祐大君が優勝し、史上4人目となる「グランドスラム」を達成しました。最終4コーナーで一瞬の隙を突きインを強襲する気迫溢れる走りでした。レースを見て、気持ちの大切さを改めて実感しました。新田君、ずっと追いかけてきた悲願達成、本当におめでとうございます。

 その決勝のレースで先行したのは古性優作君。この大舞台で村上さんから受け継いだような気持ちを全面に出した走りを見せてくれたと思います。私も負けていられません。寛仁親王牌を見て「まだまだ頑張るぞ!」と大きなエネルギーをもらいました。この気持ちを胸に2022年の終盤戦に乗り込んでいきたいと思います。

2022年寛仁親王牌決勝、古性優作選手が先行(撮影:島尻譲)

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金子貴志

Kaneko Takashi

愛知県豊橋市出身。日本競輪学校75期卒。2013年には寛仁親王牌と競輪祭を制し、同年のKEIRINグランプリでも頂点に。通算勝利数は500を超え、さらには自転車競技スプリント種目でも国内外で輝かしい成績を収めている。またYoutubeをはじめSNSでの発信を精力的に行い、キッチンカーと選手でコラボするなどホームバンクの盛り上げにも貢献。ファンを楽しませることを念頭に置き、レース外でも活発に動く中部地区の兄貴的存在。

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