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松浦悠士の“真っ向勝負!”

【松浦悠士のGI回顧】優勝までのコースをかき消した僕の“先入観”

2022/10/31 (月) 18:00 29

 みなさんこんにちは、松浦悠士です。今回は熊本記念『火の国杯争奪戦(GIII)』、前橋競輪『寛仁親王牌・世界選手権記念トーナメント(GI)』の振り返りを書きたいと思います。

今月は熊本記念と激闘の寛仁親王牌を語る(撮影:島尻譲)

特別な気持ちを胸に走った初日

 まず熊本記念ですが、開催数日前に腰痛が出てしまって状態面に不安がありました。腰痛を抱えたまま練習をしても身にならないため、ケア中心の調整をしており、まともに練習ができたのは開催2日前くらいです。しっかりと練習ができるようになって「状態はそこまで落ちてないな」と確認はできたのですが、レースを走ってみないと調子の良し悪しはわからないので気を引き締めて会場入りしました。

 初日は村上博幸さんと連係したのですが、お兄さんの村上義弘さんが引退を発表したタイミングだったので、僕の中にも特別な気持ちが入りました。義弘さんは常に探求心とともにある選手で、引退する前にもセッティングについて試行錯誤していました。その雰囲気から引退を考えている雰囲気はまったく感じ取れなかったので、発表は本当にびっくりしました。「博幸さんと絶対にいいレースをしよう」といつも以上に気合が入り、何でもして攻めていこうと思った初日でした。

いつもとは違う特別な感情を持って走った初日(撮影:島尻譲)

消耗覚悟で勝利を引き寄せる

 2日目はタイミングが来たらしっかりと仕掛けることをテーマに臨みました。昨年の小松島記念で上田尭弥君の先行を捲れなかったことがあるので「上田君をラクに逃げさせるわけにはいかない」と考えました。また小畑勝広君も先行に意識のある選手ですから、仕掛けどころを間違えると難しい展開になると注意していました。

 結果的に早めの仕掛けになり消耗は避けられませんでしたが、良いタイミングで動いて行けたと振り返っています。ただ夏場と違って気温が下がっていたせいか、バンクもやや重くて踏み過ぎてしまった感はあります。最終3角付近ではオーバーペースを自覚していましたね。

 久々の池田良さんとの連係で押し切る気満々でしたが、デキのいい良さんに凄い勢いで差されました。良さんとは将棋仲間で関係も良好なので、ライン上位独占の広島ワンツーは気持ちよかったです。現地では熊本の選手たちへの声援がすごかったのですが、このレースでは「良いレースだった」とお客さんからも声をかけていただけましたし、充実した内容でした。

山根君を残したい…、競輪の難しさを感じた準決勝

準決勝は山根将太選手と連係(撮影:島尻譲)

 準決勝は競輪の難しさを感じました。連係した山根君は突っ張った分だけ勝負所で脚力を消耗していましたし、番手の僕がもっと車間を切れればよかったと振り返っています。2車のラインは内を開けられないとはいえ、小松崎さんを止めてすぐ戻る動きもできたかもしれませんし、もっとうまく何かできただろうと反省しています。あれだけ行ってくれた山根君、あのレースでは残さなくてはいけませんでした。

 ただこういうレースを振り返ると本当に難しいと感じます。「何としてでも山根君を残したい」という気持ちが自分の1着を逃す要因、勝機を掴めなかった理由にもなっているからです。僕を信頼してアタマから買ってくれているお客さんの目線に立てば、それも違う。山根君を残せないなら1着を獲るべきで、1着以外ならきっちりと残すべき。なかなか完璧なレースはできませんが、この悔しさは必ず次に繋げなければなりません。1着でもなく山根君も残せずの結果には反省しかありません。

南関ラインが強かった決勝

 そして迎えた最終日の決勝。僕は初日同様、村上さんと連係しました。僕は「車番的に後ろからの攻めになるだろうな」と考えてレースプランを練っていましたが、このあたりで村上さんとの意思疎通がうまく行かず、中団からのレースになり慌ててしまいましたね。村上さんは「車番的に後ろからの攻めになるだろう“とはいえ”中団が取れればそれが最善なのだろう」と考えて動いてくれました。ラインで連係する選手同士が「仲間のために」と考えてのすれ違いなのでネガティブには捉えていませんが、意思疎通の大切さを改めて認識しました。

 ただ決勝のレースを振り返ると南関ラインがとにかく強かったです。深谷さんの早めの仕掛けはとてつもなく勢いがありました。僕も踏み出しの感触よく、追い上げていく中で、かなりうまく力が出せている感覚がありました。でも北日本ラインを超えていくあたりで深谷さんがすごく遠くに見えてしまい、その差に気を取られている時に、郡司君のブロックをまともにもらってしまいました。気を取られていた分、ヨコの動きに反応できず、完全に止められてしまい「終わった…」とわかるくらいの減速…。とくに言い訳もなく完敗としか言えない結果です。

 しかし、そんな中でもひとつ収穫があり、前向きな要素を見つけて終わることができました。巻き返す時間が短ければ短いほどリスクが生じるので、レースの形自体は失敗だと思いますが、その失敗の中でもあのように捲っていけて郡司君の位置に到達して勝負できたことは自信になりました。レースで失敗は付き物ですし、失敗した時にどういう武器があるのかも重要です。そういった部分で自分の力量を図れたので、今後のレースに役立てていこうと思います。

決勝結果は松浦選手が4着、村上選手が2着。レース終了後にはすぐさま反省会(撮影:島尻譲)

積極的に攻めることで展開が向く

 続いて寛仁親王牌ですが、オールスター競輪の頃の状態の良さを感じながら前検日に入れたので、その点はよかったです。実は久留米でエアコンに喉がやられてしまい体調を崩してしまって、帰ってから練習ができませんでした。前橋に行く直前2日間くらいでやっとタイムも戻ったような感じで調整が思うようにできなかった分、少し焦っていました。状態が悪いままに戦えるほど特別競輪は甘くありませんからね…。

 さて寛仁親王牌の初日は裕友と連係して僕が前回りでした。開催に入る前に裕友から「任せたいです」と気持ちを聞いていたので、自分の中ではレースプランをしっかり考えて臨めましたし、高いレベルのメンバーの中で自分の力を発揮できた一戦だったように思います。作戦としては「先行80%、飛びつき20%」くらいの感覚で、積極的に動いていく気でいました。

 ただ道中では郡司君に余分に踏まされてしまい、赤板2角では完全にオーバーペース…。覚悟して積極的に攻めていったとはいえ「このままだとバックも取れんかも…!」というスピードレースになりました。結果的には吉田君の後ろに入れる展開となり、流れも向きました。僕は「先頭で風を受けて走る時の踏み方」と「番手で走る時の踏み方」がまったく違うのですが、吉田君の番手に入ってからの“切り替え”がうまくできなかったですね。番手に入ってからも踏み過ぎていました。

 これは吉田君のカカリもよかったのもそうですが、前橋のバンクに順応し切れていなかったことも要因です。2年ぶりの前橋なので仕方ない部分ですが、もっとうまく回らなくてはいけなかったです。でも自分のしたいレースができて最終的に裕友が1着。上々のスタートが切れたように思いました。

久々のルーレットバンクに多少戸惑いながらも攻めの姿勢を貫いた初日(撮影:島尻譲)

裕友の強さを実感したローズカップ

 2日目は裕友が「自力で動きたい」と話をしてきたので、初日とは前後が逆でのレースになりました。裕友にとって賞金ランキングのプレッシャーも背負ってのGI戦でしたが、初日1着を獲ったことで緊張も解け、このあたりで自分の調子をしっかりと図りたい側面もあったのだと思います。そして、このローズカップの裕友はめちゃくちゃ強かったです(笑)。残り2周半のところで山崎賢人君が出ていく場面があるのですが、その場面でもがっちり踏んでいるので後ろについていて「え?こんなに踏むの?」と感じましたし、突っ張りもあるのかという勢いでした。

 その後、郡司君に内を掬われてからの4角〜ホームでの加速は凄まじかったです。正直追走もギリギリでしたね。裕友らしい力強い加速でした。結果的に僕がローズカップで1着を獲り、「裕友と一緒に勝ち上がれそうだ」と手ごたえを感じて、初日も2日目も良い連係ができました。

2日目にローズカップを制した(撮影:島尻譲)

GIの準決勝は思い通りに行かない厳しさがある

 3日目の準決勝は久々に激しく“やり合い”ました(笑)。あんなハードなぶつかり合いは最近ではありませんでした。ただでさえ厳しい準決勝、しかもGIともなると事前にどんなにレースプランを思い描いていても、その通りにはいかないことばかりです。今回はあまり作戦を決め過ぎず、粘ろうとも粘らないとも決めず、流れの中で感性を頼りに走ろうと考えていました。

 郡司君が吉田君のところに粘りに行ったとき「4番手が郡司君に獲られてしまう…!」と考えて僕も踏みました。郡司君はすぐに下げたので僕も引こうと思ったのですが「待てよ? これだと関東ラインが余裕で赤板を迎えることになるな?」と思い直して吉田君の位置を狙いました。このあたりは各選手の中で駆け引きがせめぎ合いましたね。

 勝負どころで僕は吉田君に内に押し込まれてしまい苦しくなりましたが、吉田君の強さを垣間見たのは最終周回の加速です。内に押し込まれたのは僕自身のミスもありますが、「巧くてさらには強い」選手だと感じました。なんとか勝ち上がりましたが、GI準決勝は激しく厳しいと改めて痛感した一戦でした。ローズカップで仕上がっていた裕友も一緒に勝ち上がれると思っていましたが残念でした。調子が良くても思い通りに行かないのも競輪の難しさです。初日・2日目と良いレースができていただけに一緒に決勝を戦いたかったです。

毒にも薬にもなる“先入観”

気合十分のファイティングポーズを決め入場(撮影:島尻譲)

 僕は準決勝を走った後「決勝は隙があればずっと内を回っていこう」と考えていました。実は準決勝で収穫があり、バンクの最適な走り方を見つけていたところでした。準決勝はタイム的にもスピードレースでしたし、踏んでいる距離も長いんですが、レース終了後に少し自分の脚にまだ余力が残っていたんですよね。その要因は「内にコースを取ったこと」以外には考えられません。決めつけたりはしないまでも、内への意識は持っていようとレースに臨みました。

 最終周回で新田さんを内へと押し込み、そのまま内に進路を取りながら勝負圏へと踏んでいくことができたため、僕の中では優勝も現実的に見えていました。しかし2センター付近のコース取りで僕は外のコースを選択し、古性君と稲川さんの間に挟まれる形となり減速してしまいました。あのコース選択がこの決勝の勝敗を分けたすべてだと思います。僕は「古性君が内を開けるはずがない」といった先入観を持っていて、あの位置関係なら必ず古性君の外にコースが開くはずだと判断しています。この“決めつけ”は手痛く、優勝を逃して本当に悔しかったです。

 今振り返ればしっかりと優勝を狙いに行き、紙一重の勝負ができたので、反省すべき点はあれど結果に後悔はしていません。でも“先入観”があのような大事な場面でネックになるのは頭に入れておかなくてはと思います。

最終バック付近の攻防、松浦選手は写真中央の5番車(撮影:島尻譲)

 さいごに、優勝した新田さんの走りは凄かったです。“イチかバチか”のコース取りは僕にはできないと思いました。それ以前に僕が新田さんを押し込んだ時点で新田さんの勝機はかなり薄くなったように考えていました。そんな中で開いたところに急加速していける瞬発力はさすがとしか言えません。新田さんの達成したグランドスラムも記録として素晴らしいものですし、僕も負けてられません。自分も続いていけるようにと気持ちが入りました。新田さんグランドスラム達成おめでとうございます。

読者の方から寄せられた質問に答えます

 それでは今月も質問に答えていきたいと思います! 今月は3問の質問に答えていきます!

今回は3つの読者質問に真っ向勝負!(撮影:島尻譲)

ーー「この番組は自分に有利に組まれているな」とか「不利に組まれてるな」とか不公平に思うことはありますか?

 まず率直に言えば有利も不利も感じることはあります。特に今のルールでは車番の影響は大きいですし、勝敗を左右する要因のひとつです。でも僕ら選手は「それも競輪」と受け入れる心構えで走っています。自分が有利になることもあるし、不利になることもある。それを含めてお客さんに予想していただくというのが競輪の形だと思っています。

 ただ、記念開催ではなく特別競輪だけは「日本一を決める」という開催趣旨があるだけに地元という括りではなく「公平な番組を組んで欲しい」と思ったことはありますね(笑)。でも不利な枠を克服するのも楽しいですし、不利な時ほど勝った時の喜びが大きいのも事実です。番組に関してはこんな感じですかね。

ーー単騎で走るよりも他地区で連係実績少ない選手でも番手に付いてもらう方が走りやすいのでしょうか?

 これはケースバイケースです。ラインを組む選手との連係実績や相性よりも番組構成というか対戦メンバーによって変わりますね。単騎はラインという関係性が影響しない分、走りやすいは走りやすいです。でもやっぱりトータル的に考えて勝ち目は減ってしまいます。また(対戦メンバーによりますが)たとえ連係実績が少なくともラインを組んで戦うからこそ勝つ確率を上げる走りができるというのも間違いなくあります。どちらが走りやすいとも決められませんが、僕の場合は対戦メンバーによって流動的です。これは各選手感覚も違うと思うので、予想をする中で探ってみると面白いかもしれません。

ーー平原康多選手がnetkeirinのコラムで好きなタイプを明かしていました。松浦選手の好きなタイプや好きな有名人を教えてください!

 僕は笑顔が魅力的な人がタイプですね。有名人だと新川優愛さんとか木村文乃さんとか好きです。よく笑ってくれるような雰囲気に惹かれますね。でも新川優愛さんと書きましたが、自分よりも背が低い方がいいなあと思います(笑)。

 それでは今月のコラムはここまでにしようと思います。今年は7月あたりから「納得できる走り」ができている気がしています。失敗しても立て直すことができる感覚を持ってシリーズを過ごしています。この感覚を大切にして11月12月と競輪を楽しめるように頑張っていきたいです。みなさん、これからも応援よろしくお願いします!

好調のまま冬の決戦へ!(撮影:島尻譲)

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松浦悠士の“真っ向勝負!”

松浦悠士

Matuura Yuji

広島県広島市出身。日本競輪学校第98期卒。2010年7月熊本競輪場でレースデビュー。2016年の日本選手権競輪でGⅠ初出場、2019年の全日本選抜競輪では初のGⅠ決勝進出を果たす。2019年の競輪祭でGⅠ初優勝を飾り、同年KEIRINグランプリにも出場。2020年のオールスター競輪では脇本雄太との死闘を制し、優勝。自身2つ目のGⅠタイトルを獲得した。ファンの間ではスイーツ好き男子と知られており、SNSでは美味しいスイーツの数々を紹介している。

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