2022/05/17 (火) 18:00 14
みなさんこんにちは、松浦悠士です。今回は武雄記念『大楠賞争奪戦(GIII)』、いわき平『日本選手権競輪(GI)』の振り返りを中心に書いていきたいと思います。
両開催ともに去年は優勝報告ができましたが、今年は厳しい結果に終わってしまいました…。ですが、応援してくれる人達へきちんとレースの振り返りを届けたいので、しっかり自分と向き合いながら、今月のコラムも書いていこうと思います。
前回のコラムでは川崎記念の優勝報告や300勝達成報告などもできました。これは結果だけ見ると良いのですが、その時も書いたようにレース内容や自分の感覚に釈然としない違和感もありましたし、課題も見つけていました。
今気になっているのが、航続距離が短くなっているような感覚で「最近しっかりと長い距離を踏めていないな」と自覚しています。その兆候は玉野記念2日目まで遡って感じていて、仕掛けのタイミングなどは悪くありませんでしたが「いつもならもう少し余力があるのにゴール前がきつかったな…」と感じていました。
練習メニューを見直したり、自転車のセッティングを試行錯誤したり、ここはきっちり対応していこうと思っています。イマイチ要因がハッキリと見えないんですよね…。
武雄記念を振り返れば、山田英明さんとワンツーを決められた二次予選は悪くなく、ペースが上がっていない中で勝負所を見極めて仕掛けられているし、最後まで踏み切ることができています。
ですが、初日や3日目は自分の中にある“調節メモリ”を回し間違えたり、そもそものペース配分をミスしたりの負け方ですし、必要のない無駄なエネルギーを消費して勝てるほど甘くないということを痛感しました。
初日特選は、3角過ぎで前に出た時スピードを緩め過ぎていて、再び加速することに脚を使ってしまい、最後は余力もありませんでした。練習で体に叩き込んでいるタイムに応じてのペース配分がありますが、その通りに戦えず吉田君の走りにも対応できませんでした。平原さんにはヨコでも負かされてしまい、レース後は「いいことなし!」とコメントしてしまいましたね(苦笑)
3日目は山田庸平さんとのレースでした。「このレースはホームから行けるところまで行かなくてはいけないぞ!」と臨みましたが、ここで反省しなくてはいけないのが、前述した“調節メモリ”の回し方です。僕は脚のエネルギーをメモリで例えることがあるんですが、走っている時に頭の中で“つまみ”を回しているんですよね。
「ゆっくりと最高値に上げていくとき」「瞬時に上げていくとき」とさまざまですが、共通して言えるのは全開で踏み込んでいる時も「10割MAX」の力で踏むのではなく、8割〜9割の力を維持すること。そして、レース状況に応じて惰性で走ったり、対戦相手の後ろでうまく休むことを考えたり、工夫してレースを組み立てています。
ですが武雄の準決勝はホームで10割のパワーを一気に解放してしまい、2コーナーで早々とゲージが底をついてしまいました。こうなると勝負はできません。初日もそうでしたが、自分でミスをして勝てるほど競輪は甘くないので、レースミスを振り返り分析して取り組んでいかなくてはいけません。
武雄の最終日は町田君も踏めていたし、番手から出ていくようなレースではなかったと思います。最終コーナーに差し掛かる時に内を突いてきたのが和田さんでしたが、レース中に僕は和田さんが来ているとは思っていませんでした。
この判断ミスさえなければ「ワンツーが決まっていたかな」と振り返れる面もあり、次に繋げるための反省としました。実際、ダービー最終日のレースは武雄の最終日に似たレースだったのですが、この時の反省をうまく活かすことができ、1着を獲れたのだと思います。
続いていわき平のダービーを振り返ります。昨年はダービーに向けて調子を上げていき、苦しい戦いの中でも優勝することができました。ただ、去年は去年のことですし、あまり意識せずに会場入りしました。
体の状態も申し分なく、自転車のセッティングまわりも(ウィナーズカップの時ほど良いものでもありませんでしたが)そこに敗因を求めることはできない仕上がりでした。
ただ、僕は昔からいわき平のバンクに苦手意識があって、前検日の指定練習やレース前の選手紹介の時に感触を確かめました。レース本番を迎える前は「よし、大丈夫だ!感触も悪くない」と思いましたし、しっかり戦えると安心していました。
しかし、いざ本番を走ると「粘っこくて重たいな…」と踏んだ時の感触の悪さが気になり、もともといわき平のバンクに感じていた苦手意識が頭をよぎりました。「今回は大丈夫」だと確かめていた分、余計に気になってしまい、普段通りのパフォーマンスも難しくなってしまいました。
最近、僕は自分の体や精神が「コンディション・環境」に敏感に反応することを自覚しています。気温、風、湿度、バンクを踏んだ感触など全般に。さまざまな要素に気が付かないといけないので敏感なのが悪いわけではありませんが、少なくとも今回のダービーでは“敏感さ”が悪い方向に働いてしまった気がします。
選手にはバンクの得意不得意があり、相性の良し悪しもあります。そんな中『ビッグレースが自分の相性の良いバンクでしか開催されない』なんてことはありません。
与えられた環境でベストパフォーマンスをするためには苦手意識を克服しなければいけません。その点では最後まで走りながらヒントを探り、バンクへと向き合いました。
僕はいわき平競輪の雰囲気が大好きです。バンクの内側から声援を届けてもらい「頑張ろう!」と思えるんですよね。これから苦手意識を克服して、バンクも雰囲気も楽しめるように努力していきたいです!
それでは詳しくレースを振り返ってみたいと思います。まず、1走目ですが、深谷さんの凄まじい走りを感じました。手も足も出ないなんて言いたくはないけど、間違いなくタイム以上の強さがあり、僕から見ると『先行しているのにまくりにかかっているような加速』でした。
「どんなに踏んでも追いつかない…!」という感覚。レース後に手も足も出ないという感覚にさせられるのは、なんだか脇本さんみたいでした(笑)。
ナショナルチーム出身の選手は脚力があり、もちろん強いですが、一緒に戦っているとそれぞれタイプが違います。例えば深谷さんだと緩急があるような走りに特徴があります。相手によって僕の戦略や走りも変わりますし、どうしたら勝てるのかを考える時にポイントが別にあるんですよね。
この深谷さんとの対戦を振り返ると、4番手を確保してゴール勝負に持ち込まないとダメでした。最終周回での6番手という時点で万事休す、だったように思います。
そして、勝ち上がることができなかった二次予選。本当に悔しかったです。でも正直に書けば『自分に納得できない』レースではありませんでした。自分がやりたいレースプランを思い描き、それを実践し、やることをやっての負けです。ちゃんと自分のレースをやって負けているので言い訳もなく、『実力不足』以外の言葉は嘘になってしまうんです。
「新山君が駆けたら番手勝負に行こう」というプランは相手に読まれていた感も否めませんし、飛びつくなら飛びつくで、もっと良いタイミングでやらなくてはいけないと思います。
バンクの感触を重たいと感じていて、しかもスタートで脚を消耗している中で、上から勢いをつけてきているラインに内側から…。コンディションを加味してプランを思考することもできていませんでした。
最高峰のGIであるダービーは選手にとって特別な開催です。「決勝に勝ち上がりたい」という気持ちを強く持って入っていますし、グランプリを思えば賞金の高いダービーで結果を出さなくてはいけないことは明白です。レース後は本当に落ち込みました。
レースが終わり、僕に期待してくれていたお客さんからも厳しい言葉をもらいました。今回ばかりはなかなか切り替えられず、覚えている限り20時30分くらいまでは、ショックから立ち直ることもできず…。ずっと落ち込んでいて、どんよりしていましたね…。
ただ、途中でやめることなどできないし、シリーズは終わっていない。シリーズが終われば次のシリーズも、次の戦いもあります。「残り2走、やり切ろう」と自分に言い聞かせているうち、『負けて終わりじゃない』と思い直しました。
「次に繋がる何かが見つかるかもしれない、頑張るぞ!」と気合いを入れ直し、今できるベストな走りをして広島に帰ろうと思いました。そして、僕は夜から筋トレをはじめました(笑)。
次の日、3日目の選手紹介の時にお客さんから再度厳しい言葉をもらいました。でも、僕はプロの競輪選手なので結果で魅せるほかありません。強い気持ちを持って発走機につきました。3走目も4走目も1着を獲ることができ、4走目に関して言えば、武雄の最終日を取り返せたような感覚にもなりました。
場内のお客さんからも温かい声援が送られて、とても嬉しかったです。1走目、2走目は期待に応えられず、3走目や4走目は人気になれるかどうかもわからない状態でしたが、お客さんは期待してくれました。最後の2日間だけでも人気に応えられてよかったです。みなさん応援ありがとうございました!
今回はファンの方に良い報告はできませんが、決して腐らずに頑張っていこうと思います。ダービーを終えてみて、「自信を取り戻して走らないといけない」と考えています。1走目で自信を失くし、2走目にも悪い影響が及んだと思います。自信があれば、しっかりと自力勝負も選べるので、まずはそこから!
僕の話ではないですが、ダービーで吉田拓矢君の動きを見て刺激をもらいました。「自力でこれくらい動けないと厳しいよな」とデキのいい吉田君の走りを見て、これからの戦い方のヒントがあるような気もしています。
自分がこれまでに培ってきた感覚はなかなか無くならないと思うので、その感覚を頼りにして、自信をもって仕掛けていきたいです。
それでは今月も質問に答えていきたいと思います! 今月は5問の質問に答えていきます!
ーー松浦選手の好きなバンクのベスト5は?
今月のコラムはバンクとの相性や踏んだ感触について書きましたし、踏んだ感触の良さを第一条件にベスト5を選んでみますね。圧倒的1位は地元広島です。続いて2位高松、3位富山、4位小倉、5位宇都宮です。富山はバンクの感触もいいのですが、魚が美味しいです(笑)。大体富山開催では前泊しますが、魚を食べますね。
雰囲気が好きな競輪場も書きたくなりました(笑)。圧倒的1位は広島、2位いわき平、3位静岡、4位玉野、5位函館です。コロナ禍でお客さんと触れる機会が極端に減り、距離も遠くなっている感じがあります。そんな状況だからか、お客さんが「近い」競輪場が好きなんですよね。
ーースイーツ王子の異名を持つ松浦選手ですが、ご飯はどうでしょう?チカラ飯はありますか?
基本的に肉類が好きなんですが、最近結構お寿司が多いかもしれません。好きなネタはサーモンです。魚の油が肉の油よりは良いかなと思っていて、体に良いというのが大きなポイントに感じます。魚は意識して摂るようにしないと肉に流れてしまいますからね(笑)。チカラ飯と言えば、そっちかな。好きなのは俄然肉ですけどね。
ーー今年も十分に成績を残しているが、昨年のようにはいっていない。昨年前半は「走れば1着」という感じの勢いがあったように思います。周りからのマークがきついのか、レースレベルが上がっているのか? 長期的な調整(トレーニング)などに取り組んでいるのか、このあたりのことを聞きたいです。
今、長期的にやっていることは特にないです。ただ、「警戒されている」と感じることは昨年よりも多いかもしれません。
今回のダービーで驚いたんですが、初日に深谷さんがレース後のコメントで「松浦君の位置や仕掛けるポイントを意識して走れた」とおっしゃってたんです。それを見た時に「え?」と思いました(笑)。
深谷さんは誰かのことを意識するコメントをしない人だと思っているので。それを一例とするなら、昨年よりは増えたかもしれません。
また、対戦相手のレベルは間違いなく年々上がってきています。その一方で、一昨年や去年に比べると自分のレベルはそこまで伸びていません。周りのどんどん強くなっていく速度に自分の成長速度が追いついていない感覚があるので、昨年前半のようにはいかないことの「整合性」は僕自身ひしひしと感じています。
ーー最近の競輪のスピード化などレースに変化は感じますか?前も後もやる松浦選手は変化も人一倍感じているのでは?
競輪のレース変化はハッキリと感じていますね。スピード化の要因の一つとして、ルール変更などの影響もあると思います。「先頭誘導員の2周退避」ルールによって、ペースが上がって緩むところがないレースになってきているので、後ろ攻めが不利になる部分はあります。
昔の競走では後ろからの抑え先行が結構ありましたが、今は後ろから抑えると最後1周で結局また(後ろに)戻ってしまうことがあります。
そのほか、スピードが上がることによって追い込み選手のヨコに動く余力はなくなってきています。スピードが上がっている中での「カマシまくり」が主流となり、キレがある選手が活きてくる時代なのかな、と思います。
そうなるとスタートの時点でレースが決まることも多くなってくるため、車番によっての有利不利も当然出てきます(基本的には最内枠1番車の選択肢は広く、スタート時点では有利ですね)。
お客さんが予想しやすいような整備も当然必要と思う一方で、変化の中にいて順応することの難しさを感じたり、多少の不公平さを感じたりすることもありますね。
でも僕たちは与えられた環境で勝負をしなくてはいけないのが前提条件なので、変化を理解して、その中で勝てるように努力しています。それにしてもスピード化の波は顕著ですよね。
ーー松浦選手・郡司浩平選手のライバル関係が好きです。同着優勝おめでとうございます。二人は競輪以外の話はしないんですか?
レースが終われば普通に話しますし、世間話なら車の話とかですかね。でもあんまり膝を詰めて深い話をするみたいなのはないですね(笑)。裏話みたいなエピソードを書くとすれば、郡司君とはお風呂で一緒になることが多いです(笑)。
僕が郡司君の1つ前のレースだったりすると、高確率で遭遇して「あ、来た来た」みたいな感じになります。お互いレースでは真剣勝負ですし、譲れないぶつかり合いもありますが、勝負の時間が終わればお互いに結構普通の30代同士だと思います(笑)。
それでは今月のコラムはこのあたりで終了します。次回は好きなバンクとして書いた宇都宮GIIIです! 精一杯頑張りますので応援よろしくお願いします!
【SNSはこちら】
・松浦悠士Twitter
松浦悠士
Matuura Yuji
広島県広島市出身。日本競輪学校第98期卒。2010年7月熊本競輪場でレースデビュー。2016年の日本選手権競輪でGⅠ初出場、2019年の全日本選抜競輪では初のGⅠ決勝進出を果たす。2019年の競輪祭でGⅠ初優勝を飾り、同年KEIRINグランプリにも出場。2020年のオールスター競輪では脇本雄太との死闘を制し、優勝。自身2つ目のGⅠタイトルを獲得した。ファンの間ではスイーツ好き男子と知られており、SNSでは美味しいスイーツの数々を紹介している。