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松浦悠士の“真っ向勝負!”

【松浦悠士の詳細解説】同じ“着”でも天地の差! 悔しい2着と晴れやかな2着

2022/03/31 (木) 19:00 17

 みなさんこんにちは、松浦悠士です。今回は『全日本選抜(GI)』、名古屋『金鯱賞争奪戦(GIII)』、宇都宮『ウィナーズカップ』の振り返りを中心に書いていきたいと思います。

ここまでGI・GIIで2連対率100%の松浦選手。今回は好調の理由を含めレース回顧を丁寧に書き綴る(撮影:島尻譲)

全日本選抜の初日は戦略通り!

 前回のコラムでは奈良記念の優勝報告ができ、調子が上がっていることを書きましたが、その前の1月を振り返れば自分の状態と結果にギャップもあったので、全日本選抜は走ってみるまで油断できないという心境でした。

 初日、レース状況自体はそこまで見えていなかったのですが、レース前に考えていた戦略がバッチリとハマり、気持ち良く白星スタートすることができました。自分でしっかり抑え、山崎君が上昇してきたら北津留さんの位置を狙おうと作戦を組み立てていたんですが、山崎君が緩めなければ無理せず3番手に入ろう、とか、パターンを複数用意していました。

 僕のレース前の想定では『山崎君に意識を向け北津留さんの位置を念頭に置いて行けば、新田さんや郡司君もすんなりとはいかないのではないか?』と考えていました。実際のレースでもその通りになり、北津留さんにも当たらずに、うまくレースを運んでいけました。思い通りのレース展開で勝つことができ、「しっかり戦うことができる!」と実感して、いい雰囲気でシリーズに入っていけました。

 そして、2日目。ここでは1着こそ逃してしまいましたが、最後まで踏み切ることができましたし、状態の良さを確認することができました。3日目の準決勝は「太田君がいたから」という感じですね。ここ最近の太田君はきっちり仕掛け切ることができていて、何より彼から迷いを感じません。「迷わない・躊躇しない」というメンタルはとても強いと思います。

準決勝レース後は太田竜馬選手を労うようなシーンがあった(撮影:島尻譲)

決勝の動かないレース…敗因は“動揺”

 最終日の決勝は2着。この結果は本当に悔しかったです。なかなか動かないレースとなりましたが、あそこまで動かない展開になるとはまったく想定していませんでした。その“想定外”に僕も太田君も「動揺してしまった」というのが本音であり、優勝した古性君と2着の僕とで結果に差が出たポイントです。古性君は落ち着いていました。

 この敗因は僕にとって悔しいもので、太田君がしっかりチャンスを作ってくれたのに活かせなかったことも輪をかけて悔しいです。いつもと違う車間・間合いの取り方に気持ちが乱れ、2コーナーで古性君が来たときに対応しようと思い太田君と詰めてしまったんですが、あれは良くなかったです。

 それと、太田君も僕も誘導退避のタイミングで勘違いをして慌ててしまったというのもあります。ルール上、選手が差し込んだら誘導退避となるので、てっきり誰かが来たものと考えてしまいました。「誰も来ていない? 何か仕掛けがあったのか?」と推測を巡らせてしまい、焦りに拍車をかけてしまいました…。

 3コーナーから最終直線までは「内は空けてはダメだ」という気持ちは当然ありましたが、外から追い込んでくる新田さんに意識を向けたばっかりに、古性君のコースを空けてしまうことに…。勝敗を決する場面で想定できていることが起きているのに、平常心を失っていて対処できませんでした。

レース後には「超悔しい2着」とコメントした(撮影:島尻譲)

 全日本選抜をシリーズ全体で冷静に振り返れば「100%連対できた」というのは良かったと思います。その点、年内最初のGIでの成績は悔しさだけではありません。ですが決勝に悔しさや課題が残ったことも事実なので、そこは絶対に次戦に繋げていかなくては! と気を引き締めました。

名古屋最終日の落車はミス

 全日本選抜が終わり、名古屋記念を走りました。調子の良さが継続している感じでシリーズに入れたので、気合も入っていました。初日から「後ろをビリビリさせるぞ!」くらいの気持ちがあって(笑)、攻めの姿勢を大事に踏んでいけました。2日目も3日目も勝つべきところで1着が獲れていましたし、納得できるレースが続いていました。

連日のレースで巧みな駆け引きと脚力を見せつけた(撮影:島尻譲)

 レース内容にも納得しながら勝ち上がることができましたが、決勝では落車をしてしまいました。決勝のレースは眞杉君の仕上がりも良く、単騎の初日もですが最終日も“強さ”を感じました。道中で僕は1着が難しくなりましたが、最後まで車券貢献できる着を諦めず、4コーナーで内が一瞬だけ空いたので、直線で中を割りにいきました。ただ内に入って行ったら挟まれる感じになり、伏見さんに返されてしまいました。

 タイミング的にも悪く、受けることができずバランスを失い落車…。伏見さんの側に先に降りてるのは僕ですし、自分のミスでした…。骨折こそしなかったものの、右腰部の痛みが激しく、3日間自転車にまたがることもできませんでした。不安の中で練習を再開してしまいましたが、バランスを崩していたり、力が入らなかったりの症状はなく、その点はホッとしました。

宇都宮ウィナーズカップへ! 吉田兄弟とコミュニケーション

 というわけで落車明けとなってしまったウィナーズカップ。練習を再開して体に問題はなかったのですが、やっぱり走ってみないことには不安は拭えません。前検日で落車の影響はそこまでないだろうと確認できましたし、初日は踏み込んだ感触も抜群に良く、「これはいけるぞ!」という気持ちが湧いてきました。

 2日目はなかなか休みどころのないレースになりましたが、最後まで踏み切れていましたし、上りタイムも満足のいくものでした。シリーズを通して自信を持って仕掛けていけると思いました。

2日目の毘沙門天賞を制しチャンピオンジャージに袖を通した(撮影:島尻譲)

 そんな中、ウィナーズカップでは吉田有希君と面白いコミュニケーションが取れました。僕が最近好調を維持できているのは自転車が要因です。体の状態はいつも通りなのですが、自転車を変えたり、セッティングがいい感じに決まっていたりするのが成績に繋がっていることを実感しています。

 今回のウィナーズカップも自転車のセッティングはかなり良い状態で持っていくことができました。「吉田有希君はセッティングを出すのが大得意」という話を聞いたので、僕もアドバイスをもらいにいき、現場で最後の微調整ができた感じです。

 競輪のニュースなんかでは吉田君が明るくふざけている面が全面に出ていますが(笑)、ことセッティングに関しては大マジメの超本気モードの表情になります。僕以外にも吉田君の評判を聞きつけて、セッティングを見てもらっている選手が何人もいましたが、大汗かいて真剣に対応してましたよ。レースの振り返りではありませんが、コラムに書きたかった出来事です。

 吉田兄弟は3人とも話をしますが、2日目には兄の拓矢君からも「松浦さんローラー見てても調子良いですね」と声をかけられて、良いコミュニケーションが取れました。ちなみに昌司君とも会えば話をしています。

走路の感触が最高! 宇都宮バンクが好きです

 3日目の準決勝は好調をただ確認するだけでなく、「好調だからこそできた」レースになりました。踏み込むタイミングをしっかりと待つことができ、引きつけて引きつけての選択ができたことはすごく大きな収穫です。状態の悪い時に準決勝みたいなレースを走ると、待つリスクを嫌って、割と早めに踏み込んじゃうんです。

 決勝進出を懸けた準決勝の最終局面で、外側からは慎太郎さん、内に入ってきたのは成田さん。ギリギリまで待つと内外に食われたり、挟まれてしまったりのリスクが高まります。でもこの準決勝は、相手のスピードも、自分の余力も瞬時に判断でき、しっかりとタイミングをギリギリまで引きつけることができました。調子の良さは文句なし、あとは決勝で勝つだけだと勢いもつきました。

 それと、宇都宮バンクは走路に凹凸やひび割れが一切なく、非常に綺麗でスイスイ速度が上がります。走る感触が抜群に良く、「宇都宮好きだな」という感じでした。これで500mじゃなければもっといいのに(笑)!(※理由は読者質問のコーナー)

ピンピンピンで勝ち上がりを決め、圧倒的な強さを示した(撮影:島尻譲)

決勝は裕友とワンツー!

 全日本選抜で悔しい気持ちを味わった時に「絶対に次に繋げる」と強い気持ちがありましたが、ウィナーズカップ決勝の裕友とのワンツーに繋げられたと思ってます。着の数字だけで見れば同じ2着なんですけど、僕の中での価値には大差があります。

盟友・清水裕友選手(橙・7番車)とのワンツー!(松浦選手は赤・3番車 撮影:島尻譲)

 太田君は打鐘から踏み込んでいってましたし、「少しでもスピードが緩んだら、すぐに出ていくしかない」と覚悟して走りました。ラインで勝てるように戦い、自分が優勝を狙う走りができたと思います。

 3日目の裕友の状態であれば、決勝は早く出て行ったとはいえ、抜かれなかった気がします。そこは裕友がきちんと修正して決勝に間に合わせてきたということです。太田君が頑張ってくれて、僕も出るべきところで出て、裕友とワンツー。優勝できなかった悔しさは薄く、納得できる戦いができました。

太田-松浦-清水の中四国ライン3車で戦った ※後方6番車は単騎の神山拓弥選手(撮影:島尻譲)

 僕は優勝できれば節目の300勝達成だったんですが、あまり欲を出さず走って正解だったと思います。記録や形にこだわって意識が欲の方に向いてしまえば、裕友とのワンツーも叶わなかったかもしれません。でも優勝して300勝なんてカッコイイよな〜とは思ってましたけど。裕友、ウィナーズカップ連覇おめでとう!

読者の方から寄せられた質問に答えます

 それでは今月も質問に答えたいと思います!今回は3問の質問に答えていきます!

今回は3つの読者質問に真っ向勝負!(撮影:島尻譲)

ーー自分は年末に国家資格を受験しますが、「まだ半年以上ある」とか「きょう一日は休み」とか怠けてしまうことがあります。松浦選手クラスでも気持ちが乗らないことはありますか? そんな時はどのようにモチベーションを上げていますか?

 怠けてしまうことはないんですけど、雨が降ったりして「やりたい練習」があったのにできない時、テンションが落ちてどうしようもない時があります(笑)。「仕方ない!じゃあ今日はこのメニューに取り組むぞ!」とはならず、一切気が乗らなくなります。

 僕はこうなると「今やりたいこと」をやるようにしています。気乗りしない時に練習をしても質が悪く、効果もないので、無理にモチベーションは上げないです。でも「気持ちに無理のない軽めのこと」で前に進むことは意識しますね。スイーツでリラックスしようとか、過去のレース映像を分析しようとか、体のケアに充てようとか。

 でも、質問に対する回答じゃないのですが、受験当日に「やり切ったぞ!」と思えるように“頑張ってください”とエールを送りたいです。国家資格の受験ともなれば日程も出ていると思いますし、後悔の気持ちを残さないように取り組んでもらいたいです(笑)。

 これは競輪に限った話ではなく、時間は有限だなあと感じます。「まだ半年以上ある」という気持ちは「もう半年しかない」という気持ちにシフトできると思うので、厳しく駆け抜けてください!

ーー33バンク400バンク500バンクの仕掛けのタイミングに違いはありますか?また得意不得意はありますか?

 かなり違いがあります。仕掛けどころも違うんですが、仕掛け方やライン取りなどあらゆる戦い方がバンクによって異なります。僕はオーソドックスな400バンクが得意であり好きですね。ホームバンクの広島が400バンクなので、仕掛けどころもピンときます。

 でも最近は33バンクで自信を持って逃げ勝負をするのも好きですね。33バンクはコーナー部分が多いので、遠心力が働き、一度スピードに乗せれば落ちにくい傾向にあります。500バンクはコーナーが少なく緩いので、スピードも落ちやすいですし、別の戦い方が要求されます。ペース配分とか余力計算の部分が大切になってくる感じです。

 カーレースなんかもスリップストリームに入ってる車が抜け出して直線で抜くシーンは多いですが、スピードに乗ったコーナリング中に後続車がスピードを持って抜き去るシーンは少ないですよね。バンク特性を考えて戦い方を考え、環境によって走りを変えられる選手は強いと思います。注意して見てみると、車券予想にも大きなヒントになると思います。

ーーコラム執筆の際、どのようなことを意識されていらっしゃるのでしょうか。大変読みやすく、松浦選手のレース展開のような巧みさを文章から感じます

 ありがとうございます。「僕はこういう性格ですよ」というのをストレートに読者さんに届けられたらと考えてます。コラムに限らず、レース前コメントなどもそうです。予想材料にして欲しいっていうのがあるんですよね。

 競輪のレースは選手の個性や性格が色濃く結果に反映します。コラムでは勝ち負けのことも書いてますけど、伝えたいのは僕の性格や考え方です。それをレース予想の材料にして欲しいですし、楽しんでもらいたいと思っています。これからも僕の考えや走り方、結果にどう思ったかとかを真面目にお伝えできたらと思います。

 それでは今月はこのあたりで筆を置きます! 次回は29日に終了した玉野記念「瀬戸の王子杯」をはじめ出場レースを振り返りたいと思います!

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松浦悠士

Matuura Yuji

広島県広島市出身。日本競輪学校第98期卒。2010年7月熊本競輪場でレースデビュー。2016年の日本選手権競輪でGⅠ初出場、2019年の全日本選抜競輪では初のGⅠ決勝進出を果たす。2019年の競輪祭でGⅠ初優勝を飾り、同年KEIRINグランプリにも出場。2020年のオールスター競輪では脇本雄太との死闘を制し、優勝。自身2つ目のGⅠタイトルを獲得した。ファンの間ではスイーツ好き男子と知られており、SNSでは美味しいスイーツの数々を紹介している。

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