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【松浦悠士の優勝報告】自分の信念を貫き通すため、僕は強くならなくてはいけない

2022/02/18 (金) 12:00

 みなさんこんにちは、松浦悠士です。前回のコラムから高松記念『玉藻杯争覇戦(GIII)』、奈良記念『春日賞争覇戦(GIII)』に出場してきました。奈良では今年初となる優勝を決めることができ、少し安心することができました。今回は高松と奈良について詳しく振り返り、感じたことを書きたいと思います。

奈良記念「春日賞争覇戦」で勝利(撮影:島尻譲)

高松は自分の仕掛けで思い切り走りたかった

 まずは順を追って高松から振り返ります。和歌山が終わった時に「色々と考え過ぎていたのかもしれない」と思ったので、高松では深く考えず、自分の仕掛けで思い切り行こう ということに集中しました。僕にとって高松は相性が良いというか、感触が好きなバンクで、このところ連覇もしていますし、『得意なバンク』と言えます。前受けをして、下げて、自分が持つ距離を見極め、行けるタイミングで仕掛けたいと考えていました。

 初日特選レースでは仕掛けるべきタイミングが思ったよりも早めに来てしまいましたが「この距離でこのペースなら行けるかな」という感覚で踏んでいけました。しかし、蓋を開けてみれば、アッサリ抜かれてしまって…。ショックというか「あれ?」という感じでしたね。

 ただ、レースで気がついたこともあり、微調整をして色々と改善策を練ることができました。自信を持って仕掛けたレースで結果が出なかったわけですが、この初日特選は僕の中ですごく“ためになった”レースです。今振り返っても奈良の優勝に繋がっているような気がしています。

レースで気が付き、その都度細やかに調整をしていく(撮影:島尻譲)

これが今の実力差、受け入れる以外なかった

 勝ち上がり戦では連日積極的に仕掛けることができました。そして決勝、僕が連係したのは慎太郎さんです。「後ろが他地区の選手だから」ということを理由に仕掛けのタイミングを変えたりはしませんし、誰がついていようとも自分の走りをするだけですが、慎太郎さんが後ろにいることで、いつにも増して気合十分でした(笑)。

 なかなか良い心理状態でレースに臨み、決勝も自分から仕掛けていきました。自分のいつもの航続距離を考えてもタイミングはバッチリでしたし、自信を持って駆けられました。たとえ番手が慎太郎さんでも「抜かれるか抜かれないかのゴール勝負はできるぞ!」とイメージも湧いていたんですよね。

高松の決勝は佐藤慎太郎選手とSS同士の連係!(撮影:島尻譲)

 しかし、ここでもアッサリと捲られてしまい…。自信のある仕掛けで負けているので「力負け」以外の表現はありません。このままじゃダメだ、これが今の実力差なんだ、と否が応でも受け止めなくてはいけませんでした。もっと強くなるために練習を積み、また慎太郎さんがついてくれた時は、千切るくらいの仕掛けをしたいです!

 高松を終え、奈良までの日数も短かったので、帰ってからは練習で強くなる以外のことを考えないといけませんでした。ハンドルの握り方を変えたり、レーサーパンツのパットを外してみたり、些細なことでも思いつく限りの調整をしました。

『自信があっても負けて、その事実を受け入れて改善して、修正し続けていくこと』、競輪は本当にこの連続だとつくづく思います。だからこそ、たとえ微調整でも考えを尽くしてやっていれば、結果に繋がりますし、奈良の優勝は報われるような感覚もあり、嬉しかったです。

古性優作選手と松浦選手。「古性君とはレースのことや自転車のことを話します」と本人談(撮影:島尻譲)

力がなくちゃ自分の信念も守れない

 奈良記念は僕にとって今年初となる優勝でしたから、気持ち良く勝利の報告をしたいのですが、その前に準決勝の話があります。レース後、僕はインタビューの場で涙を見せてしまい、それはニュースにもなってしまいました。SNSなどでもファンの方から声をかけていただきましたし、みなさん本当にお騒がせしました。まず、涙を見せてしまったことは事実ですし、自分の精神的な弱さがもろに出てしまいました。

 奈良の準決勝ですが、思い付きで走っていたわけではなく、番組が出ると同時に地元勢優位の中で戦うことになると思い、いろいろな展開を想定していました。僕ら選手は与えられたレースで1着を目指さなくてはいけないですし、勝ち上がりも懸かっています。僕のラインは2車でしたし、内山君もどういう走りをするのかが未知数だったため、自分で動いていかなくてはならない、人任せのレースは絶対にできないと考えていました。

 最悪の場合「脇本さんの番手三谷さんの位置を取らないといけない」というレース展開も容易に想像がつくというか、そういうことをしないと自分の勝ち目もないとわかっていました。番組を見て覚悟を決め、「自力自在」とコメントを出しました。ただ番組を見た瞬間からレースが始まるまで、到底リラックスなどできず、自分のポリシーや三谷さんへの恩義、地元の方々の気持ちなどが頭から離れず、レースを想像しながら完全に張り詰めてしまいました。

準決勝、苦しい選択をしなくてはならない勝負になった(撮影:島尻譲)

 いざレースとなり、自分が位置を取った後は自分のポリシーに反することをしていることから、整理できないような、よくわからない気持ちになってしまいました。間違いなく言えることは、脇本さんに先行されても勝負できる実力があれば、飛びつく必要なんてないということ。自分に自力がないからそういう選択になるということ。2周くらい駆けてもしっかり粘り切る力があれば、地元のラインを分断するような戦略は不要だということ。

 自分の信念やポリシーを通そうと思っても、自分の力が脇本さんに及ばない中で勝つためには、『地元のラインには行きたくない』とか『恩を仇で返すことになる』というのは考えることすらできません。それを承知の上でコメントも出しましたし、レースを走りました。

 ですが、共同インタビューで記者さんからの質問に応えている時、突然張り詰めてたものが緩んでしまったのか、まさか人前で泣くような情けない姿をお見せしてしまいました。当然泣きたくなんてなかったですが止められず、僕自身、自分の精神の弱さを痛感しました。レース前もレース中も覚悟を決めてやり切ったのですが、精神の弱さに関しては、自分としっかりと向き合わなくてはいけないと思います。

覚悟の上で勝ちに行ったが、自分の信念を通せない事実に様々な感情があった(撮影:島尻譲)

中四国ラインの力で! 優勝できて一安心

 決勝は中四国5車で力を合わせた結果、勝つことができました。去年も一昨年も1発目のレースで優勝できており、手応えを感じながらスタートできていたので、今年は本当に「ようやく」という安堵感があります。僕の前を走ってくれた石原君も隼輔も、ライン構成や対戦相手を考えれば、とてもプレッシャーを感じたことと思います。2人ともかなり強張った表情をしていましたね(笑)。

 発走前には「落ち着いてレースをしよう」とライン全員で気持ちをひとつにして臨みました。スタートの位置は自分たちにとって意外でしたが、ラインのみんながそれぞれ冷静に対処できたように思いますし、石原君もいいスピードで駆けてくれました。隼輔とも連係実績があるので、僕も対戦相手のスピードや状況を見ながら、感覚的・直感的にうまく走れたように思います。

中四国ラインがレースを支配、最後は宮本隼輔選手を差し切り優勝を決めた(撮影:島尻譲)

 記念の決勝に5車乗れたことは、特別競輪の舞台にも繋がっていくと思います。強い選手が同地区に沢山いれば、その分勝ち上がりも優位になりますし、みんなで大きな舞台で通用するレベルになっていきたいと願っています。思えば僕がGIデビューした時、自在の自分が前を任されることもあり、「役立たずで申し訳ない…」と感じていたことを思い出します。その頃から比べて、地区全体の層が厚くなり、強くなっているように感じることが増えました。

 裕友が出てきて、雄吾が出てきて、隼輔もいて、自分が戦いやすくなっているのは明白です。それに選手として良い刺激も受けますし、一人では成長しきれない『超えられない壁』みたいなものを超えられているような感じがあります。今回、ラインの先頭で頑張ってくれた石原君とも、ビッグレースで連係したいですし、優勝という結果も嬉しいですが、ラインに対する感謝も強く感じました。

 それと、奈良のお客さんには連日すごく熱い声援を送っていただきました。現場は気候的にめちゃくちゃ寒かったんですが(笑)、とにかく応援が温かったです。僕がゴールした時、たくさんの方が拍手を送ってくださったこと、他地区の自分の走りを楽しんでもらえたこと、本当に嬉しかったです。ありがとうございました!

真っ暗だったイメージにわずかな光が差した

検車場で黙々とフォームを追求する松浦選手(撮影:島尻譲)

 奈良を終えて思ったのは、やっぱり脇本さんの存在は大きいということです。先行されて自分が勝つイメージが湧きません。準決勝も脇本さん自身のペースで駆けさせているわけではないのに、たれることなく最後まで走れてしまう。並じゃないのはわかりきっているんですが、只者じゃないです、脇本さんは。

 でも、これはあくまでも感覚的にですが、「もう少しやれるようになれば、戦えるチャンスがあるんじゃないか?」という兆しも感じました。まったく『手が届かない・相手にもならない』というイメージを持っていましたが、そのイメージが少しだけ良い方向に変化しました。今までは戦えるイメージすら湧かず、ただただ真っ暗でしたが、少しだけ光が差したような気がしました。

読者の方から寄せられた質問に答えます

 それでは今月も質問に答えていきたいと思います! 今月は5問の質問に答えていきます!

今回の5つの読者質問に真っ向勝負!(撮影:島尻譲)

ーー2022年、S級S班が記念開催できっちり結果を出していますが、ここまで振り返って、ライバルとして特別意識している選手はいますか?

 “ライバル”と書くと、その意味合いから答えにくいのですが(笑)。去年も一昨年も脇本さん一人を特別に見ていた感があります。でも今年は少し違っていて、郡司君や古性君の強さを見て「レース内容で負けたくない」と考えることが多いです。

 同じレースを走っての「勝った負けた」ではなく、例えば二次予選や準決勝が別レースだった時、レース内容や上りタイムなどは気にしちゃいますね(笑)。でも「この選手に位置取りで負けたくない!」とか「この選手に着で負けたくない!」とか、同じレースを走っている時は、そこまで意識しないようにしています。近い言葉で表現すれば「参考にさせてもらってる」という表現になりますね。

ーーこのところ若手自力型選手の強さには目を見張るものがあるが、松浦選手の注目している若手がいれば教えて欲しい。連係してみたい、相性が良さそう、とかも知りたい

 そうですね、連係してみたい選手は増えていますね。犬伏君や山根君、太田海也君や練習を良く一緒にしている村上君などは連係してみたいです。ただ相性というのは難しいです(笑)。走って初めて気が付くことがあるので。だからこれは軽い気持ちで“勘”で答えさせてもらいますね(笑)。

 早速ですが、犬伏君は相性悪そうです(笑)。ダッシュの感じや踏み方を見ていると山根君は相性良さそう。競輪選手は走りに性格が出るので、若手選手を見てどういう人なのか? というのは結構把握しているかもしれません。念を押しますが、勘で書いてますからね!

ーー師匠の脇田良雄選手のレースを観ますか?

 基本は全部観ます。開催中で分宿だと見れない時もあるんですが、大体見てますね。弟子ながら師匠のレースについて意見を言わせてもらうこともあります(笑)。

 師匠は脚力があるし強いので、僕から見て弱点に思う所があると、ああした方が良いとかこうした方が良いとか、練習メニューを伝えてみたりもします(笑)。この間、和歌山のレース後に師匠からセッティングに関して声をかけてもらいました。そのおかげで高松にいい感じで入れたというのもありますし、僕の体の変化にも敏感に気が付き、的確なアドバイスをくれる師匠です。

ーー冬季五輪についてツイートしていましたが観ていますか? スケート選手から競輪選手に転向する人もいるくらいですが、参考になったりします?

 ショートトラックの選手の体の使い方は見ちゃいますね。インコースを回っていく時にトン! と相手側へ遠心力を使うところなどは競輪のブロックとかなり近いですし、色々と参考になります。コーナーがきついので、どうやって切り返して体勢のバランスを取っているのか、とかすごく勉強になります。スピードスケートのコーナーの入り方なんかも学びが多いですね。

 それと高梨沙羅選手に元気をもらいました。精神力に感動し、自分なんてまだまだだと思いました。あの精神力に感動し、大きな大きなやる気をもらいました。

ーー(前回コラムで)競輪場にゲームボーイアドバンスを持っていくと見たが、松浦選手がゲームをしているイメージがない。ちなみにどんなゲームが好きですか?

『ポケモン』とか『ドラゴンクエストモンスターズ テリーのワンダーランド』、『モンスターファーム』なんかはハマって結構やってましたね。僕は育てて戦わせる系が好きかもしれません。ちょうど最近、新しいソフトなんかないかなあ、と思っていたので、何かあればぜひ教えてください(笑)。

 ちなみに僕は「途中でやめやすいゲーム」というのがハマる条件だったりします。ドラクエ的なRPGも好きなんですけど、一回やり始めると先が気になり過ぎて、途中でやめられなくなり困ってしまうという状況に陥ります(笑)。

右肩上がりの実感を胸に全日本選抜へ

 最後に今年最初のGIへの意気込みを書いて、今月のコラムを終わります!

 最近、周囲の人から「調子が良くない」と言われる時がありました。その時はそんなことはないと思っていても、後から振り返ると「あの時は気温の変化で自転車とマッチしてなかったな」とか思い当たる節もあるんですよね。

 でもそういった中で、和歌山より高松、高松より奈良、という感じで右肩上がりに調子を上げていけた実感がありますし、勢いに乗ることで良い成績が残せるのも競輪です。まだ『最高の状態』と言えるまでに、もうひと伸び必要な感覚ですが、それでも今は全然悪くない状態にまで戻してこれました。

 取手の全日本選抜には楽しみな気持ちで乗り込めそうです。精一杯、自分の走りで戦いますので、みなさん応援よろしくお願いします!

今年最初のGI戦を前に「上向く調子の中でどんなレースができるか楽しみです」(撮影:島尻譲)

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松浦悠士の“真っ向勝負!”

松浦悠士

Matuura Yuji

広島県広島市出身。日本競輪学校第98期卒。2010年7月熊本競輪場でレースデビュー。2016年の日本選手権競輪でGⅠ初出場、2019年の全日本選抜競輪では初のGⅠ決勝進出を果たす。2019年の競輪祭でGⅠ初優勝を飾り、同年KEIRINグランプリにも出場。2020年のオールスター競輪では脇本雄太との死闘を制し、優勝。自身2つ目のGⅠタイトルを獲得した。ファンの間ではスイーツ好き男子と知られており、SNSでは美味しいスイーツの数々を紹介している。

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