2020/12/03 (木) 16:16
11年程前__私がボートレース実況を始めて、まだ間もない頃。
CS放送でその日のレースを振り返るボートレース番組がありました。
その番組内で『艇声天語』(ていせいじんご)というタイトルの特集コーナーも不定期で放送されていたのです。
これは全国24ヶ所あるボートレース場の実況アナウンサーを取り上げる特集で、様々なアナウンサーが出演。
当時の私は実況デビューを果たしていましたが、まだまだ若手の身。
(*当時全国のボートレース場で最年少の実況アナウンサーでした)。
他場のアナウンサーはみなさん、大先輩ということになります。
番組では実際に実況をしている様子や、生い立ち、アナウンサーになるキッカケなどで構成。
他のアナウンサーがどんなことを考えて、お仕事されているのか?
まだ経験が浅い私にとって、この特集はとても興味深いものでありました。
そのような中、私の師匠である野村達也さんもその番組に出演。
あれは確か、野村さんが自身初となるSG優勝戦の実況を直前に控えていた頃でした。
特集される野村さんを目の当たりにした当時の私は
「この『艇声人語』に出演できるくらいの力をつける!」
ことを目標にしたのです。
それから約10年後。
この『森泉宏一の実況天国』が始まり、コラムのネタを考えていた時に『艇声人語』のことを思い出しました。
「他のアナウンサーが何を考えているのか?」
「どんな準備や練習をしているのか?」
「そもそも、なぜ、その仕事をしているのか?」
という疑問を未だに持ち続けています。
そして、みなさんにも知っていただきたいということで『公営競技の実況アナウンサーへのインタビュー』を新しく企画。
第一弾として、浜松オートの実況担当である島田祐希さんにお願い致しました。
以下、先日の伊勢崎オートで行われた公開予想対決の日にインタビューしたものです。
森泉(以下・森)「喋りの仕事を始めて、どれくらいになるのですか?」
島田(以下・島)「6年くらいですかね。大学を卒業して、最初の1年はフリーターをしていて、2年目に初めて喋りの仕事。高校野球の実況を始めて、その翌年にオートレースの実況を始めました」
森「あっ、高校野球が先だったんだ!」
島「はい、最初は高校野球でしたね」
森「てっきり最初からオートレースだと思い込んでいました。高校野球は何県で?」
島「三重県です」
森「そうだったんですね。そして、その後にオートレースの実況。キッカケというか、そもそも公営競技に馴染みはありましたか?」
島「元々、アナウンサーの勉強はズーッと、していて。習いに通っていた事務所が競馬のアナウンススクールで、公営競技の実況をされている方が講師でした。その時に公営競技の実況アナウンサーを探していて、そこに巧くタイミングが合ったという感じでしたね。だいぶ“補欠の補欠の補欠”に位置していたらしいですけど(笑)」
森「公営競技のアナウンサーになりたいというのは?」
島「それはありましたね!ただ、公営競技というよりはレース実況をしたいというのはありました。特に公営競技という括りでは意識していませんでした」
森「レースの実況をしたかったというのは……例えばカーレースとかそういう?」
島「というより、どういう仕事があるのか調べてはいなかったんですよ」
森「それでこういう仕事もあるのかぁ、と」
島「そうですね、元々は競馬好きで入っているので。公営競技の入り口も競馬でした」
森「オートレースは?」
島「仕事の話しを頂戴するまで知りませんでした。髙橋貢(伊勢崎22期)選手ですら知りませんでしたね。というのも僕は関西出身なのでオートレースに馴染みがない地域で育ったのもあったんですよ」
森「確かに関西出身の選手自体があまりいないですもんね」
島「森且行(川口25期)選手の存在は知っていましたが、オートレースの選手に転身したというのも知りませんでした」
森「なるほど。もっと初めの部分で、そもそも喋りを仕事にしたいと思ったのはどんなキッカケで?」
島「そのキッカケが一番、面倒臭くて……」
森「んっ?(笑)、それはどういうこと?」
島「元々、テレビが大好きで、芸人さんは面白いし、俳優さんは整っている人が多いし、夢が詰まっている世界じゃないですか」
森「華やかな世界だ」
島「そうですよね。そして僕は女子アナが大好きで、中学、高校時代は女子アナのオタクだったんですよ!女子アナ目当てで、テレビを観るようになって。それで調べていると男性アナウンサーという仕事も存在すると。そして、その男性アナはスポーツを喋っている。それで僕はスポーツをやっていたので、実況の真似事をしていたんですよ。ただ、それはアナウンサーということは意識せずに」
森「ただモノマネをするという」
島「スコアブックを書きながら、遊びでやっていました。でも、アナウンサーの喋りを意識したら、昔、やっていた真似事と職業としてのアナウンサーが結びついて__。なので、キッカケは女子アナです!」
森「断言しちゃった!よしっ、キッカケは必ず書こう(笑)」
島「これは公言しているので構いません(笑)。こういうキッカケの人、いないでしょうね」
(この後、熱い女子アナトークが続きましたが、ここは割愛)
島「女子アナを知らなければ職業にはしていなかったでしょうね」
森「オートレース実況のデビュー戦のことは覚えています?」
島「日や誰が勝ったかは覚えているけど、展開や自分がどんな思いで、その日を迎えたかは覚えてないですね」
森「公営競技の実況アナウンサーって、実況だけやりたいっていう人が多くないですか?」
島「僕は絶対そうですね。できれば実況だけをしたい。あんまり画面に映りたくないんですよね。浜松は映る時間が短くて、助かっています。7時間の生放送で映るのが2分くらいですからね」
森「そんなに映りたくないのね(笑)。ただ、私も実況だけしたいというのは凄く分かる。顔が出なければ司会をするのはアリ?」
島「あんまりですね。僕は本番中、メッチャ猫を被って喋っているので。素が出てしまうと、人前に出られるレベルじゃなくなる」
森「(笑)」
島「こういうことを喋ると、絶対に怒られるんですけどね。経験にはなりますけど」
森「もう何度もG1やSGも経験していますよね。困ったことや嬉しかったこと、ハプニングなどのエピソードがあれば」
島「失敗はイッパイありますよ!」
森「あっ、つい先日……」(実況中に周回誤認)
島「みんな、失敗するじゃないですか。選手もそうですし、ファンの人も車券で失敗するし。それにしても、この仕事って、失敗が物凄くクローズアップされますよね」
森「確かに。失敗すると、すぐ見つかってしまう仕事ですね」
島「もう少し周りも僕みたいに寛容になってくれたらなぁ、なんて(笑)」
森「目立つ仕事ですからね。『鈴木選抜レース』も未だに地上波で取り上げられることがあって、その度に島田君の実況が流れる。やはり、あのレースは結構、仕込みを?」
島「いや、そんなにやってないんですけどね。仕込んだら逆に喋ることができなくなりませんか?」
森「うーん、どうでしょう。でも、テレビで取り上げられるのは知っていましたか?」
島「いやいや、全く知らされてなかったですよ!ネットでバズったから、取り上げられたって流れで」
森「あっ、そっちなんだ!」
島「それとタイミング良く、鈴木姓の発祥について世間で話題になっていたのもありました。その流れでオール鈴木のレースがありましたよっって、話題だったので『うわー、嫌だなぁ』と、当日を迎えたんですけどね」
森「(笑)」
島「まぁ、少しは考えましたけどね。下の名前を多く使おうとか。逆に使わずにいった方が良いのか。色々と、考えたんですけど……いやいや、普通にやったらええやんって!そうしたら、あのように取り上げられて」
森「あれはどうなのですか?『イッツゴーンヌ』が誕生したキッカケは?遠藤誠(浜松25期)選手からの依頼ですか?それとも島田君から『言っても良いですか?』と、聞きにいったとか?」
※「イッツゴーンヌ」……プロ野球・北海道日本ハムファイターズ戦の実況を担当する近藤祐司アナウンサーが生み出したフレーズ。ファイターズの選手にホームランが飛び出した時に出る。島田氏はレース中、ファイターズファンである遠藤選手(遠藤選手の弟さんは元ファイターズの投手)が先頭に立った時、しばしばこのフレーズを発する。
島「あれ事前に許可も得ずに、勝手に言ったんですよ。しかも前から温めていたものではなくて、遠藤選手が走っているレースの実況中に思いついて。実況しながら、あっ、このままいけば遠藤選手が勝つ展開だと。ここで言ったら、面白いだろうなと」
森「それで言っちゃって、遠藤選手はすぐに気づいたの?」
島「最初の時じゃなくて、2回目の時かな。ロッカーに行ったら遠藤選手から『イッツゴーンヌ、言ってるじゃん!』って、メッチャ嬉しそうにしていました(笑)」
森「あれを初めて聞いた時は衝撃的。うわ、ゴーンヌ言うとるって!どういう経緯なのか凄く興味が湧きましたよ」
森「実況の時に気を付けていることは?」
島「色々、考えるんですけど、スタートしたら全て忘れちゃうんですよ。スタートする前は『さっきのレース、あそこを失敗したから、ここを気を付けよう』とかは考えるんですけど。その辺り、ちゃんと自分を上手にコントロールできれば、もっと巧くなるんでしょうけどね」
森「よく『何年ぶりの優勝、優出』って入れるよね。あれを聞くと、ファンの方はより応援しようと思うし、そう思っている人も多いんじゃないかと」
島「それはありますね。僕もそういう気持ちになりますから」
森「先程、話していた、巧くなりたいというところでいうと、手本にしている、あるいは目標にしている、尊敬するアナウンサーはどの方になりますか。師匠は?」
島「師匠という師匠はいないですね。一応、テレビ局を受ける時、スクールに通って……」
森「ちょっと待って!局アナ試験を受けていたの!?」
島「そうですよ。普通にフジテレビとかTBSとかテレビ朝日とか……就職活動で」
なんと!島田氏が局アナ試験を受けていたことが発覚!
島「地方局も受けて。宮崎とか。就活なのにバイクとフェリーでいきましたけど。受かる気はゼロ(笑)」
森「うははははははっ!旅行気分やないか!」
島「実際、面接の次の日に旅行へいきましたけどね(笑)」
島「特定の誰かを手本にするというのはないですが、森泉さんも含めて、どのアナウンサーも良いところがあるので、それぞれの良いところを取り入れられたらとは考えています。あと、僕の目標は『自分の100点を1回出すこと』です」
森「ちなみに今までの最高点は?」
島「今まで……50点を超えたことはないですね。100点を出したら、喋りを辞めようと思っていますから」
森「それは逆に100点を出して欲しくないねぇ、業界的にも」
島「自分で100点が出ない自信があるから、公言しているのもあるんですけどね。実際に100点が出た後、もう1回、喋りたいって、思います?」
森「確かに100点が出たら……うーん、どうだろう!?」
島「人生のMAXが出たら、そこで終わりたいですもん。例えば、8レースでそれが出たら、次の9レースは喋りたくないなぁって」
森「良い状態で終えたい」
島「でも、恐らく100点が出ることはない。実況って、100点が出ない仕事だと思いませんか?」
森「思うっ!」
島「でしょ!他のアナウンサーもそうだと思う。僕の中では自分が納得、満足ができる、100点を出すのが目標だなと。一生、出ないけど、目指す価値はあるかなと」
森「最後になりますが、ズバリ『実況とは?』」
島「実況とは誰でもできるもの!」
森「その心は?」
島「目で見たものを伝えるのが実況。だって、みなさんも目で見たものを喋るでしょ?」
森「とは言え、それを仕事にするとなると……時々、言われるんですよ。レース実況に台本はあるのですか?と。止まることなく、スラスラと喋っているので、台本があるんじゃないか?そう本気で聞かれることがあって。それを誰でもできるって……」
島「実況は誰でもできるものではあるけど、それが放送で使えるものか。アナウンサーとして、仕事として成り立つものかと言えば、かなりの高いレベルが必要になる」
森「要は使いものになるかは別だと」
島「そういうことですね。練習すれば誰でもできるものだと考えているから、特殊技能ではないと、僕は考えています。だから間違えた時に何か言われても仕方ないのかなと。もちろん、言い過ぎ、極端な意見だとも思っていますよ。ただ、誰でもできるけど、巧いかどうかは別な訳で。だから『実況とは?』と、尋ねられたら、誰でもできるけど、誰でもできるものではない。これが答えですね!」
島田氏が局アナを目指していたという新事実も発覚した今回のコラム。
今後も不定期ながら私が気になったアナウンサーにインタビューを申し込んでみようと考えております。
今後も楽しみにしていただけたら幸いです。
【チャリロト劇場「燃えろ!!オートレース」/今後の放送日程】
・12/10〜12/12(伊勢崎オート デイレース/8車立て12レース制)
・12/18〜12/20(山陽オート デイレース/G1 第55回スピード王決定戦 8車立て12レース制)
https://ch.nicovideo.jp/dmm-chari2
12月に入り、早いもので今年も残り僅か。
年間の打率(的中率)ランキングもいよいよ大詰め!
果たして、誰が首位打者に輝くのか?
そして、万車券的中となるホームラン王は?
【オートレース/今後の記念レース日程】
・12/5~12/9 G2オーバルチャンピオンカップ(飯塚・ナイターレース)
・12/16~12/20 G1第55回スピード王決定戦(山陽・デイレース)
・12/27~12/31 スーパースターフェスタ(川口・デイレース)
・1/7〜1/11 G1シルクカップ(伊勢崎・デイレース)
・1/20〜1/24 G1開設記念レース(飯塚・ナイターレース)
・2/19〜2/23 SG全日本選抜オートレース(浜松・デイレース)
・3/3〜3/7 G1開設記念グランプリレース(川口・デイレース)
・3/17〜3/21 特別G1共同通信社杯プレミアムカップ(飯塚・ナイターレース)
森泉宏一(もりいずみ・こういち)
1984年5月8日生まれ
東京都出身 広島県・富山県育ち
父親の影響もあり、学生時代は野球に打ち込む
25歳の時、ボートレースで公営競技実況デビュー
2017年4月から伊勢崎オートでオートレース実況を始める
公営競技実況の他、プロアマの野球実況
さらにはイベントや展示会の司会
広告モデルや話し方教室講師などでも活動
野球好きの選手からの誘いもあり、
伊勢崎オートの野球チーム「キラッツ」に入部
しかし、デビュー戦において投手で二桁失点を喫する
その為に最近、オートレース界隈でその実力が疑われている
某選手からの「投げるスタミナがあるだけで助かっている」
という慰めの言葉が唯一の救い
森泉宏一
生まれは東京、育ちは広島、富山。学生時代に喋りの仕事を志し、2009年にボートレース実況でアナウンサーデビュー。2017年からはオートレース実況も始める。現在はYouTube配信番組などの出演も多く、「チャリロト劇場 燃えろ!!オートレース」出演時はMCも務める。パーフェクタナビでは「森泉宏一の実況天国」コラム連載中。プライベートでは2022年に年間100本の万車券的中を達成。試走タイムが出ない選手や逃げが得意の選手を好む傾向にある。公営競技を含めた日々の仕事の様子などを投稿している「森泉宏一のモーリーチャンネル」も絶賛更新中。