2019/12/16 (月) 19:16
12月に入り、街の空気が慌ただしく感じるようになってきました。
12月は旧暦では『師走』と、呼ばれます。諸説あるようですが、『師(教師など普段、落ち着いている人)』も『走る』くらいに12月は忙しいという意味です。
競輪界では12月に限らず、1年中、『師』も走っています!そう、競輪選手には多くの場合、師匠がいて、この師匠も皆、競輪選手(既に引退している場合もありますけれども)だからです。この師弟制度の歴史がいつからあるのかは分かりませんが、多くの選手はアマチュア時代に登録地の選手に弟子入りを志願し、面倒を見ていただきながら選手を目指すようです。その師弟関係はスポ根漫画のような血と汗と涙が滲み出そうなゴリゴリのものから、ドライなものまで。師弟の数だけ関係性や距離感に違いはあるはずですから、多種多様なものになってくることでしょう。
12月7日から3日間、松戸競輪場で行われた『F1吉井秀仁杯フラワーラインカップ』でも師弟のドラマがありました。
吉井秀仁さんは__みなさん、ご存知の元競輪選手です。選手時代の輝かしい功績を称え、そのお名前が冠となった開催が行われています。その吉井秀仁杯のS級戦に、今回も弟子の武井大介(千葉86期)選手が出場していました。毎年のように師匠の冠レースを走っている武井選手ですが、今回はさらに特別なものがあったと思います。なぜならば武井選手の弟子である野口裕史(千葉111期)選手も出場していたからです。
2人はちょうど1年前の松戸でも連携がありました。これまた。吉井さんの弟子で、武井選手の兄弟子である元選手の冠レース『F1鈴木誠杯』の初日。野口選手ー武井選手の2車単オッズは1.3倍。もちろん一番人気でした。続く2番人気が武井選手の差し目で、多くのファンが師弟ワンツーを期待していたことが分かります。しかし……残念ながら残り2周でカマシにいった野口選手に武井選手が離れてしまい、野口選手が1着、武井選手は9着という結果に終わってしまったのです。
1年を経て、今度は師匠の冠レースでの“リベンジマッチ”。同じ失敗は繰り返せません。初日予選から連携が実現して、野口選手-武井選手の2車単は一番人気。ただ、1年前より少し人気は下がって、オッズは2.0倍でした。悔しいことに二番人気と三番人気には野口選手から別ラインへの組み合わせ、武井選手の差し目は四番人気で13.8倍ありました。
レースは前受けの野口選手が誘導退避ギリギリの残り2周半過ぎから突っ張り先行。次第に加速し、別ラインを寄せつけない力強い競走でした。その走りに、武井選手はシッカリ追走。抜くことはできませんでしたが、後続の走りを気にしながらラインでワンツー!師匠の冠レースの初日に弟子と孫弟子で、一番人気をシッカリ決めてくれたのです。
2周以上の距離、風を受けながら先行して押し切った野口選手。その強さは1年前よりも増しているように感じました。ラインの先頭の選手が長い距離を駆けると、たまに見掛けるのが番手選手のツキバテ。番手で体力を温存しているはずが、先にスタミナ切れを起こしてしまうというものです。しかし、武井選手はシッカリ対応していました。
武井選手から近年のスピード競輪への対応に苦戦していると、お話しを伺ったことがあります。ヨコの動き、ブロックや中を割るような競走を持ち味に走ってきた武井選手。ですが、ナショナルチームの台頭などで、番手選手の走りはヨコよりもタテを求められるようになってきています。年齢と共に、身体が衰えていく中、新しい時代に対応することは簡単なことではないと、素人の私でも思います。それでも、初日の走りは試行錯誤の中で努力を続けてきたことが伝わってくる競走だったと思います。
この1年間、それぞれが積み重ねてきた努力を師匠の冠レースで発揮して、さらに結果を残す。競輪選手3代に渡る想いを想像し、胸が熱くなった一戦でした。
現代社会で、私たち個人が“師弟関係”を感じることはほとんどないように思えます。また、競輪選手の師弟関係もどれだけの密度なのかは、ファンにはなかなか伝わりにくい部分かと。であっても、師匠から弟子へ脈々と、受け継がれていく“師弟関係”の流れはファンの想像力を掻き立てられるものであります!
木三原さくら(きみはら・さくら)
1989年3月28日生 岐阜県出身
2013年夏に松戸競輪場で
ニコニコ生放送チャリチャンのアシスタントとして競輪デビュー
以降、松戸競輪や平塚競輪のF1、F2を中心に
競輪を自腹購入しながら学んでいく
番組内では「競輪狂」と、呼ばれることもあるほど競輪にドはまり
好きな選手のタイプは徹底先行
好きな買い方は初手から展開を考えて、1着固定のフォーメーション
“おいしいワイド”を探すことも楽しみにしている
木三原さくら
2013年夏に松戸競輪場で ニコニコ生放送チャリチャンのアシスタントとして競輪デビュー。 以降、松戸競輪や平塚競輪のF1、F2を中心に競輪を自腹購入しながら学んでいく。 番組内では「競輪狂」と、呼ばれることもあるほど競輪にドはまり。 好きな選手のタイプは徹底先行! 好きな買い方は初手から展開を考えて、1着固定のフォーメーション。 “おいしいワイド”を探すことも楽しみにしている。