2017/06/28 (水) 12:51
村上義弘、言わずと知れたスーパースターである。一切の妥協を許さずに満身創痍(まんしんそうい)でもひとたびバンクに姿を現せば、魂の走りを見せる。その厳しさ、競輪に対する姿勢は多くの選手、ファンが感銘を受ける。そして、村上の凄いところは、その考えが後輩たちに浸透している点である。
3月、村上は練習中の落車で左鎖骨や肋骨などを骨折。「一番権威のある大会」と公言する5月上旬の「G1日本選手権」=ダービーの欠場を余儀なくされた。そして5月下旬の「全プロ記念」でも落車、同じ箇所を痛めた。
それでも、村上は立ち上がった。決して満足のいく状態でないことは明らか。6月中旬の「G1高松宮記念杯」は、近畿地区の岸和田競輪場で開催されたからこその強行出場?だった。今回から東西別の勝ち上がりになり、東西の強豪がぶつかるのは決勝戦。優勝は新田祐大だったが、これぞ村上というレースが3日目の「西王座戦」(準決勝)で見られた。東西別の勝ち上がりというのは、普段は連携している選手同士が敵になることもある。
メンバーを見ると近畿から5人。村上の他、同じ京都の稲垣裕之と実弟の博幸。ダービー王・三谷竜生と椎木尾拓哉。果たして連携するのか?それとも別線か?5人で連携すれば、決勝に勝ち上がれない人間が出てくる可能性が出てくる。近畿勢が選んだのは別線勝負だった。この時、何人かの評論家は「別線だが、最終的にドッキングする。京都勢が逃げて三谷は4番手からの捲り追い込み」と。だが、これは村上の思いとはかけ離れている。
レースを振り返ってみよう__打鐘で三谷と椎木尾が抑える。この時、三谷はインを切って4番手だろうと、予測した人間は多かったはず。すかさず稲垣を先頭にする京都勢が叩きにかかる。うがった見方をする人間には5車結束と映ったはずだろう。しかし、三谷は先行態勢に入り、稲垣と激しくもがき合った。結局、稲垣が主導権を握り、三谷は後退しながらの4番手。
ドッキングするなどというセコイ考えはない。これがまさしく村上イズムなのだ。普段は連携していても勝負になれば別、力と力。それで負けたなら仕方ない。力勝負を演じて5人が決勝に進めればベストだが、まるで密談のように示し合わせた競走はしない。自分自身のプライドが許さないし、車券を買ってくれているファンに失礼極まりないからだ。誰が近畿5人の連携を見たいのか。見たいのはダービー王と京都勢の真っ向勝負。結果的に村上と稲垣が勝ち上がったが、これぞプロの競走、妥協なしの競走を見せてくれた。車券こそ外しはしたが、レース内容に感動したファン(余談ながら筆者もその口だ)は少なくはなかった。日頃から村上がやっていることを後輩たちがシッカリ受け止めたからだろう。これが“村上イズム”、ファンに感動を与える走りを見せてこそのプロ。村上の背中を見てきた者たちにしか分からない瞬間だった。
Text/Norikazu Iwai
Photo/Perfecta Navi・Joe Shimajiri
岩井範一
Perfecta Naviの競輪ライター