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【松浦悠士の詳細解説】競輪の難しさと戦う毎日! それでも進化することをあきらめない

2022/06/27 (月) 18:00

 みなさんこんにちは、松浦悠士です。今回は宇都宮記念『ワンダーランドカップ(GIII)』と取手記念『水戸黄門賞(GIII)』、そして岸和田競輪『高松宮記念杯(GI)』の振り返りを中心に近況報告をしていきたいと思います。

オールスター投票結果2位でドリームレースの出場が決定している松浦悠士選手(撮影:島尻譲)

ファンのみなさんには感謝しかない

 レースの振り返りの前にオールスター競輪の投票について感謝したいです。みなさんのおかげで投票結果は2位でした! 去年も2位でしたが、今年の2位は僕の中で捉え方が大きく違います。去年はダービー優勝もしているので「選んでもらいたいな」という心境だったんですが、今年は「選んでもらえるのだろうか、選んでもらえるとして何位になるんだろう」と不安に思っていました。

 去年〜今年前半の成績には自分自身が納得できていませんし、何よりファンの方に評価してもらっている『安定感』もなく、車券に貢献できないレースもありました。そういった中で去年と変わらず沢山の方に投票をしていただけたことは、選手として嬉しく思いますし、感謝しかありません。今年後半、納得できる結果を出せるようにひとつひとつ頑張っていきますので、これからも応援よろしくお願いします!

心身ともに状態が良かったワンダーランドカップ

連日会場を沸かせ、宇都宮のファンと交流した(撮影:島尻譲)

 宇都宮記念は1着を獲れた2日目と3日目に関しては手ごたえのある走りができました。2日目は納得できるタイムも出せましたし、高橋晋也君と力勝負をして勝ち切れたことも僕の中で大きな収穫です。

 高橋君とは良く話すんですが、お互いに意識し合っていて、レースでは気持ちも入ります。体のコンディションの良さも確認でき、気持ち良く3日目に繋げられたと思います。

 良く話すと言えば、同県の吉本哲郎さんと同部屋だったので、宿舎でもリラックスできる環境がありました。僕は開催中に観たいテレビがあったので、吉本さんには事前に「テレビでドラマを観ます」と伝えておきました。でも吉本さんはそんなのお構いなしです。いざドラマを観始めても、吉本さんに話しかけられてまったくストーリーが入ってこない(笑)。普段から競輪場で会えば練習も一緒にやりますし、面白い気持ちにさせてくれる先輩ですね。でもドラマは観れません(笑)。

うまく“封じられている”という感覚がある

気合いMAXの入場シーン(撮影:島尻譲)

 心身ともに好調で迎えた最終日。レース自体は自分でしっかり作れたと思います。でもダービーで敗れた二次予選と一緒で、相手の先行選手が「粘らせない」と考え、出てからも緩めない意識で踏まれると、なかなか展開は厳しくなります。最近、成績を残せていない一因がここにあるのかもしれません。

 今まではイン粘りをするにしても、流れの中でナチュラルにできることが多かったです。ただ、対戦相手がそれを読んで対策してきている中で、自分のやりたい戦法が封じられている感もあります。

 実はこの「粘らせない」といった感覚は、僕もすごく良くわかっています。僕が前でレースを走る時、相手に対して戦略を立てるヒントにしているのが「自分がされたら嫌だなぁ」なんですよね。自分が意識して実践してきたことを最近では自分が受けているような場面が多々あります(苦笑)。今年は仕掛けたいタイミングで仕掛けられなかったことも多いですし、周りの選手に“うまく封じられている”というのは否めません。ここにどのように対策を打っていくのかがポイントになってくる気もしています。

 あと眞杉君は今後警戒しなくてはいけない存在です。眞杉君は駆け方も変わってきているし、タイムも上がっているしで、昨年からのレベルアップが著しいと思います。今回対戦したことでその成長度合いも肌で感じましたし、眞杉君の印象にも変化がありました。

ワンダーランドカップ決勝、最終ホームで激しい攻防が繰り広げられた(撮影:島尻譲)

ショックが大きかった水戸黄門賞

 水戸黄門賞の決勝は2車とは言え石原君があれだけ頑張ってくれて、なおかつ自分の得意とする勝ちパターンの中で獲れなかったことは本当にショックでした。たとえ準優勝と言えども「先行の番手で優勝できなかった」という事実は落胆するには十分な内容です…。

 全日本選抜は内から、今回は外から…。最終2角辺りから直線にかけて一瞬迷ってしまったことも悔しかったです。強力な関東ラインと戦ったことで今後に繋げていけるような収穫もありましたが、あのレベルの戦いになると迷いは消さないと勝てないですね。2車でのレース運びや「勝ち切ること」について深い学びがあったので、今は前を向いて取り組んでいます。

決勝は石原颯選手(7番車)と松浦選手(2番車)の連係(撮影:島尻譲)

 この取手でも体の状態は良く、ダービー明けからもずっと良い練習ができていました。それでも結果が出ない現実を受け止めれば、今年は周囲のレベルもぐんぐん上がっているのだと思い知らされます。やりたいことをやって負けているレースもあれば、やりたいことをやらせてもらえずに負けているレースもあります。だからこそ一瞬の判断ミスなどは完全になくしていかないといけません。

 実はファンの方達からの「調子が悪いんじゃないか?」という声にハッとさせられることもあるんですよね。僕は体のコンディションの良さや練習の充実度で判断して「調子は悪くないです」と言ってきました。でもレース中の判断ミスや前を任せている選手に適切な場面で適切なアドバイスができているかと思い返すと、今年は頭が回っていないのかもしれないと思う節もあります。

 練習でタイムも伸びているし、「自転車を速く進ませる能力」に関しては充実していても、感性や判断の面で鈍くなっているような自覚もあります。コロナ禍にあって大人数で競輪の練習をする機会が減っていたり、そもそも気分転換ができていない現状があったり、そのあたりに理由がある気がしますが、今一度しっかり向き合い修正していこうと思います。

体の状態が良くても勝ち切れないという難しさと対峙した(撮影:島尻譲)

高松宮記念杯、すべてが悪い方に重なった準決勝

 ここまで書いたように体のコンディションが良いと思ってレースに臨んでいると、思わぬところで悪影響が起こります。高松宮記念杯の準決勝はそれがダイレクトに出てしまったレースです。前述したように良い練習ができ、タイムも伸びているので、自分の体がかなり仕上がっている実感を持って高松宮記念杯に入りました。

 そして準決勝の判断ミスに繋がるのですが、最終コーナー付近で「内に詰まるぐらいなら外だ! これなら届くぞ!」と外のコースを行く選択しました。そこで研太朗とハウスして態勢を崩した東口さんからの接触を受けてしまいました。外から行くという判断がなければ接触は避けられたはずなので、この判断ミスには後悔があります(中を行く判断が最適だったと振り返っています)。

「なぜ外のコースを選択した?」と自問自答すれば、やはり状態が良いからこそしている判断であり、それが裏目に出てしまっているということです。あの場面でもしっかり踏むことはできていたので、勢い的には勝負圏まで行けたと思います。でも勝負は結果がすべて。接触後に勢いが止まり「万事休す…」という感じだったので、やるせない気持ちになりましたね。

不慮を受けて失速し4着、決勝への勝ち上がりを逃してしまった(撮影:島尻譲)

ラインを組んだら“心中”覚悟

 最終日は太我との連係を外してしまい、これは大きな反省点です。僕からの視点では坂井君に突っ張られたと認識した時点で「3番手の位置が空いている」と考えたので、自分が内を確保すれば太我を迎え入れることができると判断して引きました。その判断の結果として太我を一人で行かせてしまう形になってしまいました。

 ラインを組む以上は太我を信頼し、心中する覚悟でレースをしなくてはいけないのにそれができなかったということです。レース後やその後の練習でも太我と話をしていますが、このレースは大きな反省点と捉えて、これからの連係に活かす糧にしたいと思います。

 そのほか、高松宮記念杯シリーズ全体のことですが、落車失格のアクシデントも目立っていました。僕個人の話ではありませんが、「事故のないレースをしなくては」という気持ちを再認識しています。どうしても大きな舞台で勝ち上がり難度も高いレースでは厳しい走りが多くなります。でも事故レースを出さないようにする意識は持ち続けなければいけないですね。

 お客さんから見れば落車(その落車の影響範囲)を予想して車券を買うのは無理ですし、選手にとっても良いことはありません。これは自分のレースの反省とは別で、気を引き締めていきたいと思います。

町田太我選手との連係について「心中覚悟が足りなかった」と語った(撮影:島尻譲)

競輪の難しさと戦いながら進化していくことを求める

 僕は去年まで「競輪が強くなるように」というテーマの中で練習に励んできました。でもここに来て心境の変化があり、「先行して勝てるようになりたい」と考えるようになりました。去年までは「競輪が強くなる練習を続けて、先行もしていけたらな」くらいの感じで、願望の域を超えない想いだったんですが、徐々にその気持ちは強くなっていきました。

 先行で勝つためには当たり前ですが「速く走る能力」が必要で、単純にタイムを上げることだったり、トップスピードをより速くすることだったりの練習を強化しなくてはならないですし、今年はそこに重きを置いています。その点で練習ではタイムも上がっていて、トップスピードも上がっていて、好調を感じているのも正直なところです。

 練習の効果も実感しているし、タイムもスピードも上がっているのに、なかなか成績が出ないので、またしても競輪の難しさに直面しています(苦笑)。脚力が向上しても、それをうまく競輪に活かすことができていないのが現状です。僕の前半戦は終わり、後半戦が始まります。今は競輪の難しさと戦っている最中ではありますが、ひとつひとつのステップをクリアして、練習成果をきちんと成績に繋げていけるように挑戦していこうと思います。頑張ります!!

競輪の難しさに直面してもその闘志に揺るぎはない(撮影:島尻譲)

読者の方から寄せられた質問に答えます

 それでは今月も質問に答えていきたいと思います! 今月は3問の質問に答えていきます!

今回は3つの読者質問に真っ向勝負!(撮影:島尻譲)

ーー若手時代に経験した二度としたくない地獄のトレーニングがあれば教えてください

 今考えると「ない」です。強くなるための練習だったら何でも進んで全力でやりたいので、地獄のトレーニングも大歓迎なんです(笑)。それにそういう意識で練習しないと強くなれないということを僕は知っています。

「やだなーと思いながら練習する」あるいは「ただ練習をこなす」と「気持ちを集中させて質の高い練習にする」というのは成果に雲泥の差が出ます。選手はみんな練習しているので、いかに気持ちが重要なのかは言うまでもありません。

 その上で昔やった中でひとつ地獄っぽいキツさを感じたものを挙げるなら「バンク375周」ですかね。なにしろ景色が変わらないので、脚よりもメンタルが強化されます(笑)。昔は「やだなー」と思ってやってましたけど、今それが必要だと思ったら、喜んで375周に行くつもりです!

ーー宿舎やレースにおける中四国地区独特の風習や決まり事、上下関係などはありますか?

 特にないですね。中四国はそれぞれ自由な雰囲気があります。「あれしろ! これしろ!」みたいな先輩からの干渉もありません。コロナ禍でレース後の「自転車取り」もなくなりましたし、地区のルールや慣習もなくなって、自由にやってる選手が多い印象です。

 地区独特の話で言えば、南関東地区が特徴的ですかね。食事やお風呂など一緒にまとまって生活をしている感じをよく見ます。競輪選手の生活は地区によってそれぞれ地域性があるのは確かです。

ーー去年よりも優勝回数は少ないですが、賞金ランキングも上位なので状態は悪くない気がしますが、やはり優勝する・しないにこだわるものでしょうか?

 去年と比べて優勝回数も少ないですし、コラム本編で書きましたが、練習の効果も感じている中で優勝できない、勝ち切れないというのは重く受け止めていますね…。体の状態は悪くないのに、結果や成績に繋がっていないのは事実ですので…。

 記念以上のレースは優勝すれば名前も残りますし「GIII何回優勝」という記録にも反映されます。賞金は優勝しなくても積み上げられるものかもしれませんが、やっぱり選手ですから、その開催を制することに全神経を注いでいます。勝ち切れたのかそうでなかったのかは大きく違うんですよね。

 僕だけでなく、やっぱり選手なら「GIを獲りたい、タイトルを獲りたい」というモチベーションが高く、開催前やレース中に賞金のことが頭にある選手はそういないと思います。これからも出場する開催は優勝一点にこだわり頑張っていきます!

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松浦悠士の“真っ向勝負!”

松浦悠士

Matuura Yuji

広島県広島市出身。日本競輪学校第98期卒。2010年7月熊本競輪場でレースデビュー。2016年の日本選手権競輪でGⅠ初出場、2019年の全日本選抜競輪では初のGⅠ決勝進出を果たす。2019年の競輪祭でGⅠ初優勝を飾り、同年KEIRINグランプリにも出場。2020年のオールスター競輪では脇本雄太との死闘を制し、優勝。自身2つ目のGⅠタイトルを獲得した。ファンの間ではスイーツ好き男子と知られており、SNSでは美味しいスイーツの数々を紹介している。

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