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【松浦悠士の連覇報告】優勝し名前を残せることが日々の“頑張る糧”になる

2022/07/30 (土) 19:00

 netkeirinをご覧のみなさん、第18代「夜王」こと松浦悠士です! 今年の『サマーナイトフェスティバル(GII)』を勝利し、昨年に続き「夜王」になることができました。サマーナイトは読んで字のごとく“夏のお祭り”のような楽しい開催です。最高の結果を出すことができ、とても嬉しかったです。決勝は多くのお客さんが温かい声援を送って下さいました。雨の中、熱い応援をありがとうございました!

第18回サマーナイトフェスティバルを制し、開催連覇を果たした(撮影:島尻譲)

 今回の優勝はそこに至るまでの経緯がありました。小松島記念『阿波おどり杯争覇戦(GIII)』や福井記念『不死鳥杯(GIII)』の振り返りもしっかり書きたいと思います。

犬伏湧也君との初連係

 小松島記念の2日目に犬伏君と初連係でした。サマーナイトが終わった今、この連係にこそ大きな意味があったと振り返っています。

 初日、犬伏君の走りを見ていて「感じのいい踏み方するよなぁ」と思っていましたが、2日目に後ろを走ってみて、犬伏君の『体の使い方』に参考にしたくなるポイントを見つけました。そのポイントを自分のフォームに取り入れてみると踏んだ感触が良くなりました。色々試しながらモノにしていこうと思いました。

犬伏湧也選手と小松島記念で初連係(撮影:島尻譲)

想定外の展開にも収穫あり

 最終的に小松島記念は決勝3着。「優勝するぞ!」という気持ちと「中四国から優勝者が出ればいいな」という気持ちでレースに臨みました。でもレース展開は想定外。なかなか厳しかったですね。いつも連係している太田君と別線勝負してみて、色々見えてくるものがありました。

 僕はレースの組み立てを考える時に、相手の動きを想定し「自分一人で全てをやろうとしない」ように考えます。全部が全部一人でやろうとするのではなく「こういう展開になればこの人からスピードがもらえそうだな」とかさまざまなパターンを準備してレースに臨みます。

 決勝の太田君は「自分一人で全てをやろう」と考えての動きでしたから、僕からすればやや読めない動きになりましたし、今後一緒に戦っていきたい仲間ですから、その点は「自分一人でやろうとしないことも大切だよ」とアドバイスしたい気持ちにもなりました。

 そういった誤算もあって僕が抑えて駆けるような形になりましたが、高久保さんが来た時は厳しかった…。あの場面は突っ張りたかったです。しかし、ホームの向かい風にもやられていましたし、上を行かれてしまいました。その直後の眞杉君の駆け方も絶妙。一呼吸もできず、2角ではついてもいけず、優勝を逃してしまいました。

後方から別線が勝負に出てきた時、向かい風の影響をモロに受けていた松浦選手(赤:3番車/撮影:島尻譲)

 ですが、このレースも次に繋がる収穫が多々ありました。太田君の走りを別線から分析できたこともそうですし、風の強さ・風の向きの影響、ライン取りについて勉強になることをたくさん体感できました。シリーズを通して収穫があった小松島記念。フォームの再考や試したいセッティング、犬伏君との初連係。次に繋がるヒントを数多く持ち帰れたので「きっちり向き合うぞ」という気持ちで競輪場を後にしました。

福井記念「不死鳥杯」に追加参戦

 小松島記念から帰ってすぐ、福井記念への追加が決まりました。セッティングを詰めたいと考えているタイミングだったので、サマーナイトの前に実戦を走れるのは渡りに舟でした。セッティングは練習ではなく本番を走って判断するものなので、二つ返事で追加を受けました。フォームを微修正したことでセッティングも細かく合わせる必要があったのですが、具体的には「サドルの位置が低いから上げてみてどうか」という課題を持って福井に向かいました。

 そして福井記念の2日目に嬉しい結果が出ました。僕は逃げて勝てたばかりか、余力を残せないような限界ギリギリの状態でセッティングを試すことに成功。桑原さんが「後ろは全部止めるぞ」くらいの勢いでついてくれていたので、迷うことなく行けたのも良かったです。作戦は「山本紳貴さんが出たらすぐ反応したい」というもので、結果的には1周半という長い距離を踏むことになりました。

 僕はパワーを“目盛り”で考えると以前コラムで書きましたが、8割〜9割くらいの力で踏んでいくと、距離に応じて7割、6割、5割とパワーダウンしていきます。その落ちていくパワーに「どれくらい抵抗できるか? どれくらい粘れるか?」を計ってセッティングの良し悪しを判断しています。今回長い距離を踏んで逃げ切り勝ちできたことで、セッティングが良い状態を確信しました。ちなみにセッティングが出ていないと8割〜9割の力で踏んでいる段階で気持ち良く踏めないですし、パワーが落ちる時も「ストーン」と失速していくような感じになります。

セッティングを入念に確かめながら実戦で手ごたえを掴んでいた(撮影:島尻譲)

不完全燃焼! サマーナイトへの気持ちが余計に高まった

 自転車の状態の良さを確認し、準決勝も楽しみでした。「決勝に勝ち上がって脇本さんと戦いたい」とも考えていたのですが…。準決勝は悪天候のためレース中止に…。結局抽選になり、僕は決勝へは進めませんでした。「決勝で脇本さんと一緒に走りたかったのに」と伝えたら、脇本さんが「何なら優秀で一緒にならんかなぁ」と声をかけてくれましたが、それも叶わず…。

開催の注目を集めた地元・脇本雄太選手と松浦選手(撮影:島尻譲)

 こればかりはルールの中でやることですから、僕ら選手は決められた通りにやるほかありませんし、仕方なかったです。個人的には3日目のレース打ち切りなら、初日2日目の着位を参考にして勝ち上がりのジャッジをしてもいいのかな? と思わなくもないです。ただ、このあたりはフェアにやるのが前提なので、現状はルールに従うまでですね。

 そんな中で迎えた最終日のレースですが、ここでも感触が良かったです。島川君とワンツーを決められましたし、車間もしっかりと開けた上で最後差し切ることができているので、感覚やセッティングが合っている実感を持ってシリーズを終えることができました。抽選で敗退するという残念な展開はあったものの、不完全燃焼の気持ちはサマーナイトで晴らすぞ! と余計に気合いが入りました!

島川将貴選手を差しに行く松浦選手、最終日は多くのファンが見守る中でワンツーを決めた(撮影:島尻譲)

地元地区で初となるビッグレース

 今年のサマーナイトは地元地区で初となるビッグレース開催でした。宿舎のベッドが気に入っている玉野競輪でしたし、自宅からも近いので、精神的にも余裕がありました。

 気合いは入っているけど変なプレッシャーや緊張感はなく、リラックスした良い精神状態でシリーズに入っていけましたね。いつもビッグレースは気負って会場入りすることもあるので「いつもこんな状態で入れたらな〜」という感じでした(笑)。

 この玉野からアップ方法も変え、いつもとは違う調整を行っています。今まではローラーをメインとしていて長時間自転車に乗るスタイルでしたが、ダッシュをするなど、陸上の運動を増やしています。

地元地区初のビッグレース開催はリラックスしてシリーズに入った(撮影:島尻譲)

犬伏君との連係ふたたび

 実は犬伏君と小松島で初連係した時、まだ本来の強さを発揮していないなと思いました。レースの中では対戦相手からスピードをもらうことも考えなくてはいけませんが、相手を意識し過ぎないようにしなければ自分のペースは乱れます。そのあたりで少しアドバイスをしたのですが、すぐに理解してくれて、素晴らしい走りで応えてくれました。

 以前このコラムの読者質問のコーナーで『注目している若手選手』の話をしたんですが、「犬伏君は相性悪そう(笑)」と書きました。これは誤解でした。思いのほかつきやすい選手でした(笑)。ここに訂正したいと思います!

 話を戻しますが「相手を意識するのではなく、しっかり出し切る競走をしていこう」と犬伏君には伝えたんです。自分のペース配分に意識を置いて『出し切ることに集中』することで、犬伏君本来の実力が発揮できるように思いました。強い選手なので「しっかり力を出し切ること」を前提にレースを走れば結果はついてくるはずです。相手を気にしてフォームが崩れたり、ペダリングが乱れたりするのは避けて欲しいという思いでした。

 そのため、レースでは作戦も細かくは決めずに「スタートはオレが取った位置から行こう!」みたいなことも言いましたね。考えることはすべて僕に任せて犬伏君には『出し切ることだけ、仕掛けるポイントで仕掛けることだけ』に集中してもらえるように努めました。そういう話をしていた分「僕も番手の仕事をきちんとやらなくては!」と気持ちを入れました。

 そんな中で迎えた準決勝。犬伏君は前が仕掛けたスピードをもらいながらうまく仕掛けていましたし、脚力だけではなく、センスの良さを感じさせるような走りをしてくれました。小松島記念とサマーナイト準決勝の連係を通じて、強い信頼感のもとで決勝へ進んで行けました。

サマーナイト準決勝、犬伏湧也選手と園田匠選手と連係(撮影:島尻譲)

発走前からワクワクして楽しかった決勝

 決勝は犬伏君と連係できることも安心材料でしたが、地元地区のお客さんの温かい声援も僕にとって走りやすい環境でした。慌てることもなくレースに入ることができ、レース中も全体をしっかりと見ながら走ることができたと思います。緊張することなく伸び伸びと戦えることがすごく楽しかったです。勝ち切れないこともあった前半戦の経験が糧となり、サマーナイトで報われたような感覚もありました。今レースを振り返ってみてもあまりヒヤッとする場面もありませんでしたし、危な気なく進めたと思います。

 打鐘前の1センターあたりで森田君が内に入って来た時に「並走になるか?」と一瞬イヤな感覚がよぎりましたが、それくらいですかね。しっかりと仕掛けどころを見極め、自分のタイミングよりもワンテンポ待つことができていた犬伏君。ホームでは目一杯スピードを上げて行ってくれて本当に頼もしかったです。

 僕も僕で後ろの動きが把握できていて「早めに踏んでしまうと、内側の選手たちが復活して伸びてくる!」という構図も見えていたので、しっかりと勝ち切るタイミングまで踏むのを我慢して、1着でレースを終えることができました。

ゴール後にファンの声援に応える松浦選手、犬伏選手を指差して何度も讃える仕草を繰り返した(撮影:島尻譲)

 サマーナイトが終わり思うことは、優勝はやっぱり「頑張る糧」になるということです。とても良い気持ちで後半へ行けるような大切なシリーズになりました。目の前のオールスター競輪から年末のグランプリまで、気持ちを入れて走って行こうと思います! 応援ありがとうございました!

読者の方から寄せられた質問に答えます

 それでは今月も質問に答えていきたいと思います! 今月は3問の質問に答えていきます!

今回は3つの読者質問に真っ向勝負!(撮影:島尻譲)

ーー自力を鍛える練習に取り組み、タイムも上がってきているとのことですが、自力強化する中でまだまだ“伸びしろ”を感じていますか?

 10年前と比べるとタテ脚の“伸び率”はそこまで実感できないのが正直なところです。僕も今年で32になりますので「まだまだ伸びしろを感じる!」という勢いではありません。でもやればやっただけの成果が出ている実感はありますし、今の時代のスピード競輪を戦うためにはタテ脚を磨かないという選択肢はできません。なので「必須」だからやるっていう感覚に近いですかね!

ーー練習日の1日のスケジュールを教えてください! 一週間もしくは一か月で練習をしない日は何日くらいあるのでしょうか?

 結構その日その日で違うんですよね。最近のスケジュールで言えば9時から25分の整体を受けてから13時30分まで練習に打ち込み、その後昼食をとり、16時にまた整体に行くという感じでした。午前中からガツッとやりたい日は朝の整体はナシ。9時〜13時過ぎまでガッツリ追い込んでいます。その後昼食、整体という流れです。

 僕は「週に1回はこれをやろう、週に2、3回はこれはやろう」というメニューはありますが、日々練習メニューを変えているので、あまりスケジュールは確定的ではないですね。

 ちなみに休みに関しては厳密な話なら「ナシ」です。感覚を落とさないように考えるので、軽めにローラーに乗るだけだとしても休むことなく取り組んでいます。ただ、最近はレースが終わった翌日をオフに考えていて、すごく軽いメニューしかやらないようにすることが多いです。

 そのほか、撮影やコラムの執筆といった仕事もあるので、効率良く「体を休める日」に取り組めるように意識してスケジュールを組んでいます。

ーーレースで負けたとき、次の開催までに気持ちを切り替えなければならないと思いますが、どのようにして気持ちを切り替えていますか? またGI、GII、GIIIのグレードによって選手は気持ちの変化はありますか?

 GI・GII・GIIIでの気持ちの変化はあります。GIだと周りの選手がピリッとした雰囲気で、僕はその空気に同調してしまうことがあるんですよ。開催のグレードによって雰囲気の違いは確実にありますね。サマーナイトは出場選手に「お祭り感」があるので、楽しめる空気が流れています。でもGIはみんな入れ込んでいるので張り詰めている感じがあります。

 レースのグレードだけでなく開催地によっても違いがあります。例えば食事が「合う・合わない」とか「ナイターで終わっても帰れない場所だなあ」とか。場所の特性で気持ちの整え方や準備の仕方が違いますね。

 レースで負けた時ですが、本音を言えば「気持ちを切り替えられていないこと」ってあります。思い入れの強いレースであれば、切り替えることってなかなか難しいです(笑)。でも失敗したこととか負けてしまったこととか落ち込まずに「昨日は昨日、前回は前回」という考え方は大事にしています。これは敗戦だけじゃなく、優勝しても「昨日は昨日、前回は前回」だと思います。

 僕は「終わったことを言っても仕方ない」という気質の持ち主です。レースは全部勝てるわけじゃない。負けても次に行くしかない。勝っても慢心せずに進まなくてはいけない。そんな風に考えています。

 それでは次回は西武園! 夏の祭典・オールスター競輪に行ってきます。ファンのみなさんの投票を受けて僕はドリームレースを走ります。精一杯頑張りますので応援よろしくお願いします!

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松浦悠士の“真っ向勝負!”

松浦悠士

Matuura Yuji

広島県広島市出身。日本競輪学校第98期卒。2010年7月熊本競輪場でレースデビュー。2016年の日本選手権競輪でGⅠ初出場、2019年の全日本選抜競輪では初のGⅠ決勝進出を果たす。2019年の競輪祭でGⅠ初優勝を飾り、同年KEIRINグランプリにも出場。2020年のオールスター競輪では脇本雄太との死闘を制し、優勝。自身2つ目のGⅠタイトルを獲得した。ファンの間ではスイーツ好き男子と知られており、SNSでは美味しいスイーツの数々を紹介している。

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