アプリ限定 2025/04/27(日) 12:00 0 11
ふと何気なく使っている『ダークホース』という言葉。「注目の中心にはいないものの、未知数のポテンシャルを匂わせ、期待できる対象」のような意味合いだろうか。2025年の日本選手権競輪もS級S班のみならず、栄光を手にした経験のあるタイトルホルダーたちがひしめき、各地区の猛者が優勝一点を見据えている。そんな中、今回は“もはやダークホースと呼ぶには及ばない”選手たちをピックアップして紹介する。「未知数のポテンシャルを匂わせ、期待できる対象」ではなく、事実としてGIタイトルまで間近に迫った「準優勝経験選手」たちである。(構成:netkeirin編集部)
新たなタイトルホルダーになり得る選手は誰かーー。本稿を作成するにあたって「ダークホースと呼ぶには及ばない選手」を2つのポイントで定義した。
(ア) 2022年度〜2024年度のいずれかのGI開催で、決勝2着の経験があること
(イ) KEIRINグランプリ出場経験がなく、S級S班に在籍したことがないこと
この条件に当てはまる選手はダービー出場選手162名中わずか6名だった。
選手名 | 期別 | 年齢 | 登録府県 | 級班 |
---|---|---|---|---|
小原太樹 | 95期 | 36歳 | 神奈川(南関東) | S級1班 |
和田真久留 | 99期 | 34歳 | 神奈川(南関東) | S級1班 |
松井宏佑 | 113期 | 32歳 | 神奈川(南関東) | S級1班 |
窓場千加頼 | 100期 | 33歳 | 京都(近畿) | S級1班 |
寺崎浩平 | 117期 | 31歳 | 福井(近畿) | S級1班 |
山田庸平 | 94期 | 37歳 | 佐賀(九州) | S級1班 |
全員が30代であり、南関東からは神奈川が3名、近畿が2名、九州1名となっている。今年ここまでの賞金ランキング上位者は南関東と近畿が目立っており、両地区ともに勢いがある。競輪のライン戦という競技性を考えれば、南関東と近畿の5名は地区のチカラが追い風となることもありそうだ。それでは各選手のGI準優勝以降のニュースでのコメントや2024年度の「特別競輪に限定した成績データ」を紐解いていく。
昨年10月、弥彦の寛仁親王牌で決勝2着となった小原太樹。2019年の高松宮記念杯、2022年の競輪祭でも決勝の舞台に駒を進めており、これまでGI決勝の舞台を3回経験している。その3度の決勝戦ではいずれも確定板を捉えており、安定した勝負強さを備えている。脚質は追い込みであり、直近も差しの決まり手が90%近いが、状況によっては自力を出して捲ることもできるのが小原の特徴。
小原の過去のニュースを追ってみると「S級では追い込みでも、いざというときに自分で捲れるタテがないと…」、「元々競技が好きでPIST6を走っているけど、普段出さない自力を出せるのはいい」などスピード競輪への対応意識が見て取れる。また、当サイトの「今週の競輪好プレー」では2023年のダービー二次予選の「3番手の走り」がピックアップされている。深谷知広、松坂洋平の3番手を回った小原が前の2人に危害が及ばぬように車間を切り、自らも2着に。「今週の競輪好プレー」の著者・前田睦生記者は「三住博昭の継承者、3番手の必殺技」と賞賛した。
ライン貢献性とタテ脚を備える小原。過去3度のGI決勝で見せた“あと1歩”のシーンで何を思ったのか。寛仁親王牌決勝レース後のコメントでは次のように述べている。「次はテッペンを獲れるように。そのために、もっと脚と技術も上げていきたい」ーー。小原のダービーがいよいよ始まる!
◆小原太樹 2024年度特別競輪成績データ
出走 | 勝率 | 連対率 | 3連対率 |
---|---|---|---|
31 | 19.0% | 29.0% | 41.9% |
コンスタントに成績を積み上げ、昨年の高松宮記念杯で決勝2着に入り、タイトルまでもう一息の場所まで来た和田真久留。今年3月は体調があまり優れなかった中でも四日市GIIIを制しており、現在の賞金ランキングは13位。今年も上位陣の一角を担っている。和田が初めてGIファイナルリストに名を連ねたのが2019年の全日本選抜競輪。この決勝は単騎で挑んで5着だった。また2022年の共同通信社杯では決勝に進むも落車棄権。郡司浩平の番手で臨んだ決勝だったが、早めに出ていくような“自分が獲る”走りではなくライン競走に徹し、最終バックで郡司-和田-内藤の3車を飲み込む勢いで来た松浦悠士の捲りを懸命にブロックした。
このレースについて和田は「あの走りに後悔はない。もし、シビアな走りでS班になっても、先のない1年で終わったと思う」と振り返っている。なおかつ「自分の中で獲るための決め事を作っておきたい」とビッグレース決勝の振る舞いについて試行錯誤している様子を見せた。そして昨年、高松宮記念杯の決勝レース後には「北井さんが加速するなか自分が取りに行く(優勝する)には50メートル早く行かないと無理。でも、実際にそれをすると中を割られていたでしょう」と振り返った。和田のコメントからは自分が獲る走りとラインのためにする走りの選択の難しさがうかがえる。
今年も南関東は勢いがあり、地区の戦闘力は高い。四日市で優勝した際のコメントは「フレームが噛み合えばもっと良くなる」ーー。本稿で紹介している6名の中で2024年度の特別競輪における3連対率トップの和田真久留。確定板を逃さぬ安定感ある走りで決勝、その上を目指す。
◆和田真久留 2024年度特別競輪成績データ
出走 | 勝率 | 連対率 | 3連対率 |
---|---|---|---|
20 | 20.0% | 45.0% | 60.0% |
ヤンググランプリ2020覇者の松井宏佑。昨年は地元平塚のオールスター競輪の決勝に乗り4着、2023年は小倉競輪祭で準優勝。競輪祭では深谷知広の番手とあって“いよいよここで”の空気が漂ったが、あと一歩届かず。レース後は頭を抱えて「悔しい。本当に悔しい」とコメントを残した。悔し涙を飲む結果となったが、競輪祭直後の伊東温泉記念で大暴れ。結果は準優勝だったが、決勝はパワフルな突っ張り先行でファンを魅了した。
またその年の暮れ、「この一年は“競輪”ができた」と語っており、自分の成長をポジティブに振り返っていた。「自分の成長を感じられたし、もっと成長できると思う。SSも夢じゃないかな、と。チャンスがあれば、来年こそ『絶対に獲る』という強い気持ちで走りたい」と語り、前を向いた。
2024年のGI決勝はオールスターのみだったが、松井は「特別競輪でもやりたいことはしっかりできた」と振り返っており、明確な課題として「レースの流れを見る目」としている。試行錯誤を繰り返し、壁に当たるもそこから課題を見つけては試行錯誤を繰り返す。キャリアと共に着実に強さを増している。
2025年に入ってからは2月の奈良記念で優勝、4月の高知記念で決勝3着と存在感を示している。一昨年の競輪祭、昨年のオールスターで“タイトルまでほんのわずか”ということは証明済み。勢いに乗る南関東地区の重要人物はシリーズの流れを引き寄せ、ダービー王の称号を手にすることができるか。躍動する姿が楽しみでならない!
◆松井宏佑 2024年度特別競輪成績データ
出走 | 勝率 | 連対率 | 3連対率 |
---|---|---|---|
38 | 26.3% | 44.7% | 44.7% |
2024年8月のオールスター競輪で決勝2着の窓場千加頼。優勝こそ逃したわけだが、勝ったのは同期の古性優作で、大舞台で近畿ワンツーを実現した形である。レース後の窓場は悔しさよりも嬉しさを感じるようなニュアンスでレースを振り返っており、「初のGI決勝は大声援が飛び交っていて最高に気持ち良かった」と語り、「信頼している同期の古性さんとワンツーが決まって嬉しい、舞い上がるのではなく近畿の競輪を見つめ直してラインを意識した競走をやっていく」と結んだ。
また優勝した古性優作も「(窓場を)競輪学校から目標にしていた部分があったし自分も少しでも頑張ろうと思っていました。千加頼は低迷していた時期もありましたが、こういう所で結果を残せるしポテンシャルは元々高いんです。これが普通の千加頼。優勝できたこともそうだけど、千加頼と一緒に決められたのがうれしかった」と語り、窓場の強さを讃えた。
オールスター競輪が終わり、その後の向日町記念でも決勝2着の活躍で、2024年の終盤戦はグランプリ出場のボーダーライン付近に位置していた。窓場が出場する開催では必ずと言っていいほど、グランプリ出場への意識についてコメントが求められ、周囲からの「いよいよグランプリか?」の声や雰囲気は過熱した。結果として2024年の最終ランキングは12位だったが、十分に存在感を示した1年となった。そして昨年末の佐世保記念では記念初優勝を決め、2025年に漕ぎ出した。2、3年前は“ダークホース”と呼ばれていた印象だったが、今年のダービーでは、もうその表現は使えない選手だろう。
◆窓場千加頼 2024年度特別競輪成績データ
出走 | 勝率 | 連対率 | 3連対率 |
---|---|---|---|
34 | 29.4% | 41.1% | 50.0% |
昨年10月の寛仁親王牌、11月の競輪祭、今年2月の全日本選抜、3月のウィナーズカップまで、すべての特別競輪でファイナリストになっている寺崎浩平。GI初となる決勝進出は2022年のオールスター競輪で、最終結果は9着。また、2024年の寛仁親王牌と競輪祭でも決勝9着としており、実に3度のGI決勝を9着で走り終えている。いずれのレースも同県の先輩である脇本雄太が番手回りであり、ラインの先頭としての責任が求められるため、自身の勝利のみに徹するのは難しい構成だったに違いない。
潮目が変わったのは今年2月の全日本選抜競輪。寺崎は冷静なレース判断で持ち味の捲り勝負を敢行し、最終直線で先頭走者の吉田拓矢を捉えたが、番手の脇本雄太の差しが決まり2着。レース後は「4角では夢を見た」とコメントを残し、「最後は脇本さんと脚力差があったということ」と敗因を分析した。寺崎は昨年の競輪祭決勝レース後に「脇本さんが出て行ってくれて勝ったのでまずはよかったです。来年は(脇本と)ゴール前勝負ができるように」と課題を口にしており、2025年は「GIの確定板」と目標を立ててレースに臨んでいた。
目標を立てるや否や今年最初のGIで達成。その後はウィナーズカップで決勝に乗り、古性優作の優勝に大貢献。古性は優勝者インタビューで開口一番に「寺崎がすごいレースをしてくれました」と語り、「今回は自分の調子というよりも、寺崎のレベルアップを感じました。今までで一番だったんじゃないですかね」と絶賛している。今回「ダークホースとは呼べない選手」という切り口で記事を書いているが、寺崎の場合は“タイトルに最も近い男”であり、優勝候補の一角を担う存在である。ちなみに寺崎浩平は名古屋を大得意と表現しているため、余計に楽しみだ。
◆寺崎浩平 2024年度特別競輪成績データ
出走 | 勝率 | 連対率 | 3連対率 |
---|---|---|---|
38 | 31.5% | 47.3% | 47.3% |
「足りないところが明確にわかった」ーー。2022年の高松宮記念杯決勝2着で準優勝となり、次走の小松島記念前検日に山田庸平が語った言葉だ。「仕掛けの中で休んでしまうところを休まないように行けるように強化したい」と説明した。翌年2023年には3月ウィナーズカップで決勝4着、6月の高松宮記念杯で決勝5着、8月のオールスター競輪で決勝5着と安定的に特別競輪のファイナリストに名を刻んだ。当然だが、獲得賞金でのグランプリ出場のボーダーライン付近には必ず山田の名前があり、あと一歩でタイトル、あと一歩でS級S班という存在になっていた。
この時期、2022年に語った「足りないところが明確にわかった」の部分を克服したのか、インタビュー取材などでは得意・不得意の差がなくなっていたことを明かしている。だが、2023年、寛仁親王牌の初日で失格して以降、特別競輪の決勝には一度も勝ち上がれておらず、昨年の賞金ランキングは最終順位35位で、間近に見えていたタイトルからは遠ざかる結果に着地。
だが、2024年の低迷を振り切るかのように2025年は躍動している。記念開催は1月の松阪で準優勝、3月の玉野で準優勝、4月は地元武雄記念で完全優勝といった暴れ具合である。3月のウィナーズカップは準決勝で敗退することとなったが、最終日には上がりタイム8秒9を叩き出し、伊東温泉競輪のバンクレコードを塗り替えた。なおかつシリーズで3勝をあげている。
武雄記念で完全優勝した際には「最高の結果になりました。1日1日、練習をして自転車と向き合って次のダービーに向かいたい」と勝利者コメントを残している。上昇気流に乗ってグレード戦線に舞い戻ってきた佐賀の雄から、ひとときも目を離せない!
◆山田庸平 2024年度特別競輪成績データ
出走 | 勝率 | 連対率 | 3連対率 |
---|---|---|---|
33 | 18.1% | 27.2% | 30.3% |
本稿は“あと一歩”を経験し、今もなお優勝という栄光を目指す歴戦の猛者をピックアップしたが、あなたが期待する選手は登場しただろうか?出場選手誰もがナンバーワンを目指して凌ぎを削る競輪ダービー。“いよいよタイトルか”の選手に注目して、大いに盛り上がっていきましょう!