2024/05/18(土) 18:00 0 2
現役時代、ロサンゼルス五輪で自転車トラック競技日本人初となるメダルを獲得し、競輪ではKEIRINグランプリやオールスター競輪といったビッグレースを制したレジェンド・坂本勉氏。“競輪”と“ケイリン”を知り尽くした坂本氏が、新ケイリン「PIST6」のレースを振り返ります。(月2回・不定期連載)
netkeirinをご覧のみなさん、坂本勉です。今回は5月14日・15日に行われた「PIST6 ChampionShip」5月第2戦の決勝レースを回顧していきたいと思います。
【PIST6 ChampionShip 5月第2戦 決勝レース動画】
今大会のタイムトライアルで、10秒075で全体の1位となっていたのが真鍋智寛でした。これがPIST6では3度目の参戦となる真鍋ですが、2月の大会が10秒410、4月の大会が10秒276だっただけに、一気に時計を短縮したことになります。
真鍋は学生時代から競技をやってきていますし、養成所でも250バンクを走る経験はありました。それでも、このPIST6の舞台で10秒フラットに近いタイムを出す選手を見渡せば、ナショナルチームの強化選手に選ばれていた河端朋之クラスの選手たちです。3回目の参戦でコース取りが上手くなったのはあるかもしれませんが、真鍋自身も確実に力を付けているということでしょう。このタイムに最も驚いたのは真鍋本人かもしれないですね。
今大会には真鍋の大学時代(鹿屋体育大学)の先輩である、徳田匠も参戦していました。学生時代の実績では、真鍋より徳田の方が格上であり、徳田はPIST6で3度の優勝経験があるだけでなく、最近は競輪でも目立った活躍を見せています。ちなみに真鍋にとっては先輩、徳田とは大学時代の同期である堀航輝は、自分の息子である坂本貴史の弟子となります。堀から真鍋について聞いたことがありますが、学生の頃はゼロ発進を得意とした一方で、持久力に難があったそうです。
真鍋は競輪のレースを見ても、積極的に長い距離を踏んでいくのではなく、一瞬の切れを生かすレースを得意としています。ただ、PIST6では積極的に先行も見せていますし、持ち味である脚を溜めてからのダッシュ力は目を引くものがあります。それが遺憾なく発揮されたのが、準決勝で空いたインコースをついて先頭に立ったレース内容であり、先輩の徳田だけでなく伊藤信や神田龍といった優勝経験者も「今回の真鍋は強いぞ」と改めて思ったに違いありません。
決勝のスタートの並びはインコースから③徳田匠①真鍋智寛②伊藤信⑥吉田晏生⑤三浦雄大④神田龍となりました。
スタートの並びが勝敗を大きく左右する決勝ですが、最悪のスタート位置となったのが6番手の神田です。競輪でもPIST6でも先行が持ち味である神田は「PEDAL ON」の前に1番手の徳田を抑えにいきます。この時、神田は徳田を叩いて前に出ようとも考えていたはずです。
ですが「PEDAL ON」で徳田は突っ張りにかかります。神田としては自分が前に出れば、後ろから真鍋や吉田も動いてくると考えていたはずであり、徳田が突っ張ってくるとは思っていなかったのではないのでしょうか。
徳田も神田に叩かれれば後方に置かれてしまうだけに、それだけは避けたいとの思いもあったと思います。ただ、残り2周ぐらいで、自分の後ろにいる真鍋が並んできた場合には、前に行かせようと思っていた気がします。これには理由があります。徳田は真鍋の脚質を良く知っており、ダッシュで前に行かれたとしても「持久力勝負ならばゴール前で交わせる」との算段を立てることができるからです。
しかしながら、実際のレースではそうはいきませんでした。徳田を叩けなかった神田がポジションを下げるのではなく、真鍋の横で脚を溜める選択をしました。真鍋にとっては蓋をされる形になってしまったので、残り2周となっても仕掛けようがありません。その真鍋の後ろには神田からスイッチする形で三浦が入り、5番手に置かれた伊藤が残り1周半から吉田と共に捲りに入ります。
真鍋の横で粘っていた神田でしたが、やはり外を回されたことが響いたのか、残り1周手前で失速。その影響を受けたのが捲ってきた伊藤であり、外を回された分だけスピードに乗り切れない状態になりました。
ラスト1周で先行する徳田の後ろには真鍋と三浦。外から伊藤も来ますが、満を持して徳田を交わしに行ったのが真鍋でした。持ち前のダッシュ力を生かして、バックストレッチで徳田を交わすと、そのスピードを保ったままゴール。2着は真鍋の番手に付き切った三浦となり、先行した徳田が3着に粘り込みました。
結果を見れば真鍋が勝つべくして勝ったというか、勝利の条件が全て揃ったレースになりました。先行した徳田の後ろを取れたスタート順。道中は神田に蓋をされて動こうとしても動けず、結果的に脚を貯めることができた。そして、捲ってきた伊藤も下がっていった神田のあおりを受ける形となり、自分のタイミングで番手捲りを繰り出せたわけですから。もしもスタート順が違っていたのならば、スピード上位の真鍋でも優勝は難しかったのかもしれません。特にタイム差のない6名で競い合う決勝ならばなおさらです。
それでも真鍋の驚異的なスピードを他の5選手が脅威だと思っていたからこそ、道中は意識するところはあったはず。「運も実力のうち」と言いますが、まさに真鍋の実力が運を引き寄せ、念願の初優勝に繋がったと言えます。
それにしても、PIST6を走るごとに強くなっていく真鍋の成長には驚かされました。養成所だけでなく、プロとなってからも練習を重ねってきた成果だと思います。大器晩成型の成長に今回の優勝で自信も得た事でしょう。今後のPIST6では河端とのスピード比べも見てみたくなりました。
MVPは初優勝を果たした真鍋ですね。今回は先行する形となった、先輩の徳田にも感謝すべきですが(笑)。優勝後のインタビューで話していたように、次は先行での優勝を期待しています。
そして敢闘賞は三浦に贈りたいですね。これがPIST6に参戦してから初めての決勝となりましたが、神田から真鍋に切り替えていく横の動きは、さすが追込選手だと唸らされました。ゴール前も真鍋に迫っていたように、追込選手がPIST6で勝つためには、どんなレースをしたらいいのかというお手本のような走りでした。
三浦と言えば弟の三浦翔大が活躍だけでなく、パフォーマンスも目立っていますが、兄の雄大も競技では優秀な成績を残してきた選手です。この結果はいい刺激にもなったと思えるだけに、今後も競輪とPIST6の双方で「三浦兄弟」の名前を高めてもらいたいですね。
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●坂本勉(さかもと・つとむ)
1984年、ロサンゼルス五輪に出場し銅メダル獲得。日本の自転車競技史に初めてメダルをもたらし、“ロサンゼルスの超特急”の異名を持つ。2011年に競輪選手を引退したのち、自転車競技日本代表コーチに就任し、2014年にはヘッドコーチとして指導にあたる。また2021年東京五輪の男子ケイリン種目ではペーサーも務めた。自転車トラック競技の歴史を切り開いた第一人者であり、実績・キャリアともに唯一無二の存在。また、競輪選手としても華麗なる実績を誇り、1990年にKEIRINグランプリ、1989年と1991年にはオールスター競輪の覇者となった。現在は競輪、自転車競技、PIST6と多方面で解説者として活躍中。展開予想と買い目指南は非常にわかりやすく、初心者から玄人まで楽しめる丁寧な解説に定評がある。