2021/05/03(月) 09:00 0 28
連絡を取るとステイホームし晩酌中。本来ならば、行きつけの飲食店でひっそり打ち上げをするのが中川流だが、社会状況を鑑みて自粛しているとのこと。ほろ酔いの中川は饒舌で口元はゆるく、恐れを知らぬ大放談となった。
ーー武雄記念、お疲れ様でした。今何をしていましたか?
家に帰ってひとりで打ち上げをしていました。最近、日本酒にハマっていましてね。これ、帰りに買ってきた佐賀の酒です(『光栄菊』という地酒をたしなみながら)。漫画を読んでソフトバンク戦をチェックするぐらいでしたし、何でも聞いてください。
ーー聞いたらまずい事はありますか?
まぁ、隣の部屋には家族もいるので…。答えられる範囲でお願いできれば(笑)。
ーー武雄のレースを振り返っていただけますか。初日一次予選11Rは地元の荒井崇博選手を背負った自力戦。11秒フラットのまくりで1着でしたね。
仕掛けが遅いという人もいましたけど、あれでも、俺からすればちょっと早い方でした。荒井さんの手前、レース後は情けない表情の芝居をしたけど(笑)。でも荒井さんは「俺だから付いていったけど、他の奴じゃちぎれるぞ」って、まんざらでもなさそうだったからよかった。
ーー荒井選手とは長い付き合いになりますね。
デビューしてすぐだからもう20年近くです。昔も今も“the・競輪選手”。暴君のままです(笑)。俺ならもう何を言っても怒られないから大丈夫。荒井さんは1歳上ですが、この上下関係は永遠に続くのか…と、同い年の井上昌己と話をしたことがあります。これ、決して悪口じゃないですよ(笑)。
ーー2日目二次予選9Rは九州地区なのに本線で組まれなかったですが…
岩本俊介と佐藤慎太郎さんのラインが人気でしたね。あれは山田兄弟の地元だったから。まあ、吉田拓矢と比べて、やりやすそうな岩本を俺にあてたのでしょう。でも岩本もまあまあ強い。流してくれなければ危なかったし。岩本には大宮でまくられて、別府ではまくりの上を行かれたり、最近やられっぱなしで岩本恐怖症だった。昔は平原康多アレルギーというのもあったけど…。
ーー3日目の準決勝11Rは九州勢が伊藤颯馬に、津村洸次郎ー森山智徳ー中川誠一郎とまとまりました。
颯馬に、竹内雄作の前に出て2周で一回押さえろって言ってあったんです。そうしたら赤板で松浦悠士が引き気味だったので入ろうとしたのか、そこでフタをした感じになってしまい…。
颯馬がバックを踏んだから外に差して追いかけたけど、前の雄作はめちゃくちゃ踏んでいるし、さらに松浦が離れながら追い上げたので、離れてしまって自分が踏み上げられなかった。心が折れてしまいましたね…。3日目の準決勝11R
ーー4人の並びに関して賛否両論あったのではないですか?
それ、聞きますか、やっぱり(苦笑)。ちょっと待ってください!(一升瓶から酒をドバドバ注ぎグビリとあおる)
ーー並びのいきさつはどんな流れできまったのですか?
颯馬が松浦相手に4車では荷が重いだろうし、ピリつかせるのもかわいそうだから、俺はモリ(森山)に付いて2対2に分かれるつもりでした。でも、颯馬にどうする?って聞いたら、一言目に「頑張ります!頑張ります!」ってすごい勢いできた。だから4人でまとまろうとなったんです。
ーーそれでも中川選手の4番手には違和感があります。
ん〜、それは…。ツム(津村)には以前3回も前で行ってもらっていて。最初のSS班の時…勝てずに低迷していたころに頑張ってくれたので、ツムには感謝しているんです。もちろんモリにも何回も行ってもらっているし。それで俺は4番手でいいと言った。
ーー周りの反応はどうでしたか?
コメントを出したら、えらい言われようで…相当怒られました。荒井さんには「2対2でいいじゃないか」って、加倉正義さんには「お前は格が違うけん、4番手は違う」って。あの大野悟郎ちゃんにすら「ウソでしょ!?」って言われましたよ。
ーー肯定的な意見はなかったのですか?
そんなの無いですよ! 同期の(渡辺)十夢と風呂で「明日、同じレースだね」とか雑談していて。九州の並びを説明したら驚いてた。みんな颯馬の番手がオレでモリ、ツムと思ってたみたい。だから大浴場の周囲の人たちも、会話が聞こえたらしく急にザワザワしだした。みんな全裸で。
松浦(悠士)にすら「誠一郎さんが4番手、回っちゃダメですよ」って後から言われて。同じレースの敵だったのに。だけど、もし俺が番手を回っていたとしたら、アイツ俺のところで粘っていたかもしれないなぁ(笑)。松浦って話がいつも面白いからテレビ部屋とかでよく喋るんです。
ーー九州4車の結束は、昨年9月の共同通信社杯(伊東)の決勝戦での山崎賢人ー山田英明ー中本匠栄ー園田匠が記憶に新しいです。記憶にあるレースはありますか?
2014年かな…佐世保記念の決勝ですね。俺が先頭で井上昌己ー菅原晃ー荒井崇博さんの並び。昌己を地元で優勝させるためには俺が前で行った方がカタかったし、荒井さんは即答で4番手。しかも、荒井さんがイン切りしたんですよ。でも晃が後閑信一さんにからまれてしまって。後ろもバラバラになっていたし誰もこなかったけど、後閑さんは謎の力で迫ってきた。あとは15年ぐらい前の別府記念で、4番手を固めたこともありました。
ーー準決の並びは他の地区に置き換えるとなかなか考えられないですね。
さっきの話に戻りますけど、風呂から上がったあとに十夢がまた来て言うんです。「あれから同部屋の後輩と話しました。4番手を回らす若手たちもいかん! 近畿じゃありえん」って。しかも、アイツちょっと怒ってた。そもそもお前、関係ねーじゃん(笑)。
しかも「市田佳寿浩さんを俺たちがグレード戦の勝ち上がりで4番手に回せるか?」って話にまでなったらしくて。やっぱり、俺が颯馬のハコを主張するか、2対2に分かれるのが近畿の落としどころって話でした。
ーーそれだけ中川選手が実績を重ねて地位をつくったということではないでしょうか?
俺、位置とか地位に関してプライドやこだわりってそこまでないんです。世話になっている選手は大事にしたいから普通に4番手も回れるし、前でブン回す走りもできるクチなんで。
あるでしょう、ビール以外に日本酒もハイボールもワインも何でもいけるってやつ。あれですよ。周りは気を遣ってくれるけど、実は俺には何の威厳もこだわりもない。楽ですよ、こういう姿勢。
ーー酒の例えはさておき…。それでも、後輩たちは普段から恐縮しているのではないですか?
ツムは「いいんですか?」って、ずっと聞いてきましたね。「こんな位置を回ったら久留米の競輪場に行けなくなるかもしれない」って言っていたけど、俺は別にいい。ツムやモリとの関係性だから。
ほかの後輩…ですか? 地元で言えば30代ぐらいの中堅は俺に話しかけにくいみたいですね。松岡貴久と松川高大以外は。アイツらはもう本当にひどい(笑)。でも、そこから下の最近の新人なんてバンクで会っても普通にイジりにくるし、いつタメ口で来られるかわからない勢いですよ。
ーー結局、賛否両論ではなく「否定論」だけだったのですね。
別に俺、何のわがままも言っていないし、むしろ席を譲ったのに、みんなに色々言われてストレスを感じるっていう(笑)。
世の中、無常ですよ。みなさん、ブランドとか格を大事にする人たちでしょ。競輪界を生きていくには大事なことだから、もちろんそれはわかるんです。でも、俺がまったくその辺りを気にしていないから重くって…。これじゃあ酒も飲みたくなりますよ。
ーー中川選手は感情をあまり出さないタイプに見えます。仲のいい先輩、後輩のような愚痴を聞いてくれる相手が開催中いればよかったですね。
大好きな小岩大介が2日目で帰ってしまったんです。アイツ、初日は振ったらしゃくられて、2日目は青柳靖起にちぎれて飛んで散々でしたよ。励まそうとしたら「ハンドルを伸ばしてサドル2センチ上げたら何かスカスカしました」ってニヤニヤしていて。悟郎ちゃんに「ダメやろ、急にそんなことしたら」って怒られていました。フィーリングで生きるというのがいかにも大分っぽいし小岩らしい。
あと松岡貴久がいたけど、アイツも準決で失格して帰った。あのレース見ましたか? タテ脚の落ちた自力選手が番手を回る時にやる末期の症状がでていた(笑)。タテが出ないからヨコにしか動けなくなるやつで、ブロックじゃなくて、その位置を死守する動き。
ああなる気持ちは俺にもすごくわかる。だからレース後に「タカヒサ兄さん、あれやりすぎ。見栄え悪いなぁ」って言いましたよ。本人は「1班の点数が取れません。ダービーで一緒になったら発進してください」と俺に言い残して帰っていきました。アイツはずっと謎です。
ーー3日目の話が長引いたので最終日の話はまたどこかで。最後に5月に控えるダービーへの思いをうかがえますか?
(優勝した)静岡からもう5年が経ちますか…。優勝賞金が懐かしい。税金で2割取られましたが…。そうだ、追徴もだいぶ取られたんだ。嫌な事を思い出してしまった(笑)。
この間の全日本選抜(川崎)は一次予選で終わったし、ちょっとピリ付きたいですね。勝ち上がりのピリつくところを走っていい緊張感を味わいたいです。無観客の開催になりますけど、ファンの方々にはステイホームで盛り上げていただければ。
ーー先ほどからリモート中継を見ていると、すでに1升瓶の半分が空いています。これから、まだ飲むのですか?
まだまだ飲みますよ。酒の師匠:田川辰二さんがビール党なので、俺もずっとビールがメインでしたが、最近はもっぱら日本酒で。うま口のいいのがあれば、エンドレスにいきます。