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【坂本勉のPIST6徹底回顧】“勝ちたい”と”負けたくない”は似て非なるもの/レジェンドが見た疾風迅雷 #16

2022/10/31(月) 18:00 0 2

現役時代、ロサンゼルス五輪で自転車トラック競技日本人初となるメダルを獲得し、競輪ではKEIRINグランプリオールスター競輪といったビッグレースを制したレジェンド・坂本勉氏。“競輪”と“ケイリン”を知り尽くした坂本氏が、新ケイリン「PIST6」のレースを振り返ります。(月2回・不定期連載)

 netkeirinをご覧のみなさん、坂本勉です。前回、【坂本勉のPIST6予想講座】として「予想における6つの心得」を伝授させていただきました。

 多くの方に目を通していただいたようで、行く先々で「読みました!」「PIST6の見方が変わりました!」といった嬉しい反響をいただいております。PIST6は競技として成熟していく中で面白くなってきていますし、このコラムを読まれている方の中にまだ「予想における6つの心得」をご覧になっていない方がいれば、ぜひご一読いただけると幸いです。

 今回は10月27日・28日に行われた「PIST6 Championship 2022-23」サードクォーターラウンド8の決勝レースを回顧していきたいと思います。

【PIST6 サードクォーターラウンド8 決勝レース動画】


タイムトライアル上位者は無傷の連勝で勝ち上がり

 今回の決勝ですが、タイムトライアル上位の3人(山田義彦中島詩音朝倉智仁)が揃って決勝に進出。しかも、3人ともに予選から先行や早めの捲りといった積極的なレースを見せながら、無傷の連勝で勝ち進んできました。

 その中でも注目していたのが中島です。8月のセカンドクォーター PIST6カップ2、9月のサードクォーター PIST6カップ1共に完全優勝を果たし、ここまで8連勝。この決勝でも勝利すれば12連勝と勢いを感じていました。

 中島は250バンクを走り慣れているのもあったのでしょうが、予選から自信に満ち溢れた走りをしており、その姿は“PIST6のS級S班”といった凄みさえありました。

自信に満ち溢れた走りを披露した中島詩音(©PIST6)

人気を集めた選手が不利な枠に

 上記3人のほか、この決勝には梅田加津也三好恵一郎と積極的にレースを作れる選手も進んできただけに「誰が動き出すのか?」といった興味が湧いてきましたが、さらにレースが面白くなったと思えたのが、人気の3人が不利とされる外枠の4・5・6番手となったスタート順でした。

 しかも、最も不利な6番手となったのが中島です。前に人気の2人を置いて、どのタイミングで仕掛けていくかがポイントになると見ていましたが、結果としてはその2人よりも積極的な走りを披露しましたね。その積極性が12連勝という快挙達成に繋がったように思います。

腹を決めて仕掛けたのは梅田加津也

 スタートの並びはインコースから⑥金成和幸三好恵一郎梅田加津也朝倉智仁山田義彦中島詩音となりました。

 人気の3人が後方にいたので、ポジションチェンジも無く、迎えた残り3周の向こう正面から仕掛けていったのは、やはり中島でした。「PEDAL ON」の後、一旦は先頭に立った中島でしたが、すぐに梅田が叩きに行き、先頭へと躍り出ます。

 梅田としてはタイムトライアル上位の3人が、自分よりも先に前に行かれてしまった時に、捲るのは無理だという気持ちもあったのでしょう。ならば腹を決めて、自分の持ち味を出すのは先行だとの考えで、あの位置からの仕掛けになったと思います。

 人気の2人の動向も気になっていたはずの中島でしたが、梅田が動き出すのも頭に入っていたのかもしれません。無理に追いかけなかったどころか、わざと梅田との車間を取っていきます。この辺がPIST6を走り慣れているというか「250バンクの距離感を知っている中島ならではのセンス」と言えるでしょう。

梅田加津也(5番車・イエロー)が仕掛けるも中島詩音(2番車・ブラック)は落ち着いて車間を取った

仕掛けの判断が遅れた朝倉智仁

 一方、外を回った梅田の後ろにいた朝倉は、中島の後ろが空いたのを見てそこに車を下げます。朝倉としては梅田と踏み合いたくなかったのと、相手が中島と決めていただけに、後ろを取れれば直線勝負で交わせるという思いもあったのでしょう。

 ただ、中島が作り出した梅田との車間が、朝倉の仕掛ける判断を鈍らせましたね。朝倉からすると、捲っていった時に中島に併せられるだけでなく、後ろには同じように捲りを狙う山田もいるだけに、さらに判断が難しくなった展開です。

 一方、番手の中島はレース経験を重ねながら、PIST6の距離感を理解しているだけでなく、前を行く梅田の脚力も頭に入っていました。自分の残せる距離からいつでも踏み出していけるだけでなく、後ろから朝倉や山田が来た場合には、併せて出ていけるという判断もできていました。

残り1周手前、外から捲っていく山田義彦(1番車・ホワイト)に併せ切っている中島詩音(2番車・ブラック)

 残り1周手前で、外から捲っていったのは大ギアを踏んでいる山田でした。山田はタイムトライアルで中島や朝倉を上回る時計を記録していますが、2人とのタイム差はそれほどありません。タイム差があった予選や準決勝では力を発揮できていても、力の拮抗する決勝では、今回の中島のように前を行く選手に併せられると、持ち味が発揮できなくなります。

 残り1周で梅田を抜き去った中島は、捲ってきた山田とのマッチレースを展開します。勢いは山田にあるように見えていても、やはり、番手で脚を溜めていたこともあり、ここは中島に軍配が上がりました。

 そうなると、次は中島の後ろにいた朝倉との対決です。第3コーナーでは中島と山田の間に差し込んでいくような走りを見せましたが2人の間から抜け出せず、最後の直線勝負でも前を行く中島には届きませんでした。

直線でも中島詩音(2番車・ブラック)のスピードは落ちなかった

優勝を意識することで勝利が遠ざかる

 朝倉としては作戦的に完璧だったとの思いもあったはずです。ただ、結果は中島を交わすことはできませんでした。【坂本勉のPIST6予想講座】の中で『所属級班の“格”を忘れよ』と書かせていただきましたが、S級の朝倉がA級の中島に先着を許すという、まさにその通りの結果となりました。

 私自身、中島をマークするという朝倉の作戦自体は正しかったと思います。それでも敗れた原因は、中島がそれ以上の作戦を立てていたことに尽きます。もし、残り3周で梅田が動いていった時に、それを叩くような走りができていたら、レースの主導権は朝倉が握っていたのかもしれません。

 きっと、朝倉は優勝を意識したからこそ『安全な勝ち方』を選んでしまったのでしょう。予選までの朝倉は2周半ほど先行するなど、自分の脚力を信じるかのように積極的なレースを見せていました。ただ、決勝ではS級としてのプライドもあったのか、勝ちたいというよりも『負けないレース』を選んでしまったのかもしれません。

 その朝倉とは違って、PIST6での優勝経験がある山田ですが、今回は勝ちたいという気持ちが強く出過ぎたばかりに「捲りをいつ出すか?」という小さなレースに終始してしまいました。もし、梅田の仕掛けに反応して、その番手を確保すれば、大ギアをさらに生かす走りができたはずです。

“挑戦者”の心が強さを引き出していく

 この2人とは違い、常に「挑戦者」としての意識を持っていたのが中島です。それは2人(朝倉、山田)とは違って「自分がA級の選手である」という気持ちもあったのでしょう。ただ12連勝の内容を見ていても、自分の力を出し切れば結果が付いてくるという事実を自認しているでしょうし、強い信念も見え隠れしています。

 自分も現役時代に連勝記録を作っていた頃、オッズを見る度に「勝たなければいけない」という気持ちを感じ、それがプレッシャーになることもありました。そうなると、ゴール前で他の選手に交わされるのが怖くなるばかりに、先行するのもためらうようになり、結果として小さなレースになってしまうこともありました。

 ただ連勝を気にせずに自分のレースをした方がいい結果やいい走りもできましたし、中島も同じような気持ちでPIST6に臨んでいると思います。中島には連勝記録を延ばしていくだけでなく、今回も朝倉や山田といった実力者を退けたわけですから、競輪の方でも思い切ったレースで完全優勝を期待しています。

坂本勉が選ぶ! 今シリーズのMVP

 これは文句なしに中島ですね。実力があるのは分かっていましたが、気持ちの優しさが出てしまう競輪とは違って、PIST6では人が変わったかのように走っています。もはや“貫禄溢れる走り”といった表現をしても良いくらいです。ゴール前で朝倉に交わされなかったのは自信になったと思いますし、今後の競輪での走りにも注目したいと思います。

 また敢闘賞を贈るなら朝倉でしょうね。決勝で勝てなかったのは本当に悔しいと思いますし、これで決勝では2度の2着。「3度目の正直」となる次回の大会では頑張ってもらいたいです。


【netkeirinからPIST6のレースに投票しよう!】

 netkeirinではPIST6の出場選手の成績や内容充実の出走表を見ながら、ラクラク買い目を作成することができます。作った買い目はTIPSTARの車券購入ページに送ることができるので、そのまま車券投票が可能です。

 また、出走表の下部にはPIST6攻略法として「予想の基本」を掲載していますので「予想の仕方がわからない」といった初心者の方にも安心です。PIST6の開催日にはレース映像のライブ中継もありますので、ド迫力のスピードバトルを観戦しながら楽しくベッティングしてみてはいかがでしょう。「PIST6 Championship 2022-23」もいよいよセカンドクォーターに突入! すでに楽しんでいる人もこれからの人も目指せ的中!


●坂本勉(さかもと・つとむ)
1984年、ロサンゼルス五輪に出場し銅メダル獲得。日本の自転車競技史に初めてメダルをもたらし、“ロサンゼルスの超特急”の異名を持つ。2011年に競輪選手を引退したのち、自転車競技日本代表コーチに就任し、2014年にはヘッドコーチとして指導にあたる。また2021年東京五輪の男子ケイリン種目ではペーサーも務めた。自転車トラック競技の歴史を切り開いた第一人者であり、実績・キャリアともに唯一無二の存在。また、競輪選手としても華麗なる実績を誇り、1990年にKEIRINグランプリ、1989年と1991年にはオールスター競輪の覇者となった。現在は競輪、自転車競技、PIST6と多方面で解説者として活躍中。展開予想と買い目指南は非常にわかりやすく、初心者から玄人まで楽しめる丁寧な解説に定評がある。

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